ルピナスの花   作:良樹ススム

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前回までのあらすじ

13体目のバーテックスである草薙真生を残し、全てのバーテックスを倒した勇者部。散華による身体の欠損を残したままであったが、それぞれは平穏な日常を過ごしていた。
そんな中、夏凜は自分の未来について悩み、部活を休む。美森も病院で休んでおり、部活は風、樹、友奈、真生の4人で行われることになった。
依頼の最中、真生は嫌な予感と共に過去の自分と出逢うこととなり、それぞれの思いを胸に剣戟を重ねた。過去に希望を残し、真生は過去の自分との決別を果たす。同時期、友奈は須美たちと触れ合うことで仲間の大切さを再確認し、夏凜を部活に連れてくることを決める。


第三十八話 門出

 

(私は、夏凜ちゃんのことまだ何も知らないんだ。だから、もっと知りたい。夏凜ちゃんのこと。そうじゃなきゃ胸を張って友達なんて言えないから。そのためにまずは、夏凜ちゃんを捕まえるっ!)

 

 友奈は浜辺へと一直線に走りながら、自分の頭の中をまとめていた。知らないなら知ればいい。分からないなら聞けばいい。できない者からしたら難しいそれを、友奈は息を吸うように実践する。

 そして、全力疾走の影響で流れる汗を拭う手間すら惜しんで走った先で、夏凜は一人砂浜で仰向けになり、落ちゆく夕陽を眺めていた。

 

「夏凜ちゃーーん!」

 

「――友奈……?」

 

 夏凜の姿を確認した友奈は、目的の人物を見つけた喜びを振りまきながら夏凜へと駆けていく。

 

 

 

 と、その時。先ほどまでアスファルトやコンクリートの上を走っていたからだろうか。慣れない砂浜に足をとられ、友奈は見事なまでに滑って頭から突っ込むようにしてすっ転んだ。

 

「ちょ、何やってんのよあんた!」

 

 夏凜は思わず上体をあげ、友奈の方向へと歩みを進めた。友奈は、強打した顔をさすりながら、夏凜へと不満をこぼす。

 

「いたい……。夏凜ちゃん、そこは駆けつけて受け止めてよ〜」

 

「もう、無茶言うな。……んっ」

 

 夏凜は不満をこぼす友奈に呆れながらも、当たり前のように手を差し出した。友奈は、夏凜のその当たり前の仕草に喜びながら、彼女の手を取って立ち上がる。

 友奈が立ち上がったことを確認して、夏凜は疑問を口にした。

 

「何しに来たの、友奈」

 

「部活へのお誘いっ! 最近夏凜ちゃん、部活をサボりまくってるから」

 

「っ! ……」

 

 夏凜はバツ悪そうに目を逸らす。友奈はその仕草から、夏凜が部活に行かなかったことに罪悪感を抱いているのだと思った。畳み掛けるようにして、友奈は夏凜に言葉を投げかける。

 

「このままじゃ、サボりの罰として腕立て千回とスクワット三千回と腹筋一万回させられることになるんだけど〜」

 

「桁っ! おかしくない?」

 

 夏凜は困った表情を浮かべる。友奈はそれを狙っていたかのように笑い、名案とでもいう風に提案を持ち出した。

 

「でも、今日部活に来たら全部チャラになりまーす!さあ、部活に来たくなったよね〜!」

 

「……ならない」

 

「部活、来ないの?」

 

 眉を下げ、友奈は置いて行かれる子犬のように夏凜を見つめる。夏凜は友奈から目を背けると、吐き出すようにして言った。

 

「分からなく、なったのよ」

 

「分からなくなった……?」

 

 友奈が復唱して問いかける。すると夏凜はまるで懺悔するように溢れる言葉を溢し始めた。

 

「残ってるバーテックスはたったの一体。きっと次が、最後の戦いになるわ。全部が終わったその時、私は、元々部員じゃない私は、この場にいる資格も理由も無くなる」

 

「そんなこと……」

 

「元々、私は勇者として戦うためにこの学校に来た。あの部にいたのは……、戦うために他の勇者と連携を取ったほうがいいから。ただ、それだけっ! それ以上の理由なんて……、ない……!」

 

 夏凜が自分の気持ちを語り出す。まるで自分を責め立てるように強く、友奈が言葉を発する前に、喉の奥から沸き上がる何かを形にする。

 

「大体、風も何考えてるのよ! 勇者部は、バーテックスを殲滅するために創設された部なんでしょっ! バーテックスがいなくなったら、そんな部もう意味なくなるじゃない!!」

 

 ――けれどその部は、いつしか自分の居場所になっていた。

 

「私は、ずっと、バーテックスを殲滅するためだけに修練を重ねて……! ただ我武者羅に頑張って。でも、戦いが終わったら私には理由が、価値が無くなる……。そんな私に、居場所なんて……!」

 

 ――――誰かに認めてほしかった。なんでもできる兄にできないことが、自分にできることが誇らしかった。兄だけじゃなくて、自分の事もたくさん見てほしかった。自分がその役目を存分にこなして、その役目のために全霊をかけていれば、気に入らないものはいつしか目に入らなくなると思っていた。

 

 けれど違った。夏凜が頑張れば頑張るほどに、周りを見る目は冴えていき、目に入るものは増えていった。見えてしまうが故に、自分はいらないお節介を重ねるようになった。見返りなんてなくても、相手が少し自分を見てくれるだけで自分の刀身が少しずつ研がれていくように感じた。

 

 そして彼女は、勇者に選ばれた。

 

 そして、彼女にあるものを与える存在が現れた。その少年は、意地が悪くて、お節介で、甘く、溶けてしまうような優しさ()を彼女に向けて、口を三日月状に変えて笑みを浮かべた。共に訓練を行い、技術は成長を続ける。しかし、甘さに蝕まれた彼女の高潔な心は錆びつき、輝きを失うばかりだった。

 彼は望まれる限り全てを与える。結城友奈は、東郷美森は、犬吠埼風は、犬吠埼樹は、溢れんばかりの優しさを受けることで奮起し、更に強くなる。しかし全ての人間がそうなるわけではない。三好夏凜は、その優しさで弱くなる。与えられるばかりのその優しさは、三好夏凜にとっての猛毒だった。

 

「私は、勇者部は……! 無駄そのものよっ…………!!」

 

 縋るものを探す迷子のようなその瞳で、夏凜は自分の中の否定を抑えきれずに思ってもないことすらも吐き出してしまう。その言葉に友奈は驚き、そして叫んだ。

 

「違うよっ! 無駄なんかじゃない。夏凜ちゃんも、勇者部も!!」

 

 そう強く言い切る友奈は、真っ直ぐに夏凜の目を見ていた。夏凜は、その強い瞳に映る弱さを晒す自分を見た。みっともなく喚き、心にもない暴言を吐くその惨めな姿には、幼い頃に夢見た高潔な姿など欠片も無い。

 

「バーテックスなんて、戦いなんて関係ないんだよ! 勇者部は、風先輩がいて、樹ちゃんがいて、東郷さんと真生くんがいて、夏凜ちゃんもいて、みんなで楽しみながら助け合って、人に喜んでもらえることをしていく部だよ! 誰が欠けたって駄目なんだ。夏凜ちゃんは、勇者部に必要なんだよ?」

 

 その言葉を聞いて、夏凜はようやく“友奈”を見た。夏凜を気遣いながらも、自分の言葉を直接ぶつけた友奈は、今も優しい強さを宿している。

 

 初めて見て話した時に、気に入らない、と思った。夏凜から見た友奈は、いつだってヘラヘラしていて、馬鹿正直でお節介で、そして余りにも怒らない印象だった。真生のような、一歩離れたところから見守られる安らぎに似た優しさとは違う。見ている方がしっかりしないとと思わされる、少し危ういがどこまでも真っ直ぐな優しさと春の木漏れ日のような暖かな好意の押し売り。

 彼女のその姿は、夏凜の目には見えなかった未来を見ているようで、夏凜の胸に描く強さとは別の、それでいて確かな強さを表していた。

 

「でも、私は……」

 

 どこか心細そうに、弱い言葉を繰り返そうとする夏凜に、友奈は自慢げに笑って言った。それは偶然にも、同じ時に風が真生に対して言った言葉と同じもの。

 

「勇者部五箇条、ひとーつ! 悩んだら相談っ!!」

 

「……あっ」

 

「戦いが終わっても、居場所は無くなったりしないよ? 夏凜ちゃん居ないと部室は寂しいし、私は夏凜ちゃんと居るの楽しいし!」

 

「友奈……」

 

「それに私、夏凜ちゃんのこと好きだから!」

 

「なっ!?」

 

 友奈の言葉に浸りかけていた夏凜は、唐突な好意の表しに顔を真っ赤に染める。言いたいことが固められずに口をもごもごと動かすと、ふんっとでも言うように口を噤んで顔を背けた。頰は赤いままで、小さな鼻息を漏らす彼女は恥ずかしさを紛らわすためか、それとも小さな自分の本音か。少し上ずった声で友奈に声を投げかけた。

 

「……ったく! しょうがないわね! そこまで言うんなら、行ったげるわよ……勇者部」

 

 夏凜の返答に友奈はみるみるうちに満面の笑みを浮かべて、両手を上げて喜んだ。

 

「やったー! じゃあ早速行こう! ……と、その前に」

 

「な、何……?」

 

 友奈は悪戯っぽく微笑むと、夏凜の手を引いて駆け出した。夏凜が戸惑っていると、友奈は悪巧みをする子供のように無邪気な悪い顔をしてこう言った。

 

「ちょっと買い物を、ねっ☆」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ――友奈が夏凜を見つけたのと同じ頃、樹は明と一緒になって勇者部としての活動を行なっていた。

 一年生の教室の窓拭きを任された二人は、いつもの教室で窓をピカピカに拭いている。拭いている最中、樹は何か思いついたのか雑巾を近くに置くと、筆談用のスケッチブックに文字を書き込み明の肩をちょんちょんとつつく。

 樹の方向へ振り向いた明は、スケッチブックの内容を見ると途端に顔が沸騰したように茹であがった。その内容とは……。

 

『そういえば明ちゃんって真生さんに告白したりしないの?』

 

「何言ってるの樹ちゃん!?」

 

 突然の樹の爆弾発言に顔を真っ赤に染める明は、普段の落ち着いた様子など見る影もないほどに慌てふためいている。

 対する樹は、頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げていた。

 

『でも好きなんでしょ?』

 

「うっ、まあ確かにそうなんだけど……。でも、今の先輩にそんな余裕無さそうだし、十分な好感度の獲得もできてないし、何よりまだ心の準備がですね……」

 

『そんなこといって後回しにしてたらとられちゃうよ?』

 

「ふぐぅっ! その通りなのが胸に痛いよぅ……」

 

 心に傷を負った明は、ふらふらと近くの椅子に腰掛ける。少しの涙を浮かべて長々とため息をつく明は、気分が急激に落ち込んでいた。

 樹は心配そうに明を見つめる。樹も何も虐めたくてこんな質問をしたわけではないのだ。ただ、親友の初恋が叶ってほしい一心での一言ではある。しかし、それは明に深刻なダイレクトアタックを加えただけであった。明も真生に対してアタックしていないわけではない。だが、そのアプローチを真生がひらひらと受け流すため、自分が相手にされていないことが分かってしまうのだ。

 

「先輩やっぱり好きな人でもいるのかな……。だとしたらきっと……あの人、だよね」

 

 物憂げな表情で、明は呟く。樹は恋愛経験は皆無なため、明が誰のことを指しているのかイマイチわからないでいた。その樹の様子が分かったのだろう、明は自分の本音と予測を吐露し始めた。

 

「友奈先輩、だよ。だって明らかに特別扱いされてるもん。東郷先輩にもかなり特別扱いはしてるみたいだけど、あの人はなんか……違う気がする。友奈先輩が恋敵だったとしたら、とんでもない強敵だよ。あんな素敵な人だもん。勝ちたいけど、勝てる気がしないよ……」

 

 樹は勇者部の普段の様子を思い浮かべると同時に、友奈と真生のじゃれあいを思い出す。確かに大親友というだけあって、仲が良く、更に異性にしては距離感が近すぎるとも思う。だが、恋愛感情を両者ともに抱いているのか、と考えるとどうだろうか。樹は眉を寄せて、出ない声でむ〜っと悩む。彼女の脳内で、友奈と真生が今以上に仲良くなる様子が思い浮かばない。それは、友奈と真生の関係性の限界を示しているようだった。

 

「……そんなに悩むことかなあ。結構わかりやすいと思うんだけど……。それとも何か気になることでもあった?」

 

『友奈さんと真生さんが今以上に仲良くなるところが想像できない……(><)』

 

 可愛らしく顔文字を描いて、頭がいっぱいいっぱいだと表現する樹に、明は意外そうに驚いていた。自分以上に近くにいる樹がそんな感想を漏らすなんて、明には思ってもみなかったからだ。

 あくまで彼らは友達の延長線で、明の考えるような桃色な世界とは違うものなのかもしれない。一片の希望を見た明は気分を回復させると、腰に手を当てて先ほどよりも元気の良い顔で樹に仕事の再開を促した。明が元気を取り戻したことを喜ぶ樹も、優しく微笑んで気合を入れるように顔を引き締めて、雑巾を絞る。

 心なしか始めた時よりも、ペースも精度も高くなり、用務員が仕事の確認に来て驚く程度には教室中が綺麗になっていた。夢中で掃除をしていた明と樹も、自分たちの仕事ぶりに気分を良くして二人で顔を見合わせて笑い合う。帰り際、用務員のお爺さんのくれた飴玉を口の中でころころ転がして廊下を歩く二人。機嫌が良いためか、明は鼻唄を歌い出すと、樹はそれに合わせて手を叩く。

 

 二人だけの小さな楽団は一曲の鼻唄を終えると同時に、二人して笑い出す。明は手を伸ばしてクルクル回り、樹の隣から正面に移動すると、明は樹に笑いかけてこう言った。

 

「樹ちゃんの声が治ったらさ、またカラオケ行こうね! 樹ちゃんの歌声、私好きなんだっ!」

 

『うん!』

 

 目を細めてニコッと笑い返した樹は、スケッチブックを胸に掲げる。樹の返答に明は薄っすら頰を染めて、えへへと二人揃って笑い合った。

 

 部室に着くと、何故か風と真生が大掃除を始めようとする直前で、明と慌てて止めに入った。ばつが悪そうに笑う真生と風に、樹がジト目を向ける。可愛い妹にそんな目を向けられた風は、当然のようにウッとうめき声をあげると机に突っ伏した。

 

「樹が、樹が反抗期に――!」

 

「相変わらず樹関連にほんと弱いですね、風先輩……」

 

 苦笑いを返す真生に当然でしょー! と反論をあげる風。はいはいと冷めた返答をする真生の様子は、風から見たら気に入らないようで、妹の素晴らしさを真生に何度も語る。

 

 それで被害を被るのは真生よりも樹である。親友の隣で自分の良さを自慢げに語られるのは、思春期の少女としては羞恥心が果てしなく仕事をする。樹のそんな様子が分かっている明は、その会話内容にあまり耳を向けないようにして苦笑していた。

 

 風の妹自慢はその後も続き、しばらく経ってその場にいる風以外の全員がそろそろ終わるだろうと思った頃に新たな来訪者が現れた。

 

「結城友奈、帰還しました〜!」

 

 夏凜を伴って現れたのは、友奈だった。友奈に連れられている夏凜は少しバツの悪そうな表情をして、風たちから目を逸らしている。

 

「おかえり友奈。おっ、夏凜も来たのね〜!」

 

「ゆ、友奈がどうしてもって言うから……」

 

『よかったです』

 

「夏凜先輩、元気ないの治ったみたいで安心しました!」

 

 風と樹、そして明が友奈と夏凜を温かく迎える。最後に真生が夏凜の方に歩み寄り、意地の悪そうな顔で問いかけた。

 

「友奈の前で泣きでもしたか? 夏凜」

 

「んなっ!? そ、そんなことするわけないでしょっ!!」

 

「そうか、それならそれでいいさ。今の君は、何かが吹っ切れたような顔をしてる。安心したよ。……おかえり、夏凜」

 

「ふんっ。…………ただいま」

 

 からかわれたことによって真生に対して怒ろうとした夏凜だったが、その後の言葉によって動きを止めた。 顔を引き締めてむすっとした表情へ変化させると、両腕を組んでほんの少し目を逸らしてそう言った。彼女にとって真生の言動が嘘のように見えることは変わらない。だが、今こちらに向けてくる優しい眼差しと温かな言葉は本物なのだと、夏凜はそう信じることに決めたのだ。

 そんな光景を微笑ましそうに見ながら、友奈は手に持った箱を見せつけるように掲げた。

 

「うん、仲良しさんでなによりなにより! それと〜、これ。差し入れです!」

 

 友奈が差し入れと言って、机の上に置いた箱にはいっぱいのシュークリームが入っていた。箱を見ていた樹は、そのシュークリームがどこの店のものなのかに気がつくと期待を込めて、瞳をキラキラさせてスケッチブックを胸の前に出す。

 

『これ駅前の有名なお店のですよね!』

 

「樹ちゃんせいかーい!」

 

「……友奈、今は味がわからないんじゃないのか?」

 

「あれ? 真生くん気づいてたの?」

 

 大したことでもない、とでも言うような友奈の様子に、真生はため息をつき、風はそんな重大な隠し事をされていたことにショックを受けていた。

 

「友奈あんた、そんな大事なこと……。……ごめん、アタシが言えることじゃないわね。本当に、ごめん。友奈も樹も、私が勇者部の活動に巻き込んだせいで……」

 

 責任感が人一倍ある風は、安易に真生に頼ることを良しとしない。そのため今もこうして、たった一人で謝ってしまっていた。だが、当然ながら真生はこれを見逃しはしない。

 

「本当に謝るべきは俺だ。何もできていない分際で、俺は君たちに上から目線で大赦から届く神託やシステム面について語ることしかできない。巻き込んだのもある意味では俺だ。……すまない」

 

 顔を俯かせて、頭を下げる真生に対して友奈は肩を掴んで顔を上げさせる。そして、ふっと微笑んだ。

 

「こんなのすぐに治るよ! 風先輩も、真生くんも気にしすぎですっ」

 

『そうですよ』

 

「それに! 私は自分から望んで勇者になったんです。ってわけで、結城友奈は今後、風先輩と真生くんからのごめんやすまないは一切聞きません!」

 

『私もです!』

 

 友奈も樹も、自分の強い意志を見せつけるように胸を張る。心配かけまいとするその様子に、風は少し呆然として真生と顔を見合わせる。眉を下げて困り顔を見せる真生と同時に、風はぎこちなく微笑んだ。

 

「……ありがと」

 

「それより早くシュークリーム食べましょ〜? 風先輩が飢えて倒れちゃうと思って買ってきたんですから〜!」

 

 少ししんなりとしてしまった空気を変えるように、友奈は声掛けを行う。風もそれに便乗して、反論を展開した。

 

「ちょっと!アタシが二十四時間お腹空かせてると思ってない?」

 

『ちがうの?』

 

「げっ!妹にまで〜!?」

 

 身内からの裏切りを受けた風は、大げさにリアクションをする。夏凜はその風の様子を眺めながら、不自然に伸びる彼女の手に対して指摘した。

 

「と、言いつつ。真っ先にシュークリームに手を伸ばしてるし……」

 

「あ……これは、えっとぉ……。し、静まれっ! アタシの右手!! アタシの中の獣が、暴れ出すっ!!」

 

『獣(女子力)』

 

「そう!それっ!」

 

「それでいいの……?」

 

 残念なものを見る目で風に対して呟く夏凜。順調に場の雰囲気は和やかになっていった……。

 

 

 

 

 

ように思われた。

 

「あ、あのぅ……。さっきの話って、私が聞いてても大丈夫な話でし……た……?」

 

「「「「「……あ」」」」」

 

 ――――加藤明12歳、これが彼女の受難の始まりだった。

 

 

 

 




 
 あの……勇者の章二話……あの……え?

 冷静さを保てない程度には動揺してますが、更新しました。夏凜に対する自分なりの解釈を詰め込みましたが、受け入れてもらえると幸いです。

 気になった点や誤字脱字、明らかな矛盾点などがあった場合には感想欄かメッセージ、誤字報告機能にお願いします。感想、批評などもいつでもお待ちしています。

 では最後に、


 門出:スイートピーの花言葉

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