ルピナスの花   作:良樹ススム

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※キャラ崩壊してるかもしれません


第八話 常に前進

 

「今日は勇者部としてのボランティア活動は、一切行いません!」

 

 風のこの一言は俺達、勇者部部員を同時に唖然とさせた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 事のはじまりは、前日にまでさかのぼる。

 俺達勇者部は毎度お馴染みのゴミ拾いを行っていた。依頼のない日はいつも行っていたため、この町はゴミの少ない良い町だと地元民にはよく言われていた。

 しかし、ある日東郷がふと疑問に思ってしまったのか、こんなことを言い放ってしまったのだ。

 

「勇者部っていう名前格好いいけれど、名前の割には勇者らしいものが何もないような気が……」

 

 残酷な一言だった。この後東郷も自分の失言に気づきフォローをしたりもしたが、風には反応がなかった。一応、後々の事を踏まえた名前としてこの名前はついた。しかし、風は設立する際こうも言っていた。

 

「普通にボランティア部にするよりも、勇者部の方が格好いいし、おしゃれで良いわよね!」

 

 つまりだ。この勇者部という名前は風のセンスにすべてを任せ、それによってつけられた名前だった。当然、東郷の発言にこのネーミングの発案者である風は悩んだ。自分達はこのままで良いのか、と。

 その瞬間、風の脳裏に神が舞い降りた。

 

 だったら、自信をもって勇者っぽいと思えるものを皆で考えちゃえば良いじゃない。

 

 風はその神の発言に感銘を覚えた。それを後から聞いた俺は、完全にその神が風で遊んでいるようにしか思えなかったが、それでも風から見れば救いの手をさしのべる神にしか見えなかったそうな。

 そして、翌日。現在の状況である。

 

「今日は勇者部としてのボランティア活動は、一切行いません!」

 

 とうとう風が暴走したのである。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「…………で、ボランティア活動はしないってことはわかりましたが、今日は何をするんですか。風先輩のことだから、代案くらいはあるんですよね?」

 

「よくぞ聞いてくれた! さすがアタシの親友ね!」

 

「早速親友やめたくなってきたんですが」

 

 そんな俺の心からの悲痛な呟きは無視され、風はどんどん話を進めていく。何故か、頭に幾つもの疑問符を浮かべた犬吠埼妹が部室にいたりするが、そんなことは関係ないらしい。犬吠埼妹が俺に若干涙目で何事か、と言っているように見える。そんなことは俺が知りたかった。

 

「――というわけで、今日はこの勇者部が勇者部であるために! そのアイデンティティーと呼べるものを皆で考えて作ろうと思います!」

 

 友奈以外の全員は、風に何いってんだこいつ、というような視線を送っている。風はテンションが上がりすぎてて、もう使い物にならなそうな気がした。きっと正気を取り戻したら、黒歴史になるか、布団の中で悶え続けるだろう。

 

「それじゃあまずは友奈! なんか良いもんない?」

 

「わ、私ですか? え~と、う~~ん。あ、そうだ! 勇者の決まりとか作ったらどうでしょうか!」

 

「なるほど、一理あるわね。ナイスアイディアよ! 友奈!」

 

 友奈は自分のアイディアが採用されたことにほっとしているようだ。そして、そのままの勢いで風の矛先は東郷へと向いた。

 

「じゃあ次は東郷! なんか良さそうな決まりない?」

 

 少し考え込む東郷。風と友奈はわくわくが押さえきれないようで東郷を期待の眼差しで見つめている。犬吠埼妹はもう諦めたようで静かに勇者部の面々を見守っている。東郷はゆっくりと顔を上げていく。口を、開く。

 

「――なるべく諦めない、っていうのはどう?」

 

「……なるべく、諦めない……おお。さすが東郷、一発目から決めにくるとは……」

 

 風は、東郷の案に驚きと興奮が隠せないようだ。東郷の案、“なるべく諦めない”はとりあえず保留としてホワイトボードに書き加えられた。この流れでいくとまさか次って……。

 

「それじゃあ次は真生ね。さあさあ早く言ってごらんなさ~い」

 

 やはり俺だった。笑いながら俺を指差してくる風。こいつ、後で覚えてろよ……! しかし、友奈も東郷も俺の方を見つめている。いつの間にか犬吠埼妹も復活して、こちらを見ている。八方塞がりとはこういうことをいうのか。こんなところで知りたくなかった。なんにせよ考えなければならない。そうしなければ、この状況を脱することは不可能だ。考えろ、閃け、勇者にふさわしい決まり事を……!!

 

「あらあら? 言えないのかな~真生くん?」

 

 わざわざ君づけで呼んで、馬鹿にしたような態度をとってくる風。日頃の仕返しのつもりか、こいつ。だが問題はない、もう閃いた。この決まりで勇者部を納得させてやる!

 

「……大抵の事は何とかする……とか?」

 

「「「…………」」」

 

 辛い、この空気。

 

「……ちょっと手を加えて、なせば大抵なんとかなるっていうのはどうかしら?」

 

 東郷はそういうと俺の方を見てウィンクをしてくる。 救いの女神はここにいたのか。もう、本当にありがとう、東郷。この恩は忘れない。

 

「うん、それならいいわね~。それじゃ、次は樹。何かある?」

 

「え、えっと……よく寝て、よく食べるとか……どう、かな?」

 

 “よく寝て、よく食べる”か。勇者というかなんというか……まあ、教訓として考えれば良いかもしれない。犬吠埼妹は不安そうに上目遣いで風を見つめている。こんな攻撃、よっぽどの人でなしでもない限り、回避も耐えることも不可能だろう。まさに今、風が撃沈している。シスコンの為、威力は二倍ほどだろうか。

 

「……うう。樹、いつの間にかこんなに成長して……。お姉ちゃん嬉しいよ……」

 

「……? えっと、審議のほどは?」

 

「もっちろん採用よ! いや~どっかの黒一点さんと違って樹は良いこというわ~」

 

 ……とても怒ってやりたいが、俺自身もあれは失敗だったと思っているため、なかなか強く言うことのできないこのジレンマ。何で俺はあんなこと言ってしまったんだろうか。東郷がアレンジして上手いことフォローしてくれたため助かったが、あのままだったら俺の精神的ダメージがやばかった。風はまた次に回そうとしている。このままいけば次は風自身なんだがそれに気づいているのだろうか?

 

「じゃあ次は……アタシか。……ふっふっふ。とうとう、アタシの切り札を出すときが来たようね」

 

 無駄に大層な言い回しをしているが、ただアイディアを言うだけなのにそこまでもったいぶる必要があるのだろうか? 俺の心中を知るよしもない風は、未だにもったいぶりながら発言をする。

 

「悩んだら相談! どうよ、これならバッチリじゃない?」

 

 予想以上にまともな意見が出てきた。普段が普段なため、こういう真面目なところがなかなか目立たない。ましてや、今回の件は色々と暴走しているのでこんなまともな意見が出るとは誰も想像していなかっただろう。

 

「……あれ? なにこの空気、アタシ何か変なこと言った?」

 

「……風先輩からそんなまともな意見が出たことにみんなビックリしてるだけですよ」

 

「なにそれ!? アタシそんな普段おかしい!?」

 

 全員黙る。風は自らの認識に打ちひしがれてしまった。こうなっては復活には多少の時間がいるだろう。

 

「……復活する前に俺達で決めてしまおうか」

 

 友奈達は苦笑いをしながら頷いた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「で、アタシが悲しんでる間にすべてが終わってしまったと」

 

「そうですね。というかむしろ途中で復活しなかったことに驚きなんですが。一応聞きますが、俺達の会話聞こえてました?」

 

「ぜんぜん。周りの声も聞こえないくらい悲しんでやったわ」

 

「それ自慢することでもないでしょ」

 

 それもそうね~、と気楽な感じで答える風。もう完全に復活したようだ。ただひとつ言っておくことがある。

 

「風先輩」

 

「ん? 何よ」

 

「家に帰ったら今日のことをしっかりじっくりと思い出してくださいね。自分の発言を特にピックアップして」

 

「わ、分かったわよ」

 

 俺の様子にただ事ではないと思ったのか、彼女は頷く。これでいい。後は犬吠埼妹にでも今日帰った後の様子を聞き出せば、俺の復讐は終わりだ。さてと、それじゃあそろそろ何がどう決まったのか説明しようか。

 

「とりあえず、決まったので今から全員、俺、友奈、東郷、樹、また全員の順番で言いますね」

 

「OK。どんなもんか見せてもらうわよ」

 

「それじゃあ行きますね、せーの」

 

「「「「勇者部五箇条!」」」」

 

「一つ、挨拶はきちんと」

 

「一つ、なるべく諦めない!!」

 

「一つ、よく寝て、よく食べる」

 

「ひ、一つ、悩んだら相談!」

 

「「「「一つ、なせば大抵なんとかなる!」」」」

 

「……とまあこんな感じです」

 

 さすがの風も呆然としている。なかなかに様になっているからだろう。当然だ、なんといっても風が打ちひしがれている間に幾つものアイディアと意見が飛び交っていたのだ。

 そしてその中から使えそうなもの、これならいい! と思えたものを抽出し、その中からまた選別するというめんどくさいことまでやったのだから。しかし、その間風が全く復活しなかったので、声を掛けようかと思ったレベルで心配もしていた。こうして甦ったので問題はなかったが、少し不安になるレベルだった。

 俺達が風を見ていると、彼女は体をフルフルと震わせている。そして、顔をあげると同時に俺達に抱きついてきた。……抱きついてきた!?

 

「ちょ、何してるんだよ! 風!」

 

 思わず敬語すら使わない、素が出てきてしまう。それも気にしないで、風は俺たちを強く抱き締めている。

 

「あんたたち……。ほんっとサイコーよ!! 部長、嬉しい!」

 

「ふ、風先輩……」

 

「お姉ちゃん……」

 

 涙を流しかねないほどに喜んでいる風に、友奈と樹は誇らしげだ。東郷は相変わらず母親のような目で、彼女らを見つめている。ここまで喜んでもらえると、俺も嬉しくなってくる。

 

 こうして、俺達勇者部の新しい掟、勇者部五箇条が完成した。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ちなみに後に犬吠埼妹に聞いた話によると、風は自分の布団の中で悶え苦しんでいたらしい。調子にのって後のことを考えず、恥ずかしい言動ばっかりするからだ。風にとっては色々と思い出深い日になっただろう。




 勇者部五箇条に関して、オリジナル設定で話を書いてみました。実際どう言った形で作られたものかは分かりませんが、友奈達にとってはとても大切なものだと個人的には思ってます。

 気になった点、誤字脱字等があったらご指摘ください。普通の感想も大歓迎です。
 では最後に


 常に前進:ガーベラの花言葉

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