IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
事件が全て終わってから私はずっと保健室の一つのベットの横で座っている。そのベットに眠っているのは霧島君。
あの事件は霧島君の働きでほとんど被害無く終わった。被害を一身に受けたのは霧島君とその専用機出雲。
最後、暴走体は霧島君を巻き込んで自爆した。自爆のエネルギーはアリーナに被害を及ぼす位のはずだったんだけど、それは出雲の機能の一つ、『プロテクションシステム』によって軽減された。しかし、その代償に出雲は一週間は使用不可能というレベルのダメージを負い、霧島君は全身に傷を負った。
そして、その治療の為に彼のISスーツを脱がせたとき、そこに居た保健室の先生と私、それに織斑先生は息を飲んだ。
理由は彼の体中に残っている数々の傷痕。IS学園の保健の先生である吉岡綾子(よしおかあやこ)先生は、医師免許を取った後、学校に入り直し、養護教諭の免許も取り直したという変わった経歴を持っているけど、そんな先生すら眼をそらすようなボロボロの体だった。
これが彼の生きていた人生の厳しさを物語っている。こんなの……辛すぎるよ。
織斑先生と吉岡先生は他の仕事があったので、保健室を後にし、部屋には私と眠っている霧島君だけ。
私は考える。守りたい人、私だったら妹や家族になる。その人を守ろうと頑張ってその末に守れなかったらどう思うのか? ……正直、分からない。凄い泣いて自分を責めそうだなとは思うけど、それ以上は想像できない。
多分本音ちゃんの言っていた、「世界の全てに絶望する」って言うのが一番近いだろう。楽しかったものを楽しめない。それはさながらカラフルな世界がモノクロの世界になってしまったように。
いつの間にか私は泣いてしまっていた。彼への同情も若干はあるだろう。でも、大きいのはそれを理解しながら何も出来ない私自身のふがいなさに。
「ここは……?」
目を覚ました僕は、なにも無い真っ白な空間に居た。なんかデジャヴュを感じる。まるで、一回僕が死んだ時に来た部屋みたいな所だ。
「久しぶりやね、八雲君」
僕はすぐにその声に反応する。六年半ぶりでも間違えるはずの無い声だ。僕はその声の方を向いた。
「はやて……」
そこには成長したはやての姿があった。
「何泣きそうな顔しとんの?」
「……当たり前だろ、六年半ぶりに会ったんだから」
正直、今は涙を堪えるのでいっぱいいっぱいだ。
「それで、ここはどこなんだ?」
「そうやねえ……表すなら、生と死の狭間の世界かな。今の八雲君は臨死体験中ってわけや」
そうか、まだ僕は死んでいないのか……。いっそ、死んだ方が楽になったのに。
「私がここに来たのは八雲君にいくつか言いたい事があったからや」
やはり恨み言だろう。だって僕ははやてを助けられなかったんだから。
「まずは……私の為に頑張ってくれてありがとう」
「……えっ?」
予想の斜め上を行く言葉で、僕は変な反応をしてしまう。
「何でそんな反応なん? 色々やってくれたんやから、お礼を言うんは普通とちゃう?」
「でも、僕は肝心な時に倒れて、結局守れてないし……」
「それが私の運命やったんよ。八雲君は私の事を想って頑張ってくれた。だから、私はお礼を言いたい。それだけやよ」
「僕はてっきり恨み言を言われるのかと……」
「そんな気さらさらないで。んで、次は、だから、八雲君は八雲君の道を歩いてください。そんで自分の幸せの為に生きてください」
「僕の道……でも、今のが」
「嘘はアカンで。今の八雲君は自分の為に生きてへんもん。人の為と書いて偽と読む。私への贖罪を言い訳にして、八雲君は生きる事から逃げとる」
「そんな事! それに人の為って言うのなら、あの時のも否定するのかよ!」
今までの事を否定されるみたいで、大声を上げる。
「あの時と今は違うやろ。あの時は『私を守りたい』っていう八雲君自身の意志の為に動いてたはずや。でも、今はそうやない。だからこそ、頻繁に私のお墓に来て、自分を見直さなアカンのや。そうせな、動けへんのや」
……何も言い返せないのは自分自身薄々気付いていた事だからだろう。
僕は逃げていた。生きる事も、いや、それ以上に色んな事から。
「でも、それじゃ僕が僕を許せない」
「許せないなんて事はあらへんよ。それは、八雲君が自分を許したくないだけ。それに許せないんやったら、私が八雲君の事を許す。八雲君は何も背負わんで良い。……って言いたいけど、それじゃ、八雲君が納得せえへんやろ。だから、折衷案を考えたで」
「折衷案?」
「うん。たとえどんな人生を歩んで、幸せになっても私の誕生日と命日だけは私を思い出してくれればええよ。それが私から八雲君への罰。呪いって言ってもええかもな。八雲君が自分
で罰考えるより私が考える方が道理やろ」
「……はあ、分かったよ。その罰を受けてくよ」
「やっと、笑ってくれたな。苦笑やったけど。でも、今までみたいな無表情よりも自然な表情の方がええで」
笑った? 僕が? しかも自然な表情って……。そんな事なんてここ何年もしてなかったのに……。
「さて、最後や。最後は……私は、八雲君の事が好きです」
「……僕もはやての事が好きだよ。君と別れて六年半経つけど、それは変わらない」
きっとこれから先、一生持ち続けていくだろう。どんな人生を歩んでも。
「その答えが聞けただけで満足や。……でも、約束通りあっちで新しい恋見つけてな。やっぱ幸せには必要やろうし」
「まあ、頑張ってみるよ。でも、はやてと同じくらい強く想える人がいなかったらしないよ。これは僕の意地だ」
「そっか、分かった。……もう、お別れの時間や」
「もうか。……なあ、はやて。抱きしめていいか?」
「ええよ」
僕は彼女を抱きしめる。
二度と触れる事など無いと思っていた。僕は抑えていた涙をもう我慢できなかった。
「泣き虫さんやなあ」
笑顔を見せるはやて。やっぱり、素敵な笑顔だ。
「最後に八雲君にこれから頑張れるようにプレゼントや」
そう言って、はやては僕の唇にキスをした。深く長く、自分の存在を刻み付けるように。
「いつも見守ってるから、ちゃんと幸せに暮らしてな」
「……うん」
そういうはやてはずっと笑顔だった。それは僕が世界で一番大切な人の一番好きな表情。
薄れていく意識の中、僕はもう一度、生きる意味を考えようと思った。……まずは幼馴染の皆に謝る事から始めようかな。
「……ホントの泣き虫は私やけどな」
消えていく八雲君を見送った私は今まで我慢していた分の感情を爆発させ、大声で泣いた。
「お別れしたくないに決まってるやんか! そんなん、ずっと一緒に居たいに決まってるやんか! 八雲君のそばで一緒に生きたかったに決まってるやんか!」
これが私の本心。何処までもわがままな私の気持ち。
でも、そんなんを押し殺してでもああいったのは、あんなに苦しんでいる八雲君を見たくなかったから。いつまでも死人の私に八雲君を縛り付ける訳にはいかん。
私の事を想い続けてくれるのは嬉しい。だけど大好きな人だからこそ、私を想ってくれる事への嬉しさよりもいつまでも縛り付け続ける罪悪感の方が大きかった。
だから、私は八雲君の幸せを願う。愛した人だからこそ。
ただ、私も女だから、人だから忘れられるのは寂しい。それだから、誕生日と命日だけは思い出してほしいって言ってしまった。結局、緩くはなったかもやけど、縛っているのは変わらへん。
全部忘れてって言えんだんは私の女々しい部分からやね。
「八雲君、最後の私の笑顔の意味分かってへんやろうなあ……。鈍感やし」
私はそう呟いた。
私の最後の時の笑顔の意味は、好きな人に見せる最後の顔だから、笑顔で記憶に残りたいという私の気持ちからだった。
それは、泣きたいって気持ちを押し殺せるほど凄い女の意地や。綺麗な顔で八雲君の記憶に残れたかなあ?
八雲君、苦しむくらい私を想ってくれてありがとう。そして、縛り付けてごめんなさい。私はここであなたの幸せを祈っています。だから、精一杯貴方のための人生を生きてください。それが……私の願いです。
という訳で、この作品で一番大事と言っても過言ではないお話でした。
個人的に修正前ので満足していて、それ以上出来る気がしなかったので、少し加筆した程度で、ほとんど変わりません。
ある意味ではここまでがプロローグで、ここから先、八雲にとって新しい物語が始まります。彼が、彼の周りがどのようになっていくか、お楽しみに。