ルピナスの花   作:良樹ススム

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 バレンタインデーということで急遽書き上げました。土曜丸々使いましたが後悔はしていません(泣)
 主人公の容姿に関して、挿し絵を描いたので、第二話の変化に記載しました。


第十三話 感謝

 

 今日は、周りの人がとても浮き足立っている。男は普段より優しくなっていたり、女はやけにもじもじしていたり。原因はアレか。バレンタインというものが、そんなに楽しみなものなのだろうか。俺がおかしいのかもしれないが。

 寝ぼけ気味な朝ということもあって、少し変な事を考えてしまっているようだ。友奈たちのところへ向かう道の途中、ひとつの人影を見つける。

 

「ん? あれは……明か?」

 

 その人影の正体は、加藤さんの孫娘の加藤明だ。彼女の特徴はなんといってもポニーテイルだろう。髪の色は黒、瞳の色は茶色である。

 しかし、彼女は何故こんなところにいるのだろうか……。近くに家でもあるのだろうか。知らない仲でもないので聞いてみるのもいいのかもしれない。

 

「おはよう、明。久しぶりだな、何でこんなところにいるんだ?」

 

「あ! 真生さんおはようございます! あの突然ですけどこれ受け取ってもらえますか?」

 

 そういって手渡されたのは可愛らしくラッピングされた箱だ。本当に突然だったが、特に断る理由も無いので受け取り、持っているバッグに入れる。それを喜んでくれる明に微笑みかけ、もう一度質問してみる。

 

「ありがとう。それで何でここに?」

 

「あ、真生さんはいつもここを通るからっておじいちゃんが言っていたので。今日はバレンタインですし、真生さんに一番にチョコレートを渡したかったんです」

 

 そう言って笑う彼女に邪気などかけらも感じなかった。彼女にここまで好かれるとは当初は予想もしていなかった。夏祭りで知り合って、その後も何度か会う機会もあった。夏祭りで樹を引っ張っている姿から、少しお転婆な子なのかと思っていたが、意外と礼儀も正しく、樹と同じく良い子であることが分かった。さっきのように話を聞かないという欠点もあるが。

 しかし、彼女は俺をここで待っていたということが分かったのはいいんだが、加藤さんは何で俺のいつも通る場所とか知ってるんだ。ストーカーなのかと不気味に思えるレベルである。

 明は俺にチョコを渡したことで満足したらしく、自分の行く先へと走っていった。

 

「それじゃあ、また今度会いましょう! 今度あったときはチョコレートの味の感想も教えてくださいね! それでは、いってきまーす」

 

「おう、いってらっしゃい」

 

 まるで嵐のようだったが、俺はあの子のことを娘のように感じていた。何か自然といってきますといってらっしゃいをしてしまったなぁ、と少し変な気分になってしまう。

 そして、俺は再び歩き出すことにした。少しすっきりした頭で、友奈たちの下へと。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「……それでもうチョコレートもらったの? モテモテだねぇ、真生くん」

 

 友奈たちのところに着いて、さっきのことを話題に出した反応がこれである。友奈は何故か尊敬の目でこちらを見ており、東郷は何を考えてるか分からない。ただただニコニコするだけである。そこが逆に怖い。

 着いた直後はきゃっきゃ、きゃっきゃと騒ぎあっていた友奈と東郷だが、俺が合流するとそのときの様子をかけらも見せずに、俺を含めた三人で会話をしていた。少し疎外感を感じないでもないが、女の子同士で無ければ話し合えないこともあるんだろう、と自分を納得させていた。

 友奈たちと歩いている間も、いちゃいちゃしていたり、初心(うぶ)な雰囲気をかもし出していたり、どんよりとした空気を体から発している男などとすれ違った。バレンタインの日は良くも悪くも、人を変えるらしい。朝も早いのにお盛んな事で。

 

「真生くんは格好いいから仕方ないわよ。朝からこの調子なら帰る頃にはバッグ一杯かもね」

 

 東郷は恐ろしい事を言ってくる。バッグ一杯のチョコレートは流石に遠慮したい。そこまであると処理が大変だしな。それに俺はそこまでモテているわけではないのだ。言うならば、友達としてはいいけど恋人としてはちょっと……みたいなタイプだと自分では思っている。それにバレンタインは親しい人にチョコを渡す日だ。それはお世話になった人、という意味でも通じる。

 

「それを言うなら、お前たちもそこそこ貰うだろう? 普段から積極的に人助けをしている友奈なんか特に。最近では男から渡すこともあるらしいからな。友奈もたくさんの男たちから貰う事があるかもしれないぞ?」

 

 そういうと、友奈は困った顔になる。自分がそんなにチョコを貰う未来が想像できないのだろう。俺も冗談で言ったつもりだが。しかし、東郷はそうでもなかったらしい。

 

「確かに……!! 友奈ちゃんの可愛さなら男たちなんて皆メロメロだし、女の子でもその魅力に魅了されてしまう事があるかもしれない……。いえ、それならば私が友奈ちゃんを守る刃になれば……。大丈夫よ、友奈ちゃん! 友奈ちゃんは私が守るからね!」

 

 少し、いや完全に過剰反応をしてしまう東郷に俺も友奈も苦笑い。しかし、友奈は東郷にそこまで想われていることに嬉しさも感じているらしく、苦笑いもすぐ崩れて普通の笑顔になる。

 その後も東郷がやけに張り切っていたり、風にはいくつのチョコレートが行くかなどの会話を通学中にずっとしていたが、まさかこのときの話が現実になってくるとは思わなかったのだ。

 

 

 

 

「はい、これ。義理だけどいつものお礼。お返しは別にいいからね」

 

「……あ、ああ。ありがとう」

 

 このときまでにもらった義理チョコは10個である。これを入れれば11個だ。そして、義理なのか本命なのか分からないチョコは3個だ。我ながら半端無いと思う。まさか、本当にこんなにもたくさんのチョコレートを貰う事になるとは思わなかった。東郷のあの発言は予言だったのか。

 そんな俺に近づいてきた山野は、俺に対して、彼女がどうの本命がどうのとかうるさかったので、黙らせておいた。いちいち俺に自慢してくるんじゃない。

 放課後になり、勇者部の部室に行くと、既に全員そろっていたようで、俺を笑顔で迎えてくれた。

 

「お疲れ様、真生。あんたはいくつ貰ったのよ?」

 

「…………14個だ。そっちは?」

 

「アタシが7個で、友奈が6個、東郷が3個よ。アタシのは男からのも含まれてるけどね」

 

 意外と皆貰っていたみたいだ。というか風の数が何気に多い。男の立つ瀬が無いじゃないか。2倍の俺が言う事じゃないかもしれないけれど。

 

「友奈ちゃんに近づく男はみんな私がガードしました」

 

「東郷さん凄いんだよ~。こう、シュバッと私の前に来るの」

 

「本当にやったのか……。少し男が哀れだな」

 

 男たちは皆そろって東郷にガードされたらしい。チョコとか関係なく話しかけた男は無事だといいんだがな。東郷の数が少ないのはそれが原因なのかね。いや、元々そういうイベントじゃないやコレ。

 一部の子はホワイトデーのお返しはいいといっていたが、それを差し引いてもお返しは大変だろう。何がいいだろうか。

 じきに迫ってくるホワイトデーのことを考えていると、風は少し遠慮するようにして話しかけてきた。

 

「……ねえ真生。一応チョコは作ってきたんだけどいる? 流石にそんなにたくさん持ってるんなら、無理してもらわなくてもいいけど……」

 

「ん、別に無理しているわけじゃないし、遠慮する必要ありませんよ。ありがたくもらいます」

 

 不安そうに聞いてくる風からも貰い、チョコの所持数が15個となる。風もそんなに不安そうにする必要はないのに。多少無理してでも、大事な人からのチョコレートぐらい受け取るものだ。そういえば明の分を含めれば16個か。流石にこれ以上は増えな……。

 

「あ、樹からも貰ってるわよ。はい」

 

 ……まだ増えるようだ。最早諦めるレベルだが、決して嬉しくないわけではないので、ありがたく受け取る。バレンタインでここまでたくさん貰ったのは初めてかもしれない。小学生の頃はそこまで貰った事はなかった。いつも彼女たちと一緒にいたから渡す隙がなかったのかもしれない。それとも、中学生にもなれば、少しは色気づくものなのか。

 

「今日は色々と疲れたし、活動は止めましょうか。都合のいいことに依頼もないし」

 

 風のその判断は正直に言えば助かる。何というかこういうことで気を張るのはなかなか疲れるのだ。この辺りはやはり慣れなのだろうか。こういうことに慣れている奴が羨ましいものだ。……いや、よく考えたらその分この気分を何度も味合わなければならないのか。なら全く羨ましくないな。

 

「それじゃ失礼します! 風先輩も気をつけて帰ってくださいね」

 

「はいはい。それじゃあね、友奈、東郷、真生」

 

 俺たちは風に別れを告げて、帰路に着く。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 まだ二月なので多少は冷えるようで、帰路の途中で東郷がくしゃみをする。

 

「大丈夫? 東郷さん、風邪?」

 

「いえ、風邪じゃないから心配要らないわ友奈ちゃん」

 

 不安そうに東郷を見る友奈に、東郷は少し慌てた様にして友奈の不安を取り払う。友奈に関しては本当に過敏に反応するな。とりあえず、東郷が冷えないように自分の上着を東郷にかける。くさくはないはずだから大丈夫だろう。東郷は瞬きをして、こちらを見つめてくる。

 

「あ、ありがとう、真生くん」

 

「どういたしまして」

 

 寒さなんてものを感じる体ではない為、俺は上着を着る必要もないのだ。陽が落ちるのも意外と早いもので、まだ6時だというのに周りはすっかり暗くなっていた。星が綺麗に見えるものの、肌寒さは嫌でも感じるものなのだろう。東郷が寒がるのも無理はない。

 俺と東郷の様子を見ていた友奈は少し考えるような仕草をして、東郷に何かを提案する。

 

「ねぇ、東郷さん。そろそろアレ渡そうよ。いいタイミングだと思うよ?」

 

「友奈ちゃん……。そうね、尻込みしてても仕方ないものね」

 

 東郷は意を決したようにバッグの中に手を突っ込む。そして、中から何かを取り出す。……あれ、なんか既視感を感じる。友奈も同じようにバッグから何かを取り出す。もうコレはアレで確定な気がする。というか、もうアレ以外ありえないだろう。

 

「「ハッピーバレンタイン!」」

 

 二人は声をそろえて、今日この日の名前を言う。

 

 バレンタイン、それは恋人から恋人へ、友達から友達へ、片思いの人へ、お世話になった人へ、チョコレートを、感謝の気持ちを渡す日。

 

 友奈と東郷。俺がもっとも親しい二人。彼女たちから貰ったチョコレートは、普段の俺への、草薙真生への感謝の気持ち。二人は俺の様子を窺っている。俺の反応が気になるのだろう。それもある意味当然だ。俺はそんな彼女たちに、ありきたりな反応しか返すことは出来ない。しかし、そのありきたりな反応にありったけの思いをのせよう。届くかどうかは分からないけれど、自分の返せる立った一言のこの言葉を。

 

「――――ありがとう」

 

 俺の反応に友奈と東郷は安心したようで、二人そろって胸に手を当てていた。こんなところでも仲の良い二人だ。少し気恥ずかしくなったので、貰ったチョコレートへと目を移す。

 勇者部からのチョコレートはみんな手作りのようで、手間をかけさせた罪悪感と手間をかけてくれることへの嬉しさが混ざり合う。東郷からのチョコレートだけチョコレートではなく、ぼた餅の気配がぷんぷんしてくるがそんな事は、全く気にならなかった。

 俺たちはその後も楽しく談笑をしながら、帰り道を歩いていった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 余談ではあるが、ホワイトデーのお返しに10倍返しを現実に行って、女子側をびびらせた事をここに記載しておく。本当に何がいけなかったんだ。ただチョコレートの倍の量のクッキーを渡しただけなのに。

 あ、勇者部のみんなにはキャンディーをあげました。




 一週間ほど更新はしないと言ったな。――あれは嘘だ。

 はい。ということで更新をしてしまいました。勉強しなきゃと思いながらも、明日があるさと甘えてしまう自分が恨めしい。

 バレンタインデーの解釈については、自分の勝手な解釈ですので、これは違うという方にとっては違うものだと思ってください。

 今度こそ勉強するぞ、と思いながらこのあとがきを書いているので、本当に頑張ります。勇者部の五ヶ条を守ればいけるはず。なるべく諦めません。ちなみに作者は家族や親戚からしかチョコを貰った事はありません。今年は部活のマネージャーさんが部のみんなに配ってましたが。

 気になった点や誤字脱字があれば感想欄かメッセージにてお伝えください。普通の感想や批評、応援なども待ち焦がれていますのでよろしくお願いします。……ちょっと直球すぎますかね?
 では最後に、


 感謝:カンパニュアの花言葉

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