最善の未来を掴むたった一つのさえたやり方   作:泰邦

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第二十一話

 

 

 関西総本山の屋敷では断続的に爆発音が上がり、正面の入口で戦闘があっていることがわかる。

 俺とエヴァ、絡繰さんはひとまずそちらに向かい、詠春さんを探すことにした。指揮官が前線に出るというのは愚の骨頂だが、彼の場合は大戦の英雄と呼ばれるほどの剣士だ。守られるより前に出る方が性にあっているだろう。

 その辺の俺の予想は当たり、前線で剣を振るっておそらく過激派であろう敵を切り捨てている。

 ……実際に人が死ぬ現場に立ち会わせるのは初めてだな。イギリスの村では石化だし、エヴァとは殺す気で戦ったがそれは相手が不死だったというのもある。

 酩酊感を誘うような濃い血の臭い。吐くほどではないが、気分が悪くなりそうだ。

 

「……大丈夫か、ぼーや」

「心配されるほどではない」

 

 不快な臭いだが、慣れてしまえば左程のものでもない。意識を切り替え、俺は詠春さんと戦っている過激派の相手を見る。

 刀を使っているあたり、相手も京都神鳴流なのだろう。その背後には幾人もの陰陽師と思しき術者たち。

 五行思想の陰陽術に鬼や天狗を使役する術式と、彼らの使う術式は西洋のそれから見ても多岐にわたる。

 ともあれ、あれらをどうにかしなければ詠春さんとまともに話をする時間もない。

 

「エヴァ、正面にいる敵を片付けてくれ」

「殺し……は、駄目だろうな。仮死状態にしておけば文句も言われまい」

 

 直後に放出される膨大な魔力。

 学園の結界から解き放たれたことで取り戻した本来の力が、一握りの敵意と共にその手より放たれる。

 

「リク・ラクラ・ラック・ライラック。契約に従い、我に従え、氷の女王。来れとこしえの闇、えいえんのひょうが!」

 

 しかし、一体誰が四方150フィート完全凍結呪文を使えといった。詠春さんはこっちに気付いたみたいで範囲からギリギリ抜けられるだろうが、下手をしなくても味方を巻き込む形になってないかこれ?

 監督責任は俺にあるので、怒られるのは俺なんだけど。

 

「全てのものを妙なる氷牢に閉じよ──"こおるせかい"!」

 

 とりあえず視界に映る範囲での敵は氷漬けにしてやったわけだが、これ後処理が大変だな。詠春さんに丸投げという訳にもいかんだろうし……かと言って、最大戦力のエヴァを呼ばないって選択肢はなかったから仕方ない。

 怒られるで済むといいんだけど。

 

「助かりました、ネギ君、エヴァ」

「助けたのはエヴァだけですがね」

「監督責任はぼーやにあるとジジイが言っていたから、功績もやらかしたこともお前の責任になるがな」

 

 あのジジイ……!

 

「いえ、それは今はいいんです。木乃香さんは?」

「木乃香は連れ去られてしまいました……恥ずかしながら、穏健派だと思っていた者が裏切りましてね。これが術者として厄介なものですから、私が騒ぎに気付く前に木乃香を連れて逃げられてしまい……」

「……正面に殺到した過激派の相手をするために大立ち回りをしなければならなくなった、と」

「概ねそんなところです」

 

 なら、すぐにでも追いかける必要がある。

 ここからでも見えるが、アーチャーとアーウェルンクスのドンパチやっている音がかなり響いている。俺の魔力もそれなりに吸われているため、長期戦は不利だろう。

 最悪エヴァ一人でもどうにかしてくれるだろうが、完全な他人任せは性に合わん。

 足を引っ張りかねないというのは重々承知の上だが、やると決めた以上男に二言はない。

 

「ところで、桜咲さんはどちらに?」

「刹那君なら私と同じように他の神鳴流の相手をしていましたが、少し離れていたので……」

「……エヴァ」

「あっちにいるぞ。氷漬けにはなってない」

 

 心外だと言わんばかりに腕を組むエヴァ。悪かったと一言告げ、神鳴流同士の戦いで傷が多い桜咲さんを迎える。

 焦りと怒りで敵意が撒き散らされているが、今更俺やエヴァ、詠春さんはそんなことで動じるわけもなく。ピリピリとした雰囲気の彼女へ言葉を投げかける。

 

「近衛さんの救出に向かいます。桜咲さんも行きますか?」

「許されるのなら、私も共に」

 

 今の彼女は危険だ。実力的に月詠とどれほど張り合えるのかはわからないが、精神的にまずい状況にあることはわかる。

 焦りと怒りで我を忘れれば、倒せる相手も倒せなくなるだろう。

 エヴァもそれはわかっているようで、そこだけ何とかできれば桜咲さんも十分な戦力になると思う訳だが。

 

「桜咲さん。貴女が焦る理由も怒る理由もわかりますが、その状態では敵の剣士にやられる可能性が高い。まずは落ち着いてください」

 

 戦力が足りていない訳ではないのだ。

 練達の魔法使いであるエヴァと、その従者である絡繰さん。詠春さんは本山の守護もあって動けないだろうが、最悪アーチャーもいる。アーウェルンクスを縫い止められるのはアーチャーしかいないが、場合によっては呼び出さざるを得ない状況になるかもしれないからな。

 ともあれ、どんな状況であっても彼女は俺の生徒だ。むやみやたらに危険な場所へと連れて行くことはしたくない。

 エヴァはあれだから除外するけども。

 

「落ち着いたうえで、よく考えてください。エヴァがいる今、近衛さんを連れ戻すことは可能でしょう。そこに貴女まで行く必要はない」

 

 冷静に状況だけを見るならば、近衛さんを連れ戻しにかかるのは俺たち三人だけでも十分だろう。エヴァの実力がチートクラスだから言えることだが、そうでなければなりふり構わず助力を募る。

 アーチャーが使えない以上はフォローできる部分も限られるのだ。生徒にけがをさせたくないというのは教師として当然のことでもある。

 それでもなお近衛さんを連れ戻すためについてきたいというのならば、そうすれば良い。

 危険があることを承知で選ぶのならば、俺はその選択を尊重する。

 

「それでも、私はお嬢様の護衛として過ごしてきました。ここで救出されるのをただ黙ってみているだけなど、出来ません!」

「……そうですか。では、すぐに出発します」

 

 エヴァに最悪の場合のフォローを目で頼み、仕方ないとばかりにため息を吐くエヴァ。俺の配下と対外的にはなっているものの、これは実質エヴァへの借りが出来たということだ。

 後で登校地獄を緩める方法を探さなければな。

 

「申し訳ありませんが、私は行けません。本山が落とされては事態がより厄介なことになりますし、過激派も後がないため、かなり攻防が激化しています」

 

 詠春さんは悔しそうにそう言う。

 組織の長であることに縛られるというのは、権力という便利なものを手に入れる反面動きづらくなるということだ。

 だが、近衛さんを連れ戻した後にここで防衛線が出来ると考えれば拠点防衛は重要だ。

 

「では、出発します」

 

 連中のいる場所は詠春さんの部下が追跡しているようで、逐一使い魔を通して報告してきているようだ。

 向かった先は湖──よって、やはり目的はリョウメンスクナなのだろう。

 時間もそれほどないため、俺たち四人はすぐに湖へと向かって急いだ。

 

 

        ●

 

 

 鬼、鬼、鬼。

 森の中で開けた一角に大量の鬼が召喚されていた。

 おそらくは近衛さんの魔力を用いて強引に召喚されたのだろうと推察できるが、だからと言って面倒なのは変わりない。

 こちらは四人。雑魚の掃除をやるなら俺が出るべきだが、エヴァはそうは思わなかったらしい。

 

「お前たちは先に行け。コイツらは私が全滅させておこう」

「ですが……」

「目的を間違えるなよ桜咲刹那。私たちの第一目標は近衛木乃香の救出だ。ここで一人いなくなるより、私が残って全滅させてから向かった方がずっといい」

「どれほどで殲滅出来る?」

「さて……百以上はいるからな。少し時間はかかるだろうが、まぁ十分は要るまい」

「よし、ならその案で行こう」

 

 エヴァなら数を集めただけの鬼など物の数ではない。本山の正面でやったように広域殲滅呪文を使ってもいい訳だからな。

 問題は詠春さんが裏切ったと言っていた男だが……術者としてはそれなり以上に強いらしいし、出来るならエヴァをぶつけたいところだが。俺でも倒せるならそれでいいんだが確実性はない。

 

「茶々丸。お前はそっちを手伝ってやれ」

「イエス、マスター」

 

 ぺこりとお辞儀をする絡繰さんを傍目に、俺は魔法を準備しておく。どちらにしても突破口を開かねばならないのだから当然だ。

 エヴァもそれに気付いているため、俺に合わせて周りの鬼を倒しにかかるのだろう。長年生きた吸血鬼だし、フォローも期待しておくとしよう。

 

「では、なるべく早く合流することを願うよ」

「善処してやる」

 

 正面に放たれる『雷の暴風』と周囲に散った鬼を撃滅する『氷槍弾雨』──これによって出来た正面の道を、俺と桜咲さん、絡繰さんが駆け抜ける。

 行かせまいとする鬼はエヴァの魔法や膂力によりちぎっては投げちぎっては投げという状況になっていた。元からしていないが、心配は不要だな。

 とにかく今は湖に辿り着くのが先決だ。

 リョウメンスクナがどれ程の強さを誇るかは知らないが、出させないに越したことはない。状況を悪い方に傾ける意味もないのだから。

 

「しかし、奇襲が通用するかどうか──」

「……いえ、どうやら奇襲は無理なようです」

 

 正面に現れたのは犬上小太郎と月詠の二人。絡繰さんと桜咲さんも構えているが、正直この二人に構っている時間は左程ない。

 出来る限り万全の状態で湖に辿り着くことを最優先に考えるべきだが──少し厳しいな。

 小太郎の方はともかく、月詠は現時点で接近戦では俺よりも強い。その辺はアーチャーも同様の意見だ。

 故に正面から戦うのは愚策。同じ神鳴流の剣士である桜咲さんの方をちらりと見れば、既に刀を構えて臨戦態勢に入っていた。

 

「ネギ先生。先生はあの少年の方をお願いします」

「……桜咲さんはあの女の子に勝てますか?」

「一度斬り合いましたが、少々厳しいでしょう……ですが、やらないわけにはいかない」

「絡繰さんは後ろで待機を。こちらはすぐに終わらせるので、桜咲さんを置いて先へ進みます」

「了解しました。それと、私のことは茶々丸で構いません」

 

 俺たちの会話を聞いていたのであろう小太郎が、俺たちに対して言葉を投げかける。

 

「えらい余裕かましとるやないか。今回は前みたいに簡単にはやられへんで!」

「うちは刹那センパイとやり合えるならどーでもええんですけどねー」

 

 負けてなお諦めないその執念には敬意を示すが、この場でそれをやられると非常に邪魔だ。非常事態や厄介な事態が起こった場合でなければ相手をするぐらいは構わんのだが、まぁそれを聞き入れられるほど大人ではあるまい。

 仕方がない。時間のロスだが、力づくで突破するしかないだろう。

 

「「押し通る」」

「行かせませんー」

「今度こそぶっ倒したる!」

 

 瞬動で近づき刀をぶつけあう女二人を傍目に、俺はいきなり獣化して襲い掛かってきた小太郎の一撃を交わして脇腹に手を添える。

 

「それはもう効かんで!」

 

 体を捻って俺の魔法を避けようとする小太郎。

 とびかかった体制で無理に避けようとしたため、当然その体は不自然に捻じれて次の動きを阻害する。

 

「(威力抑えめで)『雷の斧』」

 

 いくら身体の強化がなされているとはいえ、この至近距離で上位古代語呪文を叩きこまれればただでは済まない。現に直撃した小太郎の口からは血が出ているし、二次的な被害である身体のマヒも起こっているようだ。

 続けざまにもう一発『雷の斧』を叩きこんで意識を強制的に落としてやり、気絶していることを確かめたのちに桜咲さんの方を見る。

 激戦だ。

 桜咲さんの振るう刀は野太刀であるため、近距離での戦闘には基本的に向いていない。増してや相手は二刀流だ。

 対人戦闘における経験値は知らないが、桜咲さんとて護衛として麻帆良にいた以上ゼロということはあるまい。だが相手が悪い。

 

「ネギ先生、湖に向かうのでは?」

「ああ、そうですね。桜咲さんの方も気になりますが、こっちも時間が無い」

 

 儀式を止めるのがベスト。完全に出てくる前に倒せればベター。どちらにしても要は近衛さんにあるため、彼女を助け出すことが出来れば打つ手は増える。

 問題は、どうやって止めるかだが──

 

「危ない、ネギ先生!」

 

 

        ●

 

 

「ごほっ、ごほっ!」

 

 一瞬意識が飛んでいた。茶々丸さんの警告が聞こえていなければ障壁を強化する間もなくやられていただろう。

 しかし、一体何が起きた?

 俺は警戒しつつやられた左頬を撫で、左側の服が少し焼けていることに気付く。

 火系統の魔法だ。しかも、俺の障壁を突破してなお意識を飛ばしかけるだけの威力を誇る。

 

「おや、あれで気絶しないとは。流石に『千の呪文の男(サウザンドマスター)』の息子というだけはある」

 

 現れたのは一人の少年。

 白髪に白の学生服。

 弱者をなぶる悦に浸って笑みを浮かべるその少年は──

 

「はじめまして、と言っておこうか」

「おま、えは……!」

「おや、僕を知っているのか? あのサーヴァントといい、もしや君が『蒼崎』なのかな?」

 

 ここでもまた、『蒼崎』の名前。

 二十年前に何を引き起こし、何をやったのかはわからないが……俺に被害が来る理由がわからんぞクソッたれ。過去に行った俺が何かやらかしたのか?

 だとすれば、奴らが俺を目の敵にしている理由にも一応の説明はつく。サーヴァントという単語といい、アーチャーを知っている口ぶりといい、俺の仮説が間違いではなかったということか。

 だが、ここで冷静に思考している場合じゃない。

 アーウェルンクスの相手なんぞ今の俺には荷が重──

 

「何をやっている、クゥァルトゥム」

 

 声が聞こえたのは俺の背後から。茶々丸さんは無表情のままそちらを向いて構え、俺の背を守るように立つ。

 視線を向けてみれば、そちらにも白髪に白の学生服の少年の姿があった。

 

「少しくらいはいいだろう、クゥィントゥム。ようやく見つけたんだぞ」

 

 火のアーウェルンクス──クゥァルトゥム。

 風のアーウェルンクス──クゥィントゥム。

 最悪だ。アーウェルンクス二体を同時に相手取るなんぞ、俺には不可能だぞ。連中をまとめて相手どるならアーチャーかエヴァを連れてこなけりゃならん!

 冷や汗が背筋を伝う。出来る限り時間を稼いでエヴァが来るまで待ちたいところだが、それまで待ってくれるとも思えない。

 二人が会話している間に念話を飛ばしてアーチャーを呼び寄せておこう。令呪もあるが、補充手段がない以上は出来る限り使わないことを念頭に置くべきだ。

 

「だが妙だな。『蒼崎』は二十年前の時点で存在した。しかしナギの息子でもある。イコールで結び付けられるのか?」

「僕に質問をしないでもらいたい。そもそも、彼が『蒼崎』であるという保証もないだろう」

「サーヴァントは同じようだが?」

「今と二十年前で同じサーヴァントを使役する他人という可能性もある。第一、我々は『蒼崎』の素顔を知らないんだ」

 

 脳筋気味のクゥァルトゥムに対し、冷静に答えるクゥィントゥム。

 静かに待って呼吸を整え魔力を練り上げるが、正直俺の魔法じゃダメージを与えられるかどうかも疑問だな。障壁を抜くための魔法も開発はしたが、奴らを相手取るにはまず身体的な能力が足りない。

 どうするかとぐるぐる頭を悩ませていると、二人はついにこちらを向いた。

 

「まぁ、どちらでもいい。ナギの息子の調査と──」

「もし本当に『蒼崎』だというのなら、返してもらわねばならないものがある──」

 

 




週一ぐらいで安定出来ればなぁ……と思いつつ。

FGOやってるんですけど鯖の引きが悪いのか十連なんて待ってられねぇ!とばかりに貯まった傍から引くからなのか、戦力が整わずに育てるのも苦労するという状況。
ヘラクレス貰ったんでAU王に感謝しつつ頑張ろうと思ってます。

友達がアルテラとジャンヌを同時に引き当てた時は絶望してスマホを投げかけましたが(

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