ルピナスの花   作:良樹ススム

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これより前の話の風の一人称を『私』から『アタシ』に修正しました。
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第七話 気高い人

 

 今日も今日とて、勇者部は平和である。風、友奈、東郷の三人はこの場にはいない。三人ともが依頼に行っているからである。

 では、何故俺は依頼に行かなかったか? 今日は勇者部を元々休む予定だった。それだけである。

 では、何故休んだか? ある人と出会う予定があるからである。

 何故部活を休んでまでその人に会いに行くのか? 今日はその人物の誕生日だからである。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「はっ! はっ! はああああ!!」

 

 ある場所で、一人の少女が二振りの木刀を振っている。型のある見事な剣舞だ。彼女の名前は三好夏凜。バーテックスが再び襲来したときに備え、大赦が鍛えている五人目の勇者だ。剣舞を終え、彼女は汗を布で拭いている。

 

「相変わらず見事な剣舞だな。三好」

 

 突然、発せられた言葉だからか、彼女は木刀を構える。が、すぐに声をかけたのが誰か気づき木刀を下ろす。

 

「なんだ、あんたか。今日は何の用よ、真生」

 

 そう、俺こと草薙真生である。前々から三好夏凜とは何度か顔を会わせてきたので、そこそこ仲が良いと言えるだろう。

 

「……人の気配が突然現れると、すぐ武器を構える。そんな癖も変わってないな」

 

「なっ、そ、それはしょうがないじゃない! ビックリするような現れかたをするあんたがいけないのよ!」

 

 それもそうだな、と返しながら俺も持参してきた木剣を握る。三好は頭に疑問符を浮かべるが、俺はそのまま木剣を何度か振る。とうとう耐えきれなくなったか、三好は俺から真意を聞き出そうとし始めた。

 

「……あんたなんで木剣なんか持ってきたの? あんたは勇者になれないんだし、武器を扱う練習をする必要はないわよね?」

 

「ん、俺は結構前だが剣の練習をしたことがあってな。少し位なら指南できるかと思って」

 

 三好は指南、と聞いて目の色を変えた。それは、ただ少しだけ剣をかじった位で指南なんて、とでも思っているのだろう。

 

「言っておくが、今なら俺の剣技の方がお前の剣技より強いぞ? 二年間も振っていたんだ。今でも体が覚えてる」

 

「へえ、言ってくれるじゃない。それなら御指南願おうかしら? ……後悔しても知らないわよ?」

 

「元々そのつもりできたんだ。臨むところさ。そっちこそ、泣くんじゃないぞ?」

 

「上等!」

 

 三好は二振りの木刀を構え、俺は一振りの木剣を構える。二人の間に、沈黙が訪れた。

 初めに動くのは、どちらか。瞬間、俺は腰を低くして飛び出した。三好は俺を見つめたまま、木刀を強く握る。木剣を横一直線に振るう。

 三好は、それをジャンプをして避ける。すかさず追撃、木剣による突きを行う。それを一振りの木刀で受け流し、もう一振りの木刀で三好はカウンターを加えようとする。

 甘い。木刀による一閃を身体を捻ってかわす。三好は地面に最小限の力で着地し、バランスを崩した俺に再度刀を振るう。俺は剣を地面に突き立てて、後方へ移動する。地面は固く、貫くことはできなかったがそれでも十分。俺は一回転し、後方へと着地をした。

 三好は俺の懐へ飛び込もうとするが、木剣を振るいそれを防ぐ。木刀ごと払われた三好は、当然のようにバランスを崩す。そこで三好の足を払い、完全に体制を崩させた。倒れた三好の首もとに木剣を添える。

 

「俺の勝ちだな」

 

「~~~!! もう一回よ! 勝てるまでやってやるんだから!」

 

「それじゃあ、今日中には終われないな」

 

 ニヤリと笑いながらそう言ってやると、三好は思惑通り顔を赤くして飛びかかってきた。刀と剣を振るいあい、一進一退の攻防を繰り返す。俺たちはそれを、夕方近くまで続けていた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「……あ、あんた……どんだけ体力あんのよ……」

 

 三好は、大の字になって地面に転がっていた。その体には汗があふれでており、今も息を切らしている。

 

「男の子だからな。体力は馬鹿みたいにあるんだよ。ほら、タオルで体拭いとけ」

 

 タオルを三好へと投げつけ、後ろを向く。

 結果から言ってしまえば、彼女が俺に黒星をつけることはなかった。三好も懸命に刀を振るい、俺に指摘されるごとにその部分を洗練させていったが、それでもまだ俺には届かなかった。しかし、本音を言えば彼女は才能がある方だろう。まだ追い付かせる気はないが、もう少し時間があれば負ける可能性が高くなってくる。

 そんな本音を全く明かさず、彼女に向かってまだ弱いな、と告げてみる。彼女は悔しそうな顔をしているだろうか。三好はそれを否定することはなく、無言で身体を拭いていた。

 

「三好。これからもたまには来るから、もっと精進しろよ」

 

「……分かってるわよ。後、その三好って呼び方止めて。兄貴と被るでしょ、……夏凜でいいわよ」

 

「おう、よろしく夏凜」

 

 実際は夏凜の兄のことは名前で呼んでいるから被ることはないのだが、言わぬが花だろう。

 

「これからも指南に来てくれるのよね?」

 

「ああ、そう言っただろう?」

 

 夏凜は、次こそ勝ってやるんだから、と言いながら荷物をまとめる。……彼女は1つ勘違いしているようだ 。

 

「俺はまだ帰らないぞ? お前にもついてきてもらいたいところがあるしな」

 

「……へ?」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そしてまたまた場面がかわり、現在いる場所はイネスという名のショッピングモールである。

 

「……で、なんでわざわざ電車で一時間くらい揺らされてイネスに来させられたわけ?」

 

「イネスにはな……、何でもあるんだ。その素晴らしさといったら最早神樹と比べても全く遜色ないほどだ……!」

 

 俺がそう強く語ると、夏凜はかなりドン引きながら引きつった表情でこちらに言葉を返す。

 

「何熱弁してんのよ……、しかもすごい罰当たりよそれ。ていうか私がついてくる必要あったの?」

 

「ああ、それはもちろん。ここには夏凜の誕生日プレゼントを買いに来たんだからな」

 

「……は!? あ、あんた私の誕生日なんていったいどこで……。ていうかそれを本人の目の前で言う!?」

 

「俺にはまだおまえの詳しい好みとかは分からないからな。自分で作るというのも悪くないとは思ったが、やはり本人に選ばせた方が確実だろう? そしてだからこそのイネスだ。後、誕生日の出所については秘密な」

 

 夏凜はそれを聞いて呆れていたが、溜め息をついてまるで、仕方ないなあ、とでも言うように俺を見てきた。何故だ。

 

「私の好みね……そう改めて考えてみると、あんまりないわね」

 

「個人的にはアクセサリー等がいいと思うんだがどうだ?」

 

「……あんた、初めからそのつもりだったんじゃないの?」

 

 俺を疑うように半目で見てくる夏凜に、俺はとても良い笑顔を見せてやった。途端に嫌な顔をする夏凜を尻目にイネスへと入っていく。待ちなさいよ、と言いながら、夏凜も俺のあとを追ってイネスへと入ってきた。

 

 さて、まずはどこへ向かおうか。いきなりアクセサリーを買いにいくのもありだろうが、まずは彼女になにかをご馳走してやろう。頑張ったご褒美だ。

 迷いなく歩いていく俺のあとを追いかける夏凜は、キョロキョロと周りを見回している。勇者に選ばれてからは鍛練を積むばかりであったため、こういう人がたくさん集まる場に来ることがなかったのだろう。

 

「夏凜、こんなところでおろおろしてるんじゃ立派な勇者にはなれないぞ? もっと堂々としろよ、お前は人並み以上に努力してるんだから」

 

「……そうね。あんたに言われてやるのはなんか癪だけど、堂々としてやるわよ」

 

 夏凜は不器用だ。手先の問題ではない。人付き合いに関して、彼女はなかなか素直になれない難儀な性格をしている。根は良い子なので天の邪鬼にもなりきれないという可愛いところもあるのだが。

 今でこそ俺とこんな気軽な会話をできているが、出会った頃は酷かった。兄にコンプレックスを抱き、今のツンツンした態度をより鋭くしたような感じだった。まあ異性に対して警戒心を多少抱いていただけで、その後はどんどん丸くなっていったが。

 初めて出会ったときは、もうすでに同い年の少年が来ると聞かされていたにも関わらず、第一声がこれだ。

 

『……誰よあんた。どうでもいいけど、あんまり近づかないで』

 

 どう聞いても友好的に感じることはできないだろう。そんなこんなで何度かあってるうちにそこそこ友好的に接してくる様になった、というわけだ。

 

「ねえ、私達今どこに向かってるの?」

 

「アイス食べに行こうとしてる」

 

「私の誕生日プレゼントはどうなったのよ……」

 

「後でいくさ。まずはお前へのご褒美に好きなアイスクリームをご馳走するだけだよ」

 

 夏凜はご褒美を受けることに心当たりがないようで、首をかしげている。大赦に言われたこととはいえ、元々一般人だった少女があそこまで真剣に訓練を行う事が、どれだけ凄いことか気づいていないらしい。

 それも彼女らしいと言えるだろう。

 

「ここだよ。さあ、どれでもいいぞ? 好きなのを選んでくれ」

 

「……じゃあ、この抹茶味で」

 

 俺も同じように抹茶味を頼み、店員が奥の方でアイスクリームを作り出す。

 しばらくして、アイスクリームがやってくる。夏凜はアイスクリームを一口食べると、運動後だからか小腹が空いていたようでパクパクと食べていく。

 アイスクリームを食べ終わり、満足げな夏凜を引き連れてアクセサリーの売っている店へと移動する。

 

「なんか場違いな感じが凄いんだけど……」

 

「気にしたら負けだ」

 

 店はとてもきれいで、周りを見ても大人の女性ばかりがいる。夏凜は恥ずかしそうに縮こまっている。俺は周りを見渡し目当てのものを見つける。

 

「これだよ、どうだ? 一応これが大本命なんだが」

 

 そこにあったのは、首飾りだった。全体的な色彩は銀色で、先に小振りなルビーが付いている。夏凜の様子を伺うと、目を輝かせている。どうやら気に入ってくれたようだ。

 

「綺麗……でもいいの? これ結構高いし、私には似合わないかも……」

 

「その辺りは大丈夫だろ。金ならバイトでかなり稼いでいるし、夏凜は可愛いから絶対に似合う」

 

「……あんた。それ本気でいってんの?」

 

 顔を赤くしながら、俺を信じられないとでもいうような瞳でにらんでくる夏凜。普通に美少女と言える容姿をしているのに何を言ってるのか。

 

「本気だよ。ここで嘘をつく必要性を俺は感じない」

 

 俺はささっと件のアクセサリーを買うと、おしゃれな袋に包んでもらい、夏凜に押し付けた。買う際に、彼女さんへのプレゼントですか? と聞かれたので、似たようなもんですと答えておいた。硬直していた夏凜は押し付けられたアクセサリーをぎゅっと胸に抱いた。

 

「よし、帰ろうか」

 

「……うん」

 

 帰り道の途中で、ずっと黙ったままであった夏凜は口を開いた。

 

「今日は……ありがとう。嬉しかった」

 

 ぶっきらぼうながらも、彼女なりに必死に考えた結果なのだろう。それならば、こちらも真摯に向き合うのが筋というものだ。

 

「どういたしまして。俺も喜んでもらえてよかった。来年はもっと大変だと思うけど、まあ頑張れよ」

 

「どういう意味?」

 

「いずれわかるさ。それじゃあまたな」

 

 夏凜はまだこの町に引っ越してきたわけではない。つまり、まだ一緒に帰れるわけではないのだ。夏凜に別れを告げると、彼女の方も薄く微笑んで手を振ってきてくれる。彼女は明日も刀を振るうのだろう。ならば、俺は微力ながらも力を貸そう。

 

 大切な思い出を、少しでも多く増やせるように。




 六月が夏凜の誕生日ということを思い出せたので書きました。夏凜の魅力が少しでも引き出せていれば嬉しいです。

 簡易的な戦闘描写を書いてみましたが、なかなか迫力のあるような文が書けませんね。本編では、よりかっこいい戦闘描写を書けるようにしたいと思います。

 気になった点、誤字脱字等があったらご指摘ください。勿論、普通の感想でも大歓迎です。
 では最後に、


 気高い人:キンモクセイの花言葉

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