最善の未来を掴むたった一つのさえたやり方   作:泰邦

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原作は投げ捨てるものだと思いました。(小並感)


第十五話

 

 

 修学旅行。京都に行く修学旅行なんて珍しくもないどころか普遍化し過ぎてて面白みもない。高校なら北海道だとか沖縄だとか、はては海外まで行く学校もあるらしいがそこはそれ。うちの学校とは何ら関係のない話である。

 早朝からカモ君を肩にのせて、集合場所を目指す。教員は生徒と違って時間がさらに早いので、如何に早起きに慣れている俺といえどもなかなか起きるのはつらい。

 なお朝食は簡易的におにぎりを用意した。凝ったものを作っている時間はないし、昼食は向こうで用意されている。

 移動の電車の中で朝食を終え、ペットボトルのお茶を飲んで一息つく。

 ガキでもあるまいし、楽しみで前日に寝れなかったということはなかった。が、直前まで準備に手間取ったのは痛手だった。

 近衛さんの護衛である桜咲さんについては学園長を通じて知らされているものの、気がつくと本人がいなくなるので話が出来ていない。出来ることなら事前に話し合っておきたかったのだが、いざとなればカモ君かアーチャーにメッセージを頼むしかないか。

 ……そう言えば、桜咲さんと同じ班にはレイニーデイさんもいたな。

 魔族の王女だか何だか、という話だったが、それを知っている人は果たしてこの学園内にどれだけいるのか。少なくとも学園長は把握しているはずだが、エヴァや高畑さんも把握しているのかどうかは定かではない。

 そもそも、彼女が麻帆良に何しに来たのか、ということも明らかにされていないのだ。おそらくは魔法世界と似たような問題が魔族の住む魔界──金星でも起こっているのではないかと予測はつけられるのだが。

 あくまでこれらは予測でしかない。

 原作後半で出てきたポヨ・レイニーデイなる人物の強さを鑑みても、ザジ・レイニーデイさんを味方に引き入れることは決してマイナスにはならないと思うのだが。

 と、考えている間に集合場所に到着した。

 

「みなさん、早いですね」

「そりゃあもう、楽しみでね!」

 

 既に集まったいくらかの生徒たち。中には始発できたというのだから驚きだ。ここの始発って四時ごろじゃなかったか……?

 そんな時間からきても待つのがつらいだろうに、とは口に出さない。旅行を楽しみにして早く来ているのは決して悪いことではないのだから、わざわざ盛り下げるようなことを言う必要はないだろう。

 マイ枕は、まぁバッグに入るのならいいと俺は思う。持ち込み制限をされてるわけでもなし、熟睡出来ないというなら無理に止める気は無いよ。

 傍目に見えた桜咲さんも竹刀袋を持ってたしね。

 時間になり、新幹線に乗り込む麻帆良の生徒たち。皆今日の修学旅行を楽しみにしていたようで、遅刻する生徒はいなかった。

 一人だけ遅れて来て迷惑かける奴が大体一人か二人はいるものだが、こういうことに関してはそういうことをする生徒がいない麻帆良は凄いな。いい意味で。

 わいわいがやがやと騒がしく新幹線の中に入っていき、3-A最後の班が入ってくる。

 

「桜咲さんとレイニーデイさんですね」

「はい。ですが、マクダウェルさんと絡繰さんが欠席していますので、班員は二人になってしまうのですが……」

 

 ナチュラルに忘れていたが、あの二人も一応は参加するていで話は進んでいたな、そういえば。

 ある意味わかっていたことではあるので、手早く二人をほかの班に合流させる。このクラスなら除け者扱いもされまいて。

 ……今のうちにカモ君に伝言を任せておくか。

 

「合点承知でさぁ、兄貴!」

 

 二言、三言告げておくようにカモ君に頼み、俺は3-Aの面々に注意喚起をしておく。旅行先で迷惑をかけるといろんなところに苦情が来るしね。節度を持って行動するというのは何事においても大事なことだ。

 その後は見周りになる。

 それほど時間をおかずに帰ってきたカモ君を肩にのせ、新幹線の中を歩き回る。

 

「…………?」

「どうかしたんですかい、兄貴」

「いや、ちょっと変な魔力の流れがね……悪いけど、座席の下を見てくれる?」

 

 西洋魔法ではない、小さな違和感を感じ取ってカモ君にそう頼む。扱き使っているようでちょっとあれだが、きちんとした契約に基づく使い魔としての役割なので何も問題はなかった。

 ちょろちょろとカモ君が走り回っている間、生徒の子たちと話して場所を動かないようにしていたが、カードゲームというのはやはり子供に人気のあるものなのか……どちらかといえば、こういうのは女子よりも男子の方が好むものだと思っていたのだが。

 変に感心している間にカモ君が何か口にくわえて戻ってきた。

 

「これが座席の真下に張られてやした」

「……何これ」

「いや、俺っちに聞かれても……」

「西洋魔法じゃないね。東洋の……陰陽道に属するタイプかな」

 

 ミミズののたくったような文字が書かれた札──というか、符を発見した。何かしらのキーワードに従って起動する仕組みなのだろうか?

 戻ってきたカモ君を扱き使うようで気が引けたが、この状況だと彼が一番の適任者なので手早く全ての符を剥がして貰った。集めたのちに焼却処分である。

 流石に新幹線の中で焼却などするわけにもいかないので、今は封じておいて後で処理することになるが。

 

「しかし、これが関西の妨害なんですかねぇ」

「ちゃちな悪戯だよ。本気で攪乱できると思ってるなら関西の術者の評価を下方修正するほかないね」

「案外そう思わせるのが目的なのかも知れませんぜ」

「そうかもしれないね。油断をするつもりはないけど、待ちの一手になるのはちょっとまずいかな」

 

 守る側というのは常に先手を取られ続ける。相手の行動はある程度予想がつくとはいえ、絶対にそうなると確信をもっていえるわけではないのだ。

 戦力的な面でいえばアーチャーがいればどうとでもなる。俺から離しても令呪があれば最悪の事態は回避できるだろうが──やはり、こちらから牽制しておくのがいいかもしれないな。

 とはいえ、俺は相手のひそむ場所を知らないわけで。桜咲さんに「常に近衛さんの近くにいるように」と言っておいたとはいえ、本当に四六時中一緒にいられるわけでもあるまいし。

 ──釣るとしたら、やはり親書を使うのがいいか。

 念のために準備をしておいてよかったというべきか。

 

「こんなものを狙ってくるなんて、ご苦労なことだよ」

 

 懐から取り出した封筒をこれ見よがしに晒す。相手の『本命』が親書なのか近衛さんなのか、それとも同率で狙っているのかは原作からしてよくわからなかった。

 とはいえ、四六時中監視の目がある近衛さんを狙うより、十才の子供に運ばせている親書を狙うのが容易いと取られるのは当然といえよう。

 誰だってそーする。俺だってそーする。

 ──そして、案の定喰いついた。

 おそらくは式神であろう燕が親書を奪い取り、後部車両へと高速で飛翔する。

 

「アーチャー」

『追跡します』

 

 あとはそれを追って式神の所有者と関係者をあぶりだす。ついでに言うとあれは外側を似せただけの紛い物なので盗まれようと焼かれようと痛くも痒くもない。

 本物は横向きに手紙を入れてあるが、さっき盗ませた偽物は縦向きに手紙を入れてある。ついでに言うと学園長のハンコもない。

 式神に見分けられるわけも無し、それっぽいだけの紛い物に騙されたわけだ。

 加えて霊体化したアーチャーをたかが式神如きが振り切れるはずもなく、逃げ場のない新幹線の中なら追い詰めるのも容易だ。

 ……しかし、本当に逃げ場のない新幹線で奪ってどうするつもりだったんだろうか。転移符を持ってるとしても、あの偽親書には仮契約カードのそれを応用した位置探査の術式が施してあるので一発で場所がわかるのだが。

 今でこそこうだが、原作だとどうするつもりだったのだろう?

 考えても詮無きことではあるが、気になってしまうな。

 

「兄貴、桜咲ってやつがこっちを見てますぜ」

「うん。追いかけなくていいのか、って顔だね」

「アーチャーの兄貴に追跡を任せてるって言わなくてもいいんですかい?」

「敵をだますにはまず味方からっていうでしょ。それに、僕らの会話が誰に聞かれてるともわからないしね」

 

 問題ないとは思うが、桜咲刹那って子が本当は反体制派って可能性がゼロって言い切れるわけじゃない。

 原作は絶対か? 違うだろう。今この時を生きている彼ら彼女らは確かに一人の人間だ。用意されたレールの上を走り、用意されたセリフをしゃべるNPCじゃあない。

 そこに意思があるのなら、どんなに小さい可能性でも『起こり得る』と考えるべきだ。

 もっとも、長年政治的なことに関わってきたであろう学園長の目を騙せるとも思えないが。

 

『マスター、使い魔の主を発見しました』

(よし、そのまま監視を続けてくれ。あ、一応視界を繋げて顔だけ確認させてくれ)

『了解しました。監視を続けるというと、何時まででしょうか?』

(あー……そうだな。アジトらしき場所に戻って誰かと会ったら報告してくれ)

 

 一先ずアーチャーの視界を共有して偽親書を盗んだ相手を確認しておく。……確か、天ヶ崎千草だったかな。普通の洋服姿でわかりにくいが、それっぽい女が一人座っているのが確認できた。

 それ以外に見知った顔はいない。あるいはアーウェルンクス辺りが出張っているかもしれないと思ったが、杞憂だったらしいな。

 場所と人数が確認でき次第、学園長を通して関西に情報をリークすればそれでゲームセットと。アーウェルンクスがいれば逃げられるだろうが、十分牽制にはなるだろう。

 さて、京都までそれほどかからないのだから、俺もゆったりとしながら到着するのを待つとしよう。

 

 

        ●

 

 

 京都、清水寺。

 クラスの集合写真を撮り、各自清水寺の中を散策する。とは言ってもいうほど広くないので、あっちを見てもこっちを見ても麻帆良の生徒ばっかりである。

 一応先んじてカモ君に調べてもらったが、やっぱり恋占いの石の場所には落とし穴があったし、音羽の滝には酒が仕込まれていた。面倒なので一緒に来ている瀬流彦先生に丸投げしたが。

 こんな悪戯に一々かかずらっている暇はないのである。

 親書の件で桜咲さんに詰め寄られたが「大丈夫です」の一点張りでゴリ押しし、アーチャーからの連絡を待っている今。余計な事件で手間取らされるのも面倒なのだ。

 心配事があるとすれば、アーチャーがそれほど魔法関係に詳しくないこと──

 

『マスター、すみません、気付かれました』

 

 ──考えた瞬間にこれとは、フラグ回収の速度は圧倒的だな。まぁ文句は言うまい。

 

(何があった?)

『魔法関係のトラップのようです。何気なく弾いてしまい、気付かれたようで……』

 

 低いとはいえ一応は対魔力持ちで宝具の影響もあってダメージはないだろうが、気付かれたか……まぁ、アーウェルンクスレベルがいれば魔法でその手の罠には事欠かないだろうし、知識も直感も無しに気付けってのはちと無理があるか。レンジャー技能があるっぽいから普通の罠なら気付けたはずだが。

 仕方ない。その場で全員戦闘不能にしてしまえばそれでゲームセットだ。

 

(予定を変更する。出来れば切り札(おまえ)を早速出すようなことはしたくなかったが仕方ない。全員気絶させてしまえ)

『一人、少々手ごわい相手がいるようですが』

 

 アーチャーをして手強い、か。

 まぁ思いつく相手は一人しかいないわけだが、それでも『十二の試練(ゴッド・ハンド)』があればダメージはないだろう。というか、既存の魔法で『十二の試練』を抜けるものってあるのか……?

 それはさておき、一人二人戦闘不能に追い込めれば成果としては十分だろう。

 アーウェルンクスは転移魔法を使えるはずだから仕留められるとは思っていない。

 

(敵の数は?)

女性三人(・・・・)少年一人(・・・・)です』

 

 ……女性、三人?

 




グランドオーダーは一体何時になったら配信されるんですかねぇ。

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