バカとテストとクロガネカチューシャ   作:おーり

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せめて月一更新をしたかった・・・ッ!


『姉より素晴らしい妹など存在しねぇ!(無意味な主張)』

 

『おらぁ! もういっぺん言って見やがれモヒカン野郎!?』

 

『す、スイマセンでしたぁ!! もう二度とあのメイドをバカにする発言はしませんから! だからもうやめてくださいぃぃッ!!!』

 

『あのメイドじゃねえ! 『アキちゃん』だ!!

 てめぇそんなこともわからねえのか!? あの女神をそれ以外の言葉で呼ぶことは天地神明が許可しても俺たちアキちゃんファンクラブが黙っちゃいねえぞオラァ!?』

 

 

 ガタイの良い、半被を着た男性らが十数名、モヒカンと坊主の二人組みを取り囲んでボコボコに殴る蹴るの暴行を加えている。

 まるで週刊チャ●ピオンにでも見るような一方的な暴力行為なのだが、周囲の一般客らは目も向けようとしない。そもそもその二人組みが何やら大声で何処かの催し物のメイドをディスっていたのが原因だと彼ら自身白状しているので、そうなるのも仕方が無い、と誰もがその迷惑行為を黙認し何人もがスルーして去って行った。

 無常かもしれないが、迷惑行為×迷惑行為=触らぬ神に祟りなし。この方程式は何処の社会でも通用する常識問題なのである。

 

 そんな現場に到着したのは、野性的な雰囲気の男子生徒に紙袋を被った機械的なメイドの二人組み。

 しばらくその理由ある暴力を眺めていると、思い出したかのように呟いた。

 

 

「……そういやぁそろそろ次の対戦が組まれるな」

 

「おし! 行くか!」

 

「ああ、」

 

「「俺たちの戦いはこれからだ!」」

 

 

 同じように方程式を組み上げたらしい二人組みもまた、何処かの打ち切り漫画のような台詞を声を揃えて叫び、その場を立ち去っていった。

 残るのは夥しい血痕と、モヒカンと坊主の男子の声が枯れるような悲鳴しか無い。

 

 

『『誰か、助けてくださいーーー……!!!』』

 

 

 I wish forever……。

 

 

 

   『第12話

    姉より素晴らしい妹など存在しねぇ!(無意味な主張)』

 

 

 

「つ、つかれましたぁ~」

「よくもまあしっかりと身体を動かすものばかり選んでくれたわね、アキってば……」

 

 

 乙女が二人、露出が多目の改造メイド服ミニスカート型で汗だくになってパイプ椅子に項垂れる様は見る者に若干の興奮と扇情を覚えさせる。という劣情を煽るような描写はさておき、午前中ほぼ休む間も無くダンスを披露した女子らの体力は限界に近かった。

 ちなみにこの場は急遽用意した簡易控え室なれば、例えFクラスといえども危険ではない。というウスイ=ホンが捗ることを阻止する一文も敢えて添えておく。本当はそれ以上に危険なセクハラ要員に対処するために明久が用意するように進言したのであるが、まあそこはそれととにかくとして。

 

 

「馴染みの薄い曲ばかりじゃったのぉ、客層にはあったのかも知れんが、正直覚えることで精一杯じゃったぞ」

 

「……でしたら、ももいろクローバー●にでもしておくんでしたか?」

 

「「「それだけは勘弁してください」」」

 

 

 小首を傾げてそんなことを尋ねる明久に、一斉に土下座の姿勢で対処する乙女たち。件のグループの運動量は今回の比ではないとあまりにも有名であるのでこれ以上の試練は勘弁願いたい、という心の底からの悲鳴でもあった。

 

 そんな折、

 

 

「お嬢様方ーお客さんっすー……って、ナニガアッタシ」

「お、お姉ちゃん……?」

 

 

 そんな言葉を発しながら入ってくる、クラスメイトの一人(手塚君・基本的に発言力の低いモブである)と小学生くらいの女児。

 

 

「え、葉月……?」

 

 

 そう応えたのは島田美波であったが、姿勢は未だに土下座のまま。

 目の当たりにするにはあまりにもアレな邂逅となったのは言うまでも無い。

 

 

 

     ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

 

 

 

 今更ではあるが今回の明久の格好は全日程に渡りメイド服である。

 お蔭様で彼は正体を知られることは極力避けたいがために、周囲からの名前呼びも徹底させた。

 吉井、と呼ぶものには『アキちゃん』と。

 それに伴って、態度を変えざるを得なかった少女がいる。誰というまでも無い。島田だ。

 

 

「だからね、あれはちょっとしたお遊びのことでね」

「いえ、えっと、お姉ちゃんが楽しそうならいいんですよ……?」

「待って、距離を置かないで、お願いだから」

 

 

 何処かの世界線ならば照れ隠しと称して明久に関節技でも仕掛けているのであろうが、良いお姉ちゃんを演じたい彼女は必死で弁明のみを繰り返す。

 そんな二人を眺めていた、実は間一髪で生き延びているということを知らぬ明久が、その軽く華奢な腰を上げた。

 

 

「葉月ちゃん、といいましたか? 先ほどのはただのお遊びですから、そんなに心配することもないですよ」

 

 

 おおう、と島田が思わず仰け反った。

 舞台上でも見せていたが、明久の表情がえらく柔らかな微笑みであったためである。

 Cool系メイドであったはずの明久がこんな表情で接してくるという時点で、なんだか凄いレアなものを見たような気分になってくる島田家姉。もっと取り繕うこともあるだろう、と彼女の存ぜぬ天の声が呟いた気がした。

 

 

「貴女が宜しければこの後の休憩を一緒にとりませんか? 私たちの仕事は、あとは三時間後にもう二・三曲歌うというだけですから、しばらくはお付き合いできますし」

「え、えっとぉ……」

 

 

 明久の誘いに少々及び腰の小学生。今更ながら己の格好が女装姿であって本当に良かったと本人が思う。明久自身誘ってみてなんだが、下手なナンパみたいな誘い文句に笑顔の裏が引き攣る感触を感じていた。

 流石に初対面の相手に早々対処が出来る小学生などいるはずもなく、

 

 

「それじゃあ一緒に行きましょう!かわいいおねえちゃんっ!」

 

 

 と、いう葛藤も特には無かったらしい。

 天真爛漫な返事に誘ったはずの明久の腰が若干引けた。

 

 

 

     ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

 

 

 

「いらっしゃいませお嬢様方、2-Aメイド喫茶『ご主人様とお呼び!』へようこそ」

 

「高校生四名と小学生一名です」

「その宣告は必要ですか……?」

 

 

 当然ながら、現在清涼祭の全体状況はメイド喫茶が9割という頭の可笑しな現状である。なので他の展示を見て回ろうとしたところで、メイドしかいないのでははっきり言って特色が見え辛い。

 そうなると己らが見て回って楽しめるものといったら、メイド喫茶以外の展示物か若しくは知っている相手の居る教室かという二つの選択肢しかない。

 その選択肢ならば先ずは知り合いの元へと顔を出すのが人情というものであろう。但し、真っ当な知り合いというカテゴリに限るが。

 

 

「かしこまりました。メイド四名と小学生女児一名入りまーす!」

「帰りましょうか」

「嘘嘘冗談ですよお姉さまってば!」

 

「いや、儂らが言い返せる格好ではないというのが一番の問題ではないのか?」

 

 

 踵を返した明久に追い縋るのはA組の入り口で集客をしていた工藤愛子。そして秀吉のツッコミの通り、目立たないからと言ってメイド服のままで行動していたF組美少女カルテットには言い返せる格好ではないのは事実。

 だが客扱いしないのならば、わざわざ知り合いの元へでも赴く必要性はないのである。

 

 客が従業員を嗜めるという珍しい光景を振りまきつつ、案内された席に着く五人に接客をするため、木下優子がテーブルへと赴いた。

 

 

「あら、いらっしゃいアキちゃん。舞台はもういいのかしら?」

「どうも優子さん。ええ、うちは正規の喫茶店ではないので。ステージは二部に分けて、今の時間はグッズの販売を中心として行っているのです。宜しければ後でご覧になってはいかがですか? それより、こちらはあんまり盛況ではないようですね?」

 

 

 両者の間でいきなり火花が飛び散った。

 何故か優子は明久に対して若干のライバル意識を持っているのか、いきなり挑発気味の台詞で注文をとりに来たことに弟である秀吉には驚きを隠せない。同時に、挑発返しでさらりと流した明久にも驚愕の目を向ける。

 唐突過ぎる現状の変化に、あれなんでこんな妙な板ばさみに?と直接関係無いはずなのに秀吉の胃はきりきりと鳴り出した。

 

 

「誰かさんが無駄に豪奢な宣伝をしたお陰かしらねー?学校中が感化されてこっちはいい迷惑だわー」

「まるでメイドの群雄割拠ですね。ほんと、誰のせいでしょうねー?」

 

 

 あははうふふと朗らかな会話をしているのに、二人ともまったく目が笑ってない。

 実際すぐに席に着けた五人には申し分ない以上に空席がちらほら見られるのは、やはり宣伝効果が少々薄いせいなのだろう。メイド祭が開催された弊害か、元からこういうコンセプトを予定していて正統派喫茶を開店させたA組にとっては明久のビラ配りは実に手痛い宣伝となってしまったようだ。

 

 

「え、なんでお二人はそんな状況に……?」

「えっと、そんなに仲悪かったっけ?」

 

「ん?何を言ってるの姫路さん?私たちこんなに仲良しなのに?それよりご注文は何にしますか『お嬢様』?お薦めとしてはうちのコンセプトである本格派ケーキセットなどがお薦めですけど?都内にあるような『普通の』メイド喫茶なんかじゃ到底出てこないような、ね?」

「そうですよ島田さん、こんなに朗らかな会話をしてるじゃないですか?それではこの『ふわとろオムライス』にケチャップでハートとラブを込めて、というのをお願いしますね」

「お嬢様?当店ではそのようなサービスは行っておりませんので」

「ああ、ごめんなさい。その程度もできないでメイド喫茶なんて名乗っているとは思わなかったからつい」

 

「「「いや、どう見ても関係最悪じゃない(の)(ですか)(かのぉ)」」」

「お、お姉ちゃんたち怖いです……」

 

 

 この中では誰も与り知らぬことなのであるが、既に明久のステージを見ていた優子には心の琴線に触れるものがあったらしい。それがライバル意識なのか対抗意識なのかは知らぬが、とにかく真っ向からぶつかりたいと思った相手は彼女にとっては始めてのことで、自身のクラスへとやってきたことに思わず挑発で接客してしまったのがことの真情だった。

 ……どう考えてもぶつかり方があさっての方向へと赴いているようにしか見えないのは、それにいちいち対応してくれる明久のお陰で彼女自身気づいてないようであるが。

 

 閑話休題。

 

 ちなみに注文の品を持ってきたのは霧島翔子だった。

 

 

「……ご注文にありました、ケーキセット三つにふわとろオムライス二つです。絵柄は何にいたしますか?」

「霧島さんのお好きなものでいいですよ?」

「……じゃあ雄二を」

 

「え、儂らそれを食わされるのか……?」

 

 

 本当に、ケチャップでオムライスの上にデフォルトされた雄二の顔を描く霧島翔子。画伯の上手さに思わずため息が漏れた。

 

 

「……それでは、」

「あ、ちょっと待ってください。携帯の使用は厳禁ですか?」

 

 

 明久の質問に首を横に振るって否定する翔子。それでは、と言ってとあるポーズを決めたままの姿勢である。そんな彼女に明久はケータイを取り出し、

 

 

「どうぞ」

「……らぶ、ちゅーにゅー」

 

 

 手でハートマークを作って繰り出す姿を録画する。

 

 

「雄二に送っておきますね」

「……ありがとう、吉井はいい人」

 

「それは絶対『いい人』ではないのじゃ!」

 

「何を言いますか。彼女のこんな可愛らしい姿を目の当たりに出来ないなんて間違ってますよ」

「……彼女じゃない、奥さん」

「それは失礼しました、坂本夫人」

 

「別の何かが激しく間違っておる……!」

 

 

 ツッコミが足りないなぁ。とケーキセットを食べながらそんなことを思う、見学者三名であった。

 

 

 

     ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

 

 

 

『勝負中になんっつうものを送ってきやがる明久テメェ!?』

「えぇ?善意しか送ってませんよ?」

『今じゃなくてもいいだろうがぁ!?』

 

 

 何が彼の琴線を刺激したのか、電話越しに怒鳴り込んできたのは当然ながら坂本雄二で。お化け屋敷を楽しんでいた最中に突然鳴り響いたケータイの着信音でふぉぉ、と驚いた葉月にちょっとドS心を擽られた明久はその着信音を一度切った。

 何度も鳴る着信音。

 そのたびに切る明久。

 都合三十回ほどのそういうやり取りの先に、驚きすぎて憔悴しきった葉月を伴って戻ってきた明久はやたらと艶々していたという。

 

 

「雄二、小学生って最高ですね」

『いや待て!?今の話の流れでなんでそうなった!?』

「おっと、失礼。間違えました」

『ああ、本当にな……。せっかくの常識人がトチ狂ったのかと、』

「小学生をいじめるのって、最高ですね」

『それこそやめてやれよ!?』

 

 

 誰と一緒に行動しているのか知らないが、数少ない常識人のサディスティック萌芽の気配に脂汗がとまらなくなりそうな雄二である。

 

 

「それで、戦況はどうですか?」

『いきなり戻るなお前!? ――ああ、ま、悪くない。順当にいけば明日も準決勝まで無事に進みそうだ』

「てっきり妨害とかがあるかと思っていましたが、なんだか拍子抜けですね」

『……いや、それ自体はあったみたいなんだがな?』

「?」

 

 

 奥歯に物の挟まったような言い分にさすがの明久でも疑問符を浮かべる。まさか己のファンクラブが率先してその芽を潰しているとは、思いもしていなかった。

 

 

『ま、この調子なら最終日の決勝戦まで何事も無く事は進みそうだ。大会自体が賞品を押し出していないお陰で、出てくる奴らも勝つ気が燻ってるからな』

「交渉しておいて間違ってなかったようですね。霧島さん辺りが優勝する気満々で出てきていたらどうしようかとは思ってましたけど」

『ああ、それは本当にな……!』

「雄二?何か無駄に声が強張ってませんか?」

 

 

 如月ハイランドのペアチケットしかも特別優待券なんてものが賞品であれば誰でも飛びつく。学園長はそれを餌に召喚獣のデータ取りも兼ねて今大会を企画した恐れもあるが、そもそもそれを回収しろと命じたのも学園長である。この時点で企画に矛盾が生じているのだ。そんな人物が今更優待券の回収を命じたこと自体が依頼の不明瞭さをより明確にしている。

 だがそれより何より、雄二は賞品を伏せておくという自身の策を実行してくれた学園長にわずかながら感謝していた。

 この優待券を巡って、まかり間違って自分の幼なじみが今大会に参加したとなれば確実に優勝は出来なくなると思っていた。策を実行した学園長の狙いは余計に浮き彫りになったが、一緒に妨害工作も見通しが捉えやすくなったのだし現状は万々歳である。

 

 

『――さて、後はお前らがステージで失敗しないことを祈るのみだ。へまはやらかすなよ?』

「フ、私たちを何だと思っているのです?

 本場のメイドは二の足など踏まないのですよ」

 

 

 そう応えると、互いに笑みを浮かべて通話を切る。

 その無駄に息の合った二人のやり取りを見て、

 

 

「――いや、儂らは本場のメイドと違うじゃろ」

 

 

 秀吉がそうツッコミを入れた。

 

 




所々色々間違っているかもしれないけど大目に見てもらえるとやや助かったりって思っていたり・・・
あとハナがちょっと影薄い

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