東方陰陽録~The medium disappeared in fantasy~   作:Closterium

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――現し世
僅かな幻は現に呑まれ、古の血だけがこの世に生きる。
少年は目にする。本物の幻想世界を。


幻想入り編
第一話 非常識を見る人


 

 

――都内 某私立高校・屋上

 

昼休み。ただでさえ怠惰な学校生活でこの時間程怠惰なものはない。食事を済ませても余る40分少々。次の時限の提出物を駆け足で済ませる者、昼間から馬鹿騒ぎする者・・・

この無駄な時間を削減してその分早く下校させるという事を教師たちは何故実行しようとしないのか彼には解せない。

彼はスマートフォンに付属のイヤホンを挿しアラームをセットした。目には目を、怠惰な時間は怠惰な睡眠を。と言わんばかりに彼は決まって屋上で眠るのだ。

 

彼の名前は土御門永一。ただの高校生であり、この物語の主人公である。しかしただ一つ、生まれつき世間の人間の常識を逸脱した性質の持ち主だった。

 

「やっぱりここにいたのか。お前は本当に屋上が好きだな。」

 

イヤホンの隙間から微かに声が聞こえた。彼の名前は安藤次道。永一とは中学校からの仲で、彼にとっての悪友である。

 

「我が眠りを妨げる者はお前か?」

 

「異議有り。お前が飯を食う時間は20分弱。その後、お前は決まって屋上に足を運ぶ。今の時間は――」

 

永一は次道の逆転論(仮称)をスピードラーニングの如く聞き流しながらイヤホンをぐるぐる巻きにしてポケットに入れた。

そして一度彼を見るなり目を細くして睨んだ。

 

「では次の議題に。お前、俺の警告を無視して『また』心霊スポットに行ったな?」

 

次道はわざとらしく目を逸らす。

 

「魔女裁判はやめてくれよ・・・」

 

「魔女裁判なんてナンセンスだろ。勿論逆転もしない。証拠はお前の右腕から肩にかけての全域だ。ま、お前に腕を気色悪く増やす超能力があるなら別だけどな。」

 

彼の言葉が徐々に熱を帯びる。それに気付いた次道は弓の弦を思わせる程に顔を引きつらせた。

 

土御門永一は簡単に言うと「異形の物が見える人」なのだ。彼の家系は代々強力な霊感を引き継いでいる。父親、祖父や曾祖父は勿論、伯父や五歳の甥っ子にまで至るほどだ。

その原因は彼の先祖にある。その人物は誰もが一度は耳にした事があるであろう陰陽師、安倍晴明である。と言っても、掠れるほどの分家で霊感が無ければ自分たちを含め誰も信じないだろう。

 

「お前には何度注意すれば理解するんだ?行くだけじゃ飽き足らず、何度バケモノ連れてくれば気が済むんだ。いい加減死ぬぞ?」

 

「・・・サーセン。」

 

先に述べた「永一にとっての悪友」とは、彼から見て悪い事をしてくる友人ということだ。

 

「俺はお前の為に言ってるんだ。しかも厄介なことに今回は怨霊みたいだ。最悪死ぬぞ。」

 

次道はその言葉を聞いた途端に血の気が引いてきた。

 

「おいおい冗談だろ。流石に死ぬわけ無いじゃん。」

 

彼は青白い顔色で、まるで自分に言い聞かせているかのように言った。勿論、死ぬわけはない。単なる脅しである。だが、風邪や肺炎も最悪は死ぬ。妙な悪霊が取り憑いているのは本当であり、暴れだしたら何をするか分かったものではない。そこで、次道が悪霊を連れてきた時、決まって向かう場所がある。

 

「とりあえず帰りに叔父さんの家に寄るからな。」

 

「いつも通りだな。よろしく~。」

 

「(次は放っておこう。)」

 

「あ、そうだ。これ先払いの紹介料な。山吹色(きな粉味)のお饅頭(餅入りチロルチョコ)だ。」

 

「食い物程度で何とかなる悪霊なんかいないぞ。(鋭い奴…)」

 

キーンコーンカーンコーン...

 

校内に予鈴が校内に響く。

 

「そろそろ戻るか。まあ精々放課後まで生き延びるんだな。」

 

「おう、死んだ時はザオリクしてくれ。」

 

「ったく・・・」

 

約二時間半後・・・

 

永一と次道はそれぞれのクラスでホームルームを終え、伯父の寺へと出発した。

 

「なぁ永一、なんでこんなに離れて歩くんだよ。一人で歩いてる気分なんだが。」

 

「お前にも見せてやりたいよ。その腕の気色悪さ。」

 

寺は学校から徒歩10分ほどの距離にある。次道は心霊スポットへ行くたびに悪霊を連れて来るので伯父とは顔見知り、と言うか仲が良い。次道のオカルト好きの影響は伯父が与えていると言っても過言ではない。つまり、伯父は次道の悪(事に加担する)友(人の生臭坊主)だ。

 

寺までの最後の曲がり角に差し掛かった。そこを曲がった先の長めの石階段を上った先が目的地の寺である。

 

「よーし、無事生還したぞ。後は祓ってもらうだけだ。」

 

「調子がいいのも今の内だからな。宣言しよう。お前はいつか必ずヤバイ物を連れてくる。ホラー映画レベルのな。伯父さんでも対処出来なくて泣くのはお前だからな。」

 

「出た、毎回恒例の『寺前説教』。」

 

永一はギロリと次道を睨みつけた。が、次道に効く訳が無く、

 

「おお、怖い怖い。桑原桑原。」

 

と冷やかしてくる始末だ。

 

ピリリリ・・・・ピリリリ・・・・

 

寺の階段に差し掛かった所で永一のスマホの着信音が鳴った。連絡することもされることも無く、携帯音楽プレイヤー付きの文鎮と化していた彼のスマホが鳴る事は天変地異の前触れである。実際、彼も豆鉄砲を食らった。

慌てて画面を見てみると、父親からの電話だった。永一は次道を先に寺に向かわせると電話に出た。

 

「もしもし。」

 

「お、永一か。出てくれて良かった。早速だが今すぐ帰ってこい。」

 

「え~、今伯父さんの寺なんだけど。後にしてくれない?」

 

「今すぐじゃなきゃダメだ。まっすぐ帰ってくるんだぞ。」

 

父は永一の都合など全く無視して電話を切ってしまった。

 

普通なら父に対して怒りを見せる所なのだろうが、土御門家の父の場合はそれに従うのが得策である。何故なら、父の「勘」は外れないからだ。

父は普段、穏やかで他人の事ばかり考えて行動しているような人間だが、時折こういった自分勝手な事を言うことがある。その内容は突拍子もない事であることが多いのだが、それに従うと、何故か間一髪で命拾いをしたり、良いことがあったりもするのだ。

よって、土御門家では父の勘に従うのが慣習化されているのだ。

 

学校から寺までは近いのだが、寺から家まではかなり距離があり、一旦家に帰ってまた寺へと行くのは至極面倒である。しかし、恐らくこの一件も父の勘が作用しているのだろう。従うのが吉だ。

永一は次道に連絡を入れると家に向かった。20分程電車に揺られた後、やっと家までたどり着いた。

 

「ただいま。」

 

リビングから母の声が聞こえる。

 

「あら、おかえりなさい。父さんが呼んでたわよ。」

 

「また『サラリーマンの勘』?」

 

鞄を無造作にドサりと置き、私服に着替えながら気の抜けた声で問う。

 

「みたいね。でも今日は関西の出張の仕事を全部放り出して帰ってきたみたいよ。異変でも起こりそうね。」

 

父は始末書という永一の1000倍の面倒事を生み出してまで帰ってきたようだ。

 

「父さんは今部屋にいるから、早く行きなさい。」

 

「はーい。」

 

永一は駆け足で父の部屋に向かった。部屋へ入ると父がスーツ姿のまま何かを探していた。ただでさえ整理が出来ていない父の部屋。今はゴミ捨て場を彷彿とさせるレベルにまで至っていた。

 

「・・・。父さん、何か用?」

 

「おっ、永一か。すまない、ちょっと待ってくれ。」

 

父は「宝」と称す骨董品の山の中から何かを探しているようだった。「宝」とやらがいくら名品でもこの散らかりようではガラクタの山にしか見えなかった。

物が動く度に舞う埃。永一はハンカチで口を覆った。

 

「──あった!」

 

父は嬉しそうな顔で埃を被った古めかしい小さな木箱を永一に手渡した。中には真っ白な美しい数珠が入っていた。

 

「・・・数珠?なんでこれを俺に?」

 

「サラリーマンの勘だ。なに、お守りにでも持っておけ。」

 

永一は若干の不安を抱きながら木箱を受け取った。他人から見れば胡散臭く聞こえるが、父の予感は的中する。だからこそ、数珠を渡されるのは恐ろしいことである。

 

「あ・・・あのさ。今日のサラリーマンの勘ってどんな感じなんだ?良い事なのか?それとも・・・」

 

父は真面目な顔になった。

 

「わからん。でも永一の行動次第で良くも悪くもなるだろう。」

 

互いに大なり小なり面倒事を抱えながら勘を信じているというのに流石に無責任過ぎると思った。

 

「と言っても、今の父さんに出来ることは無いからな。何かあったら乗り越えてくれ。そういえば、お寺で次道くんが待ってるんじゃないか?早く行ってやりなさい。またあいつ(伯父)が悪影響を与えてるかもしれないしな。」

 

「あんたが呼び出したんだろ!」

 

 

――都内某所 寺

 

寺に着いたのは良いのだが、目の付く場所には誰もいない。恐らく、伯父がお祓いを始めているのだろう。

お祓いをする時に、伯父は決まって依頼者と共に通称、「お祓い部屋」に篭もる。仕事中、伯父はお祓い部屋を見られる事を極度に嫌がる。その為、次道がお祓いを受けている時、永一は小さい甥っ子と遊んでやったり、そのお礼として伯母さんにお菓子を振る舞ってもらったりするのだが、伯母と甥は今不在のようで、絶賛暇を持て余しているのだ。秋の夕方は暗く、冷える。着いた途端に帰りたくなるというのは今のような状態を言うのだろう。

永一は暇に身を任せ、ぶらぶらと周囲を徘徊し始めた。本当なら来慣れている為、一切の新鮮味がなく更に暇が加速する筈だった。ふと、敷地の隅に置かれた小さな社が目に止まった。彼の背丈ほどの小さな鳥居に小さな祠。わざわざ寺に配置した意味がわからない程に質素な社である。社は寺が建てられた時にから一緒に置かれており永一も存在を知っている。だが、その時は何故か無性にその社が面白く見えた。

 

「何で寺に神社があるんだろうな。神仏習合ってことか?そういえば、どこの神社を祀ってるんだ・・・?」

 

永一は目を凝らして祠の文字を見ようと試みたが、少し文字が小さいせいか霞んで見えなかった。境内からなら見えるだろう。と鳥居をくぐった。

 

「文字が旧字だし達筆すぎる。えーっと、この文字は――」

 

 

─────────────────

 

 

ドサッ・・・

 

突然、背中が引っ張られているような感覚がした。視界はオレンジ色に少し白が掛かった景色が広がる。そして、足が地面から離れていることに気づく。振り向こうと首を動かすと、ふわりと土の匂いが鼻を通った。その時、初めて自分が地面転がっている事に気がついた。

起き上がってみると、一面に彼岸花が咲き誇り涼しい風に揺れている。そして振り返ると、季節外れに薄い紫の花を付ける桜の大木が幽玄に聳えている。

永一は背中に付いた土を払いながらポツリと呟いた。

 

「ここは・・・・・・どこだ?」

 

 

──To be continued──




あとがき

怠惰で忙しい大学生、ミカヅキモです。
今回は記念すべき(二度目の)第一話なのですが、まあ、アレですね。さっさと先進みたいですね()
この話は本っ当に序章で、これからのストーリーにもまず関わりませんのでストーリーのコメントはありません。以上、閉廷!

この話を過去に読んだことのある(記憶に残っていたら)皆様はお気づきかもしれませんが、話を割と省略しています。正直に白状しますと、この先もガンガン省略していくので以前よりは進行が早めになります。

理由というのは簡単で、以前のこの話は相当頭でっかちだったからです。ダラダラと思いついたことを書いていくうちに話が長くなり、結局、自分にも閲覧者さんにも飽きられてしまう。折角この作品をクリックしてくれた閲覧者さんは楽しめないし、私も楽しくないし評価も増えない(文才の問題の可能性)というLoseLoseが生まれてしまい、更には10万文字書いても自分が一番書きたい場所まで辿り着かない(実話)という最悪の状態にまで達します。
省略部分を気に入って読んでくださった方は本当にすみません。ですが約束します。私は省略をしても抹殺はしません。状況、場面は変わるかもしれませんが、省略部分は必ず話に盛り込みますので、その時まで待っていてください!


次回は永一が幻想郷の洗礼を受けます。Next fantasy's hint 「外来人」


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