最善の未来を掴むたった一つのさえたやり方   作:泰邦

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やや短めです。


第十四話

 

 突然だが、俺は私服をほとんど持っていない。

 イギリスにいたころは基本的にローブなどを数着着まわせばどうにでもなったし、風呂にあまり入らない国風からして数日同じ服を着ていることも多々あった。……元日本人であることを考えるとかなり不潔な気がするが、周りみんなそうだからと流されるのも元日本人の気質だな。

 それほど潔癖症でもなかったのが幸いか。

 ともあれ、修学旅行に行くにあたっていくらか服を調達しておこうと思ったわけだ。

 ファッションなんてものはほとほと縁がなかった身の上だが、自分のセンスで選べばそれでいいだろう。余程奇抜なものでない限り、目立つことなんてそうそうない。

 アーチャーに現代のセンスで服を選べと言っても困るだけだろうしなぁ。ワンポイントのシャツとかでいいから誰か適当に買ってきてくれないものか。

 そんなことを考えつつ街へ繰り出した俺とアーチャー。

 うーむ。長らくイギリスの片田舎に住んでいたからか、現代日本のファッションはとんとわからん。雑誌なんぞ買ってまで選びたいとは思わないからなぁ。

 さてどうしようかと歩き回っていると、一人の少女を見つけた。

 

「おや」

「あ」

 

 ばったり会ったのはウィンドウショッピングをしていたのであろう近衛木乃香さん。やや遠方に桜咲さんの姿が垣間見えるが、あの人は一歩間違うとストーカーなのでは……?

 常識をわきまえているなら大丈夫だと思うが、なんとも将来が心配になる娘である。

 今は遠くからこちらを見ている桜咲さんより、目の前に居る近衛さんの相手をするべきか。

 

「ネギ先生、こんなところであうなんて珍しいなぁ」

「そうですね。僕は基本的に麻帆良の外へは出ないので」

「てことは、今日はなんか用事あるん、ですか?」

「少々服を買いに来ました。恥ずかしながら、私服をあまり持ってないんです。それと、学外ですから敬語は要りませんよ」

 

 苦笑交じりに返すと、近衛さんはカラカラと笑いながら「てつだったるよー」と朗らかに言う。

 まぁ、服のセンスは壊滅的だという自負もあるし、ここは近衛さんに任せるのが一番良いのかもしれない。

 

「しかし、近衛さん一人とは珍しいですね。神楽坂さんとよく一緒にいるイメージがあるんですが」

「あー。アスナは休みだからってずっと寝てるんよ。修学旅行のために新しい服を買おうとおもっとったんやけど、丁度いいしアスナの誕生日プレゼントも買おうと思ってな」

「なるほど。近衛さんは友達思いですね」

 

 やや照れながらはにかむ彼女は実に可愛らしい。

 町にも不慣れである以上、仕方ないことではあるが……女性にリードされるというのはなんとも言い難い。イギリス紳士として俺がリードすべきなのだろうが、道に迷うどころか目的の店も知らないしなぁ。

 大人しく雑談しながら近衛さんの半歩後ろを歩くことにする。

 

「修学旅行の準備はどうですか?」

「大体すんどるよ。久々やから結構楽しみなんよ」

「久々? 近衛さんの実家は京都ですし、里帰りしたりはしないんですか?」

「よくわからんのやけど、お祖父ちゃんが『婿殿も忙しそうじゃからまた今度の』ってはぐらかされてばっかりなんよ」

 

 ……やっぱりていのいい人質じゃないか? 近衛さん曰く「中学に入学するときは一度帰った」そうだが、それでも二年ほどあってない計算になるわけだし。

 人のことを言えた立場じゃないが、親と子が一緒に暮らせないっていうのはどうなんだろうな。せめて小学校くらいは親元で育ててやるべきじゃないかと思うんだが。

 中学生なら、まぁ多少自立し始める時期だし、寮に入ってもいいと本人が望むならそれでもいいかもしれない。

 教師としてここにきている以上はこのあたりもきちんと自分の考えを持つべきだが、過去を変えられるわけじゃあるまいし、彼女に関してそれを言うのは筋違いだろう。

 本人がどう思っているかは知らないがね。

 

「だったら、修学旅行の際に会えるといいですね」

「……自分の都合で班のみんなに迷惑をかけるわけにはいかん思うとるんやけど……」

「親御さんに顔を見せるくらい、班員の方も理解してくれると思いますよ」

 

 ここの生徒はやること成すことお祭り騒ぎにしたがるが、本当に空気を読むべきところは読んでくれる……はずだ。

 班員も気心の知れたメンバーだったと記憶しているし、どの道彼女は関西の本山に行くことになる。委細問題なく、彼女の願いは叶えられるのだ。

 

「お、あったあった。ここやでネギ先生」

 

 洒落たブティックに到着するなり、近衛さんに手を引かれて店内へ。

 何が何だかと思っているうちに服が積み上げられ、あれよあれよという間に着せ替え人形に。どれを着ても大体似合うんじゃないかと思ったが、近衛さん的にはもう少し絞りたいらしく頭を悩ませている。

 俺はもうこの状況になってしまったことを早くも後悔しつつある。店だけ聞いて適当に買って帰ればよかった。

 

(マスター。外でこちらを見ている者がいるようですが)

(こっちを見てる? 桜咲さんじゃなくて?)

(いえ、三人の少女が先程からずっとこちらを付けているようですが)

 

 アーチャーに言われた方を確認してみると、隠れきれてない三人の少女の姿が見えた。柿崎さん、釘宮さん、椎名さんのチアガールズである。

 まぁ、放っておいても実害はないだろうから放っておいていいだろう。

 相変わらず桜咲さんは遠くからこちらを観察しているようだし。あちらも基本は無視で構わないだろう。

 

「ネギ先生ー、これなんてどうや?」

「あまり派手なのはちょっと……一応修学旅行用ですし」

「えー? そんなに派手な奴じゃないと思うんやけど」

 

 暗色系でいいんだよ。真っ赤なシャツとかド派手じゃないですか。しかも黒で絵が描かれてるし。

 普段着るタイプの服としては別に構わないけど、修学旅行の引率としてはちょっと駄目だろうその服。……スーツで回れって話になるか? いやでも、一応教員も私服で大丈夫って聞いてるしなぁ。自由行動の間だけだけど。

 新田先生なんかは何かあった際の連絡要員として宿に残るらしいが、外を回る教員は別にスーツじゃなくてもいいし……。

 ……着る着ないはさておき、今買っておけば今後私服が足りないなんてあほらしいことも起こるまい。

 

「お金ならあるので、似合いそうだと思ったそのあたりの服は買いますよ」

「え、こんなに買うん?」

「サイズは合わせますけどね。あ、多少大きめでお願いします」

 

 子供服ってのは大人用より安いがすぐサイズが合わなくなるからな。多分半年もすれば秋物を買うついでにサイズを一回り大きくしなくちゃならなくなるだろう。

 だからある程度あれば十分だ。金ならそれなりに貯まってるしな。

 

「神楽坂さんに誕生日プレゼントを買いに行くんでしょう? 何時までも服を選んでいると時間が無くなりますよ」

「あ、そっか。あはは……」

 

 自分の目的を忘れていたのか、笑いながら誤魔化す近衛さん。

 手早く買ったは良いものの、それなりの量なので嵩張って重い。アーチャーに持たせたいがこの場で実体化させるわけにもいかないしなぁ……仕方がないので我慢して普通に運ぶことにする。

 まさかこの程度のことで魔法を使う訳にもいかないし、遠くで見てる桜咲さんは手伝う気もないようだし、ストーキングしてる三人娘もストーカーするので忙しいようだし。

 左右に紙袋を持ってウィンドウショッピングと洒落込むこととなった。神楽坂さんに何かいいプレゼントがないか探しているらしい。

 原作では何渡してたかなぁとおぼろげに考えつつ、目に留まった雑貨屋へと入る。

 

「お揃いのアクセサリーを買うんですか?」

「んー……どうしようって迷ってるんよ。アクセサリーって言っても、アスナそういうのはあんまり付けへんからね」

 

 あー、まぁそれは想像がつく。精々髪留め辺りがいいところだろうが、あれは確か高畑さんがプレゼントしたものだったっけ。この辺はよく覚えてないな。

 近衛さん。だからってダンベルは女子中学生に買うものじゃないと思いますが。

 トレーニング機材も売ってるとはずいぶん幅の広い雑貨屋だが、普通そんなものはプレゼントされても喜ばないのでは……?

 とは言ったものの、俺だって年頃の女の子が何欲しがるかなんてわかりはしないしなぁ。明石教授にでも聞いてみるか?

 生命球──いわゆるアクアリウムなんかだとお洒落でいいんじゃないかと思うが、神楽坂さんのイメージとは実にかけ離れている。運動系の元気娘だからなぁ。

 

「これなんてどやろ」

「オルゴールですか。いいと思いますよ」

 

 どんな曲かは知らないが、近衛さんが選んだのなら間違いはあるまい。俺は彼女の好みなんてわからないからな。

 あるいは高畑先生とデートする約束を取り付けるのが、彼女にとっては一番の誕生日プレゼントかもしれない。肝心の高畑さんが出張で麻帆良にはいないが。

 時間も良い頃合いだし、そろそろ麻帆良に戻ろうと提案する。近衛さんも目的のものが買えて満足したようで、雑談しながら帰ることに。

 結構重くて両手がプルプルしてるが、途中休憩を挟んだとはいえ歩きっ放しで数時間だからな。仕方ないといえば仕方ないが、鍛錬が足りないか? しかし子供のうちから筋肉をつけると背が伸びなくなるし……うーむ、悩ましいな。

 

「ネギ先生、大丈夫? 疲れたやろ?」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

 今休むよりも早いところ家に帰って荷物を片付けたい。筋肉痛に治癒魔法は効かないだろうし……いや、使ったことはないけど。

 夕食の準備もあるのだから、ちんたらしている暇もない。

 麻帆良に戻ってきたところで、雪広さんと神楽坂さんの二人とばったり会った。

 

「おや、お二人が一緒に行動するとは珍しいですね」

「せやなー。気がついたらいつも喧嘩してるし」

「ほっといてよ!」

 

 からかう俺と近衛さんの言葉に神楽坂さんが反応した。雪広さんはそれどころではないようで、俺と近衛さんを交互に見ている。

 俺と近衛さんの関係性を疑っているのか、やや顔が青い。一応言っておくと、近衛さんのことは美少女だと思ってはいるがそれ以前の問題として教師と生徒だ。他の生徒にも言えることだが、職務に忠実であるべきだと俺は考えているため、淫行などと言われてもそんな気は全くない。

 昔から性欲は薄いんだよ。

 

「ていうか、二人でどこ行ってたわけ?」

「二人で行ったんやなくて、町に行ったらたまたまネギ先生と会ったんよ」

「服選びをすると言ったら、近衛さんが手伝ってくれるといいましてね。元々私服のセンスには自信がなかったので、これ幸いとお願いしたんです」

 

 両手に持った紙袋を見せながら説明すると、神楽坂さんはどっと疲れたような顔をしてため息を吐いた。雪広さんは必死な顔でこちらを向いて俺の手を握る。

 

「では、木乃香さんとネギ先生の間には何もないのですね!?」

「生徒と教師以上の関係性はありませんよ」

 

 ホッとしたのも束の間、俺たちの背後に視線を向けこそこそ逃げ出そうとしていた三人娘を捉えた。

 神楽坂さんへのプレゼントは明日になってから渡すと言っていたし、今日はこのまま帰るのだろう。大騒ぎしている三人娘+一を放って、俺たちは各々帰路についた。

 




いやぁ、カプさばは強敵でしたね(何
ホロウをクリアしてないことを思い出してずっとやってました。あと仕事です。
本編そっちのけでカプさばずっとやってたので未だにクリア出来てませんが。

ホロウが終わったらアポクリファを買おうか迷っているんですが、あれって面白いんですかねぇ。ジャンヌが出るとか言峰士郎が出るとかは聞いてるんですが。

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