三度目のミト   作:アルポリス

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 三度目のミトさんは色々突きぬけているような気がします。もう、ミト要素が無いような気がする。

 それでも見てやんよ! と言う方はどうぞ。




ミトとくじら島出航の話

 

 五日後、私ことミトは袖の無い黒のベストに地味目のシャツ、これまた黒のロングスカートという格好に身を包みながらもあまり服装には似合わないピンク色の旅行用キャリーバックを引いて、港にやって来た。

 当然息子も一緒で残念ながら手を繋ぐのは恥ずかしがられて止められたが、私の横を嬉しそうに歩く姿はとても可愛らしいから許してあげた。ちなみにピンク色のキャリーバックは次男が私の誕生日の時に初めて買ってくれた大切な代物だ。一見小型に目ながらも収納スペースは大きく、三日分の洋服を入れてもまだ余裕があるので家にあった携帯食料、別名店に出していた乾きものを開いているスペースの半分に収納、残りは私の大好物の酒類、ウイスキーの大瓶を入れた。

 

 あら、こう考えるとあまり入らないわね。どうしようかしら、船の中できっと飲み干してしまうわ。

 

 まあ、これもまた旅先の醍醐味になる。

 

「つまり現地調達よね、楽しみだわ」

「何か言った、お母さん?」

「何でもないわ、これから楽しみね」

「うん」

 

 ホント、うちの子マジ最高。私の楽しみとゴンの楽しみに若干のズレがあるのは否めないけれど。

 

 さて、大陸に向かう大型船が目の前に見えてきた。既に港から出航する手筈を船員が行っている。ここ、くじら島は内海の中でも中間地点にあってよく給油や食料の確保で立ち寄る大型船は多い。その中の一隻に今回搭乗させてもらうのだが、長男曰くその船もまたハンター協会の息が掛っているようで表向き貨物船らしいが裏はまだ見ぬハンターを目指す者たちの能力検査を行っているらしい。そう考えればせっせと働く船員達の動きに無駄がないのも頷ける。

 

 あれは格闘訓練などを受けたことによる洗礼された動きだわ。でも、あの子が言うには船で落とされることは無いらしいから適度に気を抜いて行くとしましょう。

 

 私とゴンはお互いに顔を見合わせて頷くと桟橋に向かって歩き出した。けれどすぐに後方から私達を呼び止める声や沢山の足音が聞こえてくる。

 

「何かしら?」

「あ、くじら島の皆が見送りに来てくれたみたいだよ」

 

 先に振り向いていたゴンがそう言ったので私も習うように背後に向けば島のほとんどの島民が私達に見送りの声援を送っていた。何人かの島民は何時作ったのか大きな垂れ幕を掲げている。

 

 

――我がくじら島の戦女神万歳――

 

 

 垂れ幕にはそう書かれていた。それは誰でもない私の事のわけで、昔の渾名で呼ばれるなんて何だか久しぶりである。

 実の所、三度目のミトになってからこの島が沢山の密漁者に狙われているか思い知らされたのも今は良い思い出だ。最初のミトならばそれを島民の男たちの役目、そう言った荒事を生業とする者の役目として遠ざけていたが、三度目の私は自ら動くことにした。

 島民の男は所詮素人で、生業とするもの、要はハンターなどを雇えば多くの金が掛ってしまう、それなら素人とは言え、周りはそれを認めてくれなかったが、あくまで今生は素人でも少しは動ける私が対処すれば良いと思ったのだ。後は密漁者と何度もお話したら…いえ、本当は拳で語っていったら何時の間にかそう呼ばれるようになったというだけの話。

 

 昔を思い出して内心恥かしがっているとくじら島唯一の雑貨屋店主テム、三十二歳二児の父がゴンに発破を掛けるような声援を送っていた。

 

「おい、ゴン。お前は我らが戦女神の息子なんだ、立派なハンターになれよ」

「え、それはなりたいけど。ねぇ、その何とか神ってお母さんを言っているの?」

 

 我が愛しい息子、ゴンよ……戦は読めなくとも女神くらい読めるようになっていて欲しかったわ。何とか神って、ほぼ読めていないじゃない。

 

「おいおい、ミト、お前話してないのか?」

「まあ、昔のことだから」

「じゃあ、ゴンの奴、密漁者百人VS戦女神ミトの話も、三百人の密漁者軍団をくじら島の森先代主とタッグを組み、奇跡の共闘戦線で退けた逸話も知らねぇのか!?」

「何それ、聞きたい!?」

 

 まったく、テムのせいでゴンが食いついちゃったじゃないの。あれらの話って黒歴史とかいう奴に入りそうであまり語りたくないのよね。あ、先代の主はコンの母親のことよ。

 

「おま、そりゃゴンが可哀そうだ。シー坊やポーの奴は知っているんだから自分の子供に差異を付けちゃ駄目だろう」

 

 くっ、私の方が親として先輩なのに知ったような顔で言われるとかなり腹が立つが、テムの言葉も一理ある。私はゴンに何時か必ず教えると約束してこの件を終わらせた。

 

 島民と別れの挨拶を交わしながらお祖母ちゃんのことを頼み込めばすぐに快諾してくれたので嬉しい限りだ。

 一人一人と別れの挨拶を交わしていればどうやら時間が来たようで、周航の合図、船の汽笛がくじら島の空に木霊した。

 

 彼らとは少なくとも数カ月は会えないが仕方がない、私とゴンは挨拶も半ばで走り出して急ぎ船に乗り込んだ。

 

 大型船は乗客の私達を最後に大海原へ走り出した。旅の始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 船の甲板では多くのハンター候補生が私達に鋭い視線を向け、口々に帰れ、子供がくるところじゃないだののお決まりのような文句を告げてきた。その中には私たちを姉弟だと思っての発言をしている者もいるようで、私はここでも十代に見られているらしい。

 今年で三十ゴホゴホ歳の私からすれば嬉しいような、情けないような複雑な気持ちになってしまう。だが、取り敢えずは言葉の端々に悪意を感じるので鬱陶しいことこの上ないという一点に尽き、私はゴンの目を手で塞いで見た目ゴロツキの様なハンター候補生に笑って見せる。

 

 すると、あら不思議、ゴンの視界が戻ると沢山いた候補生は皆眠りに落ちているのでした。

 

「お母さん、皆、泡吹いて眠っているんだけど、これって」

「睡眠不足だったのよ」

「でも、皆が皆」

「睡眠不足だったのよ、ゴン」

「……うん」

 

 決して失神させたわけじゃないの、少なくともゴンはそう思っていなさい。私は神妙にそう告げて歩き出す。聞き分けの良いゴンは苦笑を浮かべながらも私の後に続く。

 目指すは船に設置された寝台室、先ほどから風に乗って微かな潮の違和感を素肌に届けている。この香りはくじら島に住む者なら子供でも理解できる前兆だ。

 

「嵐が来るわね、ゴン」

「うん、まだ遠いけど確実にこの船は巻き込まれるよ、あの人たちどうするの?」

「大丈夫よ、程よく眠れば勝手に起きるわ、それに……」

 

 肌に纏わりつくこの潮加減ならば、そうそう船が沈むような嵐にはならないはずだ。ただ、この船と同じ航路で飛行している海ズルが私達をあざ笑うかのように語り合っているのだ。

 

 一度の嵐で気を抜くな、地面に這いまわる奴らは二度目に気を付けな、それこそが本当の嵐だよ、と。

 

 私はゴンに言うべきか迷ったが少しの思案で口を閉ざすことにした。

 既にハンター試験は始まっている、ここからは私も一人の候補生としての態度を取るよう心がけるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 一度目の嵐は思いのほか船体を揺らしていた。私は与えられたハンモックに寝ころび、早々眠りについたので以降の状況は分からないが、起きた時には既に嵐は収まっていてゴンは忙しなく動きながら嵐でグロッキー状態の候補生たちを世話していた。ちらほらと見える船員達は流石と言うべきか、あの程度の嵐では堪えていないらしい。

 そして二人の候補生、一人は私と同じくハンモックに寝ころび瞳を閉じている金髪の女の子、もう一人はサングラスを掛けながらエロ本を読んでいる私と同年代の男性、その二人は先頃の嵐など気にも留めないでリラックス状態を謳歌していた。

 

 ゴン以外にも中々骨のありそうな候補生もいるようね。彼女らはきっと無事にこの船から目的地に着くわ。私達と同じように。

 

 既に私の中でグロッキー状態の候補生は外されている。この程度の嵐でダウンするようではきっとこの先に待つ試練に耐えられないだろう。下手すれば命を落としかねない。むしろそうでなければ困るのだ、私のハンター試験を受けた目的の半分が叶わなくなってしまうのだから。

 

 ハンモックから飛び降りて大きく背伸びをするとゴンがいるのであろう甲板に向かった。

 

 あの子は嵐の後に呼び込まれる快晴を好んでいた、きっといるはずだ。

 

 甲板に出ると案の定、ゴンは船の先端部分に立ってまだ強い風を感じていた。それでも逆立つ髪が揺れないのはこれ如何に。ホント、父親のジンも含めてあの髪質は不思議が詰まっているような気がする。ふと、ゴンから離れた場所に立つ船長らしき人物が何かゴンの姿を見て驚きを見せていた。

 

 それが気になった私は船長の背後に音もなく忍び寄って声を掛ける。

 

「どうかしましたか?」

 

 船長は僅かに肩を揺らすもゆっくりとした仕草で私に視線を合わせてきた。この船長出来るという感想を内心で思い浮かべながら、想像で稲妻を散らせ白目を剥いた状態の私を作ってみた……そうよね、意味が分からないわよね……私も何でこんな想像をしたのか分からないわ。ただ、国民的な漫画ガラス的な仮面の描写を取り入れただけなの、反省はしていないわ、後悔はしているけれど。あ、ガラス的な仮面は初めての転生で知った漫画ね。私が住んでいた町は大都会で娯楽が豊富だったのよ。なんか住んでいた町には合わないような漫画だったのでよく覚えているわ。

 

 話が逸れてしまったものの、私はもう一度船長に同じ問いを掛けた。今度は私の息子というキーワードを付け加えて。

 

「お前さん、あの坊主の母親なのか?」

 

 すると案の定、驚きを見せて私に問いかけてきた。問いを問いで返すなんて無粋、などとは言わなかった。また、脱線しそうだし。

 

「ええ、残念ながら本当の母親では無いですけれど、育てたのは間違いなく私だわ」

「そうかい、てっきり姉だと思っていたんだが」

「これでも三十は等に越えました」

「人間は不思議に満ち溢れているな、お前さんも、あの坊主も、これだから人との関わりを止められない」

 

 この船長さん、豪胆な方だわ。その豪胆さに免じて歳の件については目を瞑りましょう。

 

 だが、もう一つのことに関しては聞かせてもらう。

 

「それで先ほどの問いに答えていただいていないんですけど」

「いや、何、先ほどの嵐に平然としていたからな、どんな坊主だと思って見ていただけだ」

 

 そう言って平然と嘘を付く。残念だが僅かに瞳孔が右寄りになったのを確認した。船長の言葉には嘘が隠されている。それにゴンを見て驚いた姿、あれはどこか懐かしさを孕ませていたような気がしてならない。もし、それが正しければゴンに関して考えられる懐古は一つ。

 

「誰かに似ていました?」

 

 私の問いに船長の目がスッと細まった。特徴的な赤鼻とはミスマッチングのような気がするが、並みの男では出せない凄みを感じる。

 残念ながら私を怯えさすまではいかなかったようだが。

 

「ご自身の口から言いますか? それとも私の口から言いましょうか? 試験官さん」

「お前さん、知って……」

「私の息子は一人だけではないですから、長男は既にハンターですわ」

 

 実際ハンターとして活動しているかは別にして、と内心で思い浮かべながら少し好戦的な気配を交じらせた笑みで言えば船長は観念したのか、ジンの名前を出してきた。

 やはり、この船長はジンを知っていて、それを息子のゴンに重ねていたのだ。

 

「ホント、血の繋がりは馬鹿にならないわね……あの子はやっぱりジンの息子なんだわ」

「気を悪くさせちまったかい」

「いえ、聞いたのは私ですから、大丈夫ですよ、私とあの子の絆は強固のつもりですから」

「そうかい」

 

 おどけた風を装って言えば、船長も苦笑で返してくれた。

 

 あら、察せる男は嫌いじゃないわ。とても、素敵ね。

 

 互いに無言になり、私は視線をゴンに向けた。ゴンは仕切りに空を飛ぶ海ズルを見ていた。いや、あれは聞いていたという言葉が正しいだろう。

 

 どうやらゴンは気づいたようだ。

 

「船長さん、息子と話してくださいな、面白い話を聞けますよ」

「ほう、そりゃ楽しみだ。今回のハンター試験は粒ぞろいが多いな、あんたを含めて」

 

 渋みのある声で告げられ、最後にウインクを貰い、ほっこりとした気持ちになってその場を後にした。

 

 目前に二度目の嵐が迫って来ている。それも先ほどよりも巨大な、言わば生死を掛けなければならないほどの嵐が、私達四人の候補生に試練として立ちはだかるだろう。

 

 私が足を運んだのは船内にあるだだっ広い食堂だった。そこで一人食事を取っていると船内放送が掛る。

 

「お前ら、これからさっきの倍近い嵐の中を航海する、命が惜しい奴はすぐに救命ボートで近くの島に逃げ出すこった、命を軽んじるような奴は残って見やがれ」

 

 船長の声の元、甲板が忙しない怒声が響き渡っていた。皆、我先にと救命ボートで逃げ出しているのだろう。ちらちらと食堂勤務の船員達が私を見てくる、逃げないのかという問いかけをしてきそうな視線だ。私はそれににっこり笑みで返すと新鮮な魚をムニエルにした料理を堪能する。当然の如く白ワインは欠かせないので昼間からお酒を頂いていてとても幸せな気分だ。

 

 

 

 

 

 一度目の嵐よりも揺れる船体に飲酒も相まって気分が良くなり、ウトウトしていればサングラスを掛けた私と同い年と思われる男性に声を掛けられた。

 

「おい嬢ちゃん、船長がお呼びだぜ」

 

 それだけ告げてすぐさま去って行った。残された私は気持ちの良い気分を台無しにされたこと、また少女に間違われたことを含め、腹が立ち始める。それでも、試験官の言葉なら従わなければと、重い腰を上げてゴン達の待つ場所まで移動した。途中何度も揺れたが重心に従って歩けば足場の悪い場所でも難なく進める。

 

 そこにはゴン、金髪の少女、オッサンの姿があった。向かい合う形で船長が柱に掴まっているのはご愛嬌と言えよう。

 

 船長の話を要約すればどんな理由でハンターを目指すかというものらしいが、はっきり言って私の選択はこの世でもっとも愚かで、されど純粋な志望理由だろう。

 ゴンは自ら実力を試したいという、これもまた動機としては薄い理由を上げた。最後に私の顔を見ながら付け加えるよう父親に会うんだとも告げていたが、別に私はもう気にしていないから大丈夫だという意味を込めて微笑を浮かべる。それにホッと安心するゴンはやっぱり最高の息子、その一人だ。

 

 続いて志望理由を語ったのは金髪の少女、彼女はクルタ族という特殊な一族の生き残りで、仇打ちのためハンターになりたいようだ。 仇打ちの相手はA級犯罪者集団らしく熟練のハンターでも早々手が出せないらしい。

 

 幻影旅団……前世も含めて聞いたことないわ。まあ、前世は別にして、ここ20年は殆ど、くじら島にいたからそのせいかしら。

 

 次に志望理由を語ったのは……まあ、オッサンだ、富と名声が欲しいらしい。以上。

 

 さて最後は私の番になる、が、オッサンの志望理由にケチを付けた少女に激昂した無駄に年を重ねた可哀そうなオッサンがクルタ族を侮辱、決闘に発展しそうになる。止めようとする船長の声も聞かず、甲板に向かう二人。

 

 ちょっと待ってほしい、私はまだ志望理由を語っていないのですよ。もちろん、語らなくて良いならそれに越したことは無いですが、相手は試験官、ここで落とされたら洒落にならないじゃないか……あ、最後口調戻った……けど、いいや。

 

 我関せずと言ったゴンはこの際別に良い、きっと私の教えである「その人を知りたければその人が何に対して怒りを持っているのか知れ」という自分で言うのも何だが良い言葉を忠実に守っているのだろう。

 前世の私なら言いそうな言葉だもの、結局知る機会もなくハンターを憎んだまま死んだから本末転倒になってしまったけれど、ゴンの解釈で合っているわ。けどね、残念ながら今生の私が言ったその言葉の意味合いは微妙に違うの。

 相手の怒りを知って尚、自身が暴力を振るえるかという単純な理由、つまり相手の理由を知らず暴力を振るって世間的に犯罪者となるのは駄目よ、という戒めの意味で語ったものなのだ。

 

 つまり、自分の志望理由も語れず、落ちるかもしれないという理不尽な現実を前にして私は正当な武力を行使出来るということ。

 

 深く息を吐きだして握り拳を作ると船体の一部目掛け振りかぶった。破壊音が響き渡ると私に全ての注目が集まる。木とはいえ頑丈な壁を見事に破壊して見せれば彼らはポカンとした表情を浮かべていた。ゴンは何故か目をキラキラさせて尊敬の眼差しを向けて、くじら島の戦女神だと喜んでいるようだったけれど、そんなに喜ばれたら私は図に乗ってしまう。

 

「てめぇら、さっきから黙って聞いていれば、ぎゃあぎゃあ煩いんだよ。決闘するのは勝手だが、それはてめぇらが試験に落ちてからにしろ、私やゴンを巻き込むな」

 

 低く凄むような声色で二人を…少女に対しては可哀そうだ…先ほどの件も含めてオッサンの方だけを睨みつければ泡を吹いて失神しないまでもガタガタと体を震えさせ始めた。少女はオッサンの様子に首を傾げ、私と交互に視線を動かす。その姿が小動物ぽくって少し可愛いが、今は自重する。いや駄目だ、ゴンのキラキラ眼差しは強くなる一方で表情が緩んでしまう。

 

 かっこいいお母さんが好きなら、がんばっちゃうわよ。

 

 ふと威圧感を止めるとオッサンは肩で息を繰り返す。膝を付けないところを見るとこのオッサンは根性が座っているようだ。流石この嵐でも平気な顔をしているだけのことはある。

 

 その根性に免じて決闘を許そうじゃないか、お母さんは寛大な心も持ち合わせているのですよ、ゴン君。よく見ているかしら?

 

「まったく、いい歳扱いたオッサンが少女に食って掛るなんて情けない。だが――」

 

 まあ良い、お互いを知るために決闘を許してくれないか、船長と続けるはずだった言葉はオッサンと少女の叫び声に掻き消された。

 

「俺はオッサンじゃねぇ、これでも十九歳だ!!」

「私は男だ!!」

「……お母さん、僕でも分かったんだよ……少なくとも性別だけは」

「聞こえてるぞ、ガキ、お前もか!?」

 

 どれが一番心を痛めたかって勘違いした自分自身よりも息子に呆れられた視線を貰う方だったようだ。後、ゴン、あんたもオッサン改め、青年の方は分かっていなかったんじゃない。

 

 とは言え、ゴンからの呆れた視線には耐えられそうにない。

 

「えっと……ごめんね、二人とも、そう、男の子達だったんだ……うふふ、お母さん間違えちゃった……うふふふ、恥を掻かせてごめんね、ゴン。今からこの荒れ狂う嵐の海に飛び込んで三人に、いえ、船体を壊してしまったから船長も入れた四人にお詫びを!!」

「また!?」

 

 ゴンの叫び声が聞こえるも既に男の子達の間を駆け抜け、あっという間に甲板に付くと荒れ狂う海に飛び込もうとその場所を見据える。まだ午後の時間帯なのに厚い雲で夜の海のような暗さ、不気味さが際立っていた。後ろから私を呼びとめるゴンを始め、三人の叫び声を耳に捉えながらも、いざ、ダイブを試みる。

 

 直後、稲光と共に雷が船のマストに落ち、それによって破壊された破片が私達の騒動を聞きつけ見に来た一人の船員に直撃、私より先にその身を船から投げ出した。

 

「ゴン、手伝いなさい!!」

 

 あらん限りの声を使い叫んですぐさま方向転換した私は駆ける足をバネにして飛翔すると空中に舞う船員の体を抱きこんだ。眼前に広がるは荒れ狂う海、一瞬の思考の中で選び取らなければならない助かる方法を二つ、導き出した。

 

 一つは他力本願で、もう一つは私にとって奥の手とも言えるもの。出来れば奥の手を出すのは躊躇してしまうが、人命には代えられない。私は呼吸を整えて久しく使っていない奥の手を出そうとする。

 

 だが、ゴンは正しく私の求めに応じてくれたようだ。

 

 私の足をがっしり掴むゴンの両足を何と二人の男の子達が片手で掴みながら、もう片方の手でしっかりデッキを掴んで支えていたのだ。咄嗟の行動にも関わらず統制の取れた行動を取った三人の姿を垣間見て私は内心で喜びを噛みしめる。

 

 近しい年齢は兄達しかいなかったゴンにも、ようやく友と呼べる存在が出来るかもしれない。それだけでハンター試験を受けたかいがあったというもの。

 

 その予言にも似た私の願いは等しく叶えられることになる。

 

 私達親子を含め、サングラスの青年――レオリオ、金髪の少年――クラピカ、四人は無事にハンター試験会場のある大陸に到着した。

 

 

 当然だが試験は四人とも合格、と言うより船長の粋な計らいで試験はうやむやにされ、既に合格の報告がなされていたようだ。

 




 副題はミト、勘違いでお詫びをと言った感じでしょうか?

 これからもこんな形で進んでいきます。


 それではまた次回で

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