ルピナスの花   作:良樹ススム

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勇者部“五ケ条”を“五箇条”に修正しました。


第十六話 変身

 

 ――――草薙真生の朝は早い。

 

 寝起きは悪くはなく、一度の目覚ましの音で彼は目を覚ます。そして、すぐに顔を洗い、着替え始める。寝巻きからジャージに着替えた彼は、玄関においてあったある物とタオルを持って、自らの住むマンションから外へと出る。彼の日課であるジョギングをするようだ。彼の目覚ましは5時30分にセットしてあるので、かなりの時間的余裕がある。そのまま、彼は走り出す。片手にある物を持ったまま。

 

 彼は浜辺に来たようだ。そこである物――木剣を取り出す。それを両手で構え、振り下ろす。ただそれだけの行為を、彼は何度も繰り返した。回数が200を越えた頃、彼は剣を振るうのをやめ、構えを解いた。そして、もう一度構え直すとなにもない空間に向かって、剣戟を振るう。彼にしか見えない敵と戦うように。虚空を相手に剣を振るうその姿は、まるで剣舞のようだった。

 

 戻ってきた彼は食事を作る。今日の朝の献立は、薩摩芋とゆで卵を使ったサラダとトーストだ。こちらにもゆで卵が乗っている。今の時間は6時30分。ちょうどいい時間だろう。彼は食事を済ませ、身支度を済ませる。そして、友奈と東郷のいる場所まで、彼はゆっくりと歩いていった。

 

「……ちょっと早く来すぎたな」

 

 家の前には誰もいない。まだ準備がすんでいないのだろうと思った真生は、家の中にお邪魔するか、外で待っているか迷った。お邪魔したところで文句などは言われないだろうが、仮にも女性である友奈たちの準備のすんでいない姿をみるのは心苦しいようだ。迷った末に、外で待っていることにした彼は、携帯を覗く。アプリで暇潰しをするようだ。

 彼が行うゲームは、よくあるオンラインゲームのようだ。しかし、ボスキャラにたどり着く前にやられる辺り、そこまで強くはないらしい。

 

「いってきまーす。……あれ、真生くんいたの? うちに来ればよかったのに……」

 

 真生がゲームをやっている間に準備がすんだようで、友奈と美森が家から出てくる。友奈の家なのに当たり前のように出てくる美森は流石としか言えないだろう。

 友奈は、真生が選ばなかった方の選択を勧めてくる。しかし彼は少し渋い顔をして、それに返答した。

 

「遠慮しとく。いったらいったで、おじさんとおばさんが過剰に歓迎してくるし」

 

「懸命な判断ね。それに友奈ちゃん、真生くん相手でもあんまりそんなに軽い感じで家に誘うのはダメよ。朝なんだしあられもない姿をみられたらどうするの」

 

「ん~、正直今更な感じもするんだけどな~、だって東郷さんが……もがもが」

 

「余計なこというなよ、東郷が嫉妬するだろ」

 

 真生はすぐさま友奈の口を自分の手でふさいだ。彼自身言われたくないことがあるらしい。美森はその様子を不審におもったが、見逃すことにした。何せ彼女自身も彼に恩があり、少なからず好意も抱いているのだ。積極的に疑うような真似はしたくないと彼女は思っていた。

 

 小声で注意して真生が手から友奈を解放すると、友奈はある提案を口にした。

 

「いつもよりも早いけど、もう行く?」

 

 いつもならば彼女たちはまだ真生を待っている時間帯だ。しかし、この日の場合はもうすでに全員揃っている。友奈の提案を悪くはないとでも言う風に、真生は肯定の意を示した。美森も友奈の言うことに逆らうつもりはないようで、友奈に向かって頷いていた。

 友奈は自分の提案がすんなりと通ったことで、いつもよりも少し軽快なステップで美森の車椅子へと近付いた。 そして、いつも通りに車椅子を引いて学校のある方向へと歩いていく。

 真生は彼女たちの一歩後ろに下がり、ともに歩き出す。この微妙な距離感こそ彼の定位置であり、彼自身変える気のない落ち着く場所だった。

 

「あ、また真生くん一歩後ろに下がってる。もうそろそろ隣歩いてくれてもいいのに」

 

「ここが落ち着くんだよ。隣はなんか嫌だ」

 

「……真生くんのけちんぼ」

 

「真生くんには優しさが無いの! 友奈ちゃんを泣かせるなんて!」

 

「君は過剰反応にも程があるだろ……、しかも泣いてないし。ていうかそれ本気で言ってるわけじゃないよな? そうなんだよな?」

 

「大丈夫よ、五割位は嘘だから」

 

「残りの五割は!?」

 

 どこに大丈夫といえる要素があるんだ……とぼやきながら、真生は頭を掻いた。美森は心底面白そうにクスクスと笑っている。友奈もとてもいい笑顔だ。いじられるよりいじる派な真生にはこの環境は少し辛いようだ。とは言っても、学校まではまだまだ距離はあるので、その分いじられることもあるのだが。

 

「そういえば、真生くん今日凄い早かったよね、どうして?」

 

「特に理由は無いけど……。しいて言うならそういう気分だったってだけだよ。起きる時間もいつも通りだったし」

 

「真生くんはその辺りしっかりしているわよね。自分ひとりで起きられるし、ね♪」

 

 美森はそういうと、友奈の方を向いてウィンクをする。そんな美森に申し訳なさそうに友奈は謝る。

 

「いつもゴメンね、東郷さん」

 

「いいのよ。私も好きでやってるんだから」

 

 ボソッと友奈ちゃんの寝顔も見られるしね、と呟く美森。車椅子を引いている友奈には聞こえなかったが、並外れた聴力を持つ真生には聞こえていたようで、苦笑いをせざるを得ないようだ。

 

 そんなこんなで、真生たちは通常運転で、学校まで歩いていったのだった。

 

 

 

 友奈たちと別れた真生は、自分のクラスの教室へと入る。教室の中に入った瞬間、教室にいる数人の人間の視線が突き刺さるが、すぐにその視線も外れていった。

 真生の席は、窓側の席だ。自分の席の近くの窓を開けた彼に、小さな風が通り過ぎていく。それを心地良さそうに受けた真生は、自分の席に座り、本を読み始める。周りの人は、それぞれのグループで固まり、会話を続けている。無言で静かに本を読み進める彼に話しかける者はおらず、彼もそれを気にしてはいない。

 

 授業が始まるまでの間、彼らはとても暇だ。予習をやっているものなど殆どおらず、時にはうるさいほどの声量で会話をするグループもある。その騒音をものともせずに、本を読む真生の集中力はとても高い。それこそ彼の近くにいって衝撃でも与えない限り、彼はそのものの存在に気付く事も無いだろう。

 彼の友達もそれを理解しているのか、挨拶こそすれど返ってくることは期待していないようだ。しかし、空気を読まない者はクラスに一人はいるものだ。

 

「ッハヨー、草薙! 何の本読んでんだよ~」

 

 彼の近くによってそこそこの音量で挨拶をするこの男の名は山野。名前ではなく苗字なのは仕様である。彼の肩を叩き、自分の存在に気付かせる彼はクラスの人間にあ~あ、とでもいう風な視線を向けられていた。真生は本にしおりを挟み、本を閉じると山野に対応し始めた。

 

「おはよう、何か用か?」

 

「用が無くちゃ喋りかけちゃダメなのか?」

 

 本気で首をかしげる山野に、真生は溜息をついて、そんな事は無いけどなと続ける。

 

「じゃあ世間話でもするか?」

 

「おう! あ、知ってるか? 俺の彼女本当に可愛くてさ~。もう本当に俺にはもったいない位出来た子でさ~」

 

「知ってるよ。ていうかお前らが付き合い始めたのは、俺や友奈たちも関係してるんだから知らないわけ無いだろ。何回目だその話」

 

 山野と付き合っている少女は沢口という名前だ。彼女の恋愛相談に付き合った結果、東郷の影響もあったが、彼らは無事に付き合い始めた。それ以来彼はこうしてよく真生に絡んでくるようになったのだ。真生の方は少し面倒くさそうだが。

 山野が続きを話し始めようとした時、鐘が鳴り始めた。

 

「あ、もう時間か。じゃあ、また後でな!」

 

「はいはい、できれば彼女の話以外で頼むよ」

 

 真生はそういうと、本をもう一度取り出し今度は先程のような集中力は発揮せず、パラパラとめくるような読み方をしていた。そして、先生が現れ、授業が始まる鐘が鳴るのだった。

 

 授業の途中、真生は考え事をしていた。先生の言う事など頭に入ってこないようだ。

 

(文化祭の出し物……か。無難に演劇かね?)

 

 そんな事を考えていた真生に、先生はとうとう気付いたようで、彼に声をかける。

 

「草薙君、もう少しまじめに授業を聞きなさい」

 

「……あ、すいません」

 

 彼は少しの間反応を返さなかったが、先生の存在に気付き、頭を下げる。その先生はそれで満足したように授業に戻る。真生は、授業の方に意識を戻そうと思った。

 その瞬間、

 

 

 ――――時は止まった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 その頃、結城友奈は困惑していた。授業中に携帯から鳴り響いたアラーム。突然止まった時間。動けるものは自分と美森のみ。この状況でどう冷静になれというのだろうか。

 

「これ……どうしたの……?」

 

 困惑しつつも、動かない限りはどうにもならない事が分かっているのか、教室から出ようとした時に、()()は起こった。

 

「何……!?」

 

「地震!?」

 

 大地が揺れ動き、風が騒ぎ出す。窓の外からも光があふれ出てきている。彼女たちの困惑は、混乱へと姿を変え、彼女たちを飲み込んでいく。迫ってくる光にとっさに身を挺して美森をかばう友奈。

 光が収まっていく。彼女たちが目を開けた先に待っていたのは、

 

 ――――幻想的なまでの非日常だった。

 

 街は原型をほぼ留めず、その全てを色とりどりの樹木に飲み込まれていた。地に張られた根はありえないほどに太く大きく、幾つものつるが空を浮かんでいる。彼女たちはその幻想的な光景に目を奪われていた。風にさらわれて舞う葉も、季節違いの色に姿を変えている。

 

「何が……起きたの……? 教室にいたのに……」

 

「なにこれ……?」

 

 正気を取り戻し、周りを注意深く見渡す友奈と美森。自分たちのいる場所まで変わっていることに、驚愕を隠せないようだ。

 

「ここは……」

 

「……私、また居眠りしてる? ……夢じゃないみたい」

 

 そういって、自らの頬を思いっきりつねる友奈。しかし、周りの光景は変わらず、樹海のままであった。美森はこの非常事態に自らの足を見つめる。自らの存在が、友奈の足を引っ張る可能性がある。そのことを彼女は恐れていた。友奈は美森の不安をかき消すように、彼女を呼んだ。

 

「東郷さん! ……大丈夫だよ、私がついてる」

 

「……うん」

 

 そう言う彼女の手は震えていた。何が起きてるか分からない以上、大丈夫なんて保証はない。そのことがよく分かっている証拠だ。それでも尚、彼女は美森を元気付けるために勇気を出した。それを理解した美森は静かに返答し、友奈のその心遣いに感謝をしながら自らの不安を押し黙らせた。

 

「あ、携帯!」

 

「画面が……変わってるね」

 

 携帯の画面は、本来のものと変わっている。友奈と美森はそれを疑問に思いつつ、再び周りを警戒する。その時、後ろの方から物音が聞こえてきた。はっと声を出して二人がより警戒を深める中、物音は近づいてくる。そこから現れたのは、勇者部の部長である犬吠崎風と、その妹である犬吠崎樹であった。

 

「……ぁあ! 友奈、東郷!」

 

「風先輩……、樹ちゃん……」

 

 友奈と美森は見知った中である二人と出会えたことで、警戒を緩めた。友奈はもう泣きそうになっている。

 

「よかったです」

 

「はぁ~、何とか会え……」

 

「わぁ~~! 風先輩! 樹ちゃぁ~ん! 何で、何で二人ともここに!?」

 

 感動のあまり風に抱きつく友奈に対して、美森は複雑な気持ちになりながらも、友奈が不安から多少は解放されたことに安心する。風はそんな彼女たちに対して、表面だけ取り繕った冷静さを表に見せて、安心する。

 

「不幸中の幸いかな。二人とも、スマホを手放していたら見つけられなかった」

 

「「えぇっ!」」

 

 風は彼女たちの反応を横目に、携帯を操作する。そして、携帯に表示されたのは自分たちの現在位置だった。

 

「……これ……」

 

「このアプリに、こんな機能があったんですね……」

 

「隠し機能……?」

 

「その隠し機能は、この事態に陥ったときに自動的に機能するようになっているの」

 

「えぇっ、便利……」

 

 携帯に表示されたものに驚く友奈と美森。風は心なしか少し暗い表情で、アプリの隠し機能について説明をしていた。美森は、アプリの機能について驚きながらも、このアプリの入手経路を思い出していた。

 

「このアプリ、部に入った時に風先輩にダウンロードしろって言われたものですよね?」

 

「……えぇ」

 

「……風先輩、何か知っているんですか?」

 

「東郷……」

 

「……ここ、どこなんですか」

 

 答えづらそうな風に、美森は真っ直ぐな視線をぶつける。友奈も樹も、ここがどこであるかどうかは知りたい様で、不安そうに風を見つめていた。風は覚悟を決めたようにして、彼女たちに向かって言葉を紡ぎ始めた。

 

「みんな、落ち着いて聞いて。……アタシは、大赦から派遣された人間なの。この場にはいないけど、真生もそう」

 

「「っえ……」」

 

「大赦って神樹様を奉っているところですよね……」

 

「……何か、特別なお役目なんですか」

 

 美森の言葉に風は頷いた。

 

「……ずっと一緒だったのに、そんなの初めて聞いたよ」

 

「……当たらなければ、ずっと黙っているつもりだったからね」

 

「風先輩……」

 

「アタシの班が――讃州中学勇者部が、当たりだった」

 

「……当たり」

 

 そう告げる彼女の顔は決して明るいものではなかった。こんなにも大事な事をずっと隠していた罪の意識がそうさせるのだ。そんな彼女に友奈の焦りに満ちた声が響く。

 

「あ、あの、それじゃあ真生くんは……、真生くんはどこにいるんですか!? いるなら早く合流しないと……」

 

「……大丈夫よ、友奈。今見えてるこの世界は、神樹様が作った結界なの。この結界にはアタシたち四人しかいないわ。真生は勇者部だけど、あいつのアプリだけはアタシたちのとは作りが違うのよ」

 

「神樹様の……」

 

「よかった……。でも、真生くんは今どうなっているんでしょうか」

 

「……おそらくだけど、真生もきっと他の人と同じように時が止まっているわ。あいつはあくまでサポートだから。……でも、神樹様に選ばれたアタシたちは、この中で敵と戦わなければならない」

 

「えっ、敵……」

 

「戦うって……」

 

「あの、そういえば……この点って何です?」

 

 友奈の画面に表示されていた点。そこには、乙女型と書かれていた。風はそれを見ると、立ち上がり険しい顔へと変えた。

 

「来たわね……」

 

 風の向いた方向、今ここに全員がそちらを向く。そこにいたのは、

 

 ――――奇妙な形をした謎の物体だった。

 

「えっ、えっ!?」

 

「あれね。遅い奴で助かった」

 

「浮いてる……」

 

「アレはバーテックス。世界を殺す為に攻めてくる、人類の敵」

 

「世界を殺すって……」

 

 風の言葉に少しの違和感を感じる友奈。まるで世界そのものが命を持っているような、そんな言い方を風はしていた。風は説明を続ける。

 

「バーテックスの目的は、この世界の恵みである神樹様にたどり着く事。……そうなった時、世界は死ぬ」

 

 その言葉に、友奈たちは吐息を吐く。世界が死ぬ、それはつまり、神樹が死ぬという事。その現実を見なくてはならない辛さに、彼女たちは神樹の方を見返すことしか出来なかった。

 

「この世界に、私たちしかいない……」

 

「……どうして、私たちが……」

 

「大赦の調査で、もっとも適正があると判断されたの」

 

「そんな! あんなのと戦える訳無い……」

 

 弱気な美森の言葉に、風は一筋の希望の言葉ととてつもなく重い責任を口にする。

 

「方法はあるわ。戦う意思を示せば、このアプリの機能がアンロックされて、神樹様の――勇者となるの。アタシたちがやらなきゃ、真生も、他のみんなも危険な目にあっちゃう。だから……目を背けちゃダメなのよ」

 

「……勇者」

 

 友奈と樹、美森の三人も携帯を操作する。そこに表示されたのは、芽の生えた種だった。

 

「……みんな、あれ!」

 

「……!! 危ない!!」

 

 一瞬、バーテックスのほうから光がきらめいた。その瞬間、爆風が吹き荒れる。その爆風に恐れを感じ悲鳴を上げる彼女たち。近くにあった根の壁のお陰か爆風しか来なかったが、本来ならばより強力な爆発が彼女たちを襲っていたことだろう。

 

「けほっけほっ。何!?」

 

「私たちの事狙ってる……!?」

 

「……こっちに気がついてる!」

 

「そんな、……! 東郷さん!?」

 

 風たちがバーテックスを警戒している中、美森の様子がおかしい事に気がついた友奈は美森に急いで声をかける。

 

「ダメ……こんな……戦うなんて……出来る訳無い……」

 

「東郷さん……」

 

 その様子を見た風はあることを決意する。

 

「友奈、東郷を連れて逃げて」

 

「で、でも先輩……」

 

「早く!」

 

「は、はい!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「樹も一緒にいって」

 

 風は一人で戦うつもりだ。バーテックスの力が未知数である今、彼女の優しさは危うさへと変わってしまっていた。しかし、樹は風に反対をした。

 

「ダメだよ! お姉ちゃんを残していけないよ!」

 

「……樹」

 

「ついていくよ、何があっても……!」

 

 夕暮れの中、樹が風に対して言った言葉が、今再び風に告げられる。樹には何を言っても絶対についてきてしまうことを確信した風は、樹を心配しながらも樹を頼る事を決める。

 

「よし! 樹、続いて!」

 

「……うん!」

 

 風と樹はアプリに、神樹に戦う意思を突きつける。その意思は神樹へと届き、樹と風はその姿を変えていく。

 風の髪は金に染まり、黄色を基調に、白い衣に身を包まれていた。

 樹の服も形を変えて、黄緑を基調として白を混ぜたドレスを纏う。

 勇者へと姿を変えることが成功した瞬間、バーテックスからの攻撃が襲い掛かってきた。しかし、その攻撃を二人はかわす。バーテックスからの攻撃をかわした二人の勇者は宙を舞っていた。

 

「うわああああぁぁぁぁ。これがぁ!?」

 

「そうよ! 樹、着地!」

 

 風にそういわれた樹だが、急に言われてできるはずもなく着地に失敗する。しかし、樹は衝撃に頭をフラフラさせているものの怪我一つ存在しなかった。そんな樹の目の前に一つのもふもふとした黄緑色の毛玉が現れた。

 

「これが、神樹様に選ばれた勇者の力よ」

 

「っ何。可愛い……」

 

「この世界を守ってきた精霊よ。神樹様の導きで、アタシたちに力を貸してくれる。……樹、よけて!」

 

 風の元には青い色をした犬のようなものがいた。少し場違いな反応をする樹であったが、風の言葉にすぐに気を取り直すと言うとおりに爆撃をよける。しかし、急激に上がった能力にコントロールがまだ上手くできないようで、また、勢いに驚いてしまう。樹は思う、まるでジェットコースターのようだと。心の中だけではなく、悲鳴とともにそう口に出してしまう樹に、風は勇者としての力の使い方を教え始める。

 

「手をかざして、戦う意思を示して!」

 

 そういった風の手元に大剣が出現する。その剣を思い切りよく振るい、飛んできた爆撃を切り落とす。その姿に樹は驚き、言われるがままにやってみる。

 

「えぇっ、こう? きゃああぁぁ! こうぉぉ?」

 

 樹の手元には糸が出現し、爆撃を一瞬にして切り刻んだ。見た目によらずとてもエグイ攻撃だ。樹はまたもや頭をフラフラさせつつ、自分の手元に出現した糸に驚いていた。

 風はその間に、友奈に電話をかけた。無事につながり、少しの安堵とともに、気を引き締め直す。

 

「風先輩! 大丈夫ですか!? ……今戦ってるんですか!?」

 

「こっちの心配より、そっちこそ大丈夫?」

 

「はい!」

 

「……友奈、東郷。黙ってて、ゴメンね」

 

「……風先輩は、みんなのためを思って黙ってたんですよね。ずっと一人で打ち明ける事もできずに」

 

「……ううん、それは違う。真生だって知ってたんだ。真生は、みんなに教えておいたほうがいいって何度も言ってくれた、それなのに……」

 

「それでも! たった二人で、私たちのことを思って、たくさんのことを考えてくれてたんですよね。それって、勇者部の活動目的通りじゃないですか」

 

 その言葉を聞いて、風は動揺する。自分の弱さを、そんな風に見られるとは思わなかったのだ。彼女たちの為であったのは否定しない。しかし、それだけではないのだ。それでも友奈は自分を肯定してくれるのだ。それこそが、彼女なのだから。

 

「風先輩たちは、悪くない!」

 

 ふと笑みが浮かんでしまった風に爆撃が飛んでくる。樹からの注意も空しく、風に爆撃が当たってしまう。間一髪、大剣でガードを果たすがその威力の高さに精霊が現れ、風を守る。

 その後、すぐに樹の元にも爆撃が飛んできて、樹も精霊に守られてしまう。

 

「先輩! 樹ちゃあん!」

 

 友奈たちの方向へ、バーテックスは向きを変えていた。友奈たちはその事に気付き、風たちがやられてしまったのかと思ってしまう。

 現れたバーテックスは、ゆっくりと友奈たちのほうへと近づき、エネルギーを貯め始めた。が、突然その動きを止め、バーテックスは震え始めた。その様子に疑問を感じる友奈であったが、美森が焦って友奈に話しかける。

 

「友奈ちゃん! 私を置いて今すぐ逃げて!」

 

「なに言ってるの! 友達を……」

 

 その瞬間、バーテックスは輝き始めた。友奈も美森も、風も樹も、その様子を思わずじっと見つめてしまう。バーテックスの輝きが収まった後には、先程までと少し形を変えたバーテックスが存在していた。

 体の一部にひびが入り、そこから炎を放っている。爆撃の発射口も心なしか大きくなっており、桃色の部分が濃くなって、白い部分が黒く染まっていた。

 

 突然の変異に驚愕する四人。バーテックスの体はその瞬間も、体からあふれる炎に身を焦がしていた。




 思ったよりも展開が進まず、次回からが本番、といった感じになりました。

 最後を除いて殆ど原作どおりになってしまってごめんなさい。前回のあとがきに次回から大幅な改変はいるよ! といったのにも関わらず、改変といえる改変がラストだけという始末。本当に申し訳ございません。

 次回からはどうあがいても改変を入れることが出来ます。相変わらずの微妙な間隔での更新ですが、次回もお楽しみに。

 気になった点、誤字脱字などがあったら感想欄でお願いします。普通の感想や批評もお待ちしています。
 では最後に、


 変身:オウレンの花言葉

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