IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
時間は過ぎ7月。もうすぐ僕達一年生は臨海学校がある。今日はその準備の為にIS学園からそこそこ近い距離にある、ショッピングモール『レゾナンス』に来ている。
本当は既にある物で適当に済ませて今日も臨海学校ものんびりするつもりだったんだけど、
「これで良かった?」
「ええ、三人ともわざわざありがとうね」
「連れ出し成功~」
「少々強引な気がしますが……」
「これ位強引じゃないと動きませんよ。八雲君を連れだしてくれてありがとうございます」
この金髪と紫と水色と赤×2の悪巧みのせいで計画は潰れた。
事の始まりは昨日の放課後、生徒会の仕事が一段落ついた時に楯無先輩に「明日暇なら生徒会関係の買い物に付き合って?」と言われて、僕はそれを二つ返事でOKした。
それで今日の朝、先輩達に付いて行ったら、アリサがすずかと一緒に居たという訳だ。
「……僕の悠々自適な休日ライフを返してください」
「ガールフレンドと外出する。これほど学生の休日に相応しい物は無いと思うわよ? 後、ナンパ避け」
「なんだよ、それ……」
確かに、五人が五人ともタイプは違えど道行く人が目を奪われるほどの美人だ。ナンパする人種の気持ちは分からないけど、お知り合いになりたいと思う人は居るんだろう、多分。
「なんだかんだ言っても私を含めて皆も一緒に八雲君と遊びに行きたかっただけだよ。今までは誘っても来なかったし、無理やりも出来なかったもん」
「……それを言われると、何も言えないよ。分かった、買い物、付き合うよ」
ここ数年、最前線に立ち続けていたから、『普通の事』『学生らしい事』ってのが今いち分からない。休みっていうのは、疲れや怪我を癒すために家でぼーっとする時間って感じだし。
遊びに行くなんて、それこそ、ジュエルシードの事があった前後以来だな。
私達は八雲君を強硬手段で連れ出し、皆で遊ぶことになった。この事を八雲君に内緒で決めたのは一週間前の事だった。
その日アリサちゃんに会わせたい人がいるから翠屋に来るように言われたから、お客さんとして訪れた。普段は就職したお姉ちゃんの後釜としてバイトで来ているからお客さんとして訪れるのは結構久しぶりだ。待ち合わせよりも早く来たので先にアリサちゃんとお茶をしてたら、三人の女の子がやって来た。
「三人とも久しぶりね。それと紹介するわ。私と八雲の幼馴染のすずかよ。相談の事を聞いて、呼んだわ」
「月村すずかです。よろしくお願いします」
「更識楯無です。こちらこそ、よろしくね。私の事は楯無で良いわよ。もしくはたっちゃんで」
「布仏本音だよ~。よろしくね、すずー」
「本音の姉の布仏虚です。よろしくお願いします。私達も下の名前で構いませんので」
「そうですか? なら、私の事もすずかと呼んでください、楯無さん、虚さん、本音ちゃん」
後から来た三人がケーキや飲み物を注文して来てから、話を始める。うん、やっぱり翠屋のケーキは絶品だね。これ以上のにはまだ出会ってないなあ。
「さて、ここに居る五人にはとある共通点があるわ、楯無、何だと思う?」
ああ、なるほどアリサちゃんのやりたい事が大体把握できた。
「皆、八雲君が好きって事?」
「正解よ。もちろん、『like』じゃなくて『love』の方よ?」
数か月の間で三人もの女の子、しかも美人ばかりを落とすなんて八雲君も罪作りだね。
でも、昔に戻った八雲君ならそれも分からなくないかな。見た目も私から見てカッコいいと思うし、しっかりしてるし、優しいし、護ってくれる強さもあるし、それでいて信頼する人には弱さを見せるし。
「どうして、二人は八雲君を好きになったの~?」
「最初は友達だと思ってたし、八雲君の事を放っておけないのもそうだと思ってたんだけど……」
「ホント、いつの間にかアイツの事ばっかり考えるようになってたのよ。だから、八雲が昔の様になるように二人で色々して来たのよ。あんまりうまくいかなかったけど」
「……なんか、恋敵なのに凄く仲が良いですね」
まあ、確かに恋のライバルは仲悪いとかいがみ合っているってイメージはあるかな。
「あー、それはね私のお姉ちゃんの影響かな?」
「どういう事?」
「すずかのお姉さんの忍さんはね、今の八雲みたいに何人かの女性に好かれるような無自覚な人と付き合ってるの。曰く『恋敵っていって、ギスギスしてちゃ、肝心の人に嫌われるわよ。それに、男性の好みが一緒なら、そこで話を膨らまして、親友にもなれるだろうし、絶対に仲良くしてる方が良いわよ』らしいから。そもそも、親友と仲を悪くする気なんてさらさら無かったけど」
八雲君とそう言う関係にはなりたい。でも、アリサちゃんと仲悪くなるのは嫌だ。凄くわがままだけど、これが私の本心。多分、アリサちゃんも同じ。迷っていたけど、お姉ちゃんの言葉で吹っ切れた部分がある。私達にとっての年が近くてこういう事が相談できる人だし、何でも聞いて答えを出してくれる頼れるお姉ちゃんだ。
「今日、アリサちゃんが三人とと会わせたのもその辺が関係してるみたいですし。……それに、最終的には八雲君が決める事ですから」
恋愛は相手があってこそ成り立つもの。自分の想いだけじゃダメで最終的には相手の、この場合は八雲君の決断に任せないといけない。想いを伝える必要はあるけれど関係を押し付けたら、きっと本当のそう言う関係には成れないと思う。とても当たり前の事だけど、抜けがちになりそうな事だ。
「それに、アイツはまだ恋愛とかそこまで考えらんないでしょ。愚直で不器用なんだから」
「確かに器用とは言えないですね」
「一途でまっすぐとも言えると思うわ」
「言い方、捕らえ方の問題だね~」
「そんな、八雲君を私達は好きになっちゃったんだもん。仕方ないよ。惚れた方の負けだよ」
私の言葉で皆顔を赤くする。言った私自身もかなり恥ずかしいから私の顔も多分、赤いんだろう。
「……そうね。なら、まずは八雲に普通の学生らしい事をさせましょう。アイツはそういうの疎いと思うし、私達から連れ出さないと」
「確かに~。きーりん普段も勉強か訓練しかしてないもん」
「図書室で良く見かけますけど、それは以前からですよね」
「なら丁度良いわ。今度一年生は臨海学校があるんだけど、その買い物に連れ出せばいいのよ」
「いいですね、それ。それじゃ、善は急げで早速来週に動きましょう?」
とこんな感じで八雲君を連れだす事に決めた。楯無さん達三人とは初対面だったけど、その後も結構話が弾んだ。凄くいい出会いだったと思う。これは、八雲君が切っ掛けで結んでくれた縁だね。
僕の臨海学校の買い物だったはずだけど、用意するものなんてほとんど管理局の仕事で艦船に乗り込む時の荷物の流用に不足していた物を買い足しただけなのですぐに終わってしまった。買い物には時間をかけない主義なのもある。
なので、五人は服を見に行って、僕はそれの感想を求められている。
しかし……感想に困る。いや、似合わないとかそういう事じゃ無くて、三人ともファッションに興味の無い僕でも分かるレベルで似合ってるし、センスも良いと思う。ただ、何着ても似合うから、中々に感想が難しいのだ。僕自身が口下手なのにも理由がある。
「……さっきから、似合ってるしか言ってないけど、何? 適当なの?」
そう、ジト目で言うアリサ。やっぱり突っかかって来るよな。
「いや、皆美人で、スタイル良いから何着ても似合うんだよ。褒めるためのボキャブラリーも多くないから、それしか言いようがないだけだよ」
皆タイプが違う美人だから、かなりの贅沢だよね。
「そ、それなら良いけど……」
何故か言葉が尻すぼみになってくアリサ。良く見ると顔が赤い。他の四人も同じだ。
「皆、顔赤いけど調子でも悪いの? 僕の買い物も終わったし、今日は帰る?」
僕の事を考えて連れ出してくれたのだろうけど、それで体調崩したら誰の為にもならない。特に本音は僕と同じで臨海学校が近いんだからその辺気を付けて欲しい。
「だ、大丈夫よ!」
代表してそう言ったのは楯無さん。他の皆も首を縦に振っているから、同じなんだろう。とりあえず、安心だ。
「そうですか。でも、辛かったら言ってくださいね」
「うん。ありがとうね、八雲君」
「じゃあ、私達はお会計に行ってくるから、少し待ってて」
「了解」
うーん、こういうのって僕がお金を出すべきだったのかな? なんか、やり過ぎな気もするけど。
「ヤバいわ。好きな人に褒められるのはヤバい。凄い嬉しいけど、恥ずかしい」
「破壊力あり過ぎね。しかも無意識下よね、アレ」
「だね~。ここまでキュンキュンさせるとは、きーりんも中々やるね~」
「ですが、突然はちょっと驚きます。嬉しいには嬉しいですけど……」
「顔が熱いよ……」
私達は八雲から少し離れて、落ち着こうとしている。だって、凄い心臓ドキドキ言ってるもん。皆顔も赤いし。
「でも、少し安心したなー」
「どうしたのよ、すずか?」
「だって、普通に美人とか言ってくれたから、八雲君も普通の男の子と変わらないんだなって思ってね」
「凄い遠回りの果てだけどね。まだ、私達もアイツも子供だから、良いんじゃない? 焦る必要ないわよ。恋も人生も」
「そうだね、今は八雲君と私達のこの時間を楽しむ事に集中するよ」
私が待ち焦がれてた昔のアイツにようやく戻った。ただ、アイツと会って話して一緒に居るだけで今は楽しい。この先、もっと楽しい時間があるはずだ。それを一つ一つ楽しんで行こう。その末にこの恋のゴールがきっとあるのだから。
リメイク前六話とほぼ同じ内容です。
変更点は翠屋でのお茶会が楯無視点からすずか視点に変更になっている事と、恥ずかしがっている皆の会話シーンの視点が楯無からアリサになっている事でしょう。
理由は単純に今まで出番が少なかったから。
この二つは誰でも良かったと思いますけど、一番、八雲とこういう時間を過ごしたかった二人に任せる方が良いかなと思い、こうなりました。
次回から、臨海学校編です。