IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版)   作:ピーナ

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今回は戦闘シーンメインです。


第十話 少しずつ取り戻していく時間の中で

たとえ僕が昔に戻っても、必要以上にクラスに関わる気は無いし、ここ数か月での僕の評価から考えて他のクラスメイトも迷惑だろう。どの道ここを卒業したらミッドに行くことに変わりは無いんだし、友人には恵まれているから、そこまで作ろうとは思わない。

ただ、

 

「きーりん、お嬢様が放課後に生徒会室に来てだって~」

「ん、分かった」

 

更識先輩を始めとした生徒会メンバーは普通に話しかけるし、魔法の事も知っている。それでも今までと対応を変えないのだから人として凄い。僕だったら同じ事は出来ないね。

そうそう、僕が生徒会室に行く理由は先輩のスカウトで役員になったから。曰く「学校随一の実力者なんだから、戦力としてスカウトするのは当たり前」なんだとか。僕自身、先輩や本音(本人にそう呼ぶように言われたのでこう呼んでいる。これを聞いて更識先輩や本音のお姉さんの布仏先輩に下の名前、それぞれ楯無、虚と呼ぶように言われたからそう呼ぶようになった)に心配をかけたのでその恩返しのつもりで入る事にした。

そのおかげか、教室より生徒会室の方が居心地がいい。

 

「楯無先輩、僕に用ってなんですか?」

 

開口一番、僕は先輩に尋ねた。

 

「学年別トーナメント中止になって一年生は第一試合だけデータ取りの為にやるって話は聞いてるわよね?」

「もちろん。朝のHRで織斑先生が言ってましたし」

「それで、霧島君の相手なんだけど……私になったのよ」

「はあ、どうして先輩が出張る羽目になったんですか?」

「霧島君の実力が凄いからよ」

 

確かに今の所代表候補相手に連勝中だしな。

 

「てか、ぶっちゃけ私より強いわよ」

「そうですかね? まあ、よろしくお願いします」

 

 

 

僕が楯無さんと戦う事を知らせられた翌日の放課後。僕はアリーナに居た。

 

「それじゃあ、始めましょうか?」

「そうですね。……よろしくお願いします、先輩」

 

中止になったトーナメントの目的の一つデータ収集の為の代替え試合を行おうとしている。

ちなみに僕達以外に居るのはこのアリーナの管理をしている織斑先生と山田先生、それに虚さんと本音の四人だけ。

 

『試合開始!』

 

楯無さんの戦い方を知らないから、まずは見る事から始めよう。見た情報を頭の中で整理してベストな戦い方を見つける。現場じゃなくて模擬戦だからこその戦い方だ。

僕等の仕事で実際の所、戦闘になって様子見なんて悠長な真似は出来ない事の方が多い。だけど、これは模擬戦。その悠長な真似が出来る。だから自分の判断力を見る事が出来るし鍛える事も出来るし、自分の成長の為に条件を付けて戦う事だって出来る。

……まあ、ちょっと前までかなり無謀な戦い方をしていたから、それの矯正の意味もあるんだけど。

 

 

 

「……凄い」

 

試合を見ていた私はそう呟いた。

 

「そうだね~……」

 

その感想は相槌を打った本音も見ている先生方も同じだろう。

八雲さんの対戦相手である、お嬢様は学園唯一の国家代表、しかも大国ロシアのだ。他の生徒とはレベルが違う。それは私を含め2、3年生はよく知っている。恐らく、この試合、誰に聞いてもお嬢様の勝利と予想するだろう。

しかし、お嬢様は試合前に八雲さんの実力を「私より強い」と評価していた。

八雲さんは魔法の事や実戦経験の事を私達に聞かれた時に「魔導師としての飛行時間は5000時間を超えてると思います。全てがISに反映されるわけじゃないですけど、僕の体感としては8割位は経験になってると思います」とおっしゃっていました。お嬢様の通算の搭乗時間は1000時間前後、私が入学したての頃に織斑先生に搭乗時間を聞いた際、1500時間以上2000時間未満で学園に来てからは年間100時間程度とおっしゃっていた事を考えると、単純計算で経験量はお嬢様の4倍、織斑先生の倍以上となります。

それに加えてISは所謂パワードスーツなので、腕力などの身体能力もダイレクトに出てきます。春の体力測定で軒並みアスリートレベルの数字を叩きだした八雲さんの身体能力とは好相性です。

また、八雲さんの駆るIS、出雲も現行トップクラスの機動性能を持ち、魔法技術を活かした兵装も合わせて八雲さんが十二分に性能を引き出せる出来栄えです。

しかし、私はあくまで技術畑の人間で戦いは素人です。家の関係で小さい頃から武術という物は近かったのですが、私にその適正はあまりなく、努力しても護身術程度でした。なので、

 

「織斑先生、八雲さんの実力って実際、どんな所なんでしょう?」

 

この場に居る中でIS戦のプロフェッショナルであり、世界最強のIS乗りである織斑先生に聞く事にしました。

 

「そうだな……私がもし、暮桜の後継機を今この場で持っていて、戦っても勝てるかどうか怪しいな。負けるつもりは無いが勝てる気もしない。少なくともな」

 

それは八雲さんの実力が織斑先生に勝るとも劣らないと言っているようなものです。学園内では厳しい事で有名な織斑先生がここまで言うとは。凄いとしか言えません。

 

「しかし……この学園の人間は何を見ているんだ? 霧島を見ていれば恐怖よりも勤勉な人間のイメージが付くだろう」

「そうですね。今では教員の皆さんは朝早くからトレーニングをしている霧島君を見て印象を改めてますし」

 

八雲さんの印象は「恐怖」と「勤勉」に分けられる。前者は大多数の生徒、後者は教員やその他学園関係者。

IS学園はその特質上、授業や放課後で体を動かす事が多いので運動部の朝練が原則存在しない。自主的にやるだけですが、ISの実習や放課後の練習に体力を残したいので、朝は皆さん早くありません。

逆に教師の皆さんは朝が早いです。理由として教員寮は学園から車で五分ほどの所にある事と、仕事の量から朝からやる必要がある事です。なので先生方は朝から体を動かしている霧島君の姿を良く見ているのです。

……恐怖の根幹には今の女尊男碑の思想があるのではと私は思います。

ISが世界最強の武器でそれを纏える女性が強い。これが女尊男碑の根本です。しかし、八雲さんの存在はその根本から覆してしまうのです。そこから恐怖心が来るのでは? と考えています。

 

「おねーちゃん、考え事?」

「少しね」

「もうすぐ終わっちゃうから、最後は集中しよ?」

「そうね。これほどの試合、そうは見られるものじゃないものね」

 

このような事は置いておいて今はお二人の戦いを堪能するとしましょう。

 

 

 

気付けばもう試合は終盤戦。僕のシールドエネルギーは半分を割り込んでいるし、楯無さんの方も4割程度かな? もっとIS戦に慣れていたら、楽できたんだろうけど、今の僕はこれが精いっぱい。

楯無さんは流石に国家代表。僕が今まで戦った二人の国家代表候補とはレベルが違った。戦闘経験ならはるかに僕の方が多い。でも、互角なのは彼女のセンスと努力の賜物だろう。まあ、負けるつもりは無いんだけどね。

 

「さて、そろそろ決めさせてもらいますよ」

「あら、おねーさん相手に強気ね~」

「僕の方が若干有利ですし。コードACS起動」

 

起動コードと共に彩雲にビーム刃が出現する。

 

「ビームの銃剣……それで何をするのかしら?」

「それは後のお楽しみですよっ!」

 

その言葉と共に突撃を仕掛ける。今まで射撃戦ばかりで、意表を付けたから回避はされない。しかしそれは水の壁(楯無さんは水のヴェールと言っていた)で防がれる。それは予想通り。ACSの本領はここからだ。

スラスターを噴かしてビーム刃『ストライクフレーム』で少しずつ壁を貫いて行く。そして、ある程度抜いた所で……

 

「これで決めます! ディバイン……バスター!」

 

僕の幼馴染の一人の技を模した大威力砲撃を決める。そして、結果は……

 

『勝者、霧島八雲』

 

となった。

しかし……やり過ぎた気がする。大丈夫かな?

 

「先輩、大丈夫ですか?」

「一応ね。ビックリして、腰抜けちゃってるから少し動けなさそうだけど。ISも解除されてるし」

 

やっぱりやり過ぎた。しかし、いくら暖かくなって来たからと言って、汗かいたままじゃ風邪ひくしなあ……。

 

「先輩ちょっと失礼します」

 

そう言って僕は一回ISを解除して、彼女の首の裏とひざの裏に腕を入れて持ち上げてから、再展開する。

 

「ちょ、ちょっと! 八雲君⁉」

 

慌てる楯無さん。人が少ないからと言っても人前でこんな事をしたからか、顔が赤い。

 

「いくら夏でもこのままじゃ、風邪ひきますよ? それにこうなったのは僕が原因なんですから、これ位はやりますよ。あ、怪我とか無いですか?」

「だ、大丈夫。……ありがとうね、八雲君」

「いえいえ。これ位は当然です」

 

この後僕は楯無さん側のピットに彼女を送り届けてから、自分のピットに戻った。部屋に戻ってから楯無さんに簡単な治癒魔法でもかけるかなあ。一応、疲労回復効果もあるし。




変更点としては端折ったVS楯無戦があった事ですね。これを書いたのでリメイク前五話が二つに分かれました。
楯無さんとの戦闘シーンって本編でも書いてるんですけど、それと違った決着を書きたいと思った時に「そういや、アクアナノマシンのヴェールって防御壁だろ? なら、ACSが使える!」と思いこの形になりました。ありがとう、魔王様!

次回は前出の残り部分をやっていきます。

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