最善の未来を掴むたった一つのさえたやり方   作:泰邦

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前回までのあらすじ

エヴァンジェリンを下したネギとアーチャーは修学旅行で京都へ向かう。
桜咲刹那の裏切りを警戒し、フェイト・アーウェルンクスを警戒し、近衛木乃香と一般人全員を守り切るには猫の手でも借りたい状況だった。
学園長に頼んでエヴァの救援準備を整え、関西呪術協会の本山へ向かう途中で犬山小太郎を倒して本山へ到着する。
一方、桜咲刹那は月詠と戦い、木乃香を連れてシネマ村を脱出し一路本山へと向かうことに。




第十九話

 

 

 派手に出迎えられ、今は少々立て込んでいるということで待たせてもらうこと三十分強。

 緑茶とお茶菓子を手に侍女さんと軽く世間話をしていると、アーチャーが実体化したまま傍に来ていた。

 侍女さんには事前に退出して貰い、アーチャーへと視線を向ける。

 

「何かあったのか?」

 

 普通なら念話で済むだろうが、どうしてかアーチャーはわざわざここまで出向いた。近衛さんの監視も仕事の範疇のはずだし、それを放棄してまで来るというならそれなり以上の理由があるはずだ。

 実際、厄介ごとのようだった。

 実体化したアーチャーの手にあったのは携帯電話だ。無論俺はアーチャーに携帯など持たせない。

 つまり、これは──

 

「戦闘した二人の女性のうち、一人が落としたものです。あるいはこれから敵が辿れるやもしれません」

「…………」

 

 携帯を使うことに異議はない。魔法使いでも便利だと思えば機械を使うことはあるだろう。実際、麻帆良の魔法教師だって文明の利器を使いこなしている。型月の頭が固い魔術師とは違う。

 だが、それを奪われる可能性を危惧していない、というのはやや楽観的に過ぎる気もする。

 後ろめたいことをするならプリペイド式の携帯で非通知設定をすれば簡単に使い捨てに出来るし、足取りを追われる可能性もほとんどない。

 ゆえに、アーチャーが持ってきたストラップがじゃらじゃらついた明らかに「私物」と言えるような携帯には逆に警戒心を抱いてしまう訳だが。

 これも心理戦の一種と考えるなら、罠と言ってもいいだろう。敵とつながっていると錯覚させれば相手の陣営を弄せず自壊させてしまう可能性だってあるわけだからな。

 まぁ、そのあたりは政治屋でもない俺の考えることではない。

 そう考えていると、襖の向こう側から関西呪術協会の長の準備が出来たと報告を受けた。

 

「すぐに行きます。報告すべきこともありますから」

「では、僭越ながらご案内させていただきます」

 

 広い和風の屋敷は迷ってしまいそうになるほどだ。これに住むというのは色々と大変だとは思うが、組織としての見栄もあるのだろうな。

 アーチャーは俺が携帯を受け取って霊体化させている。一応関西の長にお目通りしておいた方が何かと都合がいいだろうし、彼曰く「それなりに手応えはあった」ようだから。

 しかし、なんだ。楽観視していた訳ではないが、アーチャーがいればアーウェルンクスに関しては問題はないだろう。あと問題があるとすれば、天ヶ崎千草以外の関西の内憂か──

 そう考えていると、一人の老人とすれ違った。

 

「──ほぅ、奇妙なもん連れとるようじゃのぉ」

 

 思わずといった様子で漏れた言葉が聞こえたが、俺は振り返ることはしなかった。

 関西において俺は外患に等しい。関西内部の誰を信用すればいいかわからない以上、長を除いて全員を疑ってかかるべきだ。

 故に、振り返る必要はない。すれ違った際に顔は覚えた。

 

「こちらで長がお待ちしております」

 

 侍女さんの言葉に頷き、襖を開けて一礼する。

 奥にいたのは痩身の眼鏡をかけた男性。やややつれているようだが、彼が関西の長である近衛詠春さんだろう。事前に見せて貰った写真と同じ顔をしている。

 立ち上がって笑みを見せる彼に対し、俺は対面まで進んで懐から親書を取り出す。

 

「こちらが関東魔法協会、麻帆良学園学園長近衛近右衛門から関西呪術協会が長、近衛詠春様への親書です」

「確かに。──私も東の長の意を汲み、東西の仲違いの解消に尽力するとお伝え下さい。任務ご苦労様、ネギ・スプリングフィールド君」

「承りました」

 

 続いて後ろに控えるアーチャーを紹介し、彼の持ってきた携帯電話を詠春さんへと手渡す。

 どれほど役に立つかはわからないが、無いよりはマシであろう。貴重な情報源だ。

 ついでに、私事ではあるが一つだけ聞きたいことがある。

 

「父さんと共に魔法世界の戦争に参加したと聞いたのですが、一つだけ質問をしてもいいですか?」

「構いませんよ。私にわかることであれば」

「──蒼崎、という名に聞き覚えはありますか?」

 

 アルビレオ・イマ──もといクウネル・サンダースから聞いた過去の人物。杞憂ならばいいのだが、どうにも気になって仕方がない。

 二十年前の大戦に参加しているのかもわからないし、その人物が何を目的として動いていたのかもわからない。令呪を持った赤髪の少年と言われると俺が過去に行ったとしか思えないが、別の可能性が無いともいえないのだから。

 

「……蒼崎、ですか」

 

 ふむ、と少し考え込むように腕を組む詠春さん。

 やや長い沈黙の後、詠春さんは俺の方を向いて口を開いた。

 

「二十年前に関連して蒼崎という名が出たということは、誰かから聞いたのですか?」

「はい。アルビレオ・イマ──今はクウネル・サンダースと名乗っている方から」

「なるほど、アルから……結論から言うと、私たち『紅き翼』はそれほど蒼崎と名乗る少年と接触があったわけではありません。私たちとの接触を必要最低限にしていたようにも見えますし、何かを隠していたことは確実でしょう」

 

 ただ、と詠春は前置きをして。

 

「最低でももう一人、行動を共にしていた人物がいます」

「行動を共にしていた人物が……」

「最低でも、ですよ。加えてあと一人、協力者がいるかもしれません」

 

 詳細は詠春もわからないという。

 背格好は先に行った赤髪の少年と、少年よりも背の高い黒髪の少女。認識阻害のかかったローブを常日頃から着用していたせいでそれ以上のことはわからなかったようだが、俺としては十分な収穫である。

 礼を言い、詠春さんと共に広間を出る。

 

「ネギ君はこれからどうするのですか?」

「ひとまず宿に戻って、学園長に仕事の報告でしょうか。今はまだ、長居するのはいい目で見られないでしょうし」

「……そうですね。申し訳ないですが、そちらの方がいいでしょう」

 

 別に皮肉を言ったつもりはないのだが、詠春さんにはそう取られてしまったらしい。苦笑交じりの顔を見ていると、やっぱり内政向きの人では無いように思える。

 本来の近衛の血筋である木乃香さんの母親に関して、訊きたいことがない訳ではないのだが……まぁ、そこまで行くと深入りし過ぎだ。部外者が聞いていいことでもあるまい。

 門まで見送ろうとしていた詠春さんの前に、侍女さんが現れて小さく耳打ちをする。

 

「ふむ……ネギ君。どうやら、木乃香を含む君の生徒たちがここに来ているようだ」

 

 

        ●

 

 

「案外遅かったですね。自由時間はそれほど残ってませんよ?」

「いやー、シネマ村行ってたら遅くなっちゃってさー。私たちももう明日でいいかなー、って思ってたんだけど」

「すみません、私が少々無理を言ってしまって」

「ああ、いや、いいっていいって。私たちも木乃香の実家には興味あったしさ」

 

 日が傾いてきている今、近衛さんの実家であるここを訪れてもそれほど滞在できない。だから明日にしようと綾瀬さんたちは思っていたようだが、桜咲さんがやや無理矢理に連れてきたらしい。

 まぁ、現状近衛さんにとってどこが安全かと言われれば関西の本山である実家だと判断するだろうし、そう考えるとおかしくはないのか。

 しかし俺が気になるのはそこよりも。

 

「まさか超さんたちも来ているとは思いませんでしたよ」

「ま、私たちは勝手についてきただけヨ。木乃香サンの実家に興味もあったしネ」

「でっかいアルなー」

「侍女さんの数も凄いでござる」

 

 綾瀬さんたちの後ろについてきていた超さんたちの方だ。春日さんだけは微妙に緊張した面持ちで固まっているが、西洋魔法使いだからって本山で手を出すようなことはないだろうから安心してほしいものだ。

 ちなみにアーチャーは霊体化させているため、この場の誰にも見えていない。周囲を警戒させているため、そもそもこの場にいないのだが。

 ともあれ、彼女たちまで来たのはやや計算外だった。

 近衛さんは詠春さんと久しぶりに再会したということで、少し離れたところで二人で話している。積もる話もあるだろうが、修学旅行中なのでそろそろ帰らねば時間的にもまずい。

 

「そろそろ帰らないと予定時間からオーバーしてしまうですよ、パル」

「そだねー。今から帰ると日が暮れそうだけど、急いで帰れば間に合うっしょ」

「木乃香サンの実家も見れて満足したし、そろそろお暇するヨ」

 

 彼女たちはぞろぞろと変える用意をしており、俺もそれに続いて帰ろうとしていると、詠春さんから声がかかった。

 

「それなのですが、もう遅いですし、こちらに泊まっていかれませんか?」

「申し出はありがたいのですが、今は修学旅行中の身でして……こう言ってしまうとなんですが、僕も生徒の責任を預かる立場なので」

 

 それに、関西の本山にいては内部抗争に巻き込まれる可能性が高い。彼女たちをここに留めておくのは不要なリスクを負うことに繋がるだろう。

 ……近衛さんと桜咲さんに関していえば、彼女たちの被保護者は詠春さんになっているらしいので特例措置として一泊くらいなら、とは思うのだが。

 合理的に考えると近衛さんと桜咲さんを本山に置いておいた方が何かと都合がいい訳で。教師としては失格の判断ではあるが。

 

「こちらで身代わりを立てておくことも出来ますが?」

「下手に呪術や魔法で誤魔化すと後々面倒ですよ。彼女たちは一般人なのですし、そういう手段は極力取らない方がいいと思います」

「……君は、まだ十歳だというのによく考えていますね。ですが、木乃香と刹那君に関しては今晩はこちらで預かろうと思います」

「被保護者が詠春さんである以上、特例措置として説得できなくはないですが……」

「今晩だけで良いのですよ。明日には各地に散った関西の腕利きたちが戻ってきますからね。……それに、木乃香に関しても、もう隠し通すのは難しいでしょう」

 

 元々俺と同じで英雄の子供だ。色眼鏡で見られることは確かにあったが、彼女の場合は裏関係の事実を知らずに過ごしてきた。

 それを悪いことだとは言わない。裏の世界に身を置いているからこそ、娘には普通の生活をして欲しいと願う詠春さんの気持ちも確かに理解できる。

 だが、近衛さんの場合はその身に宿す魔力が異常だった。ナギを超えるほどの魔力を保有しているうえ、関西でも一握りの特別な血筋なのだ。一人娘である以上、何時までも隠し通すという訳にはいくまい。

 

「……分かりました。他の先生方には、僕から報告しておきます」

 

 ことは近衛さんの将来に関わる。修学旅行中にやらなくても、とは思うのだが、また京都に戻ってくるのが何時になるかわからないとなれば話は別。

 新田先生も口うるさくはあるが生徒に対して理解の深い人だ。理由をしっかり説明すれば、近衛さんにとって必要なことだと判断して貰えるだろう。

 ……事前に相談しろ、とは怒られそうだが。携帯を持っていないから仕方がない。

 

「ではみなさん、帰りますよ」

「ああ、山のふもとにバスを用意したので、そちらを使って宿まで帰ってください」

「そこまでしてもらう訳には……」

「いいんですよ。これくらいなら」

 

 笑みを浮かべながらそう告げる詠春さん。

 あまり好意を無下にするのも憚られるので、侍女さんの運転するバスに乗って宿へと帰ることになった。

 桜咲さんと近衛さんは大事な話があるから今晩は宿に帰らないというと、あからさまに残念な顔をしたのと目が輝いているのがいた。変なことを考えているのははたから見てもわかったが、その辺は生徒の自主性である。

 丸投げ、ともいう。

 ともあれ、アーチャーを本山の護衛で残して俺たちは宿へと無事につくことが出来た。

 明日には関西の腕利きが戻ってくる。なら、過激派が動くのは今夜になるだろう──やはり、切り札を切る準備をしておかねばならない。

 

 




私用で暇がなくなり、夏休みに入ったと思ったら艦これの夏イベで精神を削られ、瑞穂を諦めてようやく続きに着手しました。磯風が手に入ったからもういいです(

次はそれほど間が開かないといいなー、と思いつつ。

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