東方短編恋愛録   作:笠原さん

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わぁ、凄く早い投稿ペース!
…はい、スミマセン。

では、どうぞ
 


色どり彩り思い出せれば

 

「ねぇ、次は靴見に行かない?」

 

「まだ帽子と鞄しか買ってないのにもう靴か?そもそも確か今日って服買いに来たんじゃなかったっけ?」

 

 人混みとはいかないまでも結構な数の人々が行き交うショッピングモール2F。

 男性一人では絶対に来れないであろう殆どレディースの店しかない場所に、俺たちは居た。

 洋服、和服、帽子、果てはアクセサリーまで自身を彩る為の物なら何でも揃うと評判高いこのショッピングモール2Fは、周りを見れば、女性、女性、時々カップル。

 若干居心地がよろしくない光景の中、自分が居ることが場違いじゃないと願いつつ目の前で靴屋を指差す彼女へ訊ね返す。

 

 春休みとは言え平日だと言うのに、やはりこのショッピングモールは人で溢れていた。

 家族連れやカップル、高校生くらいの女の子達やまだ中学生にもなって無いであろう男の子達。

 様々な層のニーズに応えられるだけの店数を含んでいるだけに相応の数の客が集まっているが、やはりこのフロアは更に人口密度が高い。

 なら逆にどのフロアなら低いんだ、と問われれば答えに詰まってしまうけれど。

 

 洋服を買いたいから付いて来い!と言われて特にやる事もなかったから付いてきたが、靴やその他諸々は聞いていない。

 荷物持ちを命じられる事くらいは分かっていたけれど、既に紙袋を二つほど抱えているのに更に靴と服となると、軽々と付いてきた自分を呪いたくなる。

 ありがたいのは、まだ帽子とトートバッグみたいな軽めのものしか買ってないと言う事か。

 正直ここに靴と衣類が追加されたらキツイ。

 

 何時ものお助けガールメリーさんは本日此処には居ない。

 何やら大学の方で用事があったらしく、突然だったこいつの案に予定を合わせることが出来なかったのだ。

 明日出掛けよう、といきなり言われても半分くらいの確率で予定が入っている為に行けないのが大学生なのだ。

 それは平日だろうが休日だろうが変わらない。

 

 まあそんな感じで、俺はまるで女の子と二人デートでウィンドウショッピングを楽しむかの様にショウウィンドウを眺めているが。

 実際はこんな場所で一人になりたくないと、まるで縋り付くかの様に目の前のハイテンションガールに連行していたのだ。

 

「そんな細かい事はどうでも良いじゃない。あんたってあれ?有効数字が最低でも3桁じゃないと許せない男?」

 

「凄く不思議な喩えが来て驚いてる、至って普通の男だよ。と言うかここってレディースしか無いのか?完全に俺アウェイなんだけど」

 

「何言っているのよ、男性だってチラホラ居るじゃない」

 

 確かにいる。

 時折、同じくらいの年齢の女の子と手を繋いだり腕を組んだりしてる男性がな。

 知ってるか?ああ言う奴らってカップルって言うんだぜ。

 そしてもう一度自分達の関係性を確認してから発言して頂こう。

 

「べ、別にカップルだって男性は男性じゃない。それとも何?私とはカップルに見られたく無いって言いたいわけ?!」

 

「そうは言ってないだろ。只単に二十年弱独り身だった身として、カップルの男性を自分と同じ立場の奴と認めたく無いのさ」

 

 こいつとカップルってのは確かに悪くないが、いかんせんお互いかお互いを知りすぎ、尚且つ親しくなり過ぎている。

 そもそも、こいつが俺を意識しているとは思えない。

 小さい頃から仲良くしていた近所のお姉ちゃんみたいな、そんな感じだ。

 

 見た目は悪くないんだが、どうにも人使いが荒いしな…

 そこさえ直せば、言い寄ってくる男も沢山出てくるだろうに。

 こいつが俺以外の男と歩いてる処なんて全く想像出来ないししたくもないのだが。

 

「小さい男ね…メリーに嫌われるわよ?」

 

「それは笑えないな。あいつに嫌われたら多分立ち直れない」

 

 なんて冗談を交えつつ、俺達は靴を眺める。

 今季の流行はーーやら今流行りのーーやら色々と売り文句が書かれた広告を良く見かけるけれど、正直どれがどう言う種類の靴なのか全く分からない。

 ヒールにも色々と種類がある事は、先程こいつから教えられたばかりだ。

 

 買い物は疲れると良く言うけれど、それは普段は買わない物だからだろう。

 何時の行きつけの店なら絶対に疲れたりはしない筈である。

 そう考えると、やはり疲れと言うのも心の持ちようや気分の問題なのだろう。

 物理専攻のこいつに尋ねても碌な応えは得られそうに無いから言わないが。

 そう言うのはメリーさんの方の分野だったかな。

 逆に、あんたは私が居るって言うのに楽しんでないの?とか言われそうだ。

 

「あんたは買わないの?私ばっかりじゃ悪いわよね」

 

「お前から俺を気遣う言葉が出てきただけで充分だよ。あとここもレディースしかねぇだろ」

 

「あんたは私を何だと思ってんのよ!」

 

 ムキーと言った表情で両手を振り回そうとしていたが、手にまだ購入していない靴を持っている事を思い出し怒りを収めたようだ。

 それにしてもたっかい靴だな。

 何故こうもファッションというのはお金が掛かるものなんだろう。

 そして何故こうも女性達はファッションにお金を掛けられるんだろう。

 聞いてみたいが、それでまた地雷踏み抜くのも怖いな…

 

「ほら、会計済ませて来い。どうせ持つのは俺なんだから」

 

「なんであんたは…こう…」

 

 ムググと続けながらレジへ向かう後ろ姿を確認してから、窓の外の景色へと目を向ける。

 別れと出会いがなんたらなこの季節は、どこへ行っても桜を目に出来る。

 風に揺られ散る花弁は綺麗なものだが、花粉と掃除の事を考えると楽しんでばかりではいられない。

 無邪気に桜の木の下で走り回る子供達を見て、若干羨ましく思ってしまうのも仕方の無い事だろう。

 

「何見てるの?」

 

 気付けば、既に会計を済ませたのであろう紙袋が此方へと向けられていた。

 花粉症なんかとは恐らく無縁の生活をしてきたのであろうこいつには、多分今の俺の羨ましいと言う気持ちは微塵も理解して貰えないんだろうな。

 また一つ増えた紙袋を肩に掛け、俺は窓の外の景色から視線を戻す。

 

「桜が綺麗だったから眺めてたんだよ。満開なんて年にほんの一週間しか見れないからな」

 

 桜の花一つ一つの寿命は五日な為に実際は満開になる日は五日もないらしいが、殆どの蕾が咲いていれば満開と区別が付かないからいいのだ。

 葉桜も嫌いじゃないが、やはり満開の桜と言うのは素晴らしい。

 何処ぞの法師が詩にしたのも、やはりあの美しさと短い命に魅入られたからなんだろう。

 

「ふーん、あんたってロマンチストなの?意外だわ」

 

「失礼な。俺だって何かを綺麗だって思う事くらいあるさ」

 

 お前は俺を何だと思って、と言おうとした処でこれがさっきの発言に対する意趣返しなのだと気付いてやめる。

 これで言ってしまっていたらドヤ顔でまた何か言われる処だった。

 もちろん俺だって、綺麗な物は綺麗だと思うし可愛い物は可愛いと思う。

 口にするかしないか、は別として。

 

「でも、桜ってズルいと思わない?」

 

「何が?花粉ばら撒いて人を困らせるところか?」

 

 若干私怨が入った。

 それにしても、桜がずるい?

 こいつは一体何を桜と争っているんだ?

 

「だって、一番綺麗な時だけを皆んなに見てもらえるじゃない。それで周りから綺麗だ綺麗だ言われて。桜が人間だったら嫉妬してるわ」

 

「…ふーん、お前って結構…」

 

 ここで、止まる。

 

 もう一度意趣返しをしてやろうかとも思ったが、わざわざそんな事に拘るほど俺も小さな男じゃない。

 それよりも先程考えていた、何故女性達がファッションに拘り、お金を掛けるのか。

 その応えが期せずして手に入ったのだから。

 まぁこの場合は耳に入った、だけれど。

 

 綺麗な時だけを見て貰える。

 逆に言えば、醜い時は見られない。

 

 勿論桜の木自体の事を醜いとは思わないが、確かにそれはズルいかもしれない。

 殆どの人は春以外では桜を意識しない為に、桜の木を気にしないのだ。

 つまり、所謂醜い状態を見られずに済んでいる。

 綺麗な時だけたくさんの人に見て、褒めてもらえる。

 これが同じ人間の女性だとしたら、嫉妬してしまうものなのかもしれない。

 

「気付いて貰えなきゃ無いのと同じよ。例えどんなに可愛くなってもね。気付いて貰えなきゃ、見て貰えなきゃ意味がないの」

 

 だから、ねぇ…

 

 何処の誰に気付いて貰いたいのかは分からないが、案外しっかりと考えているもんだな。

 何処かで聞いた事のある言葉だけれど、まさかこいつの口から聞けるだなんて思わなかった。

 少し、こいつの評価を見直さなければならない様だ。

 

「まぁ、要するにね!幾ら私が可愛くても相手が鈍感だと無駄になるって事よ!」

 

「…成る程ね。ま、なら早く服も買おうぜ」

 

 つい先程まで真面目に考えていた自分を殴りたい。

 一瞬でも乙女だなと思ってしまった俺は馬鹿だったのか。

 自分で自分を可愛いって言ってしまえるのって一種の才能の様な気もする。

 クルッと方向転換して、まだまわっていない方の店へと向かう。

 

 ついでに、ほんの少し。

 

 照れ隠しが混じっているだとか、そんな事は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、どっちの方が良いと思う?」

 

「そう言うのはファッションに疎い俺じゃなくて店員に訊ねるべきだぞ。まぁ、お前らしいって言うならそっちのオレンジの方かな」

 

 一風変わった告白もどきを受けてからショッピングに戻り早二時間。

 色々な店で色々な服を見て回っているが、俺の方に掛けられた紙袋は未だ三つのままだった。

 それでも疲れを見せない様にしているのは、男としての意地かこいつに弱い所を見せたく無いからか。

 

「そう?ならちょっと試着してくるわ」

 

 試着室へ向かったのを確認し、ふぅと一息。

 

 自分の思い違いと自意識過剰でなければ、先程のは告白と受け取っても差し支え無い筈だ。

 不器用なあいつなりに、勇気を出してくれたんだろう。

 若干キレ気味だったのは、気付かないフリをしようとしていた事に対してか。

 

 しかしその後のあいつを見ている限り全くもって普段通りなので、先程のは大した意味が無いのかも、とも思い始めていた。

 もしかしたら、ただ単に一緒にショッピングに来ている俺に可愛いと、そういった感想を言って欲しかっただけなのかもしれない。

 もしかしたら、まだあいつ自身でも気持ちの整理が着いてないまま勢いで言ってしまったのかもしれない。

 どうにも結論の出ないまま反応を伺っていたが、何時もの調子に戻ってしまったあいつからは何も分からなかった。

 それこそもしかしたら、俺からの行動を待っていたのかもしれないけれど。

 

 はぁ…そう言えば、あいつ今日も結構お洒落してたな。

 大して意識せずに見ていたから気付かなかったけれど、あの服を選んだのだって時間が掛かったのかもしれない。

 今までのイメージのあいつだったら考えもしなかっただろうけれど。

 

 気付いて貰えなきゃ無いのと同じ、か…

 

 別段今までの俺が悪い事をしていた訳だとは思いたくないけれど、何だか申し訳ない気持ちになってくる。

 以前からもそう言ったアピールをされていたのだとしたら、尚更。

 言われなきゃ気付けないだなんて、言い訳にすらならない。

 

 シャーっとカーテンが開き、鏡の前にオレンジ色のスカートを穿いた姿が現れた。

 

「どう?可愛く見える?」

 

 似合ってる?では無くこう聞いてくるあたり、なんともまぁいい性格をしていると思う。

 気軽に返事をする事が出来なくなってしまったじゃないか。

 簡単に似合ってる似合ってるって言うつもりだったのに。

 

「まぁ、いいと思うぜ…」

 

 素直に可愛い、などと言えれば苦労しない。

 なんともまた当たり障りの無い返事をしてしまう。

 何と無く気恥かしくなって、目を逸らしてしまった。

 

 勿論そんな事を、こいつが見逃してくれる筈が無い。

 

「何目逸らしてんのよ。照れてるの?」

 

 うるせぇ、ちくしょう。

 普段から可愛いとは思ってるけど、言葉にするのは恥ずかしんだよ。

 改めてそう言う事を意識して、意識されてしまってからは、尚更に。

 それを分かって言ってるあたり、ほんとにこいつは…

 

「あ、ここってメンズもあったよな。少し見てもいいか?」

 

 無理矢理話題転換。

 これ以上続けると更に恥を晒しかねない。

 既に充分恥ずかしい行動だと言うのは気付いているけど無視。

 

 まだ何か言っているのをスルーし、男性用の服が掛かっているラックへ。

 レディースに比べれば圧倒的に少ないが、それでもそこらの店の何倍もある。

 正直、何れが今の流行りでどれが自分に似合うのか全くもって分からない。

 

「ふふんっ、お姉さんが選んであげよっか?」

 

 いつからお前は俺の姉になった…

 確かに先程、内心では近所のおねえちゃんみたいと思ったけれど。

 

 しかし、ここで断る訳にもいかない。

 流石に失礼なのと、俺一人じゃ絶対に選べないから。

 下手に変な服を選んで馬鹿にされるのも堪ったもんじゃ無いし。

 

「んじゃ、頼むよ。俺はファッションはサッパリだ」

 

 言うが早いが、いきなり服をガサガサしだす。

 うーんこれは…とか、うーんこれはちょっと…とか、選ぶ姿は流石女子大生だ。

 もしかしたら周りからは、ファッションに疎い恋人に服を選んであげている彼女に見えていたかもしれない。

 また気恥かしくなり、首を振って思考を直す。

 

 そう言ったモノには無頓着だったからな。

 当たり障りの無い格好しかしてないし持っていないから、確かに良い機会かもしれない。

 こいつの選ぶ服なら、多分問題は無いだろう。

 

「はい、これとこれ。試着してきて」

 

 早速2.3着服を選び、此方へと差し出す。

 多分どちらも、俺一人だったら絶対に選ばなかったであろう服だった。

 

「あいよ、少し待っててくれ」

 

 試着室へ入り、カーテンを閉める。

 

 ミラーに映ったのは、いつも通りの服を着た自分。

 今日も特に考えずに選んだからな…

 これじゃ少し申し訳なかったかもしれないな、と苦笑して着替える。

 

 女性と違い、男性の着替えは早い。

 服の構造的な問題もあるのだろうけれど。

 しっかし問題無いと思っていたけれど、どうにも着慣れない服って言うのはしっくりこない。

 似合ってるか?あいつに笑われないか?そんな事を考えながらカーテンを握り。

 一息ついてから、勢い良く開けた。

 

「どうだ?カッコ良く見えるか?」

 

 若干ヤケになりながら、恥ずかしさを誤魔化す為に先程の真似をする。

 にしても、よくもまぁこんな恥ずかしい事を言えたな。

 言ってから凄く後悔した。

 

「うん、まぁ選んだのが私だからね」

 

 流石はポジティブガールだ、俺の恥ずかしさを全て吹き飛ばしてくれた。

 まぁ今の返答からして、似合って無い訳ではないんだろう。

 なら、別にいいか。

 

「ところで、さ」

 

 笑ったまま、しかし少し真剣な目をしながら、

 

「試着してる時、どんな事を考えた?」

 

 そんな事を、言ってきた。

 

 この流れでてきとうな事を言ってはいけない事くらい、俺だって分かっている。

 かと言ってどんな返事をすればいいのか分からず、ごく一般的な事しか言えなかった。

 

「まぁあれだな。似合ってるといいな、とか。後は…」

 

 

「試着室で思い出したら、それは本当の恋なんだって」

 

 

 お前に笑われないといいな、とか。

 どうせならやっぱりカッコ良いって貰いたいな、とか。

 

 そう続けようとしたが、そんな言葉に遮られた。

 

「自分の気持ちを認め切れなくて、どうにも踏ん切りがつかなかったんだけどね。今のあんたの反応を見て確信出来たよ」

 

 普段は見せない様な表情で、俺の心を揺さぶる。

 意地っ張りで自信過剰な彼女と同一人物とは思えない様な、今にも泣き出しそうな表情。

 

 かなり、勇気を出してるんだろう。

 俺がカーテンを閉めてからの間に、こいつの中ではかなりの決断があったはずだ。

 今までの関係が壊れてしまうかもしれない恐怖に打ち勝ったのだ。

 

 そして、これはズルい。

 もう、俺に逃げ道なんて無いじゃないか。

 話を逸らすために俺の服を見たって言うのに、まさか更に追い詰められるとは。

 

 

「私はさっき試着したときも、今日の朝服を選んでる時も、誰かさんの事を考えてた。…あんたは、どうだった?」

 

 

 …そうかい。

 

 なら、色々と考えて悩んでくれたお礼に俺もそれなりの返事をしないと。

 しかし、まだ此方だって色々と準備が出来ていない。

 いきなりそこまで言われるとは予想出来なかった。

 

 …だから。

 

「悪いけど、もう一着試着してきてもいいか?」

 

「何?此処まで言わせて逃げるつもり?流石に私も…」

 

 違うよ、と。

 

 言葉にはしないが、察しの良いこいつなら理解してくれるだろう。

 恥ずかしがり屋なのは俺だが、不器用なのはお互い様なんだから。

 

 

「…少し、自分の想いを確信してくるだけさ」

 

 




 
如何だったでしょう。
物凄く久しぶりの、マトモなハッピーエンドだった気がします。
失恋や変態が続いてましたから…
そして、コレが作者の限界でした。
何処かで聞いた事のあるフレーズがあったかもしれませんね。
頼んで頂けていたら幸いです。

誤字脱字、コメント、アドバイスお待ちしております。
次回もお付き合い下さい
 

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