最善の未来を掴むたった一つのさえたやり方   作:泰邦

28 / 44
お好みでBGMをかけて頂けるとより楽しめます。
おすすめはFate/stay nightより「蘇る神話」


第二十三話

 

 燃え盛る槍は一切の慈悲もなくアーチャーの心臓を貫く。

 アーウェルンクス三体の視線と注目を集めている今、視界の外にいる俺は奴らの目から逃れて行動できる。

 遅延呪文と上位精霊による詠唱待機を準備し、死したアーチャーへと視線を向けた。

 今回アーチャーがやられるのは予想外ではあったが、死ぬ可能性自体は想定内。元より彼の持つ宝具がある以上、一度死を迎えた程度で倒れる男ではないのだ。

 

「──何ッ!?」

 

 クゥァルトゥムの驚愕が混じった言葉が森に響いた。

 心臓を貫き死したはずのアーチャーが、時を巻き戻すかのように傷を塞いでアーウェルンクスを睨みつける。

 

「アーチャー!」

 

 地形の捕縛陣を発生させている石柱を『白き雷』で砕いて壊し、その一瞬で弓矢を構えたアーチャーは寸分違わずアーウェルンクスの心臓めがけて三連射を決める。

 茶々丸さんを抱き上げて湖の方へと走り出す俺に続き、アーチャーは油断なく弓を構えて後方を警戒する。

 優先すべきはリョウメンスクナだ。

 今の戦闘である程度把握できたアーウェルンクスとは違い、リョウメンスクナは完全に情報不足。暴れ出したら厄介だし、近衛さんがいてはエヴァも全力は出せない。

 それ故に、最優先でリョウメンスクナに対処したのち、エヴァとアーチャーの力でもってアーウェルンクスの殲滅を図る。今なおアーウェルンクスの目的はわかっていないとはいえ、過激派に手を貸していたことを考えると目的は同じか似通っていると考えていいだろう。

 ならば当然、優先順位は自ずと決まる。

 

「先にリョウメンスクナを始末する。後方からくるアーウェルンクスの対処は任せた」

 

 了承の意を受けて先を急ぐ。

 一度死したアーチャーのことなど欠片も心配していない。

 ──『十二の試練(ゴッド・ハンド)

 アーチャー──ヘラクレスの持つ宝具の中でクラスを問わずに所有し、ヘラクレスを最強の英霊たる要因の一つとしたモノ。

 十一の命をストックとして所有し、一度そのストックを減らしても魔力によって回復が可能となる。加え、死した要因に対しての耐性を獲得する。

 それは決して『完全なる耐性』ではないにせよ、同じ攻撃に対して死ににくくなるということを示す。更にはアーチャーとして現界したことで見切りの能力があるため、死ににくさは倍率ドンという訳だ。

 もっとも、高い対魔力でもあれば容易に弾いただろうがそれはそれ。

 

「茶々丸さん。何か武器などは?」

「持ってきてはいましたが、生憎と途中で落としてしまいました。右腕が使えない今、私の存在は完全にお荷物かと」

「状況だけ見ればそうですが、あなたを置いていくとエヴァに何を言われるかもわかりませんしね」

 

 緊急事態であるとはいえ、茶々丸さんを連れてくるだけの余裕がない訳ではないのだ。下手にエヴァの不興を買うよりはマシだろう。

 足場の悪い森の中を出来る限りの速度で全力疾走する。杖があれば空飛んでいくんだが、それはそれで良い的だからあまりやりたくない。アーチャーに迎撃させればいいだけの話ではあるのだが。

 時折後方から爆音やら鋼をぶつけあったような轟音がするのだが、前だけ見ていないと確実に転ぶので気にしてなどいられない。

 身体強化を使っているとはいえ、この身はまだ十歳。そこそこ鍛えているつもりだが、茶々丸さん一人抱えて自動車並みの速度を出しつつ木々を避けて走るとなると流石に疲弊する。加えて後方からアーウェルンクスが迫っているのだ。そりゃ疲弊もするってものだろう。

 魔力だってここに来るまでにそこそこ使った。詠唱待機させている以上今もガリガリと残りの魔力が目減りしていく状態だ。

 

「ぼーや、無事だったか」

「ネギ先生!」

 

 ふと視線を少しだけずらせば、そこにはこちらを見て並走しようとしている二人の少女。

 エヴァは余裕そうだが、桜咲さんは腹部に滲む血を抑えて苦しそうに走っている。どうにかしてやりたいが、両手はふさがっているし立ち止まれば追いつかれる。

 ……エヴァと合流できたんだし、エヴァとアーチャーで一時的に迎撃して貰えばいいのか。その間に策を練ろう。

 湖はもう目の前だ。魔力に余裕はなく、状況も予断を許さない。

 さてどうするかと考え、ひとまず考えるための時間が欲しくなる。

 

「エヴァ、アーチャー。後ろの連中を足止めしろ。その間に桜咲さんの治療と作戦を練る」

「いいだろう。どれくらい必要だ?」

「五分──いや、三分で何とかしよう」

「よし、では行くぞ」

「こちらも了承しました」

 

 並走していたエヴァは反転してアーチャーの隣に立ち、アーチャーは弓を手に飛んでくる石槍と炎の蜂を迎撃する。

 エヴァが発生させた氷が俺たちとアーチャー、エヴァを分断し、俺と桜咲さんは立ち止まって息を整える。

 まずは桜咲さんの怪我の治療だ。

 

「すみません、先生……」

「気にしないでください。今治療しておかなければ結構危ない傷のようですしね」

 

 脇腹を貫通している。よくこの状態で走ろうと思ったものだが、気を纏うことで治癒能力を引き上げていたのか。だが無茶であることに変わりはない。

 すぐに止血として用いていた破れた制服をほどき、患部を治療していく。完全に治療するには俺の技量が足りないが、一時的に治癒させてしまえばある程度は持つだろう。少なくともさっきよりは余程マシなはずだ。

 清潔な包帯があればよいのだが、俺はそんなものは持ってないし先程まで使っていた破れた制服を使いまわすのも衛生上よくない。

 やや厚手ではあるが、俺の着ている服を使うことにした。ややもったいなく感じる気持ちがない訳ではないが、元より桜咲さんは制服を破いているし、そもそも俺の私服と言ってもクゥァルトゥムの奇襲のせいで焼けてしまっているところがある。

 手早く処置を終え、氷の向こう側で凄まじい爆音を響かせている五人の方を見る。

 アーウェルンクスが三体もいたのは予想外だった。もういないと思いたいが──最悪、あと一体にプラスしてデュナミスがいる可能性まで考えておくべきか。

 やることは変わりないにせよ、辿り着くまでの難易度が違い過ぎる。

 

「……桜咲さん、動けますか?」

「愚問です。お嬢様を助けるためならば、命も惜しくはありません」

 

 命を捨てさせるまでやれとは言わないが、それだけの覚悟を持ってくれればいい。

 近衛さんを救出するにあたって障害となるのは天ヶ崎千草と過激派の敵で数は不明と来た。こちらは桜咲さんとエヴァがいればいいだろう。ある程度の不確定要素があってもエヴァなら対処出来るはずだ。

 茶々丸さんは申し訳ないが待機して貰うしかあるまい。今のままだとどうやっても足手まといだし、この状況だと俺とアーチャーでアーウェルンクス三体を相手取らなければならない。

 近衛さんを救出し次第、俺が時間を稼いでアーウェルンクスとリョウメンスクナを射程範囲に収めてアーチャーが宝具を使う。

 問題はアーウェルンクスを相手取って俺が逃げ切れるかってところだが、一発限りの切り札もある。最悪エヴァに助けて貰うが、アーチャーの腕を信用するのが一番か。不確定ではあるが。

 方針と桜咲さんがやるべきこと、次いでエヴァに伝えるべきことをしっかりと伝えて置き、アーチャーへと連絡を取る。

 

「アーチャー、こっちの作戦は決まった。合図をしたら氷を壊してエヴァに桜咲さんを連れて湖に行くように指示をしてくれ」

『私とマスターでこちらの相手をするのですか?』

「ああ。近衛さんをエヴァたちが救出し次第お前の宝具を以て殲滅する」

『分かりました。少々賭けの要素が強いように思えますが、マスターを信じましょう』

 

 遅延魔法を準備し、詠唱待機させていた上位精霊を侍らせてから桜咲さんに先に湖に向かうよう指示を出す。

 エヴァの速度なら追いつくのは容易いだろうし、不確定要素も踏み潰せるはずだ。……この後に及んで桜咲さんが裏切る可能性はないとみていいだろう。結局、俺の判断が間違っていたわけだ。

 まぁ、それはいい。

 ある程度の距離を稼ぎ、アーチャーからエヴァへの指示が届いたと知らされた段階で遅延魔法を発動させる。

 

「『雷の暴風』」

 

 轟音を立てて砕けた氷の破片が空を舞う。月明かりに照らされて幻想的に輝くその中をエヴァは疾走し、俺の横をすり抜けて桜咲さんの方へと。

 そしてアーチャーは俺の後ろに侍り、弓を構えて油断なくアーウェルンクスを見据えた。

 

「──さぁ、行くぞアーウェルンクス」

 

 挑発するように不敵に笑う俺の両手から、雷の奔流がまっすぐに放たれた。

 

 

        ●

 

 

 爆風が吹き荒れる森の中。

 アーチャーを背に疾走する俺は連続して詠唱を待機させ、残りの魔力を使い切る勢いで時間を稼ぐ。

 

「魔法の射手、連弾・雷の百一矢!」

 

 あくまで牽制に過ぎない魔法の射手だが、アーチャーがその隙間を縫って威力を持つ矢を放つことで迂闊に近づくことが出来なくなる。加えて迎撃もアーチャーがやっているため、冷静に時間稼ぎの準備が出来る。

 宝具で仕留めるには時間が必要だ。発動までの時間もそうだが、射程範囲にリョウメンスクナとアーウェルンクスを納めなければならない。

 そして重要なのはその宝具の盾として俺が使われないようにすること。

 そのための仕込みは入念に行いつつ、湖の周りを円を描くように距離を保ちながら散発的に攻撃を重ねる。

 

「……そろそろか」

「百メートル右前方に最初の仕掛けがあります」

「エヴァからの合図を見逃すな。ここから視界が悪くなる」

「はい──彼女ならどれほど時間をかけずに救出できると考えているのですか?」

「余計な邪魔が入らなければ、リョウメンスクナの術者を落とすだけだからさほど時間は必要ない。が、詠春さんが術者として厄介だという」

 

 部類にもよるが、嫌がらせで策をいくつも練るタイプだと相性が悪い。

 湖にはリョウメンスクナがほぼ現界している。早く動きを止めなければあれを使って妨害される可能性もあるのだから、エヴァには手早く行動して貰いたいものだが──言うは易し行うは難し、というやつだな。

 少なくとも湖の円一周分の罠は仕掛け終えた。アーチャーの攻撃を気にしながら気付けるものではないだろう。エヴァだって気付かなかったのだし、その辺は自身の腕を信じている。

 

「よし──やるぞ」

 

 まず一つ目。全力疾走していた状態から反転して地面に手を付け、術式を解凍する。

 続いて詠唱待機させていた上位精霊に魔法を発動させ、アーウェルンクスのうちクゥァルトゥムに狙いを定める。

 狙うなら速度に秀でるでもなく膂力に秀でるでもない火のアーウェルンクスが最もやりやすい。風は当たらず土はタフだからな。

 

「アーチャー」

「撃ちます」

 

 弓につがえられたのは雷を纏った槍。これ自体は『雷の投槍』だが、『白き雷』同様に少しばかり術式を改変して矢として使いやすく調整してある。

 付加効果は軽度の麻痺。とはいえ、アーウェルンクスにこんなものが通用するとは思っていない。

 つがえられた矢は勢いよくクゥァルトゥムへと向かうが、矢は障壁一枚突破するだけで止まる。──が、そこへ俺は待機させていた魔法と術式を解凍した魔法を同時に使う。

 雷が目標に向かって移動するプロセスは実に簡単で、『電気が通りやすいか否か』だ。

 魔法による雷も原理は同様だが、こちらは空気の電位差を利用したり風魔法で一時的に空気を薄くしたりして電気の通りやすい道を創り出している。

 つまり──意図的に道を作ってやれば、雷は勝手に目標を捕捉する。

 

「『白き雷』『雷の暴風』」

 

 術式改変した『白き雷』は本来手に纏うだけだが、通り道を用意すればそちらへと勝手に流れる。何故なら手に纏うように改変したのも原理は同じものを用いているからだ。

 そこへ加えて『雷の暴風』をぶつけてやれば──

 

「な、にィ──ッ!?」

 

 ──アーチャーの放った矢を通じて曼荼羅のような障壁を破壊し、『雷の暴風』はクゥァルトゥムへと直撃する。

 

「……うまくいったか」

「ですが、直撃ではないようです。ギリギリで身を躱していました」

 

 流石にアーウェルンクスか。そう簡単に倒れはしないな。

 ……この方法、べらぼうに魔力を食うからあまりやりたくないんだがな。

 術式を解凍して生み出した『雷の投擲』はあと五本。同じ方法がどこまで通用するかわからないが、クゥィントゥム相手なら別の使い方も出来る。

 アーチャーはすぐさま()をつがえてフェイトへと直撃させ、その隣で雷化して移動しようとしていたクゥィントゥムが俺と矢の直線状に入る。

 この直線状には雷が通りやすい環境が生まれている。そこへ下手に雷化して移動しようとすれば誘導されるのも道理だ。

 いわゆる「テレフォンパンチ」状態になったクゥィントゥムをアーチャーは思い切り殴り、障壁をものともせずに吹き飛ばした。今ので『雷の投擲』の効果は消えたが、残り四本でどこまで粘れるか。

 そもそも、同じ手が二度通用する相手じゃない。これらの魔法は使い捨てと考えるべきだ。

 そしてこの術式の問題点は二つ。

 術式を解凍する場所で固定されるため、移動が出来ないという点だ。魔力消費が多いのも難点ではあるが、それは今後どうにでも出来る。

 術式から生み出された槍は雷を通しやすい『場』を作るための糸を地面の魔法陣から繋げてあるので、それ故に移動が出来ない。移動するなら槍は破棄する必要がある。

 

「まだか、エヴァ……」

 

 一つの場所で粘れる時間にも限度がある。

 用意した術式はあと二つ。残りの魔力は二割を切っているし、これも全てアーチャーの宝具の方に使用するとすれば完全に赤字だ。アーチャーが単独行動のスキルを持っていなければ消えてもおかしくはない。

 詠唱待機させている分だけで足りるといいが、足りなければあとは順次精霊を還して魔力の回復を図るしかない。

 今も隙を見つけては魔力の回復に努めているが、削れ続けている現状ではゼロになるのを遅らせているに過ぎないのだ。

 怒りに魔力を滾らせたクァゥルトゥムが『燃え盛る炎の神剣』を振りかざし、爆炎をまき散らして迫る。

 

「アーチャー、俺は左右をやる」

「では私は上を──」

 

 ギリギリと弦を絞り、魔力を強めに込めてクゥァルトゥムの額へと矢を放つ。

 同時に左右から接近してきたフェイトとクゥィントゥムに対し、俺は至近距離まで待って魔法陣を暴発させる。

 これは術式のもう一つの問題──この『場』にはその性質上、雷が非常に通りやすい。加えて先程『術式改変・白き雷』を使ったために俺の障壁ですら(・・・・・・・)すべて砕けているのだ。

 俺には特殊な宝具で身を守る障壁よりも強い盾があるが、奴らにそれはない。

 暴発した魔法陣はその『場』を一時的に広げ、アーウェルンクスを呑み込んでその障壁を砕く。

 

「二連・『雷の暴風』」

 

 タイミングは完璧だった。距離は非情に近く、この距離なら避けることは不可能だと──そう思っていた。

 だが、フェイトは雷が貫いた瞬間に水となり、クゥィントゥムは雷化して避けた。それを視認出来ただけでもマシだが、フェイトとクゥァルトゥムの同時攻撃を防ぐために移動していたアーチャーにはクゥィントゥムの攻撃を防ぐ余裕はなかった。

 障壁を張り直す前に喰らった強烈な蹴りで意識が飛びかけるが、何とか堪えて吹き飛ばされつつ距離を取る──が、クゥィントゥムはそれを許さずに追撃へと移った。

 俺には視認すら難しい速度で、連打を加えてくるクゥィントゥム。

 この速さから逃れる術はない。全てを俯瞰するように冷静な自分がそんなことを考える。

 

 ──強く、速く、重い。『造物主の使徒』を名乗るだけはある。

 ──故に、だからこそ、超える壁としてはふさわしい。

 

 どの道避けては通れない道だ。魔法世界の救済を目的とするならば、どうあれぶつかるであろう最強の敵。ならば、今の時点で負けていても仕方ないなどと考えるのは負け犬の考え方だろう。

 たとえ視認が出来ずとも攻撃の瞬間に芯をずらすことで体へのダメージは極力抑えられる。

 タコ殴りにされていても身体強化のみに魔力を回せば多少は余力がある。

 この状態をどれほど続けたかもわからない中──アーチャーがクゥィントゥムを弾き飛ばすのを視認した。

 

「彼女からの合図がありました。このままマスターを次のポイントへ連れて行ったあと、指定の位置へ移動します。余力はありますか?」

「……まだ手も足も動く。問題はない」

 

 口の中の血を吐き出し、腫れあがった顔を触る。魔力の無駄だから回復はしたくないが、視認しずらいというのは駄目だ。目の周りだけ軽く治療し、指定のポイントへ着いたことを確認する。

 ここからアーチャーが移動するまで一分弱。射程に収めてチャージするまで三十秒。

 それまで俺一人で耐えねばならない。

 そのための仕込みは済ませたのだから、あとは俺がどれだけ上手くやれるか。

 アーチャーはすぐに準備に動き、俺は迎撃の準備を整える。

 

「──君一人で僕らをどうにか出来ると、そういうことかい?」

「……まぁ、そうともいえるな。俺一人でお前ら三人を相手取る」

 

 フェイトが目を細め、クゥィントゥムは雷化し、クゥァルトゥムは馬鹿にされたと魔力を練り上げる。

 正直なところ、こいつらの魔力は怪物的だ。しかもそれをかなり効率的に運用しているため、世界でも最上位の実力を誇るのだろう。

 その手練手管は未熟な俺にとって学ぶべきものだ。

 もっとも、だからと言って敗北を喫するつもりなど毛頭ない。

 

「『千刃黒耀剣』」

「『轟き渡る雷の神槍』」

「『燃え盛る炎の神剣』」

 

 無数の石の刃。雷の槍。燃える大剣が一斉に俺へと襲い掛かる。

 一見容赦がないように見えるが、その全ては俺の急所を外して殺さないようにダメージを与えようとしていることが見て取れる。さっきも言っていた「蒼崎に盗られたもの」を俺が持っていると思っているからこそ、聞きだすためには殺せないということだろう。

 俺には一切の覚えがないが、都合がいいので放っておこう。

 逃げ場のないほどに襲い来る刃に対し、俺は待機させていた魔法を発動させる。

 

「『風精召喚』『剣を取る戦友』」

 

 風の中位精霊を呼び出すことで囮とし、俺の姿を隠す。

 アーウェルンクス相手に十秒持てばましな方だが、基礎魔法には自信がある。仕込みは手堅く入念に、視界を引っ掻き回してやるよ。

 光の魔法の射手を放って視界をくらませ、囮に紛れてまずはフェイトへ向かう。

 暗闇の中でチカチカと光る魔法の射手を鬱陶しそうに対処している彼女の懐まで潜り込み、『白き雷』を纏わせた貫手でその喉へと手を伸ばす。

 フェイトは当然それに対処して俺の手を弾き、そのまま反撃に出た。

 俺はその攻撃を受けると同時に『戒めの風矢』で動きを止め、続いてこちらを薙ぎ払おうとしてくるクゥァルトゥムをみる。

 

「人間風情がちょろちょろと鬱陶しい!」

 

 爆炎で囮を薙ぎ払った彼の後ろに回り込み、フェイト同様に貫手で障壁を破って『戒めの風矢』で停止させる。

 ──あとはクゥィントゥムだけだが、動きを止めるにあたってこいつが最も厄介な相手となる。

 

『準備完了です。何時でも行けます』

 

 アーチャーからの連絡が来た。これで憂いなく全ての手札を切れる。

 

「『風精召喚』──『雷の投擲』」

 

 投げつけた槍を簡単に避け、その圧倒的な速度で(デコイ)として生み出した中位精霊を消していく。

 その隙に俺は地面に描いていた術式を解凍し、気付いて動いたクゥィントゥムを迎撃する。

 

「何をやろうとしているかは知らないが、やらせないよ」

「残念だが、もう逃げられないぜ」

 

 先程の槍を使ったことも含め、アーチャーが放って誘導された術式と同じものだと思ったのか、俺を魔法陣の外へと弾き飛ばすクゥィントゥム。

 だが──それは俺の狙い通りだ。

 

「な──に──!?」

 

 時間遅延の結界。エヴァとの戦闘の際にも使ったそれを、クゥィントゥムに対して使う。

 単純な速度では雷化するアイツにはかなわない。故に、結界で区切って時間遅延を引き起こすことで無理矢理機動力を奪う。

 最適な行動を取ったことが裏目に出たな、アーウェルンクス。

 その隙に俺は最大速度で距離を取り、アーチャーへと準備完了の連絡を出す。

 時間遅延は世界の修正を呼び込むため、外界と接触している状態ではそれほど長い時間の遅延は出来ない。内部にいるクゥィントゥムの肉体にも少なからず負担はかかっているはずだが、その程度でどうにかなる男でもあるまい。

 十分な距離を取ったところでアーチャーのいる方向へと目を向ける。

 魔力が高まり、射程範囲に入っている者たちを残らず殲滅するための宝具の解放。対幻想種用の切り札を、彼は放つ。

 

『──射殺す百頭(ナインライブズ)

 

 暴風のように吹き荒れる魔力は竜となり、うねりをあげてリョウメンスクナと三体のアーウェルンクスを滅ぼそうと吹き荒ぶ──

 

 




次話辺りまでは大丈夫だと思うんですが、その次あたりからはリアルが忙しくなるので更新頻度が下がります。もしかしたらまた大分期間が開くかもしれませんがご容赦ください。


FGOの話。
来た!赤セイバー来た!これで勝つる!って十連回して大騒ぎしてました。
ちなみにこの小説書くにあたって候補は赤セイバー、青セイバー、ジャンヌ、ヘラクレス、真アサシンという謎の面子だったんですが、前者三人はこのネギより原作ネギの方が絡ませやすいよなぁとか考えてました。後半に関してはヘラクレスはともかくアサシンだとどいつもこいつもハートキャッチ(物理)されることになるという。
そしてよくよく考えるとエクストラをやったことが無いから赤セイバーに関してはほぼ想像という。

ついでにカレスコも来たんですが、誰に持たせればいいのかわかりません(え

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。