最善の未来を掴むたった一つのさえたやり方   作:泰邦

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第七話

 春休みに入った。

 学年一位をとったということも含めてパーティーをおこなったが、何人かは欠席だった。まぁ、大体来ない面子はわかっているし、来ないからどうこうということもないのだが。

 問題はむしろ神楽坂さんとの約束だった。

 高畑さんも春休みに少し長めの出張があるということで、半日だけになったがデートすることが出来るようにセッティングした。

 その後のことは関与しない。告白は出来なかったと近衛さんが残念がっていたのは知っているが、出歯亀は推奨しません。

 

 それはまぁ、良いとして。

 

 元々春休みになれば図書館島の奥にいるであろうアルビレオ・イマに会いに行こうと思っていた。

 理由なら簡単で、俺が世界を救うにあたって必要な知識を集めるためである。

 原作通り那波重工やら雪広財閥の力で無理矢理火星をテラフォーミングしても解決は出来るのだろうが、それでは確か何らかの弊害が出たはずだ。社会の混乱も大きいし、戦争や紛争だって起こり得る。

 社会の混乱なんぞ火星のテラフォーミングや魔法の公表をやるという時点で避けられはしない。避けられはしないが、ある程度緩和することは可能だろう。

 まぁその辺は政治に詳しいやつに丸投げする形になるだろうけど。素人の俺がやったところで失敗するだけだ。

 図書館島の司書に会う、と高畑さんに告げたところ、詳細な地図をもらったので今回はそれを使用して行くことになる。

 いざというときの戦力はアーチャーに頼るだけだが、正直それほど危険もないだろう。盗人対策のトラップくらいはあるだろうが。

 

「よし、それじゃ行くか」

 

 箒に胡坐をかいて座り、地図を広げて逐一道を確認しながら進む。方向音痴ではないつもりだが、もともとが迷宮のように入り組んでいる施設だ。道に迷う可能性なら十分すぎるほどにある。落ちないように力場が張ってあるから特に問題もないし。

 アーチャーは箒に乗せていこうと思っていたのだが、本人が辺りを確認しながら走ってついてくるというので好きにさせている。

 自動車程度の速度が出る箒とはいえ、サーヴァントの……それもAランクの俊敏性を持つヘラクレスを相手にすればそれほどの速度ではない。

 そもそも霊体化しているからトラップなんて意味もないが。

 そうして辿り着いたのは、古ぼけた扉のある場所だった。

 デカい樹が侵食しているように見えるが、これは多分世界樹だな。侵食しているんじゃなくて世界樹の中に部屋を作った可能性が高い。

 何せアルビレオ・イマは魔力が足りずに学園祭以外では表に出てこれなかったはずだ。世界樹の魔力を使うことで自身を保っているのだろう。

 

「マスター」

「なんだアーチャー。俺は今、これをどうやって開けようか悩んでいるんだが」

「いえ、敵のようです」

「敵?」

 

 振り向いた先には竜がいた。

 二本の足と翼と前足が混じったような竜──まぁ、いわゆるワイバーンというやつだ。

 魔法生物が何故ここにいるんだという疑問はさておき、こいつがここにいるのは知っていた。

 そして当然、アーチャーにとってこの程度の相手など何ほどのものでもない。

 

「動けない程度に痛めつけてやれ」

「……気絶させればよろしいのですね?」

「ああ」

 

 ヘラクレスは元々豪勇無双の英雄だが、決して無差別な殺害を楽しんだわけじゃない。力を振るうべき場を弁え、振るうべき時に最大の力を発揮するが故にギリシャ最大の英雄とまで呼ばれるほどの存在になった。

 何が言いたいかというと、幾ら強力な魔法生物だろうとヘラクレスの前には無力でしかないわけで。

 実際何が起こっているのか俺もよくわかっていないのだが、アーチャーが弓を放つたびに光の軌跡が描かれてワイバーンを吹き飛ばしていく。

 お前が使ってるのは本当に弓なのか? と問いたくなるレベル。

 RPGでも使ってるんじゃないだろうな。当たった矢が爆発とか普通しないだろう。

 

「終わりました、マスター」

 

 そんなことを考えていたら終わっていた。体感時間では五分もかかっていない。

 殺せっていったら多分一撃で決めていた訳だろうし、十分に手加減したら余計に時間がかかった感じか。

 ワイバーンの吐いてた炎を避けもせずに矢で薙ぎ払っていたし、やっぱり化け物的に強い。コイツが俺のサーヴァントで良かったと心の底から思う。どうして俺と契約しているのかはわからないらしいが。

 ギルガメッシュは最強のサーヴァントとして名高いが、アイツどう考えても扱いづらいんだよなぁ。傲岸不遜で自分こそが唯一絶対とか考えてる奴だし、正直性格が合わないと思う。

 まぁ、それはいいや。

 

「それじゃ行こうか、アーチャー」

 

 扉に仕掛けられていた防壁はそれほど難しいものではなかった──というと簡単そうに聞こえるが、使われている魔法陣が大分古いものだったりやたらと難解なスパゲッティコードっぽいことになっていたりしたので時間がかかった。

 それでもアーチャーの戦いを見ながら片手間で出来る程度の難解さだったのだが。

 ていうか原作にこんな防壁っぽいのあったかな……。

 

「お邪魔しまーす」

 

 中にあったのは幻想的とさえいえる西洋の建物がある、凄まじいほど広々とした空間だった。

 勝手に入るのは不躾極まるが、それはこの際目を瞑って貰おう。何ならいくらか魔力を持って行ってもらっても構わないし。

 

「これはこれは。お待ちしていましたよ」

 

 招待された覚えもないのであちらが俺が来ることを知っているわけはないのだが、どうやら高畑さん経由で連絡が行っていたらしい。地図まで貰ったんだから連絡が行っていて当然かもしれないけども。

 奥に招かれた俺は椅子に座らされ、紅茶や茶菓子を振舞われていた。

 そして目の前には長い髪の女に見える男──アルビレオ・イマ。

 

「初めまして、僕の名はネギ・スプリングフィールドと言います」

「これはご丁寧に。私はアルビレオ・イマといいます。今はクウネル・サンダースと名乗っていますので、そちらで呼んでください」

 

 ニコニコと笑みを浮かべている青年だが、その考えはどうにも読めない。名前を呼ぶくらいは別に構いやしないが。

 訊きたいのはそういうことじゃないんだよ。

 

「……魔法学についての本ですか」

「ええ。様々な文献があればあるだけ読んでみたいのですが」

 

 そういうと、少し考え込むような顔をした後こちらをじっと見ている。実体化しているアーチャーの顔も時折見ているが、一体何を考えているのだろうか。

 考えがまとまったのか、クウネルさんは俺の方を見て一つの問いを投げかけた。

 

「時にネギ君。君は『蒼崎』という名に聞き覚えはありますか?」

「……『蒼崎』ですか? それと魔法学の本と何の関係が……?」

「いえ、単なる好奇心です。魔法学の本ならここにあるものを好きに持って行ってもらって構いませんよ。きちんと返していただければ」

 

 それはもちろん。というか、何故俺が蒼崎という名に聞き覚えがあると思ったんだ?

 この世界で日本人の知り合いなんて学園の中以外にいないんだが……それも蒼崎なんて知らないぞ。

 

「その様子だと知らないようですね」

「ええ、まぁ……特に聞き覚えはないですね」

 

 あくまでもこの世界に限定した話ではあるが。アーチャーがここにいる以上、俺の知る『蒼崎』という家系が本当に存在しうる可能性もまたあるわけだ。

 型月世界でもっとも有名な『蒼崎』は誰かと問えば、俺は蒼崎橙子さんだと思う。

 「人間のひな形から根源に至ること」を目指した封印指定の魔術師。ちょいちょいいろんな作品に出て足跡を残している彼女を知らない人はいないだろう。

 アーチャーと契約できたんだから型月要素的に時計塔があるかもと思って探したが存在せず、蒼崎という名の魔術師もとい魔法使いの家系すらなかった。俺、かなり好きなんだけどなぁ、橙子さん。

 そもそも型月的な協会すらないし。魔法協会はあそこまで殺伐としてないんだよなぁ。

 

「……実は、二十年ほど前ですか。蒼崎と名乗る少年に出会いまして」

「二十年前というと、大分裂戦争のころですか?」

「ええ。余計に自分は関係ないんじゃ、みたいな顔をしないでくださいネギ君」

 

 人の心を読むな。読んだのは表情だけど

 

「ともかく、その頃一度だけ会ったことがあるのですが──君と同じか少し高いくらいの身長で、同じ赤髪で、左手には令呪と呼ぶ紋様があったのですよ」

 

 それ俺じゃねぇの?

 ああ、だから俺に訊いたわけか。身長や赤髪はともかく、令呪なんて俺以外に持っているやつがいるとは思えない。

 ……だが、令呪は元々間桐の作ったサーヴァントを律するための魔術なんだよな。人の手で作れるものである以上、この世界に似た様なものがないとも限らない。

 それに、本当に俺だとしても、どうしてその年代のその場所にいたのかという問題が出てくる。

 二十年前なんてそもそも生まれてすら──

 

「……時間旅行、か?」

 

 蒼崎を名乗った理由といい、過去から「俺は過去に戻った」というメッセージを持たせた可能性もある。

 型月世界において蒼崎の家系が特別な理由はただ一つ──科学では決して再現できないとされる魔法の一つを有しているからだ。

 その名は『時間旅行』。名前の通り時間に関する魔法で、その力を使えば死者ですら生き返らせる魔法だ。だが時間旅行というのはあくまで推測であって、橙子さん曰く「あれも単なる副産物」らしいが……詳細なところはよくわかっていない。

 実際に『魔法・青』を使う蒼崎青子のことはあまり出てきてないんだよな。『魔法使いの夜』は青子さんが主人公らしいが、俺はやったことが無いし。

 

「心当たりがあるのですか?」

「いえ、今の話を統合すると、そうでもなければ矛盾するなと思って」

 

 だが、矛盾は世界によって修正される。そもそもあのレベルの域になると根源に至ると判断されて抑止力に排除されるはずだが。

 あるいは、抑止力を味方につけた結果がこの状況なのかもしれないな。そうでもなければ説明がつかない。

 ……抑止力が現世で贔屓しなければならない事態ってどんな状況だよ。あり得ねぇな。

 この世界には超鈴音という少女が時間旅行を科学の力で成し遂げている。完全に科学そのもので成し遂げたわけじゃないが、その分抑止からの力が小さくなったとすればまだ理屈は通るか?

 俺が使えないのなら世界からの修正も何もないが。

 

「そうですね。ナギの息子であるあなたが二十年前に存在しては矛盾が発生する。やはり私の勘違いだったのでしょう」

 

 超さんの時間移動を知らないから仕方ないのだが、クウネルさんはあっさりと前言を翻す。そもそも俺だと明言していなかったし。

 だが、こちらとしては収穫があった。

 少なくとも過去に戻っていること。理由はわからないが、俺が過去に戻るというのだからそれなりの理由があるのだろう。自分の性格上過去を変えることで未来を変えようなどとは思わない。それは自分が一番よくわかっている。

 例えば──大分裂戦争の際に失われた書物を探しに行くとか、な。

 ……例えてみたがこれが一番可能性が高いな。そして失われたのは俺が過去に戻ったせいというオチがつくわけか。

 

「何はともあれ、たまに来ていただければ私も魔法を教えるくらいは出来ますよ。身の安全は保障されているようですしね」

 

 アーチャーを見ながら笑みを浮かべるクウネルさん。相変わらず何を考えているかわからないが、申し出はありがたいので時々訪れて話を聞いてみようと思う。

 

「感謝します、クウネルさん」

「いえいえ。私としては、ネギ君がここに来たのはナギのことを聞くためだとばかり思っていたのですがね」

「生きていることは知っています。この杖をくれたのが父さんですから。でも、姿を現さないということはそれなりの理由があるのでしょう。僕がもっと力を付けてから探すことにしますよ」

 

 まぁ、どこにいるかは知ってるんですけどね。

 麻帆良祭直後の話でクウネルはナギの居所を知らないと言っていたが、最終巻近くになって『造物主(ライフメイカー)』の依代として世界樹の地下に封印されていることが判明した。

 隠し通したいことだったのだろう。あの時点のネギ少年が知ったところで何が出来たわけでもない。

 それは今の俺にも十分当てはまる。アーチャーがいるとはいえ、世界最強クラスの実力者を相手にして俺を守りながら戦うのは負担が大きい。

 

「今日は本を借りて、しばらくは魔法の勉強を続けることにします」

「そうですか。それがいいかもしれませんね。時間はかかりますが、確実な道です」

 

 美味しい紅茶と茶菓子の礼を言って、いくつかの本を借りて部屋から出る。

 さて、まずやるべきは過去に戻るための方法──時間旅行の魔法を開発するところからか。超さんのカシオペアがあれば話は早いんだがな。

 

 




本編と直接関係ないんですが、魔法使いの夜ってwindows8でも出来るんですかね?

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