ソロアート・オフライン   作:I love ?

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久々の二日連続投稿! 筆が乗ったぜ……短いけど。すいません。でもキリがいいので……
……なんか今回、リズベットがイケメンになったような気がしないでもないですね。八幡って、ストレートにカッコいい台詞を言うキャラじゃないような気がします。……主観ですけど。
さて、リズベット編もあと多くて二〜三話くらいですかね?
リズベット編の次は○○○○○○編です。原作に出てきたけど触れられていないあの戦いですね! 解ってもネタバレは禁止です(笑)


パーティーというものの重さを、比企谷八幡は改めて認識する。

俺のせいで火山灰にむせた? リズベットは、当然のごとく俺に怒鳴り散らしてきた。

 

「あんたねぇ、ちょっとは周りを考えてやりなさいよ!」

 

「そ、それは悪かった。ほんと、マジで。でも……お前、鏡見た? ナニコレ珍百景みたいになってんぞ」

 

「鏡なんて普段から持ち歩くわけないに決まってんでしょ!」

 

別に俺の口から説明してやってもいいんだけど、その場合こいつが羞恥に悶えるか、俺が罵倒されて終わるかのどっちかだな。女の人のぐちゃぐちゃになった顔をジロジロ見るなんて、変態ッ! みたいな。

 

「その、な? 自分の顔をちょっと触ってみたらどうだ?」

 

「なによ、そのお年寄りが幼い子供が遊んでいるのを見てるような慈愛に満ちた眼差しは……」

 

あ、そんな眼してたの? 俺としては過去の俺みたいに黒歴史によって悶えるであろうお前に対して、お前も黒歴史を作るんだなぁ……みたいな眼で見てたと思うんだが。

ペタペタ、いやヌルヌルと自分の顔を触るリズベットに対して、近くにハンカチアイテムを放り投げて一回洞窟を出た。俺、超紳士。

数秒後。洞窟内の反射も相俟って、物凄いボリュームの声が辺り一体を支配した。

……うん、ほんと、すいませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁー……、もうお嫁にいけない……」

 

「……なら婿養子でもとったらどうだ?」

 

「そういう問題じゃないでしょ!?」

 

「ならどういう問題だよ……」

 

「男の人にあんな顔を見られたのが問題なんでしょうが!」

 

おおぅ……まさか、人間扱いされているとは……。僕、感激です。

 

「……すまん、ちょっと泣きそう」

 

「なんでよ!」

 

「いや、会って間もない女子から人間扱いされたのが久し振りすぎて……」

 

「……それ、ツッコミ辛いわね……」

 

いや、もうヒキガエルとか菌とか生ゴミ、グールなんかもあったな……そこのとかもうすでにもの扱いだしな……。

「……それにしても、お前どうやってここに来たんだ? 入り口なんて火山灰が積もって塞がれてたし、偶然入れるようなところじゃないだろ?」

 

「あぁ……。……あのボスの暴風は、あんたが吹き飛ばされた後に止んだんだけど……」

 

「……お前に襲いかかって来たのか?」

 

首肯するリズベットを見て、復活した左手で頭を掻く。その際被っていた灰が頭から落ちる。あんな巨大龍が襲い掛かって来たら、普段からモンスターを見慣れてる攻略組でもないかぎり足は竦むし恐怖で体は震える。大方そのまま攻撃を喰らって吹っ飛び、俺みたいになったってところだろうか。

 

「はぁ……、まぁ俺がいなくなったあとの事態は把握した。で? なんでお前はここに来れたんだ? そもそもなんで転移結晶で街に帰らなかった?」

「……使う暇がなかったのよ。あと、ここへは蟻地獄みたいな流砂に巻き込まれて落ちたらいつの間にかいたの」

 

「なるほど。ま、アイテムを使う暇がないなんてのはザラにあるし、クリスタル無効化エリアなんてものも上層にはある。流砂ってのは少し意外だったけどな……。俺が吹き飛ばされてからどれだけ時間が経ったかは知らんが、お前がここから脱出してないことを考えるに、ここはクリスタル無効化エリアだったんだな?」

 

「……あんたって、意外に聡いのね。驚いたわ」

 

「お前、もうちょっと年上を敬う心を持ったら? 学校の先輩に対してもあんたとかって言うの?」

 

後輩ってみんなこんな感じなの? 葉山とかすげぇ甘い声でせーんぱいっ♪ とか言われてんのに。いや、そもそもヒエラルキーが最上の葉山と最底辺の俺を比べんのがおかしいんだけどね……。

 

「ちゃんと名前で呼ばれたいなら、もうちょっと年上の威厳とかを持ちなさいよ」

 

「はっ、そりゃ無理だな。なんなら年下の妹の荷物くらいしか持てないまである」

 

「妹は全員年下でしょ……」

 

いや、義妹だった場合は年上も有りうるけどね? 小町しか兄妹いないから、義兄妹なんかできないけど。妹は誰にもやらん、親父にもだ!

 

「さて、そっちはなんか訊きたいことないか?」

 

「吹き飛ばされた後、あんたの方はどうだったのとか、どうやってあたしを見つけたのとか、色々訊きたいことはあるけど……まずはその両腰にある剣について訊きたいわね」

 

あ、これ? 剣のグレードとしてはそんな高くないぞ? 最前線でこれを使うにはかなりのリスクを伴うくらいのグレードだ。

 

「じゃあ、まず右の剣から……これは《ピースフル・デストロイヤー》って言う銘で……」

 

「いや、そっちじゃなくて。なんで二本の剣を腰に差してるのかってこと。っていうか、ピースフル・デストロイヤーって……」

 

完全にネタだよね? 言葉には出さなくても、リズベットが呑み込んだ言葉はアインクラッド城民なら予想できると思う。

ちなみにもう一振りの剣は《フライトニング・クラウン》と銘打たれている。恐ろしい道化って……。この二振りの剣の名前を合わせたら、平和を破壊する恐ろしい道化になるな。……本当に恐ろしいな。

世界を破壊するピエロを想像したら、確かに奇怪で恐ろしいイメージが浮かび上がってしまった。ていうか蛭子影胤である。

 

「……で、なんで両腰に剣を差してんの?」

 

「あ? そんなの二本とも使うからに決まってるだろ?」

 

俺としては一番解りやすいと思う説明だったんだが、要領を得ないとばかりにリズベットは憤慨する。

「だぁかぁらぁ! なんでソードスキル使えなくなるのにわざわざイレギュラー装備になる剣の二本装備なんかしてんのって訊いてんの!」

 

「説明が面倒だ。見たら解ると思うから、お前が嫌じゃなかったらもっかい頂上まで行こうと思ってる。もちろんお前が付き合う義務はないし、もしお前が頂上に行きたくないって言ってもちゃんと剣を二本差してる理由を説明する。もちろん護衛を担えなかったやつの言葉なんかアテにする必要もない。今回の責任は全面的に俺にある……悪かった」

 

自分の予定に付き合ってもらう以上、それも相手にとって危険な場所に連れていく以上無事に帰さなければならない。それが最低限の義務であり、責任だ。そして俺はそれを自らの油断と慢心で忘れていた。

レベルはあくまで戦いの勝敗を決めるファクターの一つであり、絶対じゃない。そんなことすら忘れていた。

命は一つ。無くしたら……否、亡くしたら帰ってこない。失ったものは戻らない。過ぎた時間は巻き戻せない。取り戻せるのなら、一体何人のSAOプレイヤーが助かり、命を取り戻し、失敗をなかったことにし、現実世界に帰れるのだろうか。それもifの話、なんら意味はない。

 

「うわっ、急に殊勝な態度になって気持ち悪……」

 

「おい、俺は結構真面目に言ったんだぞ?」

 

なんかさっきまで考えてたことがバカらしいじゃねぇか。そして凄い恥ずかしいんですけど。

 

「じょーだんよ、じょーだん。確かにこんな事態になったのはあんたのせいであっても、そもそも自衛ができるレベルじゃないのにここまで着いてきたあたしにも非があるし……それでもあんたが責任を感じてるって言うなら、今度こそあたしを守ってみせてよね」

 

可愛らしいとか、綺麗とかではなくカッコいい笑みを浮かべ、右手を差し出してくるリズベット。

これは多分、あれだよな……。

俺も右手を出したら固く握ってくる。どうやら合っていたらしい。

 

「……戦場に身を投じる以上、絶対とは言えんが……解った。できうる限りお前の護衛を実行すると約束……する」

 

現実世界なら取るに足りない口約束。この(命を懸ける)世界だと、この言葉の一つ一つにどれだけの重みがあるのだろうか。

どちらともなく手を離し、改めてリズベットが満面の笑顔を向ける。

 

「あたしは四十八層主街区《リンダース》にある鍛冶屋兼武器屋、《リズベット武具店》の店主、《リズベット》。改めてよろしく」

 

「あぁ……。俺は最前線に身を投じるプレイヤー集団、通称《攻略組》に属するソロプレイヤー、《エイト》。こちらこそ……よろしく」

 

もう一度、固く、固く手を握る。

この時初めて、俺達は《パーティー》になれた……ような気がした。

 


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