ルピナスの花   作:良樹ススム

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第三話 晴れやかな魅力

 

 地道な広報活動の甲斐あってか、とうとう勇者部にも依頼が届いた。しかも、同時に二つもである。それぞれ、運動系の依頼と機械系の依頼である。この二つの依頼の適任者とは誰か。もはや言わずとも分かるだろう。すなわち、結城友奈と東郷美森である。

 ……というわけで絶賛暇をもて余しているのは、該当する依頼のない草薙真生と犬吠埼風である。この二つの依頼は特に人数も要らない依頼だったため、俺も犬吠埼先輩もそれっぽい依頼もなくグータラしているのだ。

 

「……ねえ、真生~。アタシ達ってどんな依頼があってると思う?」

 

「何ですか、いきなり」

 

「いやあ、だってさ~。今回の依頼のお陰でわかったのよ。依頼のジャンルによって送る人を決めればいいって」

 

「確かに……俺も同意します。実際に、今回の依頼もそういった形で送ったわけですし」

 

 実際その通りだろう。今回の依頼のように少ない人数で済ませられる依頼なら、いく人間を絞った方が効率もいい。

 

「でしょ? で、友奈と東郷は、運動と機械で決定したから、私たちはどうしようかって事」

 

「俺達にあった依頼、ですか。そういわれると迷いますね。そもそも犬吠埼先輩の特技って何ですか。そういう何かしらの得意なことがあれば、特定は楽ですよね?」

 

「あ~、それもそうね~。特技か。……あ、料理とか?」

 

 そういえばそうだった。この人、犬吠埼妹と二人暮らしで家事のほとんどを担当してるんだった。まだ食べたことはないが、いま自分で特技の範疇に入れたのだから、美味しいのだろう。

 

「料理……ですか。また家庭的な特技ですね。まあ、それなら小さい子とかの料理教室みたいな依頼があれば、先輩がいいのかもしれませんね。あ、でも東郷も料理できたか」

 

「むむむ、まさか特技が被るとは……。おのれ、東郷やりおるな……」

 

「何馬鹿なこと言ってんですか。特技くらい被るでしょう、それに犬吠埼先輩も人並みくらいには運動できるんでしょう? 友奈と東郷を足して二で割った感じですよね、犬吠埼先輩は」

 

「今のはちょっとグサッと来たよ、真生。つまりアタシは器用貧乏と言いたいのか貴様は~!」

 

 それはちょっと違う。

 

「器用貧乏って言うなら、俺ですよ。料理も運動も機械も一通りそこそこできますし。まあ、みんな友奈には一歩及ばず、東郷にも一歩及ばず、多分犬吠埼先輩にも一歩及ばずってところでしょうけど」

 

「器用貧乏枠まで奪われた!? アタシは何をアイデンティティーに生きればいいのよ~」

 

 そんなこと言われても、こればっかりはどうしようもない。人に紛れて生きるようになって、いろんな事に中途半端に挑戦した結果がこれなのだから。犬吠埼先輩のアイデンティティーね……それならあれかな。

 

「犬吠埼先輩の魅力っていったら、やっぱりその大雑把で恥ずかしげもない性格じゃないですかね?」

 

「それ褒めてるの!?」

 

 一応褒めてる。

 この人は自分の事を恥ずかしげもなく、ガンガン周りに見せつけていく。知り合いから見たら少し恥ずかしくなるような事もたまにする。しかし、その開けっ広げな性格に引かれる人もいるし、彼女自身の人徳か人も良く集まるのだ。

 

「犬吠埼先輩は本当に素直ですよね。友奈と同じくらい」

 

「……そう? 結構隠してることもあると思うんだけど……」

 

「ほら、そういうところですよ。一度心を開いた相手には大胆にぶつかったり、隠しているって言うことを堂々と言ってしまったり、ね」

 

 犬吠埼先輩はまるで、しまった! とでもいう様な顔をしている。その様子がなんだかおかしくてついつい笑ってしまう。

 

「む、何でそんなに笑ってるのさ」

 

「いや、俺達の場合は隠すようなことでもないでしょう? 昔から顔を会わせてることですし、今更隠し事するような仲じゃありませんよね?」

 

「……あんたも大概素直な方じゃんか。そういうこと、面と向かって言われると、女の子はときめいちゃったりするもんよ?」

 

 また面白いことを言うものだ。ときめくときめかないというような関係でもないだろう。最早、杯を交わした兄弟のような雰囲気を俺は感じているのだから。でもまあ、楽しそうだし少しからかってみようか。

 

「それなら、犬吠埼先輩もときめいちゃったりしてるんですか? 今ならもう少し恥ずかしいことも言えちゃいそうですが、どうします?」

 

「……前世は実は詐欺師でした~、とか言わないでしょうね。さっきの以上に恥ずかしいのってどんなのよ……いいわよ! のってやろうじゃない! さあ、ドンとこい! 何でも受け止めてやろうじゃないの!」

 

「じゃあいきますよ。

 

 俺は……結構あんたの事を気に入っているんだよ、風。あんたが周りに自分の事を隠している罪悪感で心が痛んでいたら、俺が和らげてやりたいとおもうよ。俺はお前の安らぎになってやりたいんだ。何故なら、お前が大切だか「ストップ!! ストーーップ!!」……意外と耐えましたね。予想よりもストップが掛かるのが遅かったです」

 

「……あんた、何でそんなに恥ずかしいこと言えるのよ。本心じゃないってわかっててもドキドキするわ」

 

 それを狙っていたのだから、当然と言えば当然だろう。犬吠埼先輩の反応はやはり面白い。人によってこういうことを言うと反応が違うだろうが、こんなに乙女な反応をする人も意外と少ないと個人的には思う。まあ……。

 

「全部が全部嘘って訳じゃないですけどね」

 

「ん? ごめん、なにか言った? ちょっとボーッとしてて……」

 

「何でもありませんよ。それよりもなんかしないと、あの二人にだけ働かせるとかブラックな匂いしかしませんし」

 

「それもそうね、じゃあ、いつも通りゴミ拾いでもしましょうか。 今日はアタシ達しかいないから、範囲が広くなるわよ」

 

 友奈と東郷の範囲も自分達でカバーする。まあ、留守番としては当然だろう。あの二人はあの二人で今頃頑張っているだろうから。昨日の今日だからそんなに量はないだろう。この世界は神樹への信仰が高いので、ポイ捨てなどのマナーの悪い行為をする人は少ないのだから。……まあ、一人もいないとは言い切れないのが悲しいところだが。

 

「じゃあ、今日もまた終わることなきゴミ拾い(アンリミテッド・ダストハント)にでも行きましょうか」

 

「あ、なんかその言い方かっこいいわね。採用! ……じゃなくて、いい加減ふざけてないで行くわよ。ただでさえ範囲が広くなる分、時間も必要になるんだから!」

 

「は~い」

 

 この人はリーダーに向いている。意外とからかい甲斐があったり、たまに方向性を見失ってよくわからないキャラに変貌をしたりもするが、いざというときには誰よりもしっかりするし、自ら行動を起こしたりもするのだから。責任を一人で抱え込むこともあるが、その辺りは仲間が支えればいいのだ。

 それに、部下の心もわからない上司には、大成できそうな器でないことも多い。 彼女はその辺りのフォローがうまい。……中学二年生とは思えないくらいに。

 

「な~に考え事してんのよ! 早く行きましょ!」

 

「……はいはい」

 

 彼女の性根は年相応の幼さだ。彼女が周りの重圧に押し潰されないように、そして誰かのために自らを犠牲にしないように、みんなでサポートしなければ……。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ゴミ拾いを始めて数時間。空は日が沈みかけており、とても美しいオレンジ色をしている。

 

「いやあ~、やっと終わった~。友奈達もそろそろ帰ってくる頃合いかしらね」

 

「どうでしょう。案外長引いたりしてるかも」

 

「ほんっと、あんたはああ言えばこう言うわね~」

 

 犬吠埼先輩は汗こそかいていないが、やはり疲れたような顔をしている。流石に俺も同じような顔をしているだろう。腰に変な感覚がする。数時間も似たような格好でゴミを拾い続けていたら、こうもなる。

 

「そろそろ、部室に戻りましょうか。そのうちあの子達も戻ってくるでしょうし」

 

「そうですね。これからも定期的に依頼が来るといいんですが……」

 

「来るわよ、きっと」

 

「? 何でそう思うんです?」

 

 そう聞くと、犬吠埼先輩は次の言葉を言うのにためにためて、こう言った。

 

「それはね………………、乙女の勘よ!」

 

「……まあ、そんな気はしてましたけど」

 

「その薄い反応は酷い!」

 

 また、犬吠埼先輩がまた馬鹿なことを言い出した。いつものことなので、軽く流しておこうかと思ったら、思ってもみなかったことを言い始めた。

 

「あ、そうだ。昼の話の続きだけどさ」

 

「昼の?」

 

「そう。確かあんたアタシの長所をアタシの性格っていったわよね?」

 

「ああ、そんなことも言いましたね」

 

「あれって結局どういう意味なの?」

 

 ……この先輩はこうやって鈍いところもある。ある意味これも魅力と言えるだろうが、欠点でもあるんだろう。彼女の質問に答えるのならこう言うべきだ。

 

「先輩のその明るい性格に救われた人もいるんだからもっと自分も大事にしろってことですよ」

 

 そんな俺の言葉を聞いた犬吠埼先輩は少し考え込んで、顔をあげて、口を開いた。

 

「だったら、あんたももっと周りに頼りなさいよ! アタシだってこれでもあんたの親友なんだから」

 

 開いた口が塞がらなかった。まさか、彼女にそんなことを言われる日が来るとは……。こんなことを言われたら、犬吠埼先輩などと他人行儀にするのも失礼だろう。

 

「ま、ちょっとは頼りにしてますよ。“風”先輩。あと、まあ……これからもよろしく“親友”」

 

 俺の言葉に彼女は、ニヤッと笑って、その拳を突きだしてこう言った。

 

「任せなさい! “親友”!」

 

 その言葉とともに二人で軽く拳をあわせる。やっぱり彼女の魅力は、彼女自身の持つ、晴れやかな雰囲気なんだと、少なくとも俺はそう思った。

 

 だけど、俺はやっぱり駄目なんだ

 

 誰かを安らぎとすることも、誰かに安らぎを求めることも、もう俺には許されない。あの日、あの時、俺はなにもしなかった。

 

 それが……今の、この日々に繋がってしまうのだから。

 




 日常編を書くのは結構楽しいですね。

 気になった点、誤字等があったらお伝えください。もちろん、普通の感想でも大歓迎です。
 では最後に、


 晴れやかな魅力:ラナンキュラスの花言葉

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