東方短編恋愛録   作:笠原さん

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はい、今回は話の流れを今までとガラッと変えております。
ちょっと遊んでしまった感もありますが、まぁ暖かい目で見て頂ければ…

それでは、どうぞ

 


愛変わらず何時も通りに

「…ヤンデレ?何それ」

 

「外の世界で流行っていたジャンル…特性ですよ」

 

 正午に差し掛かろうとするかしないか位の博麗神社にて。

 僕が買って来たカステラを食べながらお茶を飲んでいた彼女達のガールズトークから、懐かしい単語が聞こえてきた。

 

 発信源は外の世界出身、元常識人の現人神である東風谷早苗さん。

 

 いや、元から常識人では無かったかもしれない。

 それでもある程度は…なんて思っていたけれど、この間の異変で何か吹っ切れたらしい。

 もう完全に幻想郷の住人と成ってしまった。

 

 受信したのは、幻想郷生まれ幻想郷育ちの女の子達三人プラス外来人の僕。

 

 幻想郷では余り耳にする事が無いであろう単語に首を傾げる女の子三人は、この瞬間だけ見れば可愛らしいと思えなくもない。

 僕は割と耳にした事がある。

 流行っていたかどうかは分からないけれど。

 

 あと、僕の分のカステラ残してくれてる?

 凄く頑張ってようやく購入出来たのに、もう殆ど残ってない様に見えるんだけど。

 

「どう言う特性なの?そのヤンデレって言うのは」

 

 一人目の質問者は、この神社の巫女である博麗霊夢。

 

 脇を出してカステラを齧りながらお茶をすする彼女は、これでもこの幻想郷を維持すると言う大役を任されている。

 異変解決時の彼女は、何処ぞの進撃アニメの如き駆逐っぷりを見せてくれる。

 自分で言ってて難だけど、駆逐っぷりって何なんだろう?

 

「好きな人の事を想い過ぎて、少し心を病んじゃった女の子の事ですよ!」

 

 それに対し、何故か熱演し始めようとする早苗さん。

 なんだろう、何か思い入れでもあるのかな?

 

 あと、僕が見たアニメだと少しってレベルじゃなかったよ?

 少なくとも、普通の女の子は好きな人に包丁を振りかざしたりはしない。

 ストーキングもしないし睡眠薬も盛らない。

 

「病んじゃう、ってどう言う事だ?病気か何かか?」

 

 二人目の質問者は、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙。

 

 最初は魔法使いって言う時点で普通では無いと思った僕だったけれど、もう魔法使いも見慣れてしまった。

 寧ろまだ種族が人間なだけ普通だなと思えてしまうあたり、僕もこの幻想郷に染まってしまっているんだろう。

 せめて常識だけは失くさないように気をつけよう。

 

 この神社の常連であるこの白黒は、今日も今日とて相も変わらずお菓子とお茶をたかりに来ていた。

 何故このタイミングで僕はカステラを買って来てしまったんだ…

 

「心って言うか、思考が歪んでしまうんですよ。好きな相手と自分だけで世界を完結させちゃうんです」

 

「つまり、他の事が目に入らない程恋してるって事ね。それって、別に悪い事じゃ無いんじゃないの?」

 

 三人目の質問者は、七色の魔法使いことアリス・マーガトロイドさん。

 

 人形遣いである彼女の後ろには、フワフワと上海人形が漂っている。

 最初に見た時は凄くビックリしたものだ。

 

 この非常識ガールズの中では比較的まともな彼女だけれど、それでもこのメンバーの中では、だ。

 少なくとも、常識的な女の子は人形に爆薬を仕込んで投げつけたりはしない。

 人の家をピッキングして勝手に入ったりもしない。

 

「それだけなら良いんですけど、そのためには手段を選ばないんですよ。好きな人と一緒に居るために周りの女の子を傷付けたり、挙句本人を監禁したり!」

 

 解説する早苗さんの口調がどんどん熱くなっていく。

 そんなにハマったの?

 確かにそう言うアニメは見てて楽しいけどさ。

 

 話を聞いてて思ったけど、幻想郷だと恋愛に手段を選ばないのって普通なんじゃないかな。

 ほら、こっちの女の子は色々とぶっ飛んでるし。

 アリスさんって結構監禁とかしそうじゃない?

 口にはしないけど。

 

「それは確かに怖いわね。でも、何でそんなものが流行っていたの?」

 

 霊夢が素朴な疑問を口にする。

 よかった、まだ怖いと思えるんだ。

 

 ギロっと、霊夢が此方を睨んできた。

 その目は、失礼な事考えてんじゃないわよと語っている。

 流石博麗の巫女、勘が冴えてるなぁ。

 …はい、自重します。

 

「うーん、その辺は男の子に聞いてみた方が早いですかね。と、言うわけで聞かせてもらいましょう!」

 

 早苗さんよ、何故ここで僕に振る。

 知らないよヤンデレの魅力なんて。

 

 カステラを食べ切った女の子達の四対の目が此方へ向けられている。

 これは何か適当にそれっぽい事を言っておけばいいかな。

 

「男の子としては、女の子にそのくらいの好意を向けられたいからじゃない?勿論、見ている分には、の話だけどね」

 

 勿論僕は遠慮したいけど。

 もしこの幻想郷のヤンデレにロックオンされたら、生き延びる自信が無い。

 男勝りどころか危険がデンジャラスな女の子多過ぎるからね。

 

 それにしても、確かになんでヤンデレってあんなに流行ってたんだろう。

 常に一定層からの支持があったな。

 多分、女の恐ろしさを知らない人達がヤンデレ最高とか騒いでいたんだろう。

 

「まぁ、実際にヤンデレって言うのを見た事があるわけじゃないけどね。そもそも僕は、誰かに好かれるって事が殆ど無かったし」

 

 自分で言ってて哀しくなってくるけれど、僕は年齢イコールなあれだ。

 で、出会いが無かっただけだし、と内心で言い訳してみる。

 …余計哀しくなるだけだった。

 

「で、お前はヤンデレって好きなのか?」

 

 魔理沙がそんな事を聞いてくる。

 聞いてどうするんだろう。

 

 なんか此処で好きって答えると異常性癖認定されそうで怖いんだけど。

 適当にはぐらかしておけばいいか。

 

「まぁ、別に嫌いじゃ」

 

「ヤンデレが嫌いな男の子はいません!」

 

 何故か此処でまた早苗さんが熱く語りだした。

 熱くなるのは構わないんだけど、流石にそれは偏見にも程があるとしか…

 

 せめて、その解答は僕が居ないところで言って欲しかった。

 まるで僕もヤンデレ大好きみたいじゃないか。

 

「いいですか!ヤンデレって言うのが外で流行っていたのは、それが男の子の夢だからです。ロマンだからです。希望だからです!」

 

 物凄い偏見だ。

 日本中の男性に謝って来い。

 あと、そんなに熱く語れるなら僕に振る必要無かったんじゃない?

 

「ふーん、あんたもヤンデレ好きなんだ…」

 

 ジト目で此方を見る霊夢。

 いや、僕好きって言ってないじゃん。

 今のどう考えても早苗さんの偏見じゃん。

 BLが嫌いな女の子はいません!レベルの偏見だったじゃん。

 

「へぇ…ヤンデレねぇ…」

 

「ヤンデレ、かぁ…」

 

 何かを考えている様な口調の魔理沙とアリスさん。

 何を言っているのか分からなければ、乙女だなぁと思える表情だったんだけど…

 

 なんだろう、皆ヤンデレに目覚めようとしているんだろうか。

 いやでもそもそも彼女達に意中の男性が居るとは思えない。

 失礼な話だけど、だって彼女達って基本男性と会う事少ないし。

 

 霊夢は他人に興味を持とうとしないし。

 魔理沙はそんな事より茸と魔導書集め!って感じだし。

 アリスさんは人間より人形だし。

 早苗さんは信者との交流はあるだろうけどあの二柱が許すと思えないし。

 

 …はい、完全に僕の偏見です。

 すみません謝るんで八卦路や御札をコッチに向けないで下さい。

 

 そもそも、コレはそうだったら良いなって言う僕の望みだ。

 もし彼女達が本当に異性に興味が無ければな…

 

「でも、貴方さっきその位の好意を向けられるのが夢って言ってたわよね?」

 

「言ってましたね!」

 

 見てる分には、って言葉は聞こえて無かったのだろうか。

 そもそも夢だなんて誰も言ってない。

 言ってないから早苗さんも熱くならないで欲しい。

 

 そもそも僕がもしヤンデレが好きだったとして、彼女達に何かあるのだろうか。

 いや、無いだろう。

 そんな事を考えている僕を差し置いて、再び四人はガールズトークに花を咲かせていった。

 

 関係無いけど、もしまたカステラ買っても絶対持ってこないと誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう。朝ごはんの準備は出来てるわよ」

 

「…うん、おはよう」

 

 まだ脳が活性化し切っていない僕は、重い瞼を擦りながら身体を起こした。

 

 声から判断するに、今話し掛けて来たのはアリスさんだろう。

 どうやら朝ごはんを作ってくれた様だ。

 

 幻想郷に来る以前から一人暮らしをしていた僕としては、起きたら朝ごはんが出来ていると言うのはとても嬉しい事だった。

 一人暮らしをしている人なら分かってくれると思う。

 

 歯を磨いて顔を洗い、パパッと着替えて卓袱台に着く。

 既に沢山の料理が並べられている卓袱台からは、凄く良い匂いがした。

 朝からこんなに食べられるか不安になるけど、そうなったらお昼に食べれば良いから問題無い。

 

 僕の座っている反対側では、アリスさんが正座をして此方を見ていた。

 その上を漂っている上海人形が可愛らしい。

 

 おっと、お礼を言わないと。

 

「ありがとうございます、アリスさん」

 

「良いのよ、気にしないで頂戴。さ、温かい内に食べましょう?」

 

 手と手を合わせて、頂きます。

 幻想郷へ来てから、より一層食事に対するありがたみが大きくなった。

 

 外の世界と違って貿易や冷凍と言ったものが無い幻想郷では、望んだ食材が何時でも手に入るわけでは無い。

 だからこそ、一食一食に対する感謝の気持ちは疎かに出来ない。

 

 それに、こんなに綺麗な女の子が作ってくれたのだ。

 一人暮らしの男の子としては、嬉しい事この上無い。

 

 …のだけれど。

 

「ねぇ、アリスさん。一つ聞いていい?」

 

「えぇ、構わないわよ。どの料理の作り方でもしっかり教えてあげるわ。手取り足取りね」

 

 その言葉にトキメキを覚えないでも無いけど、今は置いておこう。

 あ、でもやっぱりこの飲み物の材料だけは後で聞いておこうかな。

 

 さて、手取り足取りと大胆な事を言っているアリスさんだけど、それ以前にもっと大胆な事をしている。

 数分前までは気にならなかったけど、やっぱり聞いておいた方が良いんだろう。

 

「…僕、玄関に鍵かけてませんでした?」

 

「あら、掛かってなかったわよ?」

 

 表情筋一つ動かさずに応えるアリスさん。

 流石のポーカーフェイスだ。

 

 でもアリスさん?

 じゃあ何で玄関のドアノブの部分から外が覗けるくらいの穴が空いてるんですか?

 

「…あ、しまった…」

 

「しまった、じゃないですよ。次は普通にインターホン押して下さいって何時も言ってるのに…」

 

 わざわざ河童に頼んでピッキング出来ない鍵に替えたって言うのに、まさかドアノブごと外して来るなんて…

 結構高くついたんだよ?

 

「だって開けられなかったんですもの。仕方ないでしょう?」

 

「普通に僕が開けるんで安心して下さいよ」

 

「それじゃ寝顔が見れないじゃない!」

 

 あぁ、次はドアごと丈夫な物に替えないと。

 あとそんな理由で人の家のドアを壊さないで頂きたい。

 

 朝食を作ってくれるのは有難いけれど、その分僕の大切な何かが失われている気がする。

 何故そんなに寝顔に拘る…

 

「まぁ慣れてるからいいや…それで、もう一ついい?」

 

「何?こんな朝からはダメよ?」

 

 まだ何も言っていない。

 一体何を言われると思っているんだろう。

 知りたくもないけれど。

 

 うん、そんな事よりコレを聞いておこう。

 じゃないと安心して食事を出来そうに無い。

 

「なんで僕の飲み物が紫色なの?僕の知ってる水は透明で泡ブクブクさせたりしないんだけど」

 

「あぁ、そんな事。それ、外の世界のふぁんたって飲み物らしいわよ?」

 

 成る程、ファンタグレープか。

 なら紫色なのもシュワシュワしてるのも納得だ。

 久しぶりに見た気がするな。

 

 …よし、ならいいか。

 

「じゃあコレはアリスさんに譲るよ。はい」

 

「…え゛、いやいいわよ。私ふぁんた苦手だし」

 

 …予想通りの反応過ぎて困る。

 やっぱり、何か危ない液体の様だ。

 

 全く、何でそんな物を僕に飲ませようとするんだ。

 僕は人間なんだから、簡単に死んじゃうって言うのに。

 

「…分かったわ。どうなっても知らないわよ?」

 

 どうやら、飲む覚悟を決めた様だ。

 

 にしても、本当なんでそんな物を僕に飲ませようとしたんだ。

 どうなっても知らないって何さ。

 

「んっ!」

 

 ゴクゴク、と。

 目をつむって紫の液体を飲み込んでいくアリスさん。

 

 その間に僕は朝食を食べていく。

 お、この焼き魚美味しい。

 何て魚なのか聞いておけば良かったな。

 

 見れば、アリスが卓袱台にコップを置いた。

 飲み終わった様で、コップの中は空になっていた。

 

 …どうやら、毒とか睡眠薬とかの類では無かったみたいだ。

 

 謎の液体を飲み切ったアリスさんは、徐々に息が荒くなっている。

 あれ、やっぱり危ないものだったのか?

 

「…貴方が、悪いんだからね?」

 

 ドン、と。

 頬を紅潮させたアリスさんが、気付けば僕を押し倒していた。

 

 …うわ、媚薬だったのか。

 なんつー物を朝から飲ませようとしてるんだ。

 さっきこんな朝からダメって言ってたのは何だったんだろう。

 

 あと、一応言わせて欲しい。

 

 僕悪くないよ、と。

 完全に自業自得だよ、と。

 

 そんな事はさて置き、現在僕はアリスさんに押し倒されている。

 顔と顔との距離は、既に30cmも無い。

 アリスさんの激しい吐息と髪が、僕の頬を撫でる。

 

「…いいわよね?」

 

 何が?なんて聞き返せない。

 もう目がマジだった。

 それでも、一つだけ言わせて欲しい。

 

 良く無いよ。

 

 さて、いきなり過ぎて思考が止まるのが普通の反応なのだろうけれど、悲しいかな僕は慣れていた。

 もう何度か、こういう状況に成った事があるのだから。

 

 そして、その度に必ず妨害が入るのだ。

 だから僕は焦らない。

 大丈夫だ、もうすぐ誰かが来るから。

 

 アリスさんと僕の唇の距離が7cmを切った時。

 轟音を立ててソレは訪れた。

 

 

「悪いが借りてくぜ!」

 

 

 ドガンッ!!と。

 

 ドアに更なる穴を開けて、魔法使いが飛び込んで来た。

 そして、幻想郷最速クラスのスピードで僕を掴んで飛び去る。

 

 アリスさんは、突然の事に呆気に取られていた。

 うん、僕も物凄くビックリしている。

 まさか、更に家が壊されるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、危ない処だったな。間に合って良かったぜ」

 

「ありがとう魔理沙。凄く良いタイミングで来てくれたね」

 

 家を壊す程の救助なら、無い方が良かったかもしれないけど。

 普段は誰かが来て雰囲気を壊すだけなのに、まさか家ごと壊されるとは。

 

 それにしても、ほんと毎度毎度誰かしらが来てくれるな。

 まるで、常時監視されてるみたいだ。

 

「え、監視なんてしてないぜ?」

 

「僕まだ何も言ってないよ…あと、これ何処に向かってるの?」

 

「私の家だぜ?あそこならアリスが来ても大丈夫だからな」

 

 成る程、アリスさんに強襲されても大丈夫な様に備えるわけか。

 多分魔理沙の家の周りには、勝手には入れない魔法とかが掛けられているんだろう。

 

 あと、アリスさんなら追っては来ないと思うぞ?

 媚薬を飲んだ状態で僕の家に居るんだ。

 …うん、帰ったら布団と枕洗濯しないと。

 歯ブラシと箸も替えなきゃな。

 

「安心してくれ、絶対に私が守ってやるから…一生な…」

 

 ボソッと言ったつもりなんだろう。

 安心して欲しい。

 ちゃんと聞こえてるぞ。

 

 いや、全く安心出来ないじゃん。

 何処に安心する要素があるのさ。

 これプロポーズと取れなくも無いけど、多分犯行予告の一種なんじゃないか?

 

 魔理沙の家に監禁されたら逃げられる自信ないぞ?

 もし出れたとしても、魔法の森の瘴気に僕が耐えられる筈無いし…

 

 既に魔理沙は魔法の森の上空を飛んでいた。

 相変わらず速いな。

 もう家に着くまで一分を切っているだろう。

 

 でも、大丈夫だ。

 何故かって?

 

 …慣れてるからさ。

 

 

 ボンッ!!

 

 

 魔理沙の身体に、大量の御札が命中する。

 

「うわっ!」

 

 物凄い衝撃により、一瞬で魔理沙は気を失った。

 命中していない僕が吹き飛ばされる程の威力から、あの大量の御札にどれだけの霊力が込められていたかが分かる。

 

 そのまま落下していけば、普通の人間である僕がどうなってしまうかは予想するまでも無い。

 よしんば生き残ったとしても、森の瘴気にやられてしまうだろう。

 

 しかし、僕の身体が地面に叩きつけられる事は無かった。

 

 

「全く、危ないわね。ほんと手の掛かる奴だわ」

 

 

 紅白の巫女、博麗霊夢が僕の身体を抱えてくれていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたも、もう少し気を付けなさいよ」

 

「毎度毎度悪いね。今度またカステラでも買って来るよ」

 

 昨日の誓いをアッサリと無かった事にする。

 プライド?何それカステラより美味しいの?

 

 所変わって博麗神社。

 一日振りに見る風景だ。

 全くもって懐かしく無い。

 

 …いや、結構風景が変わってるな。

 少なくとも、昨日は神社中にこんな大量の御札は貼られて居なかった。

 

 まるで、これから籠城するみたいな備えだな。

 …多分、僕の予想は間違ってないんだろう。

 間違っていると思いたいけど。

 

「それにしても、魔理沙は大丈夫だったかな。気絶して落ちてったけ」

 

 

「他の女の話はしないで」

 

 

 般若面の様な表情をした霊夢に、僕の言葉は遮られた。

 

 …怖い。

 正直凄くビビった。

 

「いい?あんたは私の事だけ考えてればいいのよ」

 

 いや、魔理沙は霊夢の友達だろうに。

 少しは心配してあげないと。

 

 …怖くてそんな事言えないけど。

 

「でも安心しなさい。あんたの事は、私がしっかり守ってあげるから」

 

 そんな心配はしてなかったんだけどな。

 あとついでに、やっぱり安心出来る要素が全く無い。

 

 確かに、危険な物からは守って貰えるだろう。

 博麗の巫女なら、それは保証されている。

 

 しかし、だ。

 多分どころか、絶対に。

 

 僕はこの神社から出られないだろうな…

 

 それどころか、霊夢以外と会話出来なくなるかもしれない。

 下手したら監禁よりも酷い事になる。

 それは避けたいな…

 

「れ、霊夢。僕は」

 

「え?子供は女の子がいいですって?ダメよ、あんたの周りに私以外の女が居るなんて、例え自分の娘でも許せないわ」

 

 …言ってないよ。

 と言うか、それは流石に心が狭過ぎるだろう。

 そもそも霊夢は生まれてくる子供の性別を決められるのか?

 …あの隙間妖怪に頼めば楽勝だろうな。

 

「ってそうじゃなくてさ。僕は」

 

「分かってるわよ、一人目の名前は決めさせてあげるわ。でも、夢って一文字はどうしても入れて欲しいのよ。どうしても嫌って言うなら無理は言わないわ。けどやっぱり、あんたと私の愛の結晶にはこの一文字は外して欲しく無いのよ。私とあんたの夢なんだもの。分かってくれるわよね?」

 

 …分からないよ。

 しかも、僕の夢は霊夢と子供(息子)を作ることじゃ無い。

 

 僕が口を挟もうとしても、もう霊夢は止まらなかった。

 

「式はこの神社で挙げればいいわ。あんたは袴よりもタキシードって奴の方が似合うかもね。私もその時はドレスを着るわ。片方だけ和風って言うのも良く無いものね。幻想郷中の妖怪や人間を呼んで盛大な式にしましょ。私達の事を全ての生き物に知って貰わないといけないものね。あんたに変な虫が付か無い様にも、ね。その時に私のお腹が膨らんでいたら、皆どんな反応をするかしらね。紫は跡継ぎが出来たって喜ぶかしら。慧音も新しい生徒が増えて喜ぶかもね。逆に、アリスと魔理沙は悔しがるでしょうね。もしかしたら式にすら来ないかもしれないわ。別にあいつらがどう思うとも、私に何かある訳じゃないけど。そうそう、あんたって風呂は私の後がいい?先がいい?後なら私が浸かったお湯に浸かれるわよ。先なら、私があんたの浸かったお湯で愉しめるわ。あ、別に一緒に入ってもいいのよ?いやね、だってもう夫婦じゃないの。…なによそんな反応されたら恥ずかしいじゃない。夜を共にしたんだもの、その位いいじゃない。その後は一緒の布団でーー」

 

 凄い想像力だね。

 一瞬でそこまで言葉に出来る滑舌も凄い。

 しかもまだ一回も息吸って無い。

 

 うん、凄い凄い。

 さて僕は帰らないと。

 

 バチッ!!

 

 っ?!

 襖に手を掛けた僕は、気付けば畳に倒れていた。

 

「…馬鹿ね、出られる訳無いじゃない。何のために一日も掛けて準備したと思ってるの?」

 

 一日掛けて何かを準備した話なんて、僕聞かされてないんだけど。

 

 どうやら、この神社にはその様な結界でも張ってあるんだろう。

 この様子だと、中からも外からも移動出来ないんだろうな。

 

「私から離れようとするなんて、悪い子ね。少しオシオキが必要だわ。安心しなさい、魔理沙とアリスじゃこの結界は突破出来ないわ」

 

 なんでこの幻想郷の女の子は安心の言葉を間違えているんだろう。

 あと、オシオキと言いながら僕の服に手を掛けているのは何故だ。

 

「大丈夫よ、あんたは全部私に任せていればいいの。さ、まだお昼だけれど」

 

 うん、やっぱり大丈夫じゃない。

 そして、そんな事を言った処で霊夢が止まらないのも分かり切っている。

 

 けれど、僕は焦らない。

 

 確かに、魔理沙とアリスさんは結界に関してそこまで詳しく無い。

 けれど、此処を訪れそうな女の子がもう一人いる。

 そして彼女なら、この結界を破れる筈だ。

 

 

 ドンッッ!!

 

 

 霊夢が僕のシャツを脱がせたと同時に、神社全体を揺らす様な衝撃が訪れた。

 

「助けに来たぜ!!」

 

「大丈夫?!まだ×××されて無い?!」

 

「ふふっ!私にかかればこの位の結界なんて!」

 

 恐らく結界が解除されたと同時にだろう。

 魔理沙が箒ごと神社に突撃して霊夢を突き飛ばし。

 アリスさんが追い打ちに爆弾人形を投げ付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで邪魔するのよ!折角私のあいつの夢がーー!」

 

「何言ってんだ!あいつの夢は私とーー!」

 

「彼の夢は!私を彼だけの人形にする事でしょ!」

 

 不思議な夢を語りながら、三人の女の子が弾幕戦を繰り広げていた。

 少なくとも、僕はアリスさんを人形にしたいなんて思った事は無いんだけどな。

 

 神社の縁側で足をプラプラさせながら観戦している早苗さんは、どうやら此方へ流れ弾が来ない様に結界を張ってくれているらしい。

 霊夢の結界を割る時にかなり霊力を使ってしまったのか、結構疲れている様だけれど。

 

「あ、どうでした?ヤンデレな女の子三人に迫られるのって」

 

 そんな事を、卓袱台でお茶を飲む僕に言ってきた。

 と言うかどうでした?じゃないよ。

 完全に面白がってるな。

 

「昨日あの後、あの三人が話してたんですよ。貴方の気を引くために、ヤンデレを試してみようって。ほら、貴方ヤンデレ好きって言ってたじゃないですか」

 

「言ってないよ…まぁ、うん、あれだね」

 

 早苗さんはちょっとしたイタズラ気分でそんな事を言っていたんだろうけど、ね。

 残念ながら失敗してるよ。

 

 未だに上空で弾幕を放つ三人を見て、苦笑いしながら僕は言った。

 

 

「何と言うか、何時も通りの三人だったよ」

 




 
ヤンデレ大好きですけれど、かと言って暗い話にしたくはない。
そんな事を考えながら書いたらこうなりました。
楽しんでいただけたでしょうか?

霊夢の長い台詞、元々はあの三倍以上ありました。
でも流石に長すぎるかなと思って添削に添削を重ねて丁度いい長さに整えました。
自分の夢を語る女の子って可愛いですね!

魔理沙の出番が少し短いなとも思ったんですけど、これまた文字数がーの問題で泣く泣くカットしました。
二話にわけようとも考えたのですが、一話完結と言っているのにそれはどうかとも思いまして…
ついでに、明るいアリスを書けて満足です。

誤字脱字・コメント・アドバイスお待ちしてます。
気軽に話し掛けて下さい。


今回はメインヒロインは御座いません。
何時もの話とはかなり差別化しております。
何が違うか、分かった方はいらっしゃったでしょうか?

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