最善の未来を掴むたった一つのさえたやり方   作:泰邦

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第一話

 あのあと、俺は困った。実に困った。

 何故って、そりゃ事ここに至るまでの記憶がないからだ。憑依した(と思われる)のは悪魔襲撃の日。それ以前の記憶がない以上、周りとの溝が出来ることは間違いない。

 もっともな話、あんなことがあったのだからショックで記憶に蓋をしたとでも思ってくれると楽なのだがそうは問屋が卸さない。

 およそ三日後に救助された俺とネカネさんはまず最初に徹底的な検査を受けた。

 村のみんなは永久石化の呪いがかかっているはずだが、当然俺には伏せられた。幼馴染の女の子であるアーニャの両親も石化されたのだが、そちらは祖父がなんとか誤魔化すと言っていたらしい。

 なお、盗聴したのは俺ではなくアーチャーである。

 というか、地味に三日生き延びるのもつらかった。水は湖のものを蒸留すれば飲めたが、何と言っても季節は冬。木の実もそうだが動物なんて見つけられるわけがなく、両足が石化して砕かれたネカネさんは動くことすら出来ない。

 石化こそナギに止めてもらったのだが、食事がとれなければこの時期三日も生き延びることなど出来はしない。

 

 そこで役に立ったのはやっぱりアーチャーだった。

 

 どこからとってきたのか、水で洗えば食べられるという植物を集めてきたのでそれを食いつなぐことでなんとか生き残れた。ネカネさんはかなり不思議そうにしていたが、四の五の言っていられる状況でもないとわかっていたのだろう。何度もごめんね、ありがとうと言いながらそれらを口にしていた。

 それ、俺が取ってきたやつじゃないです。

 なんとなく騙してることに罪悪感を感じつつ、頑張って生き延びた。

 

 そして次の問題である。

 

 やっぱりというべきかなんというべきか、魔法学校の校長でもあるネギの祖父にアーチャーのことは隠し通せなかった。いや、逆に考えるんだ。実力は確かだと保障できるのだと。

 何故聖杯もないのにサーヴァントとして英霊が召喚されたのかもわからないし、そもそも真名も聞いてないしで「わからない」と言ってゴリ押しした。

 したのだが、躱せなかった。

 契約を取り消すつもりはないと言ったら、説明も兼ねて俺、爺さん、アーチャーの三人で話し合いを設けることになったのだ。

 

「……結局、君は何者なんじゃ?」

「サーヴァントだってさ。過去の英雄が現世に呼び出されて、僕と契約したんだって」

 

 ネギの振りをして一人称を改めたのだが、違和感が半端なくてあまりやりたくはないところである。

 それはさておき、アーチャーだ。

 サーヴァントは本来、聖杯を巡って争う聖杯戦争において呼び出されるクラスの一つである。

 セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー。

 七つのクラスに七人の英霊を当てはめることで人の身でもある程度御すこと出来るようにした……という設定だったはずだ。

 

「過去の英霊? 何故そのような存在が……」

「本来私は抑止力に呼ばれ、何かを成すはずだった。ですが、何を間違えたのか、私はサーヴァントとして召喚され、令呪を持つネギと契約を交わすこととなったのです」

 

 令呪を与えられる条件というのは原作でもよくわかっていなかった。あるいは俺がよくわかっていなかった。

 御三家である間桐、遠坂、アインツベルンは絶対に現れるといいつつ第四次聖杯戦争では担い手がいなかった間桐に令呪が現れていない。

 のちに家を飛び出した間桐の血縁者が戻ってきたことで令呪を得るに至ったが、御三家と何の関係もない言峰綺礼にはかなり早い段階から現れている。

 令呪がなければ英霊の召喚も出来ず、聖杯戦争に参加する資格すらないとみなされる。だが逆に言えば、令呪さえあればどんなマスターであろうと聖杯戦争に参加する権利があるのだ。

 Fate原作における士郎がそうであるように、偶発的に令呪を宿すこともある。判断はやっぱり聖杯任せなのだろう。何を基準に選んだのかなど知らないし正直どうでもいいが。

 ここまで長々と話したのは、抑止力と聖杯は全くの別物だということ。令呪だって人の手で作られた魔術だが、だからと言って抑止力が使えるという訳でもないだろう。

 

「抑止力?」

「この場合はアラヤ……霊長の抑止力。私は人類の滅びを避けるため、世界に呼び遣わされたということになります」

 

 それこそおかしい。

 抑止力というのは、基本的に人の意思を後押しするものであって、本格的に介入するのは人類が自滅しかけた時だけのはずだ。

 そのせいでエミヤシロウの心が摩耗したというのは、この場においては無駄話か。

 人類の持つ破滅回避の祈りである「アラヤ」と、星が思う生命延長の祈りである「ガイア」という、優先順位の違う二種類の抑止力。今回は前者の判断らしいが、あそこで間に合わなくても俺が殺されるだけだろう。それが人類破滅につながるとは思えないが……。

 ともかく、霊長の抑止力の行動方針が基本それである以上、今回のアーチャーの召喚はイレギュラー中のイレギュラーであると判断できる。

 てか、爺さん抑止力知ってるのか? と思っていたらアーチャーから詳しく説明を受けていた。霊長の抑止力だけじゃなく、ガイアの方についても話を聞いているが今回は関係ないらしいのでカット。

 

「なるほどのぅ……君は、何故召喚されたのかはわかっているのかね?」

「召喚されるからと言って全て説明されるわけではありません。それでも、あそこで彼のサーヴァントとなったこと。唯一人だけ無事にいたことなどを含め、彼を守ることが最終的に人類の破滅を防ぐ結果につながるのだと判断しました」

 

 原作的に考えれば確かにネギは火星と地球を救うのかもしれないが、抑止力が動くほどのことなのか?

 基本的に無意識に働きかけている以上、ナギを後押しして助けさせるのが最も簡単かつ単純な方法だったはず……って、ナギは間に合わなかったからアーチャーが召喚されたのか?

 わからん。自分より高位の存在である以上、考えるだけ無駄かもしれないな、これは。

 

「とりあえず、アーチャーの真名を教えてよ」

「おっと、これは失礼。未だ伝えていませんでしたね」

「真名とな?」

「我々はかつて英雄と呼ばれた人種。本来の名くらいきちんと持っていますよ」

 

 クラス名で呼ばれるのは聖杯戦争における基本的なルールみたいなものだ。聖杯に呼ばれたわけじゃないのに、ずっとアーチャーと呼んでいた。

 誰もが知る第二の主人公として有名な第五次聖杯戦争のアーチャー、エミヤシロウではない。

 同様に誰もが知る敵役として有名な第四次聖杯戦争のアーチャー、ギルガメッシュでもない。

 ならば、彼は一体誰なのか。

 

「私の真名は"ヘラクレス"です」

 

 そうか、ヘラクレスか。……へらくれす?

 

「ヘラクレスゥ!?」

 

 歴代の聖杯戦争でも傑物揃いとされる第五次聖杯戦争において、およそ単体戦闘能力では最強と目されるサーヴァントが一人いた。

 ステータスは幸運を除きオールA。その幸運にしたってB。

 バーサーカーとして呼ばれたにも拘らず狂化する必要のないステータス。加えて異常なまでに強力な宝具を併せ持つギリシャの大英雄。……バーサーカーで呼ばれてたら俺は木乃伊(ミイラ)になっていたに違いない。

 というか、ヘラクレスって英霊はむしろバーサーカーで呼ぶことで"弱く"なる。

 本来狂化させることで技量を失う代わりにステータスを上げるクラスであるバーサーカーだが、アインツベルンは余計なことを考えさせないためにバーサーカーとして呼び出し、ヘラクレスの持つ武威を失わせてしまっている。

 このことからも、ヘラクレスという英霊がどれ程怪物的かわかるだろう。

 ついでに言うと、ヘラクレスはキャスター以外全部のクラスに当てはまるし。

 

「それほどの知名度を持つ大英雄が……これはありがたい」

 

 俺だって安心できる状況ではないのだ。

 先日の悪魔襲撃事件だって、メガロの仕業だろうと爺さんともども思っている。あそこはネギの母親であるアリカをある意味で恐れているからな。

 オスティア王家の血筋である俺の存在が邪魔だって可能性もある。政治的なことはよくわからんから爺さんに丸投げしているが。

 少なくとも今後含めて命が狙われるであろうことも想像に難くない。

 そんな俺を守ってくれるというのだ。爺さんからすればありがたすぎて崇め奉ってしまいそうな雰囲気さえある。

 

「ですが、むやみやたらと吹聴しない方が良いというのもあるでしょう。私の名から弱点を推測されかねない」

 

 その設定生きてたのか。Fate原作でも役に立ったの見たことないんだが。

 

「うむ。下手にいろんなところから介入されるのも面倒じゃからのぅ」

「それじゃ、アーチャー。これからよろしく」

「こちらこそ。何時までいられるかわかりませんが、この身が滅びるまでマスターの命を守ると誓いましょう」

 

 握手をして話し合いを終わらせ、救助されて一日目である今日は何事もなく過ぎた。

 

 

        ●

 

 

 翌日。

 早朝から義足をつけたネカネさんと急いで魔法学校から戻ってきたらしいアーニャがバッティングし、早朝だというのに恐ろしく喧しい一室になりはてた。

 熟睡していた俺涙目である。朝に弱いのと未だに現実味が薄いせいでネカネさんのことを寝起きに「誰?」と言ってしまったこともあって、余計に自体がややこしくなっていた。寝たい。

 アーチャーは爺さんとの話し合いで基本的に姿を現さない方針で行くことになったので、例えネカネさんが相手でも宥めさせたりは出来ない。

 すごく眠くて適当にあしらったせいで泣かせてしまったのだが、何の騒ぎだと爺さんが出てきて事態を収束させてくれたので助かった。

 昼近くになってようやく落ち着くことが出来たので、アーチャーと二人で話すことにする。

 

「女性を泣かせるのは感心しませんが」

「寝起きでいきなり肩揺さぶられればああもなるよ。アーニャの方も適当にあしらったら泣きそうだったけど」

 

 そうでなくても考えることはいっぱいあるのだ。

 まず最初に聞きたいのはアーチャーの知識だが、これの内容次第によっては俺まで怪しまれかねない。

 

「アーチャーの知識にある魔法はどんなもの?」

「魔術師ではないのでなんとも言えませんが……一応、この世界の魔法と魔法使いについては抑止力から知識を与えられています」

 

 ……うん? この世界の魔法と魔法使い?

 てことは、アーチャーもといヘラクレスは型月世界のそれと考えていいのだろうか。

 あるいはそれが俺のサーヴァントとして召喚されるきっかけになったのかもしれないが。

 

「現代の知識……魔法と科学については基本的なものはあるってこと?」

「そうですね。分野の専門家ほどではないですが、基本的な知識は与えられています」

 

 魔法はどうせ爺さんから習うつもりだった。今回の事件を受けて俺自身が身を守れるようにする、という建前で俺が脅したのだが。

 いくらアーチャーがいるとはいえ、不測の事態なんて幾らでも起こり得る。もしもアーチャーが消えた時、俺が無力なままなら自分の身すら自分で守れない役立たずだ。

 放っておけば火星と地球で戦争になる可能性すらある以上、それを防ぐためにも魔法に関する知識は集めたい。

 

「アーチャーのクラススキルは?」

「対魔力はC、単独行動はAです」

 

 まぁ、元々何らかの加護があるわけじゃないから対魔力は妥当か。そもそも宝具である『十二の試練(ゴッド・ハンド)』がある以上Bランク以下の攻撃は効かないんだ。おまけ程度に考えていいだろう。

 単独行動についてはメリットとデメリットの両方があるが、ヘラクレスは比較的素直に従ってくれるサーヴァントだから心配の必要はない。

 ネギま世界の魔法をランクで表すとどれくらいになるのかが疑問だが……「千の雷」レベルなら通用すると考えておけばいいか。「雷の暴風」ならBかそれ以下だと思うが、このあたりは要検証だな。

 失われた分の命を俺の魔力で補填出来るのなら実験と耐性を得ることを同時に出来るんだが──このあたりはどのみち俺が魔法を覚えてからになる。

 

「ひとまず魔法の勉強と……あと、出来ればもう少し体が出来た後に杖術を教えてほしいんだけど」

「杖術ですか。使い方は槍に近くなるかもしれませんが」

「構わない。折角もらった杖だ、魔法に使うだけじゃなくて普通に使えるようにもしておきたい」

 

 あと経験を積むという意味でもいいと思う。こういうのは経験しないとわからない。

 ネギといえばマジカル八極拳だが、俺は八極拳よりも空手部員だったころの経験を活かしたいので空手をやるつもりだ。あとちょっとだけ柔術をかじるかもしれないが。

 基本的な方針としてはこんなところか。あとはひたすら学んで知って経験するだけである。

 そんなわけで今は十分に体を休めるために寝ることにした。

 

 


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