短編とか挿話とかは今のところまったく考えておりません
あとすげー今更ですが、章ごとのタイトルCVは関智○さんで脳内保管してください
スネ○でも可
『必殺技は必須』
「さて、うちのクラスの清涼祭にやる出し物は『メイド喫茶』に決定したわけだけど」
若干のかび臭さが抜けない木造の旧校舎の一室Fクラスにおいて、黒板の前に立った島田美波が教室内を一望しつつ言葉を投げた。
黒板には他に『中華喫茶』『ウェディング喫茶』『写真館』などと候補も上がっているのだが、『メイド喫茶』とある一文の下に『正』の文字が四つほど躍っている。これが第一候補であると、クラス中が賛同しているようにも見える。多数決とは偉大である。
「誰か異論とか文句とか、ほかにやりたいこととか、ある?」
聞いておいてなんだが特に反対意見も出ないだろうというのは島田にもわかっているのであろう。彼女の口調は至極簡素で、実際誰も文句を言おう等という素振りも見せなかった。
が、その中で、すっと手が上がる。
それは他でもないわれらが主人公、吉井明久のものであった。
それをしっかりと見て、島田は一つ頷くと、
「じゃあこれで決定ということで」
見なかったことにして、カカッと『メイド喫茶』の一文にチョークで白い丸をつけた。
その見事なスルーに明久はがびーん、と漫画的なショックを受けたという。
『第7話
必殺技は必須』
試召戦争が終了して一週間ほどが経過した。その間にこそ様々なことを実行とした。有り体に言うならば戦後処理と呼べるものだ。
まずは教室の清掃。
そもそもがこの戦争、設備の不満を解消するために興したものである。その第一の目的を達成とするには、次の戦いに至る前に自陣を整理することが必須となるのだ。
というのも、戦争で負けたクラスにはペナルティとして『三ヶ月の宣戦不可』というルールがついて回る。Aクラスとの決着は、代表の首を差し出すことでランクを下げることにこそなっていないが負けは負け。
宣戦を起こせない以上Fクラスへと攻め入るような馬鹿はいない。自陣がのし上がるチャンスは三ヶ月先までお預けというわけである。
そうなれば、この旧校舎のゴミ箱染みたクラスにて三ヶ月付き合わなくてはならない破目になるわけで、そんな状況では男子ならばともかく女子では下手すれば病気にもなり兼ねない。
自軍の主力をそんなろくでもない理由で失うわけにはいかないのだ。
その事実を滔々と調kもとい説明し説得し、Fクラスの男子らに最低限の清掃活動を促すことには成功した。
ちなみにその『最低限』というレベルは完璧メイド≪パーフェクトモード≫の明久のレベルであることを付け加えておく。
旧校舎自体のかび臭さがやや残るものの、教室内はその古さに引けをとらない程度に清潔を保てているのは、偏に明久の力量によるものだろう。
次に教室内の設備である。
戦力を整えるために学力を底上げする必要のあるのが『試験召喚戦争』の本分である以上、成績を伸ばすためには授業を相応の環境にて受講することが必須となる。
そのためには教室内の備品の不備も馬鹿にはできない。
が、その問題を解消する手段はすぐに目安はついた。
それが半月後に迫った学園祭『清涼祭』であった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「反対!」
「決定したことに異議を唱えるんじゃないの。
票は割れたけど最終的に決まったんだし、これのなにが不満なのよ?」
「どう考えても僕が一番苦労する! 中華喫茶のほうが奇抜で目も引くよ!」
綺麗に無視を決め込まれた挙手の主、明久が声を上げた。
島田はというと、そんなわがままに付き合っていられません、とばかりに欧米風にやれやれだぜとジェスチャーで返した。正直イラッとさせられる。
「奇抜さならあんたのとこのメイドロボを使おうって案にも出たじゃないの。
あれからちょくちょく学校にも顔出ししてるんだし、使ったところで問題なくない?」
「ハナさんをそんなに信用しないで! あれは本当に働かないポンコツなんだから!」
自分の家のメイドに対してあまりにも辛らつな物言いである。
と、そこまで食い下がる明久に島田はふー、と息を吐いて続けた。
「吉井、忘れてないでしょうね。今回の設備増強の目的のために、手堅く資金を集める必要があるってこと」
「ぐ、わ、忘れてないよ」
「そのためにはある程度の地盤が必要よ。売れている看板である『メイド喫茶』っていうモノを『使える』のなら使う。その上で客を呼び込めるのはまず間違いなく奇抜さじゃない、安定と安心よ。中華喫茶もいいかもしれないけれど、男子の心を端掴みにするのはまず間違いなく『メイド』という言葉の羅列なのよ」
「……島田さん、日本語上手くなったね……」
ぐうの音も出なかった明久には、彼女を褒めることしかできやしなかった。
というかこの島田女史は何故そこまで詳しいのかが甚だ疑問に思えるのだが。
「わかったらとっとと申請に行きなさい。ついでに稼いだ資金を設備購入に充てられるのか、確認と許可を貰ってくるように」
「はい、了解しました……」
負け犬がとぼとぼと教室を去る――前に、
「ああ、一応着替えておきなさいね。アンタはメイド長なんだから」
「やっぱり僕に最悪のお鉢が回ってきてるじゃないかチクショウッ!」
この世の理不尽に思わず絶叫した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「下手な入れ知恵をしないほうがよかったですね……」
「それでもその格好ができるお前に脱帽だよ……」
斜に影の入った煤けた表情で、傍目には無表情にしか見えない明久はぽつりと呟いた。格好はメイドであるお陰で、既に完璧形態≪パーフェクトモード≫へと移行している。
そんな彼に付き添っているのは同じように『お使い』へと狩り出された雄二であるのだが、明久のメイドとしての仕草が完璧であるが故に先頭を歩くのは雄二、それに一歩遅れて付き従うのが明久、という構図となっている。
お蔭様で校内にてメイドを従えて歩く男子生徒、というラノベにでもありそうな存在になっているのであるが、幸か不幸か学園祭の準備が始まった校内に於いてはそれほど悪目立ちすることもなく済んでいた。
その二人の後ろを紙袋をかぶった四頭身程度の不審物が憑いてきているのも、目立たぬ作用の一環かも知れない。
ちなみに雄二が狩り出された理由は『代表』というクラスの責任者であるが故の呈の良い名義借りでしかないのであるが、前回の戦争で負けた原因であるがために『クラスの戦力維持』という名目を実行する以上、彼には発言権など皆無なのである。
そうして『お使い』の結果、学園長室へと足を運ぶ破目になったとしても、唯々諾々と仕事を全うすることが彼への『責任の取り方』となるのだ。
「そういえば、」
後ろをついてきている明久に雄二は思い出したように口を開いた。
首を傾け伺い見るように斜めに見下ろし、身体は歩みを止めぬままに言葉を続ける。
「前から聞きたいことがあったんだが、いいか?」
「なんなりと」
「『労働賛歌』ってなんだ?」
明久の口調にはツッコミは入れないことにしたらしいが、ずっと気になっていたある発言を思い起こしつつ訊くことにした。
が、返答がない。
どうしたのかと改めて後ろを見やると、きょとんとした表情の明久が雄二を見上げていた。無表情がデフォルトであるメイドモードの明久にしては、珍しい仕草である。
「……、どうした」
「いえ、そうですね。普通は知らないことでしたね、そういえば」
「なんだ?」
若干言い辛そうにも聞こえる言い分に、雄二の中の『それ』に対する疑問がより膨らむ。
が、再度問う前に明久は至極簡単に答えを返した。
「あれは必殺技です」
「ちょっとよくわからないな」
耳がおかしくなったのか、思考がおかしくなったのか。
思わず言葉を返してから、返ってきた答えを自分の中で反芻してみる。
………………………………
数秒ほど思考を巡らせ、順当におかしな事実を告げられたことに雄二は軽い眩暈を覚えた。
「……で、なんだって?」
「ですから、必殺技ですよ」
「いやいやいやいや……
メイドに必殺技が必要か!?」
一拍遅れて思わず怒鳴った。明久に怒鳴るのは筋違いかもしれないとは雄二自身思うものの、叫ばずにはいられなかった。
「アキバのメイドならフツーに持ってるけどな。必殺技」
「マジで!?」
叫ばずにはいられなかったのだ。
流れるように話に加わってきたハナが齎した衝撃的過ぎる情報に再びツッコムほどに。
「マジマジ」
「愛子ちゃんも見せ場があったのなら、あの時使用していたと思いますよ?」
「嘘だろ……」
まあ当然信用できない。
というか、従事職に必要なスキルとは到底思えないのだから、雄二のその反応は当然であった。
というか、これが普通だ。
「おーし、そんなら見せてやろうかね、必殺技。
明久、手伝ってくれね?」
「かまいませんが」
「おいおい……」
微妙に乗り気になっているロボメイドに促されて、明久は指定の位置へと歩む。
ツッコミ疲れた雄二であったが、その光景にちょっとだけ期待している自分がいるのも事実なので二人を止めはしなかった。
――それが、あの悲劇を生んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……これだけ言ってもまだ白を切るおつもりですか、学園長?」
「何度言われたところで、身に覚えのないことにはうなずけやしないねぇ。
アンタの勘違いじゃないのかい?」
職員室より手狭で、若干に豪奢な調度品がそこかしこに並んだ一室。学園長室にて二人の人物が、少々不穏な空気を醸し出しつつ会話を交わしていた。
片方は直立不動でスーツを着た男性。彼はやや抜け目のなさそうな鋭い眼差しで、部屋の主に対して詰問を繰り返す。
名を竹原。この学園においては『教頭』という立場にいる男なのだが、その態度は学園の副代表とはとても見えない。
本来なら教頭に限らず、責任者としての立場にいる者に添った形で付き随う者は、その筆頭を諫めよりよい形へと物事を推し量り進めてゆくことを目的とし、『意見を言う』という人の上に立つ者にとっては言い方が悪いが少々目障りなこと自体が主であるとも言える。そうすることで互いのワンマンプレイを極力なくし、事の運営を効率よく動かしてゆくことへと繋がるのである。
しかし、竹原の持つ雰囲気はそういった『よりよい形』を目指すものとはとても思えなかった。
まるで『敵を前にしてどうやって喉笛を噛み千切ってやろうか』と値踏みする獣のようにギラついている。キャラとも言えるのかもしれないが、それにしても野心溢れる眼差しであった。
対して、部屋の主として椅子に座り、小蠅を追い払うかのような仕草でひらひらと手を振る老女。彼女がこの文月学園の学園長、藤堂カヲルといった。
その態度は慇懃無礼。学園長であるとはいえ、この学園の責任者であり代表筆頭であるとはいえ、喩え嫌いな相手なのだとしてもそんな態度を取るということはまともな教職につく人間としては有り得ない仕草である。
しかし、竹原はそれには特に不満も持たず、軽いため息を一つ吐くと踵を返した。
「まぁいいでしょう。
しかし、隠しておいて後々にばれると、痛い目を見るのは他でもない貴女ですよ。学園長?」
「忠告ありがとね。
いつか困ったことがあったときには参考とさせていただくよ」
なにを隠しているのか知らないが飄々と竹原の言葉をかわす藤堂カヲル。
その態度にわずかに鼻を鳴らしつつも、竹原は部屋を出ようとドアへと歩み寄り、ノブへ手を伸ばした。
――その、直後、
『ダブルメイドストライク!!』
そんな声が聞こえた瞬間、眩い熱線が彼の身を包み込む。
その彼が最後に感じたのは、目も眩むほどの白い光。そしてジュッと肉の焦げる音だけであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ドアを突き破り正面のものを数歩分薙ぎ払った惨劇の跡が、雄二の目にただただ写る。
それをやった犯人はというと、涼しい顔をしてのほほんとのたまった。
「な。
ビタミンメイドが二人分ありゃあ誰でもできる技さ」
「イヤ嘘だろ!? 今のビーム明らかにハナから出てただろ!?」
言われた通りに必殺技を披露してもらったが、これは明らかに酷い。もし正面に人が居たらと思うとぞっとする有様であった。
そして、それを手伝った明久はというと、手のひらを放ったときの仕草のままに伸ばし、放心しているように固まっていた。
かと思うと、ポツリと一言、
「――まさか、いつの間にか習得できていたとは……」
「うぉい! 頼むから常識を忘れないでくれよ! キャラはどうなってもいいから常識だけは忘れるな!」
どこか嬉しそうに呟いていた明久に、雄二は全力で抑止にかかっていた。引き摺ってでも路を違えさせる訳にはいかないのである。
「う、うぅ……、
い、いったいなにが……」
と、うめき声が聞こえることに気づいて見渡してみれば、突き破られたドアの向こうに焼け焦げた消し炭のようなものが蠢いている。
――人間である。
「だ、大丈夫ですかっ?」
幾許か焦ったような口調で対処に回る明久。本来の性格ならばもっと驚き慌てていたのかも知れない。
そんな様を疲れた表情で眺めていた雄二に、ハナはポツリと呟いた。
「なぁ、ところで熱光線で迎えるサービスとか今思いついたんだけど、良くない?」
「うちの喫茶で使う気か。
念のため言うけど良くねーよ」
正しいメイドがったいわざ
『ダブルメイドストライクのつかいかた』
1.メイド服を着よう!
メイドになりきらなきゃつかえないぞ!
2.正しくならぼう!
はっしゃ時にあいかたをまきぞえにしないよう、せの低いじゅんだ!
3.いんをむすんでボルテージを上げよう!
おやゆびとひとさしゆびをつかってエムとダブリューのかたちに、しょうめんから見て二人のゆびがほうげきの形にかさなるようにするんだ!
いんにはとくにいみはないけれど、にほんじんはかたちから!
あるじを思いやるこころ(ビタミンメイド)をぞうふくさせよう!
なければないでほかの力をたぎらせろ!!
4.わざをさけんでときはなて!
いきつけのメイドきっさのメイドさんとかにたのんでやってもらおう!
しょうめんにしょうがいぶつがあるととってもあぶないぞ!
用法用量をとみに守り、正しくお使いください