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――――樹海化を起こした世界で、蒼い影は新たに現れたバーテックスを睨み付ける。三体のバーテックスは、蒼い影に気づくこともなく、ゆっくりと侵攻を続けていた。
「……三体か。少し、実験に付き合ってもらうぞ。なに、お前たちはどうせ尽きぬ命だ。
――――今この場で今生の命を燃やし尽くせ」
蒼い影はベージュ色のマントをたなびかせ、その手のひらで直接三体のバーテックスに触れた。
バーテックスは体を震わせる。そして、その体を他の色など寄せ付けないほどの漆黒に染めて、あるはずもない叫びをあげる。
それは歓喜か、恐怖か、それとも怒りか。バーテックスの意思の分からない我々には到底及びもつかないだろう。
それを無感情に、無機質な瞳で見つめる影が一つ。
「さて、勇者は魔王の尖兵を狩ることが敵うのか。見届けさせてもらおう。
――――願わくば、痛みもなくここで終われ」
蒼い影は、その言葉を最後に忽然と姿を消した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
友奈がそれを見つけたのは本当に偶然だった。
三体同時に迫ってきたバーテックス。それらの存在が漆黒に染まる前に、彼女は勇者に変身するために携帯を覗いていた。位置確認のために携帯で自分たちのいる場所とバーテックスのいる場所を見つめる。一瞬だけであったが、そこには新たな存在の名が記されていた。
「
友奈は携帯に表示された名に驚きを隠せない。
しかし、この正体不明の存在の名が消えた直後に、炎を放ちながら進撃を開始する漆黒のバーテックスが現れたのを見れば、どうしてもこう思うだろう。
この存在が漆黒のバーテックスの鍵を握っているのでは、と。
彼女はバーテックスに対抗するために勇者へと変身する。そして、美森の方を向いて口を開く。
「東郷さん、待っててね。倒してくる」
「っ! 待って、私も……」
美森は言葉の途中で、前回の戦いを思い出す。迫り来る
ヒッと声を出してしまう美森。怯える彼女の手を友奈は優しく握った。
「大丈夫だよ、東郷さん。……行ってくるね」
「友奈ちゃん……!」
美森は友奈の名を呼ぶ。友奈は美森に微笑み、バーテックスの元へと跳ぶ。足に力を込め、風と樹の下へと駆けていった。
美森はそれを悲しげに見つめながら思う。自分は何故こんなにも弱いのだろう。自分を除く勇者部メンバーはあんなにも勇気に満ち溢れ、果敢にバーテックスと戦っているのに――。
彼女は救いを求めるように、自らのリボンに触れていた。
「……何かあいつら前よりも遥かに真っ黒になってない? 不安要素はたっぷりあるわ、バーテックス自体がたくさんいるわ、東郷と喧嘩するわでいいことないわね、今日は……。友奈、樹、とりあえず遠くの奴は放っておいて、まずはこの二匹纏めて封印の儀に行くわよ!」
この指示に従おうとする二人だったが、この直後に遠くのバーテックスが行った行為によって、その動きを止められた。
手前の二体よりも離れた位置にいるバーテックス、その名はサジタリウス・バーテックス。
その一撃が一瞬にして風の元へと飛んで行く。そのスピードは勇者の強化された視力を持ってしても捉えきれない早さだった。風は成す術も無く、射手座の攻撃によって弾き飛ばされた。その強力な一撃も精霊によってガードされたが、緩和しきれない衝撃によって風はくるくると回転しながら根にぶつかった。
「お姉ちゃん!!」
リーダーの風がやられた事で、友奈と樹は一瞬の動揺を見せる。その隙を逃さず、間髪いれずに射手座は無数の光の矢を撃ち出した。それらを彼女たちは反応し、何とか避けきることに成功した。
「撃ってくる奴を何とかしないと!」
友奈は射手座を打倒しようと、降ってくる矢をかわしながら射手座の元へと向かおうとした。しかし、それを放置するほどバーテックスは甘い存在ではなかった。
「まずい……!」
「友奈さん!! 危ない、後ろです!!」
その言葉に気付き後ろを振り向く友奈、もう光の矢は目前まで迫っていた。
「あわわわわわわわ!!!!」
しかし、それを持ち前の反射神経と硬い拳によって全て弾き返す友奈。だが、バーテックス側の攻撃はまだ終わっていなかった。蟹座が極太の怪光線を友奈に向かって発射する。友奈も超スピードで接近してくる怪光線には対応できずに直撃を食らってしまう。精霊に守られる友奈は、背後から迫ってくる
(――――!!!???)
彼女はその一撃に気を失いかける。しかし、敵の続く猛攻による衝撃はさらに激しさを増し、射手座による射撃までもが友奈を襲う。三体のバーテックスの攻撃を一度に全て引き受ける友奈は失われかけた意識を更なる痛みによって持ち直す。
風と樹は友奈を救おうとするも、バーテックスの放つ炎によりそれすら敵わない。その炎すらも前のバーテックスである
風の顔に初めほどの余裕はもう無く、焦りが心の内の大半を占めていた。友奈の身を守る精霊ガードも、どこまで耐えられるか分からない。そう考える風はどうにかして友奈から三体を引き離さなければと思考する。出てきた案は種類など無く、たった一つだけ。それは、自らを囮としてバーテックスにぶつかっていく事だ。そのためには隙間の無い炎の中を潜っていく必要があった。樹の糸による攻撃も三体分の密度の高い炎によって焼き尽くされる。その間にも友奈は三体のバーテックスの攻撃を受け続けている。風にもう考える余地など無かった。
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
全身を焼き焦がすような炎の中で精霊に守られながらも風は突き進む。その手の中にある大剣を強く握り締め、彼女は裂帛の気合とともに蠍座へと一撃をくらわせた。その一撃は蠍座の体を大きく削るが、空しくも速いスピードで再生していく。
「くそ!! こんなんじゃダメだ、せめてあと一人……あと一人攻撃力の高い勇者がいたら……!!!!」
風の捨て身の突進により開いた小さな穴。それもすぐに炎によって埋まってしまったが、その中の光景を美森はしっかりと見ていた。今にも散ってしまいそうなほどの攻撃を受ける桜色の少女、結城友奈の姿を確認した彼女は大きな声で彼女の名を叫ぶ。悲鳴も同時に上げてしまうほどの光景に、彼女はある出来事を思い出す。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
記憶喪失と、足の不自由。
彼女の心は、不安と哀しみで張り裂けそうだった。不意に脳天気な声と少し低めの男の声が聞こえた。
隣の家の娘とその友達のようだった。
「新しいお隣さんだ!」
「……あぁ、初めまして……だな」
人懐っこい笑顔で彼女は話しかけてきて、友達の方からは少し歯切れの悪い言葉が出てきている。美森は自分を見る彼の目に慈愛が含まれていた事に、何故か安心感を覚えた。
「同じ年の女の子が引っ越してくるって聞いてたから、楽しみにしてたんだ! 真生くんもなんでそんなに固い顔してるの! ほら、笑顔笑顔!」
少女は、少年の頬に触れ口角を無理矢理引き上げる。彼は抵抗をするが、少女に強く出られないようで、なかなか開放をしてもらえなかった。少年の頬から手を離した少女は、美森のほうへその手を差し伸べた。
「年が同じなら、同じ中学になるよね。私は結城友奈、宜しくね」
そういって少女は微笑む。それに続くようにして、少年の方も美森のほうへと自己紹介をした。
「俺は草薙真生。……友達になってもらえると、嬉しい……かな」
「もうちょっと素直な言い方無かったの?」
「これで素直じゃないと思うお前がもう分かんないよ」
真生と友奈の漫才じみたやり取りに、気を取られる美森。彼女たちの仲の良さに美森は疎外感を覚える。しかし、そんな不安なんて友奈の前では一切必要ないことに気がつかされる。
「そうだっ。この辺よく分からないでしょ? なんだったら案内するよ! 任せて!!」
友奈の笑顔は暖かくて、美森も表情が緩んでしまう。真生も同じように表情を緩めて、美森に友奈の提案を受け入れるように促す。友奈の差し出した手の言いようの無い安心感に身を任せ、美森は彼女たちに花の咲くような笑みを見せ、その手を受け入れたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――――自分を救ってくれた人が酷い目にあっている。そう考えるだけで、美森の心は強く締め付けられる。
「……やめろ」
このままでは、友奈も、風も、樹も、真生も、誰もが酷い目にあってしまう。そんな事を許すのは、美森にとってありえないことだ。
「友奈ちゃんを……いじめるなああぁぁぁぁ!!」
美森は叫ぶ。戦う意思を、その思いを神樹に見せつけるように。全てをかけて戦う事を誓え。
美森の下へと蟹座の怪光線が放たれる。それを美森の精霊は受け止める。その精霊の姿はまるでヒビの入った卵のようだ。しかし、ヒビの入った卵だと侮るなかれ。この存在は卵であっても卵であらず。勇者に対する致命傷となりうるものを全てその身で受け止める。そんな無茶を実行できるのが精霊なのだ。美森は覚悟の決まった瞳で炎と、その奥に存在するバーテックスをにらみつける。
「私、いつも友奈ちゃんに守ってもらってた。……だから、次は私が勇者になって、大切な人たちを、友奈ちゃんを守る!!」
その言葉とともに、美森は携帯をタップし、勇者へと姿を変えた。
勇者となった美森は一種の神々しさを感じるほどに美しかった。青を基調とし、白の帯を垂らす衣装に身を包んだ美森は、二丁の銃を召喚する。
銃を手に持った途端に、彼女の中で暴れまわっていた恐怖心が姿を消す。同時に彼女は力に満ち溢れてくるような感覚が沸いてくる。
「もう、友奈ちゃんには手出しさせない」
美森は二丁の銃を構える。照準を合わせ、引き金を引き、リロードし、再び引き金を引く。たったそれだけ。しかし、その銃撃は炎の隙間をかいくぐり、確実にバーテックスたちへと直撃していた。バーテックスは友奈を解放し、美森のほうへと体の向きを変えた。彼らは怒っているのだろうか。
美森はそんなバーテックスなど歯牙にもかけず、友奈のほうへと視線を向ける。バーテックスたちの猛攻に、さしもの彼女も消耗してしまったようだ。まるで死んだかのように倒れている。友奈の体に怪我がないことを確認すると、美森はバーテックスたちへと視線を向ける。
「……あなたたちが、やったのよね」
自然と銃を持っている手の力が強まる。
その時、樹と風が美森の下へとやってくる。風は幾分か傷ついてはいるが、殆ど怪我はないといってもいいだろう。しかし、彼女の顔色は優れない。喧嘩別れのような形で美森は部室から去っていったのだ。気まずくならないはずがない。美森は彼女たちの姿を確認すると、ふっと顔を綻ばさせる。そして、すぐに真剣な様子へと変わり、風たちに一つの提案をする。
「今、友奈ちゃんはとても危険な状態です。そんな彼女を放っては置けません。だから、二人には友奈ちゃんを助けに行ってほしいんです。敵は私が引き付けます」
「東郷……戦ってくれるのね。……一人じゃダメよ。アタシも一緒に敵を引き付ける。樹、友奈の保護を頼むわね」
美森は無言で頷く。樹はその指示に不安を覚える。自分にそんな事ができるのだろうかと。しかし、そんな考えはすぐに捨て去り、樹は風の指示に従う。
「……うん、わかった! お二人ともお気をつけて!」
そういって、樹は友奈の元へと向かう。その間にバーテックスたちも準備が整ったようだ。その漆黒の体には、変化する前の面影がうっすらとしか残っていなかった。まるで怒り狂うかのように炎を辺りに撒き散らす三体。
風と美森は顔を見合わせ、頷きあう。そんな彼女たちには最早先程までのわだかまりは無く、湧き上がる闘志を抑えきれないようだ。
「よくも友奈ちゃんを……」
「よくもアタシの大事な後輩に、酷い事してくれたわね……」
「「絶対に許さないから!」」
一人の少女のために、怒りを隠さぬ鬼二人。その瞳にバーテックスを写し、それぞれの得物を握る。
――――一人の勇者の参戦で戦いはまた、新たな進展を迎える。彼女たちが目指すものは勝利一つ。この戦いの先にあるものは何なのか。彼女たちにはまだ知ることは出来ない。
きらりと、友奈の元で何かが点った音がした。
遅れてすみません。ここからオリジナル展開が目立ってくると思います。
結城友奈は勇者部所属をやっと買えました。近くの本屋に何度行っても無くて、店員さんに聞いてみたところ、今は無い状態といわれ、諦めて楽天で買いました。
それで読んでみたんですが、みんな可愛い(確信)。ちなみに読んでいた際に自分が今まで幼稚園と表示していたところが保育園である可能性が浮上しました。修正をしましたが、まだ他のところにある可能性もあるので暇があったら探してくださると嬉しいです。
ちょっと頭を打ってしまって構想が曖昧になったので、次回の更新も少し遅れるかもしれません。早めに思い出そうと思います。
気になった点や誤字脱字等がありましたら感想欄にてお伝え下さい。普通の感想、批評もお待ちしています。
今回の花言葉は次回に持越しです。