ルピナスの花   作:良樹ススム

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タグに“オリジナルキャラクター”を加えました。
あらすじの“精霊”の部分を“神樹”に変更しました。



第十話 飾らない心

 

「全員同時に依頼が来た?」

 

「そう。具体的には全員に同じ依頼が来た、だけどね」

 

 勇者部として活動して、はや数ヵ月。とうとう個別依頼ではなく、全員に依頼が来た。普通なら個別依頼より先にそういう依頼が来そうなものだが、たまにはそういうこともあるだろう。

 今回の依頼は保育園から来ている。子供と遊ぶことが主な依頼内容であって、一見すると簡単な依頼に見えるだろう。しかし、あまり外で遊ぶことが得意でなかったり、人と関わることを嫌う子供のケアなども依頼内容にはいっているということを予想するとなかなかに大変そうな依頼だと言える。まあ、邪推しすぎだと言われればそこまでなのだが。

 

 ――――というわけで

 

「ねえねえ遊んで~」

 

「一緒にこれやってよ~」

 

「ええ~、それよりも中で遊ぼうよ~」

 

 元気のいい子供たちのいる保育園にやって来た。特に人気なのが友奈だ。きっと同類だと思われているんだろう。風はそのリーダーシップを駆使して、園児を率いている。東郷は、中で遊ぶ派のこどもたちのお世話をしていた。

 さて、そこで俺なのだが、女の子と男の子が半々くらいの割合で集まっている。男の子達は友奈のところに俺をつれていこうと、女の子達は東郷のところにと、それぞれ俺を取り合っている。俺はどちらにいけばよいのだろうか。なにげに友奈も東郷もこちらをチラチラ見てくるのは何でだ。より一層迷うだろうが。

 ……散々迷ったあげく、友奈の方にいくことにした。女の子たちも結局こちらについてくるようだ。だったら初めからどちらにいくか統一しておいてほしいものだ。嬉しそうな友奈に、メンバーが増えることが嬉しそうな園児達。何故かハイタッチしたりしてるが、こいつら仲良くなるの早いな。さすがの一言だ。

 

「で、友奈。俺がこっち来たからメンバー増えたけど何するんだ?」

 

「う~ん、何しよっか。ケイドロとかどうかな?」

 

「それでいいか? 子供たちよ」

 

 うん! やら、いいよ~等の全く揃っていないが、意味は同じな返事を返してくる園児達。今からケイドロを始めるらしい。やるからには園児達の捕獲に全力を、本気を出すとしよう。ククク、園児達の驚く顔が目に浮かぶわ。

 その時の俺の顔は恐らく、とても邪悪な顔だったのだろう。だって、現在進行形で俺の様子に気づいた一部の園児が怯えているもの。……俺そんな酷いことする気はないんだがなあ。

 

「警察は私と真生くんでいいよね。泥棒はキミ達で決定! それじゃあ始めよう!」

 

「数十人相手にたった二人とか泣ける。ま、ハンデとしてはそれくらいでいいがね」

 

 俺の余裕な態度に男の子達は反応する。やっぱり男ならそうでなくちゃな。――手加減する気は毛頭ないけども。

 

「今から三十秒数えるね! その間に隠れるもよし、私達相手に走り回って逃げるもよしだよ! それじゃあ……はじめ!」

 

 俺と友奈は目を瞑って、声を揃えていーちと数字を数えはじめる。近くでわーわーキャーキャー聞こえるのでまだ遠くへは行ってないだろう。その余裕を三十秒数え次第、消し去ってくれるわ。

 

「「はーち、きゅーう」」

 

 ……思ったよりも三十秒が長い。しかし、友奈は何故たった二人で警察をやろうとしたのだろうか。確か調べたときに、警察は捕まえる係りと捕獲した泥棒を監視する係りがあったはずだが、二人ともが捕獲をしに向かうのか? 今聞くと数が分からなくなるので聞けないが、後でそれとなく聞いておこう。ちょっと気になるし。

 

「「にじゅういち、にじゅうに」」

 

 とうとう二十台である。もう間もなく始まるだろう。始まってすぐに聞くか、それとも後で聞くか。どちらにしようか。……後でいいか。いつでも聞けるし。

 

「「にじゅうきゅう、さんじゅう!」」

 

 ダッと同時に駆け出す俺と友奈。園児たちは嬉しそうに逃げ出した。しかし、本気を出す俺と友奈にはかなわずすぐに何人かを捕まえる。捕まえた子達を友奈に預け、他の子の捕獲に向かう。隠れた子は後回しで走っている連中を優先的に捕まえる。捕まえた子達に友奈の所に向かうよう伝えると、素直に友奈の所に走っていってくれた。子供は素直でいいな。

 意外と早くに走っている子達はいなくなった。走っていては俺にかなわないと思い、方向性を隠れる方に変えたようだ。甘いな、俺相手に隠れ切れると思ったか。違和感のある場所や隠れやすい場所を徹底的に洗い出していく。見つかったことに驚く園児を軽くタッチすると男なら悔しそうに、女の子ならば捕まっちゃった☆、とでも言うような反応を返してくれる。あっという間に、園児達の半数を捕まえた。残りの園児達は俺の様子を見て、念入りに隠れてしまったようだ。こうなると俺も一人で全員を見つけるには骨が折れる。

 しかし、念入りに隠れるということはそのぶんその場所を離れづらくなり、捕まった園児達を助けることは困難になる。つまり――――友奈が自由になるということだ。

 

「あ、み~つけた。はい、みんなのところに移動してね~」

 

 さっそく一人捕まえる友奈。勘のいい彼女なら俺よりも早くに捕まえてしまうだろう。彼女にわからないなら、そこは俺がカバーすればいい。どんどん見つけていく友奈に、ケイドロが終わるのはもう少しだろうなと感じた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ケイドロも終わり、一度俺は友奈達のグループを抜けた。一部の園児は不満そうだったが、友奈ならうまくカバーしてくれるだろう。俺がグループを抜けたのには理由がある。それは、一人の園児のことだ。名前は、確か池尾勇太……だったかな。彼は独りぼっちというわけではなさそうだし、いじめられているというわけでもなさそうだった。だが、なぜか少しつまらなそうにしているように見えた。あんな年齢でそんなことを考えているのは少し気に入らない。楽しい、ということを教えてやろうと思う。今のうちじゃなきゃ出来ないこと、感じれないことがあるんだ。後悔なんてさせたくない。

 

「なあ、ちょっといいか? 勇太くんっていったよな?」

 

「……? 何か?」

 

 彼はキョトンとした顔をしている。いや、あれは()()()()()な。この年齢で何でそんなことできるのやら。

 

「何でそんなにつまらなそうにしてるんだ? もっと真剣にやってみたらいいのに」

 

「なにそれ? あんたがなに言ってんのかわかんないよ。俺は十分楽しんでるよ」

 

「残念ながら見れば分かるんだよ。お前そんな冷めた目で周りを見てるくせに、何が楽しいんだよ。今のお前は周りに合わせて楽しむフリをしてるだけだよ」

 

「……何であんなことして面白がってんのか理解できないだけだよ。周りに合わせて何が悪いんだ? 本気でやっても疲れるだけだし、誰も俺には勝てないんだ。やる意味なんてないよ」

 

 さすがにまだ年齢が低いから本音をさらけ出すのが早いな。周りに合わせて何が悪い、か。確かに何も悪くないだろう。だが、そんな事をしていてもそのうち限界が来る。それに、見た感じこいつは何かを本気でやった事がないんだろう。だから楽しめない。だから分からない。

 

「……じゃんけん、ほい」

 

「え? あ、ほい。あ、負けた……」

 

 不意打ちでじゃんけんを仕掛けるとあっさりと負ける勇太。呆然としている顔が面白い。ニヤッと笑って、俺は伝える。今までの経験を基に、自分の言葉で。

 

「お前は深く考えすぎだ。それは将来大きな武器になるだろうが、今は持っていても仕方ないんだよ。今の感性で、今の自分で、精一杯楽しめよ。お前が本気を出したところで俺にはかなわないぞ? どれだけでもかかって来い。どれだけでも受けて立ってやる。……いつまでもこのまま居られる保証なんてないんだからな」

 

 最後は小声で、ぼそっと呟いた。きっと勇太には聞こえていないだろう。この言葉は別に伝える必要はないだろう。言いたい事はもう言ったのだから。

 勇太は、むすっとした顔で俺に不満をぶつけてくる。

 

「今のじゃんけんなんて無効だ。あんな不意打ち認めない」

 

「じゃあ、もう一回やるか? そっちから言えよ。ほら」

 

「いいぜ。次は勝ってやる。じゃんけん、ほい! ほい! ほい! ……ほい!」

 

 連続でじゃんけんを仕掛けてくる勇太。しかし、俺は全て見切って勝利の手を出す。大人気ないとか知らん。やりたい事やってるだけだし。自分のペースでやったにもかかわらず全てに負けた勇太は信じられないとでも言いたいような顔をしている。すぐにムキになった勇太に内心、計画通り! と思う。

 

「~~!! 他の勝負だ! それなら勝てる!」

 

「じゃあ友奈達のところに行こうか。どんな勝負でも負けないさ。諦めずに何度でもかかって来い! んじゃ行くぞ!」

 

「ちょ、待て、うわぁ!」

 

 俺に手を引っ張られて転びそうになる勇太。彼なら心配ないだろうと思い、手をとったまま走り出す。勇太は体勢を立て直しながら、俺に負けじと前に出てくる。もうかなり本気に近づいているだろう。後は仕上げに全員で遊ぶ。そして、楽しむ!

 

「友奈! こいつも入れていいよな?」

 

「もちろん! 一緒に遊ぼう!」

 

 友奈の笑顔に頬染めやがってこのマセガキ。俺は勇太の頭をわしゃわしゃする。もちろん勇太は暴れるが、そんな事は無視してわしゃわしゃを中断し、友奈のほうに押してやる。必然的に飛び込んでくる形になる勇太を友奈はぎゅ~っと抱きしめる。顔を真っ赤に染める勇太を園児達と一緒に笑う。顔を真っ赤に染めた勇太は俺に向かって飛び掛ってくる。それを軽く抑えながら友奈と何をするか話し合う。そこに風も加わり、東郷も加わってくる。もちろん、風と東郷のところに居た園児たちもこちらに来る事になる……さすがに人数が多いな。

 

「なになに? なんか面白い事やってんじゃない」

 

「友奈ちゃん、真生くんもあんまりいじめちゃダメよ。みんな集まったんだし、全員で何かやろうと思うのだけど、どうかしら?」

 

「それもいいけど何するんだ? これだけの人数だとやれる事も限られてくると思うんだが……」

 

「おい! 俺との勝負はどうするんだよ!」

 

 全員集まるとかなりにぎやかになるな。勇太も我慢がきかなそうな奴だし、そろそろ何かやらないとな。

 

「みんなで鬼ごっこをやりましょう。時間制限は30分! 複数人の鬼を用意してやればこのルールでも大丈夫でしょう?」

 

「そうだなそれで行こう。初めの鬼は俺たち勇者部と数人の園児でやろう。やりたい子は居るかな?」

 

 もう結構な時間遊んでいるというのに、まだまだ元気な様子で返事を返す園児達。その中から数人を選び、幼稚園の先生を呼び、時間を計ってもらう。

 

「よーし! それじゃあいくぞ~! 十秒数えるから皆逃げろ~! い~ち!」

 

 まずは風が数字を数え始める。園児たちは逃げ出した。

 

「に~い!」

 

 東郷が声を出す。園児達は男も女も関係なくとても楽しそうにしている。

 

「さ~ん!」

 

 友奈も大きな声で叫ぶ。一部の園児が鬼ごっこだというのに隠れ始める。

 

「よ~ん!」

 

 俺も続いて笑顔で口を開く。勇太が俺が初めに見ていた姿など微塵も感じさせぬような瞳でこちらを見ている。

 

「「ご~う!」」

 

 鬼側の園児も俺たちと同じように叫んでくれる。逃げる側の園児達も息を吸いだす。

 

「「ろ~く!」」

 

 逃げる側の園児達も一緒になって声を出してくれる。俺たちは嬉しくなり、つい顔を見合わせる。

 

「「な~な!」」

 

 時間を計ってくれる先生と勇太も大きな声で数えてくれる。こんな風に遊ぶのはいつ以来だろう。

 

「「「は~ち!」」」

 

 園児たちが全員そろって口を開く。ああ、本当に楽しみだ。

 

「「「きゅ~う!」」」

 

 勇者部全員で大きな声を出す。もう、始まりはすぐそこだ。

 

「「「「じゅう!」」」」

 

 最後にその場にいる全員で叫び、鬼ごっこが始まる。園児も勇者部もみんなで走り回る。笑顔を絶やさず、時に悔しそうに鬼となり、時に嬉しそうに鬼の座をタッチした相手に譲り渡す。タッチして、タッチされて、喜んで、楽しんで、頭を空っぽにして全身全霊で楽しむ。東郷は見ているだけだが、子供のような純粋な瞳で、俺たちの行う鬼ごっこを夢中になって見つめている。みんなで心をさらけ出して、全員がそろって園児たちと同じように楽しむ。

 

 これはそんな日常のひとつ。保育園での大切な一コマである。




 まるで最終回後の後日談のようだ(汗)

 作者は一話の終わりは毎回意味深な終わり方か最終回のような流れに持っていく癖があるようです。直せる気はしませんが、大目に見てくださいorz

 初めての幼稚園からの依頼。相変わらずのオリジナル展開だらけでしたが、いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたら嬉しいです。
 
 気になった点、誤字脱字があったら感想欄にてお伝え下さい。もちろんのこと普通の感想もお待ちしています。
 では最後に、


 飾らない心:シンビジウムの花言葉

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