ソロアート・オフライン   作:I love ?

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最近タグに八幡キャラ崩壊をいれた方がいいと思い始めた今日この頃。
蛇足ですが、ついにゴッドイーターのアニメを見れました! ゴッドイーターリザレクション、すごいやりたい! 作者は2からだったから余計に。


とにかく言葉の定義は曖昧で、比企谷八幡でもよくは解らない。

六月も中旬から下旬に移り変わり、初夏と言っても差し支えない頃、今の時期にしては多すぎるほどの汗を掻きながら俺は屹立していた。というか、鬼を待っていた。

 

「あちぃ……」

 

いったい鬼に何をされるのかという恐怖と、初夏の暑さのミックスのせいで汗だくである。さすが俺、ヒキガエルの悪口は伊達じゃないぜ!

六十一層の街の一つである《スイルベーン》は、基本洋風なアインクラッドの街並みによく合う湖上都市である。俺もマイホームが欲しいとはある程度思っているが、静謐な場所がいいのでここはない。て言うかここ鬼さんのホームがあるし。

転移門前広場にあるベンチに腰掛け、じゅるじゅるとオブジェクト化したMAXコーヒー擬きを啜る。甘い。

缶を振り、ちゃぽちゃぽと薄茶色の液体が音を立てるのを聞きながら、俺はどこぞのアクセロリータとはコーヒーの趣味は相容れないんだろうなぁ……と思いながら二口目。

青い空、青い湖、青い俺の気分、青い光……誰かが転移してきたようだ。

六十一層に自宅があるアスナが転移門から現れるわけないので、興味を失ったように目を逸らす。

意図したわけではないが、目線を向けた先にはコバルトブルーの鞘に収められた刀傷だらけの剣があった。

 

「そろそろ替え時、か?」

 

「なにが?」

 

「そりゃあ……って、うおおッ!」

 

あるはずのない返事にガラにもなく驚き、声がした方を向く。別に聞かれて困る話題でもないが、自分が知らぬうちに聞かれるのも好ましくない。

振り向いた先にいる鬼……アスナを気づかれないようにジト目で睨み、密やかな抵抗を終えたらベンチから立ち上がる。

布装備は金属装備とは少し違い、《裁縫》スキルで耐久値を回復できる。が、メンテナンスをする度に最大耐久値は下がり、金属装備同様格好がみすぼらしくなる。端的に言えばほつれだらけだ。性能だけでなく見た目的な意味でも更新が必要だ。

そう結論付け、改めてアスナに向き直る。

 

「おはよ、ハチ君」

 

「……おお」

 

普段通りなら今頃は宿屋で眠っていたんだろうなぁ……と、怠惰な生活に思いを募らせ、早速提案する。

 

「じゃあ、俺帰るわ」

 

「え、え? か、帰っちゃうの?」

 

……上目遣い。正直、グッと来ました。だが残念。小町の上目遣いでいつもグッと来てるからセーフ……いや逆にアウトだな。……じゃなくて。

 

「いや、お前の要求は『明日自分と会うこと』だろ? 昨日出された条件は全て達成したから帰るわ」

 

「……じゃあ言い替えるわ。ハチ君、命令♪ 今日一日わたしに付き合って?」

 

「よし解った。喜んで」

 

まさか命令権を使ってくれるとは……前々からどんな命令をしてくるか怯えていたが、ようやく解放される。

解放されたことの喜びが半端ないことを初めて知った日であった。ジユウ、スバラシイネ!

 

「え、喜んで? あわあわあわ……」

 

目の前にいるキリッと冷静副団長が、天然キャラみたいな慌てかた(?)をしている摩訶不思議な光景が眼前にある。

こいつが顔を赤くしたときは十割怒鳴り散らしてくるので、対処法(ただの逃走)を行使する。

アインクラッドに来て、アスナと会った日は毎日が体育祭だ。肉体的疲労はないが、精神的疲労は体育祭の比じゃない。

どこぞの電圧の単位の名前である現実世界最速の男顔負けのスピードで、脱兎の如く駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、すぐに捕まった。千里眼でもあるの? と思ったが、アインクラッドにはあったわ。フレンド限定の。

俺が一日付き合うと承諾したにも関わらず遁走したと勘違いしたのか、例によって制裁された。でもね? アスナさん。走って追いかけてるから丁度いいからって、フラッシング・ペネトレイターはやめてください。冗談でも何でもなく、圏内だから剣技の衝撃で十メートルくらい飛ぶから。そのお陰と行っていいのか解らんが、空中での空間認識力は上がったが……

さて、今現在俺はその空間認識力をフル活用している……誰に説明してんだ? 俺。ついに二重人格になっちゃったの?

余計なことに思考を割いていたため受け身をとるのを忘れ、勢いよくなにかにぶつかる。

頭が痛……くはないな。けど脳が揺さぶられて気持ち悪いですます……。

ここでアスナが「あっ、やっちまった」みたいな顔をするのもお約束。

脳味噌をシェイクされたような不快感の中、泥酔した社畜のように立ち上がる。

 

「オェェ……」

 

二日酔いとはこんな気分が続くのだろうか、ぜってぇ酒なんか飲まねぇ……

数分後に疑似二日酔いが収まったのち、本日二回目のジト目。

 

「……お前さぁ、リニアーまでは俺も許容範囲内だけど、フラッシング・ペネトレイターはまずいだろ……」

 

見ると細剣――確か名前はランベントライトだった――は、徐々に頭角を表し地上を照らす日光を一刀に受け、鈍色に光沢している。

 

「それは悪いけど、リニアーまでは許容範囲なんだね……」

「うるせぇよ……」

 

対照的に、俺の剣。歴戦の勇士と呼ばれる範囲を越え、ただの襤褸剣に見えてきた。一合打ち合えばすぐに折れそうなほどだ。

 

「ハチ君、さっきから剣ばっかり気にしてるみたいだけど、どうかしたの?」

 

「いや、別に……」

 

左腰にある確かな重みを感じながら転移門に向かう。しかし、なぜかキョトンとした顔をするので、俺もギョロンとした顔をする。

 

「……どうした?」

 

「え? どこ行くの?」

 

どこって……攻略じゃないの? そのために(無理矢理)呼んだんじゃないの?

 

「言っておくけど、今日は攻略しないわよ?」

「は!? お前熱あんじゃねぇの? 帰って休めよ」

 

「どういう意味よそれ!」

 

いや、だってなぁ……お前休日もらっても攻略ばっかしてそうだし。むしろ攻略が趣味みたいな」

 

「ふーん、ふーん、ふぅーーん」

 

「……なんだよ」

 

「別にー、どうせわたしは攻略バカですよーだ」

 

「え、なんでわか……あ」

 

もしかしなくても、声に出てた? まずい、こういうときのパターンは一年半くらいも前に味わってる。

 

「……よ、よし。どこ行くんだ?」

 

当然、対処法も熟知している。二の次を言わせないで話題を転換。自分から喋るのは苦手だが、背に腹は替えられない。

 

「どうせわたしは攻略バカだから最前線でも行こうかなぁ? もちろん前衛はハチ君ね?」

 

「よ、よ、よ、よし。解った。何でも言うことを聞こう。だから勘弁してくださいお願いします」

 

全然対処出来てなかった。まずい、別にソロの時なら前衛後衛回復全部こなせる……と言うよりこなさなければいけないが、鬼と一緒だとどんなことを言われるか判ったもんじゃない。

 

「解った、解ったから。頼むから攻略以外でお願いします」

 

こいつ、超スパルタだからな。戦い方にダメ出しされたら泣くぞ、マジで。ボス戦とか超難易度高いことやってるからね? タゲ取ってひたすら回避とか。タンクの役目なのにマジ理不尽。

 

「冗談よ。さっきも言ったでしょ? ――今日一日わたしに付き合って?」

 

小悪魔的且つ蠱惑的な笑みに一歩たじろいだか、なんとか言葉を絞り出した。もちろん、肯定するしかない。

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デートの定義が異性と待ち合わせをし、ともに出かけることならば、これもデートと言うのだろうか? 答えは否である。

例えば、自分が作家だったとして、異性の編集者とファミレスに行ったとしよう。それをデートと呼ぶものはいない。まぁ、例えるならそんな感じだ。

最前線から僅か二層下と――つまり、解放されて間もないということに加え、景観が美しい湖上都市にそこそこプレイヤーは多い。それは即ち、軽やかなステップのような足取りで歩くアスナに顔をだらけさせ、後ろにいる俺を見て睨んでくる人が多いということだ。断じてストーカーをしているわけではないと、内心で弁明しておく。

それにしても、攻略以外無意味! みたいな思考回路をしていた攻略の鬼が丸くなったものだ。ちょっとはゆとりを持て、と常々言っていたのが実を結んだのだろうか。

 

「ハチ君、ハチ君! これ、どう思う?」

 

どこかの店で目をつけたのか、差し出された右手には白と赤、灰色のリボン? だろうか。が乗っていた。

 

「……なんだそりゃ」

 

「これリボンじゃなくて、装備したら手首に結ばれた状態でオブジェクト化するらしいよ」

 

「ほー……」

 

リストバンドみたいな物だろうか。一種の装飾アイテムとも言える。

確かにシステム補正的には無意味なものだが、こういう何気ない日常が一番大事なのだと、常に命を懸けているSAOプレイヤー達は知っている。

アインクラッドに入って、ボッチである俺ですらも独りで戦えたことはない。それは、ソロプレイヤーだから独りで戦っているとか、そういうことでは恐らくないのだ。

情報屋から情報を貰い、商人プレイヤーから高性能の装備や回復アイテムを買う。そうして万全の準備をし、俺達が攻略をする……どれか一つでも欠ければ、アインクラッドを六割以上も攻略できなかった。

人は、独りで過ごすことはできても、独りで生きることはできない。なぜなら、独りでできることには限界があるのだから。

ボッチである俺の人生を全て否定するような言葉だが、これが一年半のデスゲームの中で俺が行き着いた答えだ。俺は神じゃない。何度も間違え、苦悩し、考える、人だ。

この答えは間違っていて、前の考えが正しかったのかもしれない。この答えは正しくて、前の考えが間違っていたのかもしれない。あるいは、どちらも正しくて、どちらも間違えているのかもしれない。いや、そもそも、正しいとか間違っているとかなんてないのかもしれない。

そんなことを考えながら、三色の布を購買した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、会ったときから気になったことを訊いてみた。

 

「お前、装備ピッカピッカだからこの後ギルドで攻略すんのかと思ったけど、耳にイヤリング着けてんのはなんでだ?」

 

「えっ、気付いてたの?」

 

「いや、すごい日光反射してるから、そりゃ気付くだろ……」

 

そこまで注視したわけではないが、一目見ただけで服とかブーツとか輝きが違った。

光るランベントライトを見て、そういえばあれは友達の鍛冶師に作製してもらったと言っていたのを思い出す。

俺に背を向け、なにやら自分の世界に入っている閃光さんに声を掛ける。

 

「すいません、アスナさん。ちょっと訊きたいことがあるのですが……」

 

「ハッ! な、なんですか?」

 

「前、確かその細剣友達の鍛冶師に造ってもらったって言ってたよな?」

 

「う、うん」

 

アスナの細剣、ランベントライトは紛うことなき業物であり、そんな武器を作製できる鍛冶師はなかなかいない。それこそ一線を画する鍛冶師のはずだ。武器を更新するにはちょうどいいかもしれない。

説明を一から始めるために抜剣し、刀身をアスナがしっかり見えるようにする。

 

「まぁ、この武器を見たら解ると思うが……そろそろ装備を更新しなきゃならん。だからその、何? その鍛冶師をできれば紹介して、だな……」

 

「もちろんいいけど……でも! 条件があるわ!」

 

「……なんだよ」

 

「その娘を惚れ……じゃなくて、その娘にあんまりいいカッコしないこと! いい?」

その子? 子供なの? あれか、要はわたしからお姉ちゃんポジションを盗らないで……みたいな感じか。

 

「解った」

 

その後は相も変わらず街をぶらぶらし、その鍛冶師の営む工房を教えてもらって別れた。余談だが、あまりの剣幕のせいで若干冷や汗が出た。なるべくアスナを怒らせないようにしよう、と誓った日でもあった。

 




実はレイン編とリズ編は繋がっていたりして。

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