織田信奈の野望〜ぬらりひょんと狐の嫁入り〜   作:海野入鹿

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物語は核心へ


夜語りの四

ブリュンヒルデはロトの剣と名付けられた自身の剣をじっと見つめ

 

「ロトの剣………今の私にはぴったりの名前ですね。」

 

「どう言う事ですか?」

 

 疑問を口にする美奈都。

 雫と芽衣も首をひねっている。

 

「決して後ろを振り向かない。そんな意味で名前を付けてくださったのですよね、雫様。」

 

「………………そうじゃ。」

 

 言葉では公定しながらもその眼は確実に泳いでいた。

 

「しずくちゃんすごーい!」

 

 芽衣は手放しで雫を褒めるが俺の隣に居る源内は小声で

 

「旦那様あれって。」

 

「ああ。確実に話を合わせているだけだな。」

 

 俺達二人はこの後どうなるかを暖かい目で見守る事にする。

 

「ねえ、後を振り向かないのとロトって何のつながりがあるの?」

 

 三人を代表する様な形で美奈都が質問をする。

 芽衣はうんうんと首を縦に振っていたが雫は自分に説明を求められない様に目をそらせていた。

 ブリュンヒルデはコホンと咳払いを一つしてから「あのですね」と説明を開始する。

 

「あのですね、悪い街があって、神様が振り向くなと言って、振り向いたら、塩になったんです。」

 

「「「へ?」」」

 

「だからですね、悪い街があって、神様が振り向くなと言って、振り向いたら、塩になったんですよ。」

 

「「「はぁ?」」」

 

「解りませんか?」

 

「解らんのう。」

 

「解んりませんねー。」

 

「わかんないよー。」

 

 ブリュンヒルデは身振り手振りで説明をするが、説明自体がざっくりしすぎて何一つ伝わらなかった。

 どう説明しようかとうんうん唸っているブリュンヒルデの背後から突然声が挙がる。

 

「南蛮の地で聖書と呼ばれる書物があるので御座いますですのよ。その聖書には古くに神様が行った事柄なども書いてあるので御座いますですのよ。」

 

 皆一斉に声の主を凝視するが声の主は物怖じせず話を進める。

 

 

 

 

 

 

 その一節にあるお話で御座います。

 

 昔々、ある悪徳にまみれた国がありました。

 

 ある時、神様はその国を滅ぼす事に決めたのです。

 

 ですが、その国には唯一神様の教えを忠実に実行していた家族が居りました。

 

 それがロト一家。

 

 神様はロト一家にだけにこれから起こる事を教え逃げる様におっしゃったのです。

 

 その時、神様が言ったたった一つの注意事項、それは決して振り向いてはいけない事。

 

 ロトの一家は神様に教わった通りその国を抜け出しました。

 

 ですが………逃げる途中でロトの妻だけは振り返ってしまったのです。

 

 

 

 

 

 

 四人は話に引き込まれて行く。

 

「振り返ったロトの妻はどうなったのじゃ。」

 

 雫が早くと続きを急かす様に口を開く。

 声の主は頬に手をあて、優しげな微笑みを浮かべ話を続けるべく口を開く。

 

 

 

「神様の忠告を破ったロトの妻は塩の柱になってしまったので御座いますですのよ。」

 

 

 

「なぜ、神様はそんな事をしたんですかね。」

 

「おくさんかわいそー。」

 

 美奈都は疑問を口にし、芽衣は素直な感想を言う。

 

「そうで御座いますわねぇ。南蛮では人は神様が作ったと言われているので御座いますが、神様、親としては子供に見せたくは無かったのではで御座いますですのよ。」

 

「なにをー?」

 

「無慈悲な行いを、で御座いますですのよ。」

 

 なるほど、と皆は一様に納得の姿勢を現す、が

 

「それはそれとしてのう、お主、誰じゃ?」

 

 と、雫が今さらな質問を口にする。

 

 声の主は頬に手を当て「あらあら」とほほ笑みながら

 

「わたくしモルジアナと申しますで御座いますですのよ。こちらには働き口を求めて来たので御座いますですのよ。」

 

 言って奇麗な会釈をする。

 雫以外の三人は、それはそれはと会釈を返す。

 

「では面接と行こうかの。」

 

 雫はちんまりした体をのけぞらせ精一杯の威厳で言う。

 モルジアナは雫の発言に何の疑いも無く「はい」と返事を返し鍛冶場の外に置いてある長椅子に腰かける。

 

「では始めるぞよ。」

 

 そう言って試験官雫はモルジアナの前に立って腕を組む。

 我が社を志望した動機は?などと言った割ととんちんかんな質問を幾つかした後

 

「では、そなたの特技は?」

 

「識別。で御座いましょうかですのよ。」

 

「識別って?」

 

 横から美奈都が口を出す。

 

「鉱石などの識別なので御座いますですのよ。後は………そうですわねぇ、色々な国を見て来ましたので炉などの知識、で御座いますでしょうか。」

 

「採用ーーーーー!」

 

 人差し指をビシッと突き出し美奈都が高らかに宣言する。

 

「いやいやいや美奈都殿、ここはマスターの指示を仰がなければ……」

 

 暴走気味の美奈都にブリュンヒルデがフォローを入れる。

 その光景をモルジアナは暖かな目で見守っていたが、その袖を引く者がいた。

 

「ねーねー。しきべつってどうやるの?」

 

 モルジアナは芽衣の方へ振り返り優しく微笑んでから

 

「わたくしの場合は見れば解るので御座いますですのよ。」

 

「すごーい。でもなんで?」

 

「さあ。」

 

 芽衣は首を二、三度ひねってから

 

「ごしゅじんさまー!なんでー?」

 

 俺に振って来た。

 源内に視線を一度向け、二人揃って木陰から皆の方へ歩き出す。

 

「で、何だって?」

 

 芽衣に視線を向けつつも皆に今までの経緯を求める。

 まあ、大方は聞こえていたが。

 口下手な芽衣とブリュンヒルデでは無理だと判断したのか、説明は雫と美奈都からされた。

 

「なるほどな。なあ、あんた、あそこに飛んでいる蝶の性別は解るかい?」

 

 俺は近くを飛んでいた紋白蝶を指さしながら問いかける。

 俺の質問に源内も含めて皆は無茶な事をと言う表情だったがモルジアナは平然と

 

「あの蝶々で御座いますですか?あれは雄で御座いますですのよ。」

 

 何の迷いもなく答える。

 

「そうか。ちなみに、あの蝶は白いかい?」

 

「いえ。白では無いので御座いますですのよ。」

 

 モルジアナの言葉に全員の頭に?マークが灯る。

 だが、俺だけは一人納得言った表情で

 

「なるほど。そう言う事か。」

 

 と言ってシメにかかる。

 が、こんな謎を残して締めさせてくれる様な幻灯館メンバーでは無い。

 皆それぞれに俺に質問を投げかけて来る。

 それぞれの言い方は違うが内容は一つ

 

 

 

 “どう言う事?”

 

 

 

 だった。

 俺はどう説明した物かと思案しながらも口を開く。

 

「通常、俺達人間は三つの色で物を見ている。」

 

「三つですか?」

 

 即座に源内が質問を投げかけてくる。

 俺は手で慌てるなと源内を制止し

 

「それは三色型と言う言い方をするのだが、彼女、モルジアナは通常の人間が見る事が出来ないもう一つの色を見る事が出来る四色型という眼を持っていると言う事だ。」

 

「旦那様。」

 

 再度源内が口を開く。

 今度は俺に制止されない様に呼びかけてからだ。

 

「それは妖術とか陰陽術とかでは無くですか?」

 

 皆に解るように俺はゆっくりと頷き

 

「そうだ。そんな怪しげな物じゃ無いよ。簡単に言ってしまえば才能。乱暴な言い方をすれば源内、お前の肌が白いのと同じ程度だな。その人物一人だけしか知らなければ奇異に見えるかも知れないが何十人と集まればそんな物か、と言う物だ。」

 

 俺のざっくりとした説明にモルジアナも含めて全員が「はー」と感嘆の声を挙げる。

 

「物知りだとは思ってましたがやっぱり凄いですね旦那様。」

 

「ホントだよ!すごい!五十鈴さん!」

 

「ごしゅじんさま、すごーい!」

 

「さすがはマスターです!」

 

「物知りなので御座いますですのよ。」

 

 皆が俺を褒める中、背後から声が挙がる。

 

「さすがは美津里はん。解らない事はありまへんな。」

 

 聞き覚えのある声と方言に驚きながら振り返ると、そこには納屋店主、今井宗久の姿があった。

 

「あれ?今井殿?お久しぶりです。ここへは何用で?」

 

 驚きもあってか俺は挨拶と疑問を一度に投げかける。

 今井宗久は普段なら人には見せない人懐っこい笑みを漏らし

 

「美津里はんの驚いた顔、初めて見れましたわ。それに何用とは冷たいですな。モルジアナはんに此処を紹介したのはわてでっせ。」

 

 ああ、なるほどそう言う事か。

 確か堺の小一郎から就職希望の者がいると言う手紙をもらっていたな。

 そう言えばアイツ、苗字は何だったっけ。

 

「どうでっか?彼女は。」

 

「逸材だな。」

 

 そう言って笑い合う俺と宗久をよそに、娘さん達の方でも話は進んでいる。

 

「ヒルデちゃん、最後に一つだけ質問させて。」

 

 今までの雰囲気とガラリと違う表情で美奈都はブリュンヒルデに問いかける。

 

「はい。なんですか?」

 

 ブリュンヒルデもそれを感じ取ったのか表情を硬くする。

 

「あなたは、人の命を奪う覚悟はありますか?そして………命を奪うと言う意味が解りますか。」

 

「!」

 

 美奈都の発言にブリュンヒルデは驚きの意を表しながら

 

「あ、あの。えと………」

 

 うまく言葉が出てこない。

 美奈都はこうなる事が解っていたのか

 

「返事は今すぐでなくていいです。今夜一晩考えてみてください。お返事は明日の朝、お聞きしますね。」

 

 その言葉を合図に雫が「本日のお披露目はこれにて終了!」と宣言し皆は鍛冶場を後にする。

 その場に居た者達と挨拶をかわしモルジアナは俺と宗久、源内の下へ近寄って来る。

 宗久から大体の話は聞いたが唯一はぐらかされていた部分を直接モルジアナに聞く事にした。

 宗久がはぐらかしていた部分、それは、なぜ日ノ本に来たのかと言う部分。

 世間話の様な会話から核心の部分に話が行くとモルジアナの顔から表情が消え淡々と事の顛末を語ってくれた。

 なるほど、彼女は奴隷を人として見られる人間か。

 彼女の話に納得がいった俺は、採用の旨を伝え、源内を案内に里を見て回る様に促す。

 その別れ際、俺は悪党の笑みを浮かべ

 

「モルジアナ。良かったな、早めに気付けて。」

 

 そう言って宗久を誘い屋敷へと向かった。

 源内の話では、去って行く俺を見つめるモルジアナは何とも言えないポカンとした表情だったらしい。

 

 




いかがでしたか?

ヒルデは何と答えるのでしょうか?
美奈都の真意は?
お楽しみに。

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