クリスマス。神樹を信仰してるのに、そんな違う宗教の行事やってもいいの? と思ってもおかしくないだろう。ぶっちゃけ、俺もおかしいと思う。
大赦曰く――
「旧世紀の行事は旧世紀を生きた人々の思いが詰まっている。それを蔑ろにしては先祖の怨みを無駄に受けることになる。神樹様は懐の深いお方だ。違う宗教といえど信仰さえ深いままなら気になさることもないだろう」
ということらしい。何はともあれ、今は12月。それも今日はクリスマスイブである。もう、周りはクリスマス一色である。これも神樹の恵みなのか、雪も降り積もっている。これならほぼ確実に、いわゆるホワイトクリスマスというものが実現するだろう。楽しみではあるが、雪が積もることによって交通手段が減る可能性もあるので、些か不安である。主に東郷が。
しかし、こんな雪が降り積もる日でも元気のいい子はいるものだ。性別は女の子。趣味は押し花。……ここまで言えばもうお分かりだろう。むしろ言わなくてもわかったかもしれない。その少女、――結城友奈は元気である。
「やっほーう! 真生くんもおいでよ、雪すごい積もってるよ!」
「そうだな、すごい積もってるな。こんなに足を奪われそうなのにそこまで元気一杯なお前を心から尊敬するわ」
「……私はそれよりも真生くんのその格好にビックリするんだけど。寒くはないの?」
もちろんこの場にいるのは俺と友奈だけではない。東郷もいるのだ。つまりはいつもの三人組である。
先程東郷に心配そうに質問された俺の格好を教えておこう。冬仕様の制服にパーカーを羽織っただけだ。……心配されるほど寒くはないんだが、普通の人にとってはそんなに寒いものなのだろうか。後でもう少し厚着に替えておこう。あまり注目されるのは好まないしな。
「ところで東郷。車椅子は大丈夫か? 滑ったりとかは……」
「大丈夫よ。ちゃんと道路は除雪されているし、車椅子も滑り止めのあるものに変えてあるから」
「確かそういうのって高いんじゃ……いや、まあそれなら大丈夫か」
東郷は笑っている。雪が降り積もっているので少し不安だったが、杞憂だったようだ。そうなると心配なのは友奈だ。足を滑らせたりしないだろうか……。
「うひゃあ!」
「友奈ちゃん!?」
俺がそんなことを考えたのがいけなかったのだろうか。盛大に足を滑らせた友奈は雪のなかに突っ込んでいった。いくら防寒具を着込んでいるといっても、雪のなかに突っ込んだら意味がなくなるだろう。何故か雪に上半身を突っ込んだまま動かない友奈に不安を感じ、すぐに助けにいこうとする。しかし、その瞬間友奈はぷはあっ、と言いながら雪のなかから現れた。
「えへへ。ごめんね、心配させちゃって。ちょっと興奮しすぎちゃった。雪のお陰で頭冷えたよ」
「そんなことを言ってないで、さっさとこれで体拭け! また風邪を引かれても困るから。後、お前は元気一杯な位がちょうどいいんだから、あんまりしょげるなよ」
友奈はキョトンとしながら、されるがままに俺の持っていたタオルで頭を拭かれている。あ、結局俺が体拭いてるな。自分でも少し強引すぎたか、と感じながらも友奈の体を拭き終えた。まだ湿ってはいるが、そこは一回家に帰れば大丈夫だろう。
「あ、ありがとう、真生くん。一回家に帰って着替えてくるね」
「おう。また部長が部室で一人で泣き始めるから、早めにな」
言うのが遅れたが、今は勇者部の活動の準備をするために学校へ向かっていた。クリスマスイブではあるが、幸いというか何というか、恋人やそれに関係するような人が一人もいない上に、浮いた話の一つもない勇者部は、クリスマスに幼稚園からの依頼が入っていた。クリスマスパーティーの誘いともいうだろう。
せっかくのクリスマスパーティーなので、俺達勇者部は盛り上げるために準備をしようとしていたのだ。ご覧の通り友奈がはしゃぎすぎたので少し遅れそうだが。今頃、風も学校についた頃だろう。悪いとは思うが、友奈のためにも待ってもらうほかない。アプリを使って、許せ、と一言だけ打つと、すぐに風から、何があったの!? と返信が来た。無視するのもなんなので、一応の事情を先に伝えると、わかった。それじゃあ先にやってるわね~、との返信が返ってきた。いい先輩してるな、風。
「さてと、ちょっと俺も着替えに家に帰るよ。全力でいくから友奈より早く着くと思うけど、もしも遅れたら先にいってて」
「やっぱり寒かったのね。体温調節は大事よ。こんな日は暖かいに越したことはないわ。いってらっしゃい」
東郷の見送りを受けながら、東郷の姿が見えなくなるまでそこそこのスピードで走り、見えなくなると猛スピードで走り出した。原付くらいの速度は出ているだろうか。あまり人に見られないルートを選び、マンションへ戻る。コートを上に着て、カイロをポケットに突っ込み、手袋を手につける。
これだけ厚着すれば変には思われないだろう。多少動きづらくはなるが、誤差の範囲内ではあるしきっと間に合うだろう。
再びスピードを上げ、東郷たちの元へと駆ける。途中でひやひやする場面もあったが何とかなったので語ることでもないだろう。東郷の姿が見えてくると、もうひとつの影も見えてくる。
「……先に行けって言ったのに」
「真生くんだけ置いてくなんてやだよ。行くなら皆でだよ! ね、東郷さん」
「ええ。もちろんよ友奈ちゃん。いってらっしゃいとは言ったけど、了解したとは言ってないからね♪」
全く、こういうとこばっかり頑固な奴らなんだから。顔を見合わせて、してやったりとでもいう風に笑いあう彼女たちを見ると、仕方ないと思えるのが不思議でしょうがない。待っていてもらったのは事実なので、しぶしぶお礼を言うと、嬉しそうに頷き返してくる。ああ、もう。
「全員集まったんだからさっさと行くぞ。きっと風先輩も待ちくたびれてる」
「は! そうだった。早く行かなきゃ!」
三人でそろって道路を駆けるのは、意外と心地よかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やっと来たわね。いいかげん一人でやるのは疲れたわよ……」
いかにも疲れきった様子の風に思わず苦笑い。あの後、友奈の人助けが幾度か行く道をさえぎり、当初の予定より時間が大幅に遅れたのだ。風の愚痴にも返す言葉のない俺たちは頭を下げるほかなかった。俺たちのいない間にも作業はかなり進んでいたようで、クリスマスパーティー用の衣装も半分ほどが出来上がっていた。流石は家事スキルマックスなだけあるな、風は。
……心の中とはいえ、遅れてきた癖して上から目線なのもどうなのだろうか。少し考えておこう。
「ところで俺たちは何すればいいんだ? 衣装の製作を手伝うとかか?」
「そんなことあんたたちには期待してないわよ。あんたたち……主に東郷の仕事だけど、ケーキを作ってもらうわ」
「「「ケーキ?」」」
「そう、ケーキ。でもただのケーキじゃないわよ? 幼稚園の子供たちが皆食べられるようにたくさん作るの。でっかいケーキでもいいとは思うけど、当日にそんなもの運ぶ暇なんてないでしょ? だから、初めから小さいケーキをたくさん作っておくのよ。一応クリスマスパーティーなんだからきっと向こうでもケーキでるでしょ? 小さいのなら食べるのも楽でしょうし、今回の件にはぴったりだと思ったのよ」
自信満々にそういう風に、俺たちは思わず、おおーと声が出てくる。かなり理にかなった考えである。たくさん作るのは手間はかかるだろうが、子供たちに喜んでもらえるのならそれ位苦でもないだろう。
東郷の仕事であるケーキ作りは以前の彼女ならかなりの難色を示しただろうが、今の彼女なら全く問題は無い。何を隠そう俺が遠いイネスまで行ってジェラートをみんなに買ってきて、食べさせたからだ。少しの不安もあったが、東郷は和菓子派であり、洋菓子を敬遠していたが、ジェラートのあまりの美味しさに簡単に陥落した。洋菓子を作らせるというのも多少の苦戦はしたが、意外とどうにかなった。友奈と俺なら基本的に何とかなるね。
「……ん? その材料代は誰が出すんだ?」
突然ビクッと震える風。まさかそのあたりのことを考えてなかった、もしくは誰かに押し付けようとしていたんじゃないだろうな。家の事情的に気持ちは分かるが黙っていていいことでもないだろうに。……仕方がないか。
「あんまり個人的な金たくさん持ってる奴もこの中にはいないだろうし。俺が出しとくよ。特に使う予定もなかったし丁度いいだろ」
「う……ごめんね真生。金銭的な負担なんかかけちゃって」
「気にするな。またどっかで何かしらの形で返して貰うから心配するなよ。いつでもいいから覚えとけ」
はーい、と苦笑いしながら返す風。あまり風に構っていると話がそれていくので、特に気にせずに東郷へと問いかける。
「東郷。一体何を作る? やっぱりカップケーキか?」
「そうね。たくさん作るとなると時間もかかるし、カップケーキが丁度いいかもしれないわね」
「よしきた。今から買ってくるから材料リストをアプリで送ってくれ」
東郷はアプリを起動し、カップケーキの材料を載せてくれる。
俺は、部室を出て、外へと向かった。外はまだ雪が降っており、走りにくそうだ。あ、そういえばカップケーキの材料なんてどこで買うのだろうか。今更部室に戻って聞くのもなんだし、アプリで……いや、なんか恥ずかしいな。イネスに行くにも流石に遠いし、どうしようか。
「おや? 草薙君、困った顔をしてどうなさいましたか?」
突然かかってきた声に驚いたが、その正体は加藤さんだった。相変わらず、人を驚かせるのが好きな人だ。というかこの人どこから現れたんだ。神出鬼没にも程があるぞ、この人。
「何か聞きたい事でもあればどうぞ?」
そうだ。この人なら材料がどこで売ってるか位知っているだろう。この街で長く生きているのだから、当然だ。先読みされたのは地味に怖いが、迷っている時間がもったいない。
「カップケーキの材料を買いに行きたいのですが、どこで売ってるかご存知ですか?」
「ああ、そういうものならあの通りの向こう側にある店がとても便利ですよ。大抵の食品なら何でも扱っていますから。それにそこまで高くないのも魅力です。赤字ギリギリを狙って売っているらしいですからね」
「よく続いてますね、そんな店……。ありがとうございました。さっそくその店に行ってみようと思います」
俺はそういうと加藤さんに背を向け走り出した。――――彼が後ろで何を思っているのかも知らずに。
「――――彼もこうしてみるとどこか抜けた普通の少年にしか見えませんね。あのお方は何を思って彼の監視ではなく、見守る事を願ったのか……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
無事に材料を買い終えた俺は、部室へと戻ってきていた。三人ともがそろって、無言で布をちくちくしているのはある意味シュールだ。時たま東郷が友奈に教えたりもしていたが。
俺が帰ってきたことに気が付いた友奈たちは、温かく俺を出迎えてくれた。
「おかえり~。やっとケーキ作りを衣装作りと並行して行えるわ。もうそろそろ十四時も回るし急ぐわよ~」
俺たちはとうとうケーキ作りを始める事にした。もう少しで衣装作りも終わるとのことで友奈と俺は衣装作りのほうへ回る事になる。東郷一人に任せるのは心苦しいが終わり次第全員で手伝いに入るので問題はないだろう。
先ほどまでの東郷の役目を俺が引継ぎ、友奈にたまにアドバイスしながら衣装を作り上げる。俺と風がトナカイコスチュームで東郷と友奈がサンタコスチュームらしい。手作りながらもなかなかの出来のコスチュームに感心しながら作業を進める。残りのコスチュームは俺と友奈の分でラストだ。風は友奈の手伝いをしている。後で店に仕上げを頼むらしい。あまり遅くなるとその辺りも明日中に仕上がるか分からなくなるので今日中に仕上げたいらしい。そうこうしている間に俺のほうは完成し、残りは友奈のところだけだ。程なくして友奈のほうも完成し、風は一旦この場を抜ける。俺と友奈は引き続き、東郷の作業に参加し手伝う事になる。
忙しさに友奈とともに目を回しながらも東郷の手伝いに向かう。
――――クリスマスパーティーは間近に迫っていた。
正直突然で驚きました。本当に嬉しいです。
ランキングに載ったことでよりやる気が出てきました。更新はテスト期間に入るので遅くなりますがテスト期間が終わり次第、更新を早めにするようにするので応援お願いします。
そろそろ原作にも突入する気ではありますが、原作はいくらか改変を加えさせてもらいます。一度思い出すためにもアニメを見返そうと思いますので、その影響で更新が遅れたらごめんなさい。
今回の話は、ラストから分かるとおり、クリスマスイブとクリスマスの前編後編でやらせてもらいます。お楽しみいただけたら幸いです。
気になった点、誤字脱字などがあったら感想欄にてお伝え下さい。もちろん普通の感想、批評もお待ちしています。
では最後に、
幸運を祈る:ポインセチアの花言葉