最善の未来を掴むたった一つのさえたやり方   作:泰邦

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第三十四話

 高畑さんを見送ったあと、俺はアーチャーを伴ってアルビレオと舞台が見える場所へ移動した。

 茶々丸さんがいるから、という訳でもないが、ふとエヴァの姿を探す。多少興味があれば違うかもしれないが、彼女はこの手の騒がしい催し物は苦手だっただろうか。

 ……嫌いということもなかったはずだが、何度も祭りを見ていれば飽きもするかもしれんな。今頃騒がしさに嫌気が差してふて寝をしているかもしれん。

 などと考えていたせいか、ふと視界に金髪の少女が入り込む。反射的に確認すればそこにいたのはエヴァだった。

 

「珍しいですね、貴女がこの手の催し物に興味があるとは思いませんでしたが」

「……ぼーやか。何、お前の使い魔ではないが、変な気配を感じたからな」

「変な気配、と言うと?」

「私とはまた違う、魔性の気配だ」

 

 舞台に上がり、高畑さんと相対する女性──影の国の女王スカサハを見る。同じ不老不死として思うところでもあったのか、その目付きは酷く鋭い。アルビレオにも気付いていないようだし、それほどスカサハのことが気になるのだろう。

 舞台の一角から観戦している身である以上、それほど殺気をまき散らしてはいないようだが……目に余るようであれば抑えつける必要があるかな、これは。周囲もエヴァを避けているようだ。

 ひとまず観戦するうえでアーチャーは大きすぎたので体育座りをすることになった。

 それでも体格的に俺やエヴァよりも目線は上にあるのだが、大分マシになったはずだ。アーチャーの意見も聞く以上、現界しておいたままの方が何かと都合がいい。

 

「さて、高畑さんはどれだけ善戦できるか……」

「ネギ君としては何分持ちこたえられると思いますか?」

「彼女の戦いを直接見ていないのでまだ何とも言えませんが……おおよそ3分も持てばいい方でしょう」

 

 サーヴァントとして現界した状態ですら超級の一角なのだ。生身ならば言わずもがな。

 彼女がどういう目的で現れ、何をしようとしているのかがわからない以上手加減のほども予測できない。

 それでも制限時間一杯戦うということはなかろうさ。その手の嬲るような戦いを、彼女は、ケルトの戦士は好まない。

 

『さぁ、一方は学園内で知らぬ者はいないとされる、言わずと知れた「死の眼鏡(デスメガネ)」高畑選手! 一回戦でもその実力は圧倒的でしたが、どんな試合を見せてくれるのか!

 そしてもう一方は謎の美女スカサハ選手! 予選、本戦ともに市販のモップを手に戦い、相対する人全員を薙ぎ払っているその実力は如何に!』

 

 朝倉さんの声が会場内に響く。熱狂に浮かされているこの会場の中で、どれほどの人間がスカサハのことを正しく認識しているのだろうか。

 被害は出ないと思うが……出ないことを祈るか。

 

『トトカルチョは高畑選手優位! 底の見えない強さを誇るスカサハ選手も人気はあるようですが、やはりここは高畑選手の方が人気があるようです!』

 

 ちらりとアルビレオを見る。

 いい笑顔でグッとサムズアップされた。

 あれは賭けてるな。それもスカサハの方に。

 

『それでは皆さまお待たせしました! 二回戦第二試合、Fight!!』

 

 ──それは、まさしく一瞬だった。

 

『……え?』

 

 思わずといった様子で朝倉さんの声がこぼれる。

 

「視えましたか、今の」

「何とか。凄まじい速度ですね……」

「タカミチ君の居合い拳を弾いて、それから一瞬で距離を詰めています。あの速度は正直ナギやラカンでも追いつけないでしょう」

 

 試合が始まった瞬間に居合い拳で牽制した高畑さんと、それを弾いて縮地で距離を詰めて彼を横薙ぎにモップを振るい吹き飛ばしたスカサハ。

 速度は確かに驚異的だが、ガードが間に合っていたようだし気絶しているということもあるまい。

 

『な、なんと! 謎の美女スカサハ選手があっという間に高畑選手を吹き飛ばしたーッ! こ、これは予想外です。これほどに強いとは誰が予想したでしょうか!?』

 

 客席まで吹き飛んでいないあたり、手加減はしているのだろう。

 水煙が晴れる前に瞬動で舞台へと移動する高畑さんを視界に入れつつ、モップを再度構えて迫りくる居合い拳をことごとく弾いているスカサハを見つめる。

 これはやはり無理だな。高畑さんの持つカードじゃ太刀打ちできない。

 居合い拳の間合いでも完全にあしらわれているし、居合拳が使えないほどの近距離で戦うのは無謀に過ぎる。

 やはり咸卦法を──と考えた瞬間、スカサハの声がわずかに耳に届いた。

 

「──期待外れだな。少しは出来ると期待したものだが、儂の見込み違いだったようだ」

 

 踏み込みと同時に一閃。スカサハのモップは吸い込まれるように高畑さんの側頭部へと直撃し、意識を飛ばした。

 高畑さんだって相当なタフネスさを持ってるはずだが、ああも容易く意識を落とすとは……。

 

「……いえ、一撃ではありません。三回当てています」

「頭部は一撃ですが、その直前に胴体に二撃当てて意識を逸らし、防御を疎かにしたところで意識を落としていますね」

 

 アルビレオとアーチャーが続けて解説する。頭部への一撃は見えたが、その直前に二発入れていたのか。

 意識の隙間を縫うように攻撃し、流れるように落とすとは。

 スカサハの強さの一端を目の当たりにしたせいか、アーチャーが少しばかりそわそわしている。

 

「……機会があれば戦うかもしれないが、周りに配慮はしてくれよ」

「ええ、はい。もちろんわかっていますとも」

 

 ……いや、まぁ、うん。わかっていればいいのだが。

 

 

        ●

 

 

 気絶して敗北、その後医務室へと運ばれた高畑さんは、それほど間をおかずに意識を取り戻した。

 

「いやぁ、完敗だったね」

「でしょうね」

 

 時間にして一分もなかった。

 笑いながら完敗だったという高畑さんは、見た目はそれほど気にしていないようだが……シーツに隠れて見えない左拳には随分と力が入っているようだ。

 無様と言えば無様。相手が悪かったなど何の慰めにもなるまいよ。

 それに、ああも一方的にやられてへらへらしているようでは男が廃るというもの。

 悔しさを胸に、次につなげられるなら敗北にも意味はある。

 

「……そういえば、アルは?」

「エヴァに見つかって詰問されてます」

 

 あのピリピリした状態でも、横でぺらぺら喋っていればそりゃあ気付く。

 話が長くなりそうだったので置いてきた。そのうちこっちに来るだろう。

 アーチャーが持ってきてくれた椅子に座りつつ、簡易型の人払いの結界を張って会話が漏れないように配慮する。

 

「どうでしたか、英雄の中でも超一流の戦士と戦った気分は」

「……正直、あそこまで凄まじいとは思っていなかったよ。この年になって手も足も出なかったことなんて、流石になかったからね」

 

 だろうな、と思う。

 高畑さんの実力は既に世界有数のレベルだ。ああも簡単にやられるのは本当に相手が悪かったとしかいいようが無い。

 『完全なる世界』の幹部と渡り合える程度には強いはずなんだが……そう考えると、スカサハ一人であの組織を全滅させることも可能なのか。

 ……あちら側に超級サーヴァントがいなければ。

 ヘラクレスと渡り合えるレベルのサーヴァントなどそうそういないが……ギルガメッシュを筆頭にオジマンディアス、カルナ、アルジュナあたりか。全力を出させるとまずいサーヴァントばかりだな。

 

「ともあれ、彼女がどれほど強いかというのは身をもって知ったでしょう」

「嫌というほどにね。それで、これからどうするんだい?」

「どうにかして接触を図るしかないでしょう。彼女が何をしようとしているのか知らなければ、おちおち学園祭を楽しむことも出来ません」

「そうだね。じゃあ、まずは──」

「それは不要です、ネギ先生、高畑先生」

 

 簡易型の人払いを抜け、医務室に現れたのはザジさんだった。

 高畑先生はびっくりしたような、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でザジさんを見ている。

 ここまで気配を感じさせず近づかれるとは……俺もなまったか、思い上がっていたかのどちらかだな。

 どちらにせよ、感情を顔に出さず声をかける。

 

「あまり人前に出ない方が良かったのでは?」

「そうも言っていられる状況では無くなりました」

 

 フード付きのコートを着ている彼女は、どことなく焦った様子で口を開く。

 

「スカサハは私が呼び出しました。我らの祖先と結んだ誓約(ゲッシュ)によるものです」

「なるほど……それなら彼女が現れるのも納得できる」

 

 ケルトの戦士にとって、誓約(ゲッシュ)とは何より重い誓いだ。スカサハが破ることはまずないと言っていいだろう。

 だが、彼女と結べるような誓約(ゲッシュ)とは……。

 

「いえ、それは今はいいのです。関係ありません。重要なのはあなたです、ネギ先生」

「僕ですか?」

「はい。気を付けてください。私が何より気に賭けているのは、超一派の未来がこちらの計算をことごとく上回っていることです」

 

 計算に常に看過できない誤差が発生し続けていると、彼女はいつもの冷静さが嘘のように言葉をまくしたてている。

 彼女がここまで焦るとなると、確かなことなのだろう。何かの間違いではなさそうだ。

 だが、一体何故今になってそんなことが……。

 

「わかりません……時間的には昨日の夕刻ごろからです。そちらでは何かありませんでしたか?」

「昨日の夕刻……いえ、これと言って何か起こったとは記憶していませんが」

 

 何か起きているならアーチャーは元より、麻帆良の教職員たちも気付くはずだ。そちらで把握できていないのであれば、こちらでわかることは何もない。

 高畑さんも、あまり話にはついていけてない顔だが……何か起きていなかったか記憶をたどっているようだ。

 

「何か覚えはありますか、高畑さん」

「いや……僕の方でも何か起きたとは聞いてないよ」

 

 そもそも、未来を計算していると言っても方法がわからない以上、それに干渉できる可能性などこちらでは提示できない。

 魔族の秘奥なのかもしれないが、情報の一端でも開示してほしいものだが。

 

「……いえ、そうですね。協力者として情報を共有するのは重要事項です」

「では、多少なりとも情報は開示できると?」

「はい……ですが、出来ればネギ先生一人にして欲しいのですが」

 

 ちらりと高畑先生の方を見ながら、彼女はそういう。

 高畑先生と視線を合わせ、どちらからともなく頷いて俺は部屋を出る。人目につかない場所、かつ盗聴や盗撮がされていないか入念に確認して、最後に結界を張っておく。

 厳重に過ぎるということはない。どこから情報が漏れるともわからない以上、知る者は少ない方がいい。

 アーチャーが知るのは仕方ないが、彼の口を割らせて情報を開示させることは俺から聞きだすより困難だろう。

 

「では、お話します──魔族が未来観測を行えている理由を」

 

 それは、驚愕の事実だった。

 

「魔族では疑似地球環境モデル・カルデアスと呼ばれる小さな地球儀のようなものを使用して、この星の疑似環境を構築しています。このカルデアスを使用し、疑似環境を構築することで過去現在未来における地球の状態──様々な可能性を観測可能とします。我々魔族の住む金星、魔法世界の存在する火星のものも存在しますが、こちらも同様なので説明は省きます。

 そして近未来観測レンズ・シバ──先程お話したカルデアスを観測するための望遠鏡のようなものです。

 これらの計算を霊子演算装置・トリスメギストスと呼ばれる装置で行い、導き出した値が我々の言う『未来』なのです」




聖杯戦争は起きないと言ったな。あれは本当だ(人理定礎が崩壊しないとは言ってない)



果てしなく関係ない余談ですが、内定ってどうやったらもらえるんですかね…(就活終わらない勢)

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