「どこへ行くかと思えば……ここかよ」
アーチャーが戦いの場に選んだのは、新都の一角を占める例の公園だった。
「ここは、日中から人気のない場所ですからね。
このぐらい開けていないと、私も戦いようがありませんし。
凛は無理そうだから、イリヤ君にお願いがあるんだが、
この公園に人払いの結界はできるかな?」
「うん、平気よ。でも十五分ぐらいしかもたないけど」
「いいよ、充分だ」
頷いたイリヤは、目を伏せると何事か呟いた。顔にまで巨大な魔術刻印が浮き出し、光を放つ。士郎は義妹の変貌に肝を潰しかけた。ヘラクレスを従えられるとはこういうことなのか。
「終わったわ」
「ありがとう。じゃあ、そろそろ始めましょうか。
令呪を使ってから開始ということでいいですか?」
「ああ、かまわん。さっさとやんな」
「では」
奇跡的にベレーを落とさずに頭を下げると、アーチャーは凛を連れてランサーから五十歩ほど離れた。
「マスター、令呪の使用を」
ここでようやく、凛は疑問を抱いた。
「アーチャー、あんた、宝具って、あれだけじゃないの!?」
一度霊体化し、いつもの軍服姿に戻っていたアーチャーは、決まり悪げに髪をかき混ぜた。
「ああ、あっちは使えそうな宝具」
「え? どういうことよ」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさとしてもらおうか」
敵と味方に促され、凛は仕方なく令呪に願う。二重の眉月から放たれる矢を思わせる、均整のとれた令呪に。
「――令呪に告げる。アーチャー、宝具を使いなさい!」
令呪の一角が輝き、眉月の外側が消え、かわりに膨大な魔力がアーチャーに注がれる。そして――。
「Yes Maam!」
応えたのは、穏やかなテノールではなかった。もっと複数の、腹に響くような重低音の合唱。顕現したのは、白い鎧兜。左腕に赤い薔薇の紋章を刻み、右手に冬の月光を燦然と弾き返す戦斧を携え。その数は、一見しただけではわからないほど。一キロ四方ほどの広場に、整然と隊列を組み、ランサー一人を包囲している。
「ん、な、なんだとぉ!?」
「こっちは使えない宝具。含まれたんだよね……」
凛は硬直した。それって、バナナじゃなくって、まさか……!
「宝具の操作兵員も。あー、これ、言わなきゃ駄目かい、中将」
アーチャーの前に立ち、戦斧を構える長身の騎士が兜の下から応えた。
「言っていただかないと困りますな。
今の我々は閣下の宝具。号令なしに出撃はできません」
痺れるほどに魅力的なバリトンが応え、アーチャーは実に嫌そうな顔になった。
「恥ずかしいなぁ、もう。
……
「Sir,Yes sir!」
広場にどよもす、歓呼の響き。ある者は戦斧を握り直して構え、隊列後方の者は、いかにも威力のありそうな銃をランサーに向ける。
「な、なんだよ、これ、こいつら……」
「シロウ……これ、みんな、サーヴァントよ!」
衛宮切嗣の二人の遺児は、呆然と白い騎士の一団を見渡した。士郎は人数を数えようとしたが諦めた。ぱっと見だが、全校生徒の倍はいそうだ。セイバーは、眦が裂けんばかりに目を見開いた。
「馬鹿な、これは征服王と同じ……いや、違う!」
かの征服王の軍勢は、王の召喚に応えた臣下が、共に築いた固有結界であった。彼の世界が、現実を押し返し、自らの幻想へと塗りかえる空想の現実化。しかし、令呪を使ったにしろ、風景も変わらぬままだ。この発動の速さはありえない。
「この腹黒め、とんでもねえものを隠してやがったな!」
ランサーは後退しようとしたが、退路を塞がれていることに舌打ちした。これを打破するには、真名開放の後に槍を投じねばならない。その間、ランサーは無防備になる矢避けの加護も、視覚外からの射撃には無力だ。
ケチくさいマスターからの魔力を削ってでも、ルーン魔術を発動させるべきか。ランサーは左右に目を走らせると、力ある文字を中空に刻もうとした。
人垣の間から、ひょいと手が上がった。白い騎士らの背後から、黒い頭ものぞく。
「いや、ちょっと話を聞いてください。中将も待ってくれ。
ランサー、あなたは強者とのギリギリの戦いをご所望のはずだ。
私の部下は、わが軍の歴代最強の白兵戦の名手たちです。
幸いというか、武器や戦法は比較的あなたに近い。
制限時間まで、彼らと手合わせしてください。ただし、殺し合いはなしで」
「……閣下。敵と試合ですと?」
「そいつの言うとおりだ」
白と群青の騎士に低い声で凄まれても、黒い魔術師は怯まなかった。
「ランサーは、まさに一騎当千の英雄だ。
百人ぐらいは相手をしなくちゃいけないと思うよ」
「我々の選抜基準を見くびっていただいては困りますな。
わが軍の比率で言うなら、一騎当万の勇士ということになる」
「……それは強弁が過ぎないかなあ。では貴官に任せるよ」
「んなっ……てめえ、アーチャーのくせに飛び道具はどうした!」
ランサーの詰問に、アーチャーは髪をかき回した。
「私は射撃が苦手でしてね。
彼らは射撃も名手ですから、任せることにしました。
ともかくランサー、宝具使用を了承したのはあなたですよ」
その言い種に、白い騎士は低く笑いを漏らした。
「まったく、相変わらず悪辣ですな……」
ヤンの思考は、自らのサーヴァントに伝達された。ゲイボルグには、二つの伝承がある。
一に曰く、必ず心臓を穿つ呪いの槍。二に曰く、数十の鏃にわかれ、敵を討つ雷の槍。それが両立したら困る。薔薇の騎士はヤンの宝具であって、ヤンが死ねば消滅する。かといって、薔薇の騎士を殺されるのも色々と支障を来たす。
防ぐ方法はある。最初にランサーに遭遇したとき、彼は投擲の構えを見せた。伝承に語られるように、真名開放には投ずることが必要なのだろう。槍を手放せる状況を作らなければいい。瞬間的に包囲すれば、己の技量で戦うしかなくなる。
――彼はとても強いが、君たちは宇宙一の精兵。決して負けはしない。――
「では、閣下のご指名により、お相手仕りましょう」
中将と呼ばれた騎士はそう言うと、一歩進み出た。見惚れるような敬礼で名乗る。
「小官はワルター・フォン・シェーンコップ。伝説の英雄に、一手ご教示を賜りたく」
「こっちはゲールの者か?
ますますわけががわからねえ。
貴様ら、どこの弓兵に、どこの騎士だ」
「強いて言うならば、我らはつれなき女王に仕える者ですな。
だが、そんなごたくはどうでもよろしい」
シェーンコップは戦斧を突き出した。
「我らはただ戦うのみ」
白い炎に輝く斧に、真紅の槍が重ね合わされる。
「違いねえ」
美麗な顔に、獰猛な歓喜を乗せて、クランの猛犬は躍動した。突き出される真紅の槍を、輝く戦斧が弾き返す。一合、二合、三合。セイバーとの剣戟よりも、高く澄んだ刃鳴りが響き渡り、無数の火花が両雄を飾る。互いに劣らぬ長身の主である。敏捷とリーチはランサーが勝るが、耐久力と防御においては、シェーンコップが勝る。
墓地での戦いが、より迫力をもって再現された。両者の武器が見えているせいだ。迫りくる稲妻の如き真紅の連撃を、虹の煌めきが弾き、絡めとり、撃ち込み、突き上げる。瞬きするほどの間に、数十の動作が連鎖する。相手を打倒する、ただそのためだけに。
「さすがは伝説の大英雄ですな。確かにお強い」
「貴様こそ、その腕で名を残さぬはずがあるものか。
あのアーチャーといい、何者だ?」
ランサーは、不審の目をシェーンコップの武器に向けた。白い斧は、刃の部分が透明で、こちらが本来の色なのだろう。虹のような輝きを放ち、彼が今まで刃を交えたどんな武器とも感触が違う。
両雄の武器に目を吸い寄せられていた士郎は、ゲイボルグの神秘よりも、アーチャーの軍勢の武器の異常さに、目を剥くことになった。
おかしい。ランサーと一騎打ちをしている騎士以外も、多くの者がまったく同じ斧を持っている。そして、銃の台頭で、鎧の騎士は姿を消したと言ったのは、アーチャー自身のはずだ。白い甲冑の騎士らには、大型の突撃銃のようなものを構えている者がいる。
そして、その斧に眼を向けると――。
「な、なんだよ、あれ。う、嘘だろ。一体何なんだよ、あいつら!――」
一際高い音で刃が噛み合い、両者はふたたび激突した。
「シロウ、どうしましたか!」
「セイバー、あの斧、変だ。あ、あれは」
「そいつは今は、他言無用に願いますなあ」
いつの間にか、士郎らも騎士に囲まれていた。いや、声をかけてきたのは、アーチャーと同じ軍服姿の男だった。こちらは、ランサーよりさらに背が高く、がっしりとした肉付きの巨漢である。彼は武器らしいものは持っていなかった。いかにも気がよさそうで、声も朗らかだ。
「まあ、ちょっと待っててもらいましょうや。
要塞防御司令官どのも、張りきってますからね」
「無理もないですよ、副参謀長。
なにしろ、隊長じゃなかった、中将が閣下の目の前で実力を披露するなんて、
今回が初めてですから」
騎士の先頭に立っているのは、こちらも軍服の若い男だった。焦げ茶の髪と瞳をした、純朴そうな青年だったが、彼の手には銃がある。長身で筋骨逞しく、銃がなくても士郎などひとひねりだろう。セイバーは身構えかけたが、青年は銃を収め、びしりと敬礼をした。
「失礼しました。小官は薔薇の騎士連隊長代理です。
我々は、アーチャー ヤン元帥閣下の部下であります。
閣下に貴官らの護衛を命じられました」
「言い訳を!」
巨漢が、両手を開いて顔の両脇に掲げた。
「まあまあ、落ち着いてください。閣下からの伝言です。
こちらのご令嬢は、聖杯の担い手として、害するわけにはいきません。
閣下のマスターも似たようなものですが、セイバーのマスターは違うんだそうです。
光の御子の宝具に注意するようにと」
この進言に、当の令嬢が真紅の瞳を細めた。
「ありがとう、ヘル……」
「パトリチェフですよ」
「ヘル・パトリチェフ。
ねえ、皆さん、ちょっとお下がりになって。出てきて、バーサーカー!」
イリヤの指示に従って、士郎とイリヤから少し離れた一団は、回れ右して半円形の隊列を組んだ。その背後にはバーサーカー。二人を護衛対象と認識し、バーサーカーを友軍と認める行動だ。セイバーや士郎の突撃を押しとどめる柵でもあった。
隊列の後方、軍服の二人がのんびりと会話を始めた。
「おや、閣下は中将の活躍を見たことがなかったかな。第七次の攻略の時は?」
「あれは相手がザルで、変装したまま司令部までフリーパスだったんですよ」
「クーデターの時、シャンプールで活躍したのは、
中将が野戦服にキスマークつけて、幕僚会議で報告してたがねえ」
「でも、閣下は戦艦にいらっしゃたでしょう。
あれも結局、スパイの拘束作戦に移行しましたしね」
巨漢と青年の話は続く。
「なるほど、そう言えば。ガイエスブルクの時は……あー、査問会だったなぁ……」
「そうなんですよね。もう、やる気満々ですよ、中将も」
サーヴァントはマスターによってステータスが上下する。マスターの優劣はもちろん、絆の深さでも発揮できる力が違ってくる。
「ねえ、アーチャー。あんたの部下の方が強いのね」
敏捷と魔力以外は、ランサーにそうそう劣らない。そして幸運は遥かに高い。ステータスを見るかぎり、セイバーに次ぐだろう能力の持ち主だった。
ヤンは黒い瞳を細めた。数多の戦場を越え、宇宙に勇名と悪名の双方を轟かせた薔薇の騎士。その十三代目の連隊長で、最初で最後の中将となった伊達男だ。
「そりゃそうだよ。彼は当代で五指に入る勇者だったからね」
剣戟の間から、シェーンコップが反論する。
「過去形で言ってほしくはありませんな!」
黒い眉が一気に角度を変えた。
「現在形なら、貴官はここにいないだろう! 何をやってるんだ、まったく」
シェーンコップは兜、いやヘルメットの下で舌打ちした。
「おや、我々を置いていった方の言葉とも思えませんな。
しかたがないでしょう。あの坊やのお目当ては閣下のみ。
死なれてしまっては、残りは眼中にないわけだ」
「だからだよ!
平和を乱す元凶が死んだんだ。
さっさと帝国と手打ちをすりゃよかったじゃないか!」
「帝国印絶対零度の剃刀なら賛同するでしょうが、
戦争が趣味の、皇帝ラインハルトが聞き入れるものですか」
上昇した眉が下がり、静かに部下を見据えた。
「だからといって、再戦するとはね。……馬鹿だよ。
貴官は百五十歳まで生きるんじゃなかったのかい。
あと、百十年も短いじゃないか……」
上官の殊勝げな言葉に、誤魔化される部下ではない。
「まったく、ああ言えばこう言う。四年も短縮しないでいただきたい。
……最盛期というなら、中身も可愛げのある頃にならないものか」
「そういう貴官も若返っているが」
ぼそりと吐かれた反論にもかかわらず、刃の伴奏の隙間を縫ってシェーンコップの耳に届いた。
「……なんですと?」
「鏡がないのが残念だ。第七次の頃ぐらいに見えるよ」
薔薇の騎士連隊の第十三代連隊長が、上官に問い返すまで三合あまりの刃音が挟まった。
「なにをおっしゃりたいんです」
「いい年して無理したと言っているんだ。ああ、私じゃなくて聖杯がね」
無言になったシェーンコップは、眼前の槍兵へと技巧と膂力の限りを叩きつけた。斬撃を渾身の力で弾き返したランサーが、犬歯を剥きだした。
「てめえら、真面目にやれ!」
シェーンコップは最少の動きで斧を引き戻し、突きこまれた槍を防いだ。返す一撃で首を狙う。金銀妖瞳の首の代わりというわけではないが、殺すつもりでかからなければならない相手だ。
上官の推測によれば、ランサーは初戦は様子見に徹しているのではないかという。ヤンの命に背いても、斃せるものなら斃したい。だが、この蒼い騎士はシェーンコップが戦った誰よりも強い。やはり、宇宙よりも時空のほうが広大とみえる。
「大真面目だとも。俺がこんなに長時間戦った相手はそうはいない」
「そいつは言えてる。俺もだ……ぜっ!」
戦場では、滅多に長時間の一騎打ちにはならない。軍事の白兵戦は、多対多が基本だ。ランサーことクー・フーリンも、赤枝の騎士らと槍を揃えて戦っていた。一人奮戦した戦では、絶対に負けるわけにはいかず、躊躇なく宝具を開放した。この男のような雄敵と、これほど長く槍を交えたことはない。
「は、狸だが、筋は通すと言うわけか」
「ああ、ガチガチにな。貴官もマスターに伝えることだ。早く停戦に応ずべしとね」
幾重にも火竜に取り巻かれ、澄んだ刃音に伴奏された会話。その間さえも、真紅の驟雨と白と虹の竜巻が交錯する。
「俺も言うだけは言っといたが、あの野郎の考えなんざ知ったことかよ」
「それはいかんな。上官と意志疎通を欠くのは敗北の素だ」
会議好きの提督の部下は、ランサーの精神をざっくりと斬り裂いた。バリトンの美声は、ヘルメットにくぐもることなく広場に流れる。
「こちらは構わんがね。そういう陣営は閣下の大好物だ」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ」
ヤンの抗議が、ランサーの耳に届いたか否か。
「決着もつかないようですし、そろそろ予定時刻です。お開きにさせてもらいますよ。
ランサー、重ねてマスターに伝えて下さい。
聖杯戦争には重大な不備がある可能性が高いと。では、総員配置に戻れ!」
広場を埋め尽くしていた騎士が、一瞬で掻き消えた。遠ざかっていくリムジンが一台。ランサーの前には、左肩にアーチャーとイリヤを乗せたバーサーカーが立っていた。
「つくづく、てめえは賢くて汚いな」
「アインツベルンのマスターからもお願いするわ、ランサー」
アーチャーの膝の上で、イリヤは妖精のような笑みを浮かべて言った。
「イリヤ君、それはお願いとは言い難いなあ……」
バーサーカーの右手には、ランサーの身長ほどもあろうかという、石作りの斧剣が握られていた。
「これは脅迫って言うんだよ」
「てめえが言うな!」
とはいえ、負け犬の遠吠えであった。ランサーには単独行動スキルはない。彼の宝具は非常に燃費が良いものだが、全力の白兵戦を十五分近くにわたって続ける方が、ずっと魔力を食うのである。
まして、ここはかつての大災害の跡地。死者の怨念や、生者の悲しみが色濃く残り、光の御子たるクー・フーリンにとって、相性の良い場所ではない。
「さて、あなたの願いも叶えた事だし、
ライダー陣営の牽制に協力していただきますよ」
アーチャーが右手を振って何かを投げた。コントロールが悪く、ランサーの頭上を越えたが、そこは最速のサーヴァント。地面に衝突する前に、何なく掴み取る。
「なんだ、こりゃ」
「携帯電話です。必要がある場合、それで連絡します。
じゃあ、今日はありがとうございました。気をつけてお帰りください」
「まったく人を食った野郎だが、てめえの部下は確かに猛者だったぜ。
だが、次は俺が勝つ。じゃあな」
蒼い髪が翻り、凄まじい早さで遠ざかる。律儀に携帯の箱を持って。
「よかった、なんとか帰ってくれて」
「どうして? アーチャーの方が強かったのに」
首を傾げるイリヤに、黒髪が振られる。
「いや、もう、私が限界だ」
イリヤを包んでいた温かな感触が消失した。
「きゃっ!」
アーチャーの体の厚み分を落下して尻餅をつき、イリヤはバーサーカーの肩から転がり落ちそうになった。すかさず従者は斧剣を放り出し、大きな手でイリヤを支えてくれた。
「あ、ありがとう、バーサーカー」
アーチャーは死んだわけではない。だが、実体化できなくなるほど消耗しているということだ。イリヤは判断し、瞬時に決断した。コートのポケットに手を突っ込み、取り出したのは携帯電話。
「もしもし、リン。アーチャーが消えちゃった!
いまからそっちに行くから、セラに車を戻すように言って。
行くよ、バーサーカー!」
巨体に似合わぬスピードで夜を駆ける鉛色のバーサーカー。その目指す先、赤いテールランプがUを描いたかと思うと、白いヘッドライトが近づいてくる。ほどなく両者は合流した。
「ねえ、リン、アーチャーは大丈夫!?」
霊体化してしまうと、サーヴァントの様子はラインが繋がっているマスターにしかわからない。
「生きてるよとは言ってる。でも、使えない宝具って言うわけだわ」
アーチャーの宝具『薔薇の騎士』は、アーチャー自身の魔力によって展開される。ここまでの五日間、凛の魔力を絞り取るだけ絞り取って、かつ令呪による補充をしないと使えない。そして、十五分弱の使用後は、本人が実体化できないほど消耗する。
「使えないとは失礼な」
バリトンの抗議に、少年少女が一斉に視線を向けた。
「あなた、誰!?」
※アーチャーのステータスが更新されました。※
【CLASS】アーチャー
【マスター】遠坂 凛
【真名】ヤン・ウェンリー
【性別】男性
【身長・体重】176cm・65kg
【属性】中立・中庸
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力B 幸運C(EX)
( )内は戦闘時。
【クラス別スキル】
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要要。
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【固有スキル】
カリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。Aランクはおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
軍略:A+
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。 自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、 逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、 その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、 その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
【宝具】
『制式銃』
ランク:D
種別:対人宝具 レンジ:0~30 最大捕捉:10人
別名『使えそうな宝具』。レーザー光線による攻撃を行う銃器。
本来は大量生産の兵器だが、現代から千六百年後の未来という、時間と技術の格差により、神秘を纏う事になった。
使う者が使えば、地味ながら非常に強力な武器になりうるが、使い手がヤンだということで威力をお察し下さい。
だからこそ、ひっかけの釣り針にもなるのだが。
『三つの赤(ドライロット)』
ランク:B+~C+
種別:対人・対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:約1,700人
別名『使えない宝具』。宝具????の操作兵員のうち、薔薇の騎士連隊を出撃させる。
彼らは、勇名と悪名を轟かせた、宇宙最強の陸戦隊員である。
レーザーと小火器無効の装甲服に、炭素クリスタルの戦斧や荷電粒子ライフルなどで武装している。
大威力の反面、秘匿性は皆無、展開には相当の面積が必要。 魔力を大量に必要とし、令呪による補給も不可欠である。彼らはアーチャーのサーヴァントであり、アーチャーが死亡すると消滅する。非常に運用が困難な宝具である。
『????』ランク:-- 種別:-- レンジ:-- 最大補足--
触媒は、遠坂家にあった万暦赤絵の壺。ヤンの父のコレクションで、唯一の本物で形見として相続していたもの。
聖杯にかける願いは特になし。召喚に応じた理由は、人類史上にも珍しい平和な時代を見ることと、伝説の英雄たちに会ってみたいから。したがって、戦闘意欲はあんまりない。
知識欲の赴くまま、聖杯戦争のあれこれを考察しているが、本当は、英雄たちと時代を超えたバカンスを呑気に楽しみたい。
しかし、戦うからには負けないようにする、『不敗』を冠された戦術家である。