東方短編恋愛録   作:笠原さん

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投稿できると言いつつ時間をあけてしまって申し訳ありませんでした。
今回はリクエストのあったお二人になります。
サブタイには大して意味がございません。
なんかテンポ良い感じだったのでこれにしました。

では、どうぞ


Revalentine Syndrome!

 

「カンパーイ!!」

 

 夜の居酒屋に、三人の声が響いた。

 心地良い音を立ててジョッキをぶつけ合った後、そのまま口元で30度ほど傾ける。

 

「ンプハァァァ!一週間お疲れ様でしたぁ!」

 

 若干どころではなくテンションが上がっているのは、うさ耳ブレザーの鈴仙。

 外の世界で流行っているらしいグレープフルーツの酎ハイを注文した彼女は、おっさんの様な声を出してグラスをテーブルに叩きつけた。

 まだ酔ってはいないはずだけれど、上司と同僚から解放された喜びが彼女のタガなどとっくに外したのだろう。

 

 ただ、ブレザーで居酒屋と言う風景には違和感しかない。

 お前他に服持って無いのか?

 妖怪の奴らは何時も同じ服を着ている気がするけど、何着もストックがあるんだろうか。

 

「いやぁ、仕事の後の一杯は格別だねぇ!」

 

 同じくテンションが高いのは、サボリの水先案内人小町。

 口にビールの泡がついている事も気にせず、これまた豪快にジョッキを叩きつける。

 こちらもまた上司の監視から解放された喜びか、テンションが最初からクライマックスだ。

 

 ただ、その台詞を言っていいのはキチンと仕事をしている鈴仙や俺だけだぞ。

 流石に野暮だから言わないが。

 

「貴女はどぉせ大して働いて無いでしょお?こっちゃあヘマしたら実験台ですよぉ?」

 

 人をイラつかせる態度に定評のある鈴仙は、やはり空気を読まずに突っ込んだ。

 口調がすげぇウゼェ。

 見た目が良いだけに勿体無い。

 

 あとついでに、実験台って言った後何かを思い出したように震え出すのはやめろ。

 こっちまで怖くなってくる。

 

「はぁ、実験台がなんだい?あんたも知ってんだろ?閻魔様に直々に説教される苦痛!」

 

 それは多分俺たち三人は身に染みてよぉく分かっている。

 特に鈴仙なんてしばらくショックで引き篭もったレベルだ。

 だがな、小町よ。

 ならサボるな。

 

「まぁまぁまぁ、気分良く会話しようや。あ、すみませーんナスの味噌炒めと軟骨!」

 

 追加で適当なつまみを注文し、俺は再びジョッキを傾けた。

 

 二人の事を何だかんだ言ってはいるが、やっぱり俺だってテンションは高い。

 ようやくハードな一週間が終わり休みがやって来たんだ。

 高くならない筈がない。

 

 慧音に誘われて始めたが、寺子屋の仕事は思った以上に大変だった。

 テキストを全て自分の手で作らなければいけなかったり、慧音の愚痴に付き合わなければいけなかったり。

 …愚痴聞くのは元々だった気がする。

 

 そして最も大変なのが、手のかかる生徒が多い事だ。

 居眠りやサボりならまだいい。

 自称最強の妖精が教室を冷凍庫にしてくれやがった時は冗談抜きに心が折れた。

 

「って言ったって、あたい達の会話って七割方愚痴じゃないのさ。それに、此処でガス抜きしとかないと一週間持ちゃしないよ」

 

 うん、お前はサボるのをやめてから言え。

 確かに常時あの閻魔に監視されてると思うとまともな精神状況じゃいられないだろうけどな。

 それがサボっていい理由にはなんねぇだろ。

 

 立場上、俺たち三人はストレスが溜まりやすい。

 小町は適度(?)にサボっているから良いが、俺達はそうもいかない。

 鈴仙なんか特にヤバイよな。

 

 上司はマッドサイエンティスト。

 家主はグータラニート。

 同僚はう詐欺。

 

 ミスしたら御仕置きだし、面倒事や無茶振りを吹っ掛けられるし、イタズラ盛り沢山だし。

 まともな職場じゃねぇな…

 

「兎に角、嫌な事は飲んで忘れましょう!」

 

「そうだな。んじゃ改めて、一週間お疲れ様!」

 

 再びジョッキをぶつけ合う。

 既に小町のは空になっていたけれど。

 

 最早恒例となった金曜夜の飲み会。

 今夜もまた何時もと同じように、何時もの居酒屋で開かれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、私は頑張ってるんですよ!なのに師匠ったら全く分かってくれなくて!」

 

「おう鈴仙、それ五回目だ」

 

 まだ飲み始めてから三十分も経っていないと言うのに、既に鈴仙は出来上がっていた。

 はえぇよ、飲むのも酔うのも。

 

「はははは、まだまだ若いねぇ」

 

 当然ながら小町はまだまだ全然余裕そうだ。

 俺はこいつら二人に合わせてたら即急性アルコール中毒になるから自分のペースで飲んでいる。

 

 ただな、小町。

 耳元でうるせぇ!

 

「私が若いですってぇ?私こー見えても月の都出身なんですよぉ?」

 

 何故か鈴仙が俺の腕にしがみ付きながら乗り出して来た。

 一瞬ドキッとしたが、こいつは鈴仙なんだと自分に言い聞かせて心をフラットにキープする。

 うん、鈴仙がブレザーで良かった。

 理由は言わないでおくけど。

 

 後さ、出身関係なくない?

 突っ込んじゃダメなやつか?

 

 そういや忘れてたけど、鈴仙って一応月の都出身なんだよな。

 高貴さの欠片も無いから完全に忘れてたわ。

 仕方ないよな。

 

 それとな、鈴仙。

 マジでその口調やめろ。

 表情と相俟ってかなりイラつくわ。

 ほんと勿体無い…

 

「身分なんて気にしない、それが居酒屋のルールだぞ。あと小町もニヤニヤすんのやめとけって」

 

「ぷぷっ、月の兎様が人間に説教されてやんの。しかも全く動揺されないとか。流石、不老不死の弟子は格が違うねぇ」

 

「なんですって!?石頭の部下にそんな事言われたく無いわよ!」

 

 ダメだこいつら…

 今俺が言った言葉聞いてた?

 

 お前ら、お互いの上司嫌い過ぎだろ

 確かに鈴仙は閻魔が苦手だし、小町は渡らせられない不老不死が嫌いらしいけどさ。

 

 あと鈴仙さん。

 怖いんで目真っ赤にしないで下さい。

 

「そんな事より聞いてくれよ。こないだ珍しくあたいが真面目に仕事してた時に映姫様が来てさ、貴女が真面目に仕事しているなんて裏がありそうね、ってさ。酷いと思わないかい?」

 

 多分酷いのはお前の普段の仕事への態度だな。

 珍しくって自分で言ってる時点で気付こうか。

 

 しかも鈴仙を更に煽っておいてそんな事よりっておい…

 喧嘩するなら外でしてくれよ。

 俺は巻き込まれたら間違いなく吹き飛ぶ自信がある。

 

「楽しいお酒の場で愚痴とか辞めてもらえますぅ?そんな事よりこないだまた師匠が私に

 

「お前も愚痴かよ!」

 

 くそっ、突っ込んでしまった。

 悪いのは鈴仙だ、突っ込み処の多過ぎる発言をした鈴仙が悪い。

 いや、別に突っ込んだら負けって訳でも無いんだけどさ。

 

 美人二人に囲まれて酒を飲む。

 

 此処だけ聞けばトキメキの塊。

 全世界のケンゼンな紳士達から嫉妬されそうだ。

 俺も最初この二人を見た時は少し緊張したくらいだし。

 

 でも残念ながら、美人の前に残念の二文字が付くんだよな…

 見た目だけは人一倍に良いんだから、もう少し周りに気を配ればいいのに。

 

 鈴仙はなんやかんやで地上の生き物を見下してる感があるし、小町はサボって周りを説教に巻き込むし。

 あの閻魔は出向いた先々で色んな人に説教垂れてるからな。

 かく言う俺も被害者だ。

 

 あと、居酒屋で酔っているとは言え男にそう簡単に抱き着くもんじゃないぞ。

 流石に俺は勘違いしちゃうような産毛なボーイじゃないけど。

 

「そういや、あんたバレンタインにチョコは他に貰えたのかい?」

 

 ふと、思い出した様に小町が聞いてきた。

 

 バレンタイン、か。

 幻想郷にその文化があるって事は、外の世界だと忘れられちゃってんのかな。

 いや、アレだけ大々的にやってて尚且つお菓子業界に大影響を与えるイベントが忘れられる筈がないか。

 

 そういや、今年のバレンタインは結構な人数から貰えた。

 幻想郷の人々は、そう言ったイベントにノリノリだからな。

 紅魔館の主は、何故かサンタのコスプレして人里に配りに来てた。

 突っ込まなかった俺を褒めて欲しいわ。

 

「んー。結構貰えたけど、俺はどっちかって言うと配った側だな。ほら、寺子屋で生徒達の為にさ」

 

 俺達教師陣は、生徒を喜ばせる為に徹夜してチョコを作ったのだ。

 って言っても、企画者である慧音と巻き込まれた俺の二人しか作って無いけど。

 他の先生方は、一足早く恋人とバレンタインを満喫すると言って帰って言った。

 ニヤニヤしたあいつらの顔は忘れられない。

 

 まぁでも、生徒達の分を完成させた後に慧音から貰えたから良しとした。

 凄く美味しかったから、本命貰える人が羨ましいなと言ったら…

 あれ、どうなったんだっけ。

 記憶がなんか薄れてるな…

 

「兎に角、色んな人から貰えたぞ。幻想郷の人って、義理でもかなり手が込んでるんだな」

 

「……」

 

「…あの、誰から貰えたんですか?……ん?他に?」

 

 急に改まって、鈴仙が聞いてきた。

 お前さっきまで酔ってなかった?

 

「まぁお前達二人と慧音含めた寺子屋の先生達だな。全部で大体10個くらいだったよ」

 

「「………」」

 

 何故沈黙する。

 

 なんだ、俺がチョコ貰ってちゃ悪いのか?

 いいじゃない、男の子なんだもの。

 義理でも貰えるものは貰っときたいんだよ。

 

「あの…私が渡した時に言った言葉聞いてました?」

 

「おう。一緒に暮らしませんか、だろ?流石に永遠亭暮しは嫌だから断ったと思うけど」

 

「……」

 

 何故沈黙する。

 

 いや、最初は勘違いしそうになっちゃったけどさ。

 それって要するに働き手が欲しいって事だろ?

 残念ながら俺は今の仕事を辞めるつもりはないし、そもそも永琳の部下とか死んでも嫌だ。

 だって死にたくないし。

 

 バレンタインにチョコを使ってまで人手を増やそうとするとか、流石汚い薬師汚い。

 利用されてばっかで鈴仙が可哀想と思わなくもない。

 鈴仙も少しは言い返せば…無理だな。

 

「残念だねぇ、月の兎様。上司のせいで断られるなんて」

 

「いや、同じ様な理由で小町の誘いも断った気がするんだけど」

 

「……」

 

 バレンタインに彼岸まで呼び出された俺は、そこで小町にチョコを渡された。

 なんか普段と違う乙女な表情で、一緒に働いてくれたらあたいも一生懸命働くと思うよ、首にされたくないし、と言われた…が。

 

 それって、死ねって事じゃね?

 

 人間が死神になる為の条件として、まず最初に霊体に成る必要がある。

 要するに死ななきゃならない。

 勿論俺は死にたくない。

 

 それに、もし俺が死神になったとしたらほぼ毎日あの閻魔と顔を合わせる事になる。

 即ち説教される。

 それも物凄く嫌だ。

 

 しかし、せっかく頂けたチョコに手をつけないのもな…

 

 迷った俺は、どうなっても大丈夫な様に永遠亭の近くでチョコを食べた。

 普通にとても美味しかったです、はい。

 なんか疑って悪かったなぁと思いつつ、あれは小町なりのジョークなのだろうと納得する事にしたのだ。

 

「ぷぷっ、貴女も大変ですねぇ。上司がアレだと」

 

 辞めとけ鈴仙。

 ここで小町が怒る事は無いだろうけど、今の台詞があの閻魔の耳に入ってしまったら笑えねぇ。

 朝までネットリコース決定だぞ?

 

「…はぁ、今ほど死神を辞めたいと思ったのは初めてだよ」

 

「気が合いますね…私もですよ」

 

「なんか良く分からんし分かりたくも無いけどさ、元気だせよ。良い事あるって

 

「「あんたが言うな!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…なんであの人はあんなに馬鹿なんですか…」

 

「あたいらより先にその上司に出会っちまってるからね…仕方ないっちゃ仕方ないさ」

 

 飲み会改め反省会。

 

 今回も全くもって想いに気付いて貰えなかった二人は、彼が帰ってから更にペースを加速させてジョッキを傾けていた。

 まさしく自棄酒と言うやつだ。

 

 彼は面白い程に気付いてくれない。

 鈴仙の文字通り身体を使ったアピールも、小町のさり気ないアピールも。

 色々な手を使ってあの手この手と手段手法を変える彼女達の恋は、未だに実っていない。

 

「うーん。確かに師匠と先に面識を持ったせいで、私のアピールは師匠の指示だと思われてるんですよね…」

 

「あたいなんて何やった処で、結局あの閻魔の部下には成りたく無いって気持ちが壁になってるっぽいからねぇ…」

 

 恋愛と言うか、女性に対してなんだか疑心暗鬼になっている様な風もある。

 実は慧音の積極的なアピールのせいで、彼の脳内では幻想郷の女性=割と大胆の方程式が出来上がっているからなのだが。

 

「じゃあ次は、押してダメなら引いてみろでいきますか?」

 

「いや、それじゃ余計に気付かれ無いね。それに、大元の問題をなんとかしない事には…」

 

 大胆、ツンデレ、ヤンデレ、クーデレと一通り試したが今の所全て失敗に終わっている。

 

 私達二人の魅力が足り無い筈はないから、きっと方向性が間違っているんだと結論付ける鈴仙。

 もしかして自分は魅力的じゃないんだろうかと自分らしからぬ不安を掻き消すように、上司のせいにする小町。

 

 一癖も二癖もあり、思考力も実行力もある彼女達だが、実はまだ試していない事がある。

 

 好きです、と。

 直接伝える事。

 

 今まで変化球やら何やらで攻め過ぎたせいで、素直に想いを伝える事が若干どころじゃなく恥ずかしいのだ。

 こればっかりは二人とも乙女だった。

 

 それに、なんやかんやで。

 向こうから告白させたい。

 

 そんな企みと言うか願望があるからこそ、彼女達は自分からは告白していないのだ。

 決して恥ずかしいから、と言う理由だけではない。

 決してだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、じゃああたいらも帰るとするか」

 

「そうね。そろそろ帰らないと怒られるわ」

 

 恋愛だけでなく日常生活すらも上司の影響を受ける彼女達が、会計を済ませて外へ出る。

 

 二月ももう下旬。

 間違った方向で想いが伝わってしまったバレンタインから、既に二週間が過ぎている。

 夜風は今が一番冷たい時期だが、お酒やら何やらで熱くなっている彼女達には丁度良い心地良さだった。

 

「さて、ホワイトデーまでに何か進展があるといいねぇ…」

 

「私は、いざとなったらホワイトデーもまた自分からチョコを渡すんでいいです」

 

 バレンタインのお返し、返事を貰うホワイトデーまでもあと二週間。

 その時に、どちらかに何かがあるだろうか。

 

 そして未だに、彼女達には普通に告白すると言う選択肢は無い。

 明らかに告白以上に恥ずかしい事をした事すらあったと言うのに、だ。

 

「ま、いざとなったら押し倒しちまうか」

 

「それもアリね…」

 

 そう言う二人だが、実行するつもりは微塵も無い。

 理由は簡単、恥ずかしいから。

 変な処で乙女な女性達である。

 

「んじゃ、お疲れ様。また一週間ガンバんな」

 

「そちらこそね…はぁ」

 

 トボトボと、それぞれの帰路に付く。

 果たして、彼女達の恋が実る日は来るのだろうか。

 

 けれど、こんな週一の飲み会がずっと続くのも悪くはないな、と。

 そんな事を考えながら、それでもやっぱりホワイトデーに胸をときめかせる二人だった。

 

 




 
如何だったでしょうか。
日常系です。
またもや前回からガラッと文章が変わっています。
少し前のサイ○リアみたいな感じでした。

バレンタインネタをやりたかったのに逃してしまったので、無理やり使ってみました。
こまっちゃん書いたの初めてでした。
口調、大丈夫だったでしょうか。

誤字脱字・コメント・アドバイスお待ちしております。

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