駆け足で書いたので誤字脱字が多いかもしれません。
あと、麻帆良祭編は視点変更が多いので三人称で書こうかな、と思っている最中であります。
──麻帆良祭が始まった。
空を彩る飛行機雲は大学の生徒であろうパイロットが作ったもので、アクロバティックな動きに合わせて色とりどりの雲が尾を引いている。
道路を埋め尽くすほどの人の波はいつもの比ではなく、遠目に見えるパレードの出来も凄まじい。
なるほど、これは人が集まるはずだ。ここまで様々なパレードや飲食店、アトラクションがある場所など、それこそ某社の遊園地くらいのものだろう。
綾瀬さん、早乙女さん、宮崎さん、桜咲さん、近衛さんと一緒にチラシを配りながらパンフレットを確認して、そう思う。ちなみにアーチャーは相坂さんとデートに行っているのでここにはいない。
前者三人は仕事着でもあるメイド服だが、後者二人は制服と占い研の衣装だ。
綾瀬さんが言うにはのべ四十万人ほどの入場者がいるらしいし、一説では二億六千万もの金額が動くらしい。そこまで行くともはや学園祭というレベルではないな。
「チラシもあらかた配りましたし、一旦教室に様子を見に行ってみますかー」
「そうですね。その恰好でいても宣伝にはなるでしょうが、疲れるでしょう。休憩がてら戻りましょうか」
「賛成です」
「せやねー。パルたちのシフトも次やしなー」
雑談交じりに校舎へと足を運ぶと、えらく長い行列があることに気付いた。
その列を横目に教室へ戻ると、行列がうちのクラスに続いていた。……ここまで人気が出たのか。凄いな。
「ここまで人気が出るとは……」
「ふっふっふ。私と千雨ちゃんのプロデュース力を舐めないで貰いたいね!」
ドヤ顔で胸を張る早乙女さんに素直に感嘆する。元の素材がいいとはいえ、それだけでここまで客を呼ぶというのは中々出来ることではあるまい。
料理に超包子の面々が関わっているという点もあるのだろうが、それにしたって客層は幅広いし外部の客も多いように見える。
宣伝力の差か……誰が宣伝してるんだろうな。
媒体としてはチラシ、ネット、人伝──色々あるが、時代的に見てもネットで下調べなどしている人は左程多くないだろう。ネットが普及してもそれがどれだけ多くの人に使われているかという話だ。
そのあたりで考えるとやはり人伝かチラシの可能性が高い訳だが。
「同人誌やってた伝手で色々宣伝して貰ったからねー。これくらいやらないと客が来ないし、うっはうはよ!」
「……回転率とか考えてます?」
「あんまり。いうほど長居する場所でもないよ? 軽食は出せるけどほとんど用意してあるからすぐ出せるし、テイクアウトも可能だし。写真とかはちょっと遠慮して貰ってるけど」
「そうですね。売り上げを伸ばすというよりいろんな人に来てもらうことを念頭にしている感じです」
「や、やっぱり、お店やるからにはお客さんにも楽しんでほしいですし……」
ふむ。そういうことなら別に構わないか。
生徒の自己自立を促すための商業活動だと聞いたが、無理に金を稼ぐ必要もあるまいよ。クラスで手に入れたお金ならクラスで使い切れるようにすればよいだけの話でもある。
金儲けに夢中になり過ぎないように、というよりも俺が以前説教したことが効いているのか。見た目は十歳だが、そんな教師の言葉でもきちんと理解を示してくれたようで俺は嬉しい限りだ。
理解していなければ強権を発動するしかないのだが。
「お、ネギ先生! ちゃんと来てくれたんだ?」
「担任ですからね。それより、お店の様子はどうですか?」
「ばっちり! 大盛況でいい感じだよ」
明石さんがいい笑顔でサムズアップしてくるので、笑顔で答える。
皆頑張ってくれているようで何より。行列が長くて待ち時間も長いだろうが、お客も時折姿を現す彼女たちのメイド服姿に心惹かれているようで、余り苦に思っていないらしい。
客層が男性ばかりなのはもう仕方ないだろうが、良識をしっかり持っているかどうかは別の話だからな。俺では抑止力にならないので、新田先生たちには申し訳ないが巡回をしっかりして貰おう。
店内を覗いてみると、メイド服姿の少女たちが忙しく店内をかけずり回っている。
一見すると全員同じ衣装だが、よくよく見ると一人一人個性が出るように意匠が異なっており、作り手の『色』とでもいうべきものが視えている。
スカート丈の長さ。スカーフの色合い。アップリケ。フリルのつけ方に至るまで違いが出ており、その違いを見るだけでも意外と面白い。
まぁ、それは今はいい。視察も兼ねて現状の確認を行うべく、教室の奥へと足を踏み入れて今の時間帯の責任者であるいいんちょさんに問いかけた。
「どこも問題は起きてないですか? 食べ物飲み物、あとはお客関連のこととか」
「心配していただいてありがとうございます、ネギ先生。今のところは特には問題は起きていませんわ。強いて言うなら、ホールの手が足りていないことくらいでしょうか」
「……それ、割と重要な問題では? かと言って、今からシフトを変更するのもつらいところがありますからね……」
「それだけ注文が多いということですからね。厨房の方は大丈夫なのでしょうか?」
「そちらはまだ余裕がありますわ。というのも、この時間帯は飲み物がメインで食事をとる方が少ないからですけれど」
「なるほど。とはいえ、テイクアウトは現時点でもそれなりに出ているようですが」
「軽食ですので。手軽に食べられるという点では他のクラスと差別化出来ていると思いますわ」
大抵が店の中で食べて貰う形なのに対し、うちのクラスではパックに入れた軽食と飲み物も販売している。そのあたりもあって差別化が上手くいっているのだろう。
回転率も高いため、お客をあまり待たせることが無いというのもいいな。
……聞くべきことは聞いたか。いいんちょさんも暇ではないだろうし、うちのクラスの宣伝を兼ねてクラスメイトの部活などの出し物を見に行ってみよう。
「今のところは順調なので、僕は宣伝しながらクラスの方たちの部活の出し物にでも顔を出してきますね」
「ネギ先生にとっては初めての麻帆良祭ですし、存分に楽しんでくださいまし」
ニコニコしながら送り出された俺は桜咲さんと行き先が同じだという近衛さんを連れて教室を出る。図書館探検部の三人娘はシフトの交代の関係上残らざるを得なかったのだ。
パンフレットを確認しつつ学校の外に出て、まずどこから行ってみるかと頭を悩ませる。
アトラクション系、飲食系、美術系や音楽系もあり、どれも面白そうで目が惹かれてしまう。
とはいえ、まずは3-Aの生徒たちがやっている出し物に顔を出すべきだろう。それを念頭に置いてメモ帳とにらめっこしながらルートを決めた。
急ぐ話でもないのだし、ゆるりと見て回るとしよう。
●
大河内さん謹製のタコ焼きを頬張り、古菲さんの功夫を見て、神楽坂さんの描いた絵を見に行き、早乙女さんに似顔絵を描いて貰い、那波さんにプラネタリウムを案内して貰い、四葉さんのところで昼食を取り、近衛さんの占いで大凶を引き当てた。
俺は生前を含めても祭りは規模の小さい祭りしか行ったことが無いため、ここまで規模の大きい祭りを体験するというのは初めてだ。
親友こそいたが、そいつもこういう場は苦手だったしな。誰かとこうして祭りを楽しむということ自体が初めてではある。
「桜咲さんは楽しんでいますか?」
「は、はい。一応私もここに住んでから麻帆良祭は毎年体験していますが、誰かと回るのは初めてで…」
彼女は近衛さんの護衛に忙しく、余り楽しんだことはないという。
もったいないことだ。何時も張りつめていては疲れてしまうだろうに。……人のことは言えないか。
この後の予定としては、世界樹の魔力が発動しないようにパトロールを行い、道中で佐々木さんの新体操部での出し物を見る。その後宮崎さんとデートをして再びパトロールだ。
かなり切迫したスケジュールだが、まぁ分単位で行動するのは慣れている。
「ですが、よかったのですか? 宮崎さんとのデートは二時間から三時間くらいほどしか取れていないようですが……」
「こればかりはどうにもなりませんからね。僕が二人いるか、タイムマシンで過去に戻りでもしない限りは不可能でしょう」
「それはそうですが……」
「一応教師と生徒ですので、あまり特別扱いし過ぎるのも不公平というものですよ」
元々最終日に入れる予定ではあったが、宮崎さん自身がそれを断ったのと超さんの動きが全く読めないことから前倒しにした。
どこかで動きだしているはずだが、高畑さんたちもそれほど警戒していないようなので逆に強く警戒している。彼女は要注意生徒ですらないから大丈夫、などと言われては疑いが強くなる一方だ。
「……それは、やはりザジさんの一件でそう考えているのですか?」
「絡繰茶々丸さんの監視から逃れる、ということは彼女のデータを見ることが出来る人物に知られたくないということでしょう。そして、茶々丸さんの創造者は葉加瀬さんと超さん。であれば、彼女たちが何かしらザジさんの動きを見張っていると考えてもおかしくはありません」
ザジさんが動いたからどうするつもりなのか──というところまでは予想がつかないものの、彼女を取り巻く監視を考えるとこちらから迂闊に接触も出来ない。
何が起こるかが未知数に過ぎる。未来を計算し観測するのが魔族の役割だというのなら、俺がどこかで接触する可能性さえ見破られていると考えるべきだ。
どこからどこまでが彼らの計算の範疇なのか。監視はザジさんとは別の派閥による仕業なのだろうが、俺はその辺りについて無知だ。考えなしに行動してはザジさんにも迷惑をかけることになるだろう。
連絡するためには何かしらの悟られない方法があればいいのだがな……少なくとも今の俺には思い浮かばない。
「何をしようとしているのかさえ分かりません。……貴女の眼では、視えませんか?」
「残念ながら。視ようと思って視えるものでもありませんから」
「それならしょうがない。"未来視"もきちんと制御して使えるようになれば随分と便利だと思うんですけどね」
「……エヴァさんは未来視について知っているような口ぶりでしたが、教えてくれませんからね」
「エヴァは知っているだけで持ってはいませんからね。あるいは制御の方法くらいならわかるかもしれませんが、桜咲さんの眼は"予測"ですからね」
「……"予測"、ですか?」
「未来視には大別して二つがあると言います。それが"予測"と"測定"──限定的に未来を視る眼と、確定した未来を視る眼です」
二つの違いは視た未来が"確定"しているかどうかだ。
前者であれば未来は変えられる。後者であれば未来は変えられない。ただ、それだけのこと。
極論を言ってしまえば"予測"の未来視は文字通り未来を予測しているだけだ。うまくすれば制御は可能なのかもしれないが、不確定要素の多いものに頼り切るのも不安が残る。
直死の魔眼でもあれば確定した未来を変えることは容易なのだろうけれど。そんなものはないし必要だとさえ思わない。
「桜咲さんの場合は未来視をコントロールするよりも未来視に頼らない戦い方を探るべきだと思いますけど」
「それは、まぁ……しかし、視えてしまうものはどうしようもないと言いますか」
「視えることが悪いとは言いませんが、それに頼り切ると足元をすくわれるってだけです。貴女の戦い方は貴女自身が決めるべきですよ」
心眼にも似たような力なのだし、観察眼が優れているといえるのだからそれを活かすようにすればいいのだと思うが、そう簡単な話でもないのだろうな。
──さて、そろそろ時間だ。パトロールはアーチャーのサポートがないが、遠距離を把握することが出来なくなるくらいで左程困りはしないだろう。
●
パトロールも無事終わり、二時間半ほどの休憩時間を宮崎さんと過ごすために急いで移動する。
屋根の上を駆けまわり、パルクールの要領で待ち合わせ場所へと辿り着く。
白いワンピース姿で緊張気味に辺りを見回しており、俺を見つけてホッとした様子を見せる宮崎さん。約束は守るのでちゃんと来ますよ?
「こんにちは、宮崎さん。可愛らしい洋服ですね」
「あ、ありがとうございますー。先生も私服姿は新鮮ですね」
二時間ちょっとしか時間は取れなかったが、十分思い出になるように最善を尽くさせてもらおう。
後方でストーキングしている面々は、まぁ放っておいてもいいか。害にはなるまいよ。
「どこか行きたいところはありますか?」
「あ、えと……その、余り思い浮かばなくて」
「宮崎さんの好きなところで良かったんですが……そうですね。古本市があったはずなので、そこに行ってみますか?」
「は、はいっ!」
緊張でガチガチになっている宮崎さんに対し、緊張をほぐすために話題をいくつか振ってみる。
どんな本が好きか。図書館探検部はどんなことをしているのか。近い未来でどんなことをしてみたいのか。
彼女は魔法のことを一切知らない一般人だ。余り近づきすぎれば俺に対して政治的に利用しようと考える輩などに巻き込まれかねない。近すぎず遠すぎず。人と人との適切な距離を保つというのは、難しい。
好きなものを語る彼女の笑顔は綺麗で、友人と過ごす日常を語る彼女は楽しそうで、未来を語る彼女の顔は不安と希望に満ちていて。
俺が一番"尊い"と感じるものを持っている単なる一般人。
彼女たちのような存在が要るからこそ、"アリストテレス"なぞに人類を滅ぼさせてたまるかという気になるのだ。
「……先生? 何かいいことでもあったんですか?」
「え? 何か変な顔でもしてました?」
「いえ、なんていうか……すごく、嬉しそうな顔で笑ってて……」
「あー……なんていうか、こういうの、すごくいいなぁって思ったんですよ」
過去を振り返る趣味はない。だから駆け抜けてきた道に何かを落としたとしても俺はそれを取り戻そうとはしない。
そもそも、俺自身何が欠落しているのかがわからない。けれど、魔法学校で過ごした時間だけでも俺は他者と違うのだろうとなんとなく察することが出来る。
才能の有無で自分の限界を勝手に作り、努力しないことの言い訳をしている連中。
どいつもこいつも、つまらない連中だ。己が出来ない理由を他人に求めたがる、あれは俺以下なのだと優越感に浸りたがる愚図のようなその精神性はどうしようもなく理解出来ない。
そのくせ根拠もなく自分は偉いのだとふんぞり返る。一年早く生まれてもより多くを学ぶことすらせず、ただ漫然と早く生まれたから偉いのだとする風潮。
そんな中で育ったが故に、この学園はひどく居心地がいい。
誰もが夢を見、希望を持ち、未来を目指して努力している。そうでない者もいるだろうが、メルディアナよりは余程マシだ。
が、この場でそれを宮崎さんに言うのは場違いというものだろう。雰囲気を悪くする必要など無い。
「楽しそうな学園生活で羨ましい限りです」
「あ……ごめんなさい、先生。先生は飛び級ですし、こういう話は……」
「いえいえ。体験したことが無いからこそ、聞いてみたいものです。宮崎さんの楽しい学校生活、僕も聞いてるだけで楽しそうだって思えますから」
そう言うと、彼女は顔を赤くして俯いてしまう。ふむ。少しばかり度が過ぎたか。
とは言え、紳士足るもの女性に対してはこういう扱いになるものだろう。アーチャーだってそう言っていたし。俺の生前は女っ気がなかったから参考にならん。
宮崎さんは赤い顔のままではにかみながら頷いてくれたし、古本市を回りながら色々と聞いてみるのも悪くはない。
●
日が沈みかけている夕刻のテラス。とある建物の屋上でカフェになっている一角に俺と宮崎さんはいた。
古本市で面白い本をいくつか見繕い、宮崎さんが気に入った本をプレゼントした。アクセサリーなどの洒落たものはセンスがないせいかよくわからないので、無難に本を送ることにしたのだ。
どうせ金なんて余るほど口座に入っている。使い道もないのだからこのくらいは構うまい。
宮崎さんも今日のデートは楽しんでくれたようで、最初の緊張は見る影もない。今は自然体で接してくれている。
「あの、先生……最後に、いいですか?」
「なんですか?」
「先生には、好きな人はいないんですか?」
好きな人、好きな人と来たか。
俺は人を愛するってことがよくわからない。人間賛歌なら他人が引くほど言ってきたが、誰か一人を愛そうとするその感覚は未だわからないままだ。
経験したことが無いから、なのだろうか。
「一緒にいると心がドキドキしたり、一緒にいるだけで幸せな気持ちになれたり。そんなことってありませんか?」
「……僕は従姉妹の姉が親代わりになってくれていました。幼馴染の女の子もいて、代えがたい存在だとは思っています。けれど、そういう感情では決してないのでしょうね」
ネカネさんの愛は献身だ。アーニャの愛は友愛だ。
愛とは形のないもので、形を変えるものだと聞く。愛の前に現実は歪む、とは誰の言葉だったか。
それほどまでに誰かを愛した経験など俺にはない。だから、少し羨ましくはある。
「私、ネギ先生が好きです。十歳なのに大人びてて、だけどちょっとドジした時とか可愛くて、誰よりもクラスのみんなの将来を考えてくれている──そんな先生が、大好きです」
──けれど、俺は彼女の告白に応えることは出来ない。
視界の端に映った世界樹がぼうと光ったような気がしたが、それすら気に留めることはなく。
生徒と先生だからではない。
一般人と魔法使いだからでもない。
ただ、彼女が知っているのは俺の一面だけだ。別の側面を見ればまた別の感想が出てくる。それが彼女に取って絶望かも知れなくとも、それを知らなければ俺のことを好きだという言葉は軽くなる。
相手を尊重するからこそ、俺の全てを知ってからその言葉を聞きたいと願ってしまう。
……例え、魔法のことを知らせることが出来ないとしても。
「……僕はその告白に応えることが出来ません。教師と生徒だからではなく。まだ出会って日が浅く、貴女は僕のことをよく知らず、僕も貴女のことをよく知らないからです」
故にこそ、真摯に答えよう。
「少しずつ知っていって、大人になった時にまだ同じ気持ちでいれたなら。その時にこそ、きちんとした返答をしましょう」
「……はいっ」
断られたのだという気持ちはあったのだろうが、続く俺の言葉で気を取り戻したらしい。
そろそろいい時間だ。この後俺は世界樹の周りで告白する生徒が出ないかパトロールしなければならない。
また一つ、考えることが増えたな。そう思いながら、宮崎さんと別れた俺は着替えるために一度家に戻ることにした。
ちなみに世界樹の魔力が飛んでいったのはネギじゃないです。
FGOの話はここですると長くなりそうなので活動報告にでも。