ソロアート・オフライン   作:I love ?

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久々の投稿! お待たせしました!(と言うより、待ってた人はいるんでしょうか?)
新たな挑戦→一話の文字数増やしました!
新たなアンケート→ドシドシお送りください!
そして最後に……レイン編なのに、後半レインが空気ですいません! 代わりに八幡無双します!


こうして比企谷八幡はボスを倒し、新たな力を手にする。

ボス部屋に足を踏み入れ、辺りを見回そうともほとんどのボス共通と言ってもいい巨大な体はどこにも見当たらなかった。

 

「……何もないね」

 

「ああ……ッ! 下がれッ!」

 

「え?」

 

突然の交代命令に体が反応できずに硬直しているレインを突き飛ばし、剣を構える。

 

「ぐっ、はっ……」

 

なんとかガードするが……重い。それに尽きる。もし索敵スキルを発動させていなくて、レインがそのまま斬られていたとしたら――タダでは済まなかっただろう。下手したら真っ二つだ。

そんなことを考えている間にも受け身もとれないほどの力を一身に受け、無様に転がり続ける。

ようやく視界が多方向に移り変わるのが終わったと認識すると、地面に先ほどの防御でピキッと嫌な音がした剣を突き刺す。

すぐさま戦況確認のために吹き飛ばされてきた方向を向くと――――あり得ないものが存在した。

二刀。

確かに左右一本ずつ持っている剣が光を纏い、レインに襲いかかっている。

 

「レイン! 後方ステップ!」

 

「クッ!」

 

言われたままに回避した0.5秒後に。

X字に描かれた光が空中に跡を残すのを眼が捉える。続いて雷が落ちたかのような轟音に、台風が来たかのような剣風。そんな状況下で見えたボスの名前とレベル――《The master》Lv80。

 

「おいおいおいおい……趣味悪すぎだろ」

 

心の中でこのクエストを創った奴――十中八九茅場だろうが――に悪態づく。

師匠を倒す。

なんとも修行終わりの最終試験的なもののテンプレートだ。しかし、この世界では趣味が悪いと言わざるを得ない。要は、人の形をしたものを自らの意志で殺せ、ということだ。

これまでずっと避けてきた、人型モンスターとの戦闘。人型モンスターの定義が二足歩行するモンスターだと言うのならば、中身がない甲冑やグールなど様々な相手と戦ってきた。しかし、ここまで人に近しいものなどと剣を交わせたことすらない。

デュエルなら何度かしたことはあるが、本気の殺し合いをしたことなど、デスゲーム開始序盤でしかない。それも決着の前に相手がリザインしたものだ。HPを全損させることなど一度もなかった。

故に――プレイヤーではないにせよ、人型のものとどちらかのHPが尽きるまで戦うのは、これが初めてである。

ドン! と、地面を揺らさんばかりの踏み込みにおもわずたじろぐが、次なる攻撃の防御のためにいつもの構えをする。

右足を前にし、左足は後ろ。足と同じように左手を開いて後ろにやり、剣を持っている右手は剣が地面と平行になるように構える。

 

「オオォッ!」

 

「……ッ!」

 

野太い叫びをする巨漢に、無言の気合いをいれて迎撃する俺。

両剣で上段を噛ましてきて、地面が陥没するんじゃないかと思うほどの重量が俺の双肩に掛かる。

 

「ガッ……」

 

鍔迫り合いなど、最も苦手にする展開に割り振っているステータスで拮抗状態などになるはずなく、徐々に膝を屈し、ついには片膝立ちの体勢になってしまう。

このままでは押しきられ、体を真っ二つに斬られる――俺一人なら。

 

「ヤアアッ!」

 

重突進単発片手剣技《ヴォーパルストライク》。

慌てているように見える表情で離脱をしようとする老人だが、そうは問屋が卸さない。

剣を手放し、今まさに引かれようとしていた二刀をガッチリ掴む。幸い両刃(ダブルエッジ)ではないため、引き抜こうとされて俺の手が切り裂かれることはない。まぁ、ガッチリ握っているため、刃のあるほうの手からは紅いエフェクト光が出ているが些末なことだ。

片膝を突いて低姿勢になっていたため、俺に当たることなく《ヴォーパルストライク》は俺の上を通り過ぎ、老躯に食い込む。

ここで俺も剣から手を離し、体術スキル《幻月》を放つ。サマーソルトキックは見事な髭を蓄えている顎にクリーンヒット。脳が揺れている(という設定)なのか、気絶のデバフがかかっている。

顔を見合わせ確認するまでもなく攻撃を開始し、遠慮なくソードスキルをバンバン使った。

 

「アアアッ!」

 

「エエィッ!」

 

《バーチカル・スクエア》。その後に、次のスキルにコネクトするために右腕を曲げながら、左手掌底《閃打》。多少不恰好な体勢での攻撃になったものの、強制終了はされない。ならいい。続いて、数刻前レインが使っていた大技、《ヴォーパルストライク》。

《ヴォーパルストライク》は、距離を詰めて一気に斬る《ソニックリープ》とは違い、突き刺すタイプだ。故に、片手剣突進系統の技の中でも、特に剣を持っていない手が後ろに来やすいのだ。

槍のように先を尖らせたような手刀が、雷光のごとく黄色い光を纏う。

 

「ラス、トオォォォ!」

 

渾身の貫手、《エンブレイザー》。さすがに相手のHPを余すことなく……なんてのはボス相手には無理だったが、少なくないダメージを与えたはずだ。

 

「ヌウッ!」

 

あくまで無様な姿や叫び声をしない老翁に称賛を贈りたい気分だが、あからさまに怒りの形相をしている顔の恐怖に萎縮するしかなかった。

俺の一瞬の硬直を見逃さず、下駄を穿いている足で俺の腹を蹴る。否、蹴り飛ばす。

サッカーボールよろしく空を舞う俺は、着地してからは、する暇がないであろう体力回復(ヒーリング)をする。もし、俺がさっき掴んでいた片手剣をそこらに放り投げていなかったら斬られてたな……などと冷や冷やしながらも戦況を認識する。

俺は落下中に今の戦況を認識した。敵はレインを蹴り飛ばし、武器を拾ったところ、レインは体勢を立て直したところ、か。

レインに追撃しようとしているジジイに《シングルシュート》を放つも、あっさり弾かれ不発。と、ともに地面にできるだけ衝撃を殺して着地する。

さっきの《シングルシュート》のせいか、またもや爺にタゲられたので迎撃体勢に入る。

鳴り響く金属音。剣があげる悲鳴。それだけが場を支配している。力で勝てないのならば、こちらのアドバンテージ……速さと技で戦うしかない。

血湧き肉踊る戦いなどでは全くないが、加速した思考が倦怠感を吹き飛ばす。

レインが介入してこないことを見るに、恐らくこの高速戦闘(ハイスピードバトル)についていけないのだろう。この爺さんと一対一で渡り合えるのは、俺の知る限りのプレイヤーでは《神聖剣》ヒースクリフ、《黒の剣士》キリト、《閃光》アスナくらいしかいないだろう。

基本として、二本の剣を扱う奴は左右交互に攻撃をしてくる。何故か? それは二本剣を持つアドバンテージにある。

例えば、右手に持っている剣で攻撃した後、また右手の剣で攻撃したとしよう。

……片手剣と何が違うの?

これに行き着く。初撃のうちに二撃目の攻撃準備をし、二撃目のうちに三撃目の準備を……みたいに、お互いの隙をカバーし合い、息吐く間も与えないほどの乱撃(ラッシュ)。個人的には、それが二刀の真骨頂だと思っている。

ソロとして戦い一年半になるが、こんな苦しい戦いは初めてかもしれない。

右の剣と左の剣によるラッシュ、二方向からの同時攻撃、未知のソードスキル。いずれも対処が難しい。

剣速は、筋力値に由来するのか、敏捷値に由来するのか……答えはプレイヤースキルだ。

アインクラッド一の剣速を誇る《閃光》アスナは、そのたゆまぬ努力によりアインクラッド一の剣速……《閃光》という二つ名を付けられた。

剣速がプレイヤースキルに由来するというのならば、目の前のプレイヤーではない存在は相当高い知能を有していることになる。

見切られたソードスキルはあまり使わず、自らの通常攻撃の連撃で、的確に俺の命を狩ろうとしている。

左の剣を刃毀れしまくっている薄紫の剣で流しつつ、前に疾駆。頭を破損させようと、鋭い突きを放つ。すると俺の動きをコピーしたように相手は動き、俺の眼前に剣尖が迫る。

それをなんとか首の動きだけで避けるが、その代わりに俺の刺突の軌道もぶれ、相手の頬を掠めるだけに終わる。

こちらの攻撃は一度途切れるも、相手は二本持っているためお構い無しに鈍く光る剣を降り下ろしてくる。防ぐ術はない。

しかし、その時。

ビュオン! と風を切りながら飛来してくる物体を反射的に避け――

 

「キャッチ!」

 

その声とともに、これまた反射的に飛来物を掴む。

これは、レインの剣だ。

弾かれるように左手を動かし、細身の剣で俺を屠らんとしていた必殺の(つるぎ)のベクトルを僅かに変え、逸らす。その際左肩口が浅く斬られたが、これくらいで済めば万々歳だ。

とは言え、今までにイレギュラー装備扱いされる剣の二本持ちなどしたこともない。下手をすると片手剣の時より戦力がダウンするかもしれない。さっきのはたまたま防げただけだ。

かと言って、この状態(片手剣)のまま戦い続けてもじり貧は必至。なら、一か八かある程度の賭けに出るしかない。

まぁ、腹を決めたとは言え、気合いですぐに技倆がよくなるなら学園都市第7位がヤバイことになる。

取り敢えず、左の剣で攻撃を防ぎ、右の剣で攻撃する、と簡単に決めておいて戦うことにしよう。

攻防の移り変わりが一度途絶え、強制的に仕切り直しとなる。

普段ならここで撤退しているところだが、入ってきた扉は閉じ、転移結晶は使う暇がない。おまけに俺が戦っているのだから逃げるわけにはいかないと思っているのか、戦いの行く末を見届けたいのかは知らんが、レインも逃げていない。状況的にはお前が逃げなきゃ俺も逃げられねぇんだよじゃなくて、お前が逃げても俺は逃げられねぇんだよ状態だ。つまり、今の状況では、キツい言い方をすれば居ても居なくてもあまり変わらない。

 

「ハッ!」

 

先ほどと変わらぬ――あるいは重量が増えたせいで遅くなったかもしれない――剣速で、右からの横一閃を繰り出す。

当然防がれるが、相手に剣を弾かれるより早く、左の剣で上段斬りの二撃目を降り下ろす。これまた防がれたが、俺は左、相手は右の剣での鍔迫り合いになる。

俺は上から力を加えられる状態にあるため、全体重をかけ、全力で降りきらんとする。

お互いに鍔迫り合い勝負に全身全霊を懸けているため、もう一振りの剣に割く意識はない。こちらは二人だが、下手に攻めさせたら手痛いしっぺ返しを喰らうかもしれない。

もはや剣が光っているように見えるほど絶え間無く火花を散らしているのは、耐久値の限界を示しているのだろうか。

ここで決めるしかない。

これは、相当にシビアな技になる。僅かにでも隙を見せたら、即座に斬り捨てられるだろう。

模倣剣技(コピー・ソードスキル)』。

……大層な名前が付いている(キリト命名)が、なんてことはない。ただ、システムアシスト無しでソードスキルを繰り出す……要は、ソードスキルの形をした通常攻撃だ。

ならば何の意味があるのか、と訊かれたら『慣れているから』と答えるしかない。リアルで何かの流派の剣術を習っていたやつなら兎も角、大半のSAOプレイヤーの流派……というか剣術は、言うまでもなくソードスキルにカテゴリーされている。システムアシストに頼りきりなのだから、当然プレイヤー本人たちの技術が上達するわけではない。トッププレイヤーである攻略組でさえも、通常攻撃の連撃なんてしたら、半分はただ剣を振り回しているだけになるだろう。

だが、システムアシストに頼りきりと言っても、動きは体が覚えているはずだ。ならば、慣れている動きをアシスト無しで再現するのは不可能じゃない。鍛練さえ積めば、それこそソードスキルに限りなく近い技を習得することも、さらに発展して、自分オリジナルの連続攻撃も創れるかもしれない。……まぁ、そこまで至っている奴は、俺含め一人もいないだろうが……

要するに、本家の剣技と同等のクオリティと仮定した場合のコピー・ソードスキルを使うメリットは主に二つ。硬直時間がないことと、その分若干タイミングがズレようが構わずコネクトできること。デメリットは威力がないことだ。

レベル十差ということもあり、相手の通常攻撃はなんとか弾ける。だが、ソードスキルを弾くには当然こちらもソードスキルを使わなくてはいけない。だが、ソードスキルを使えるようにするために、この仮・二刀流をやめたら手数で負ける。

以上の三点を踏まえると、この状態(仮・二刀流)の通常攻撃で相手がソードスキルを発動できないほどの乱撃で攻めまくるしかない。

そのためには、剣撃が途切れないように連続で繰り出せるほど使い慣れている技……ソードスキルが必要になる。

ならば、俺が勝つための条件は、ソードスキルの型をした通常攻撃を繋げて繋げて繋げまくるしかない。

相手の残HPと俺の攻撃力を考慮すると、コピー・ソードスキルを十回くらい繋げないといけない。

いくら剣技連携(スキルコネクト)のために訓練をしてきた俺でも、今までの最高チェイン回数は五回。実に二倍の数である。だが、それでも、やるしかない。無理を押し通して道理を引っ込ませろ。

 

「バーチカル・スクエア、ヴォーパルストライク、ホリゾンタル・スクエア、ノヴァ・アセンション、ハウリング・オクターブ、サベージ・フルクラム……」

 

ブツブツとソードスキルの名前を唱え始めた俺に怪訝な顔を向ける偉丈夫は、なんとも人間臭い。恐らく、相当高度なAIが積まれているのだろうが、今は関係ないので話題をシャットアウト。

雷迅疾風。

雷の如く、風よりも速く駆け抜ける。当然相手も迎え撃つも、致命的な攻撃だけを叩き落とし、陽動の突きは無視する。二本の剣を使ってしまった相手は俺が懐に潜るのを防げない。

 

「ォォオッ!」

 

雄叫び。普段は全く出さない大声を抵抗なく出せたということは、俺は今かなりの興奮状態なのだろう。

僅かな光源に半透明な黒い剣が照らされ、鈍く薄紫色に光って、本物のソードスキルのようにも見えるほどの完成度で放たれた一発目のコピー・ソードスキル……バーチカル・スクエアは、深くしっかりと正方形の(ダメージエフェクト)を引き、その巨体を僅かに傾ける。次。

 

「二!」

 

バーチカル・スクエア最後の一撃とともに軽く後ろに跳び、一メートルほど距離を開け、間髪いれず詰める。キリト愛用のヴォーパルストライク。

胸に当たったのがクリティカルヒットだったのか、網膜を焼かんばかりの激しいライトエフェクトが飛び散る。それにお構いなしにさらに深く、よりダメージを与えんと左腕に力を込め、一気に前に突き出す。同時に足を踏み出し、胸を突き刺したまま力走する。

ふと上を見ると、老翁の苦悶の表情が見え、甘さ、とでも言うべき罪悪感に胸が苛まれるが、やらなきゃこっちがやられると思い直し、左腕を引き絞り一秒と経たず前に出す。

突き刺さっていた剣が余すことなく抜け、獅子の風貌をした老人はベクトルに従ってノックバックする。

 

「三!」

 

相手の左脇腹――俺から見たら右脇腹――に容赦なく剣を食い込ませ、丁度中心辺りでピタリと止める。続いてアスナお得意の《リニアー》のように剣を持ち、グイッと無理矢理押し込む。そのまま後ろを向き、縦に切り裂きながら剣を抜く。

使いどころには若干悩むが、それ故に高威力な三連撃剣技、サベージ・フルクラム。当然システムの加護無しじゃ重攻撃なんて肩書きは形だけだが、システムアシスト無しでも僅かな行動遅延(ディレイ)は発生する。

「四!」

 

二本の剣を束ね、両手持ちに移行。一時期使ったことのある両手剣、そのカウンタースキル《バックラッシュ》。

振り向き様一閃。予期せぬ攻撃に虚を衝かれたような顔をし、少し遅い防御体勢に入るが、それより速く重ねた剣が相手を斬り捨てる。

 

「五!」

 

重ねていた剣を分裂するように再び両手に一本ずつ装備し、次なるコピー・ソードスキルに入る。

最初は右脇腹、次は背中、左脇腹、最後に正面。水平四連撃斬りホリゾンタル・スクエア。最後は特に渾身の力を込めたため、二倍の太さの赤線が刻まれる。

 

「六!」

 

ホリゾンタル・スクエアの正面からの攻撃をしている間、左腕を剣の切っ先は相手に向けたまま曲げ、神速の一突き。それに勝るとも劣らぬスピードで、追加の四連突き。その後に斬り下ろし。それとは百八十度逆の斬り上げからの全力上段斬り。片手剣八連撃技ハウリング・オクターブ。

 

「七!」

 

ここからは一度も成功がしたことのない領域。すでにヒット回数は二十以上。ノヴァ・アセンションの二倍だ。だが、それでもやらなくてはならない。

気合いを入れ直し、未知の連携の初めに選んだのは片手剣技唯一の逆手持ちスキルにして、両刃専用スキル《リバース・スラッシュ》。

まず右下からの斜め斬り上げ。次いで、さっきのモーションを巻き戻したかのような動きで、先ほどと同じ箇所を斬る。更にこの一連の動きを鏡写しにしたかのように、左右対称で斬り上げ、斬り下ろし。最後に中心からの斬り上げ、そして斬り下ろし。計六発。

 

『グウッ……』

 

ここまで連撃を受けながらも、一言も呻き声すら発さなかった老翁が、初めて苦しそうな声を出す。HPバーを見ると、最後の一本がレッドゾーンとイエローゾーンの狭間くらいになっていた。残りHPから考えるに、これからは全てクリティカルを入れないと削りきれない。

 

「八!」

 

相手に積まれているであろう高度なAIに学習されぬよう、これまで同じ技を使うのは出来るだけ避けてきた。しかし、上位スキルの数はそれほど多いわけではない。

連続七連斬り剣技《デッドリー・シンズ》。

曲芸染みた動きとともに繰り出される剣技は、まるで踊っているような剣舞に見える。かなり初期から助けられてきた軽業スキルの恩恵あってこそのコピーだ。

大振りな上段。そのエネルギーに逆らわず左に回転し、右からの斬裂。切り返しの左。下からの斬り上げと同タイミングで後方宙返りをして距離ができたかと思うと、前傾体勢になっての右水平斬り。再びの左回転から、右下からの振り上げ、最後に剣を盾にするかのようなモーションからの垂直斬り。計七発。

 

「九!」

 

最後の十回目の最高にして最上位の剣技……ノヴァ・アセンションに繋げるための布石として、体術高等技にして重単発攻撃の肩タックル《メテオブレイク》。

未だデッドリー・シンズの余韻であるノックバックが残っていた老躯は新たな衝撃に耐えられず、着物から鍛えられた筋肉が浮き彫りになるほど上体を反らす。

 

「十!」

 

限界近くまで酷使してしまった剣に内心謝りつつ、一気に多方向からの斬撃を、まさしく新星(ノヴァ)のごとき激しさで叩き込む。傍目から見れば雑多に適当に剣を振り回しているだけに見えるが、実際には繊細なコントロールで全てクリティカル部位……頭、首、胸の三ヶ所何処かに必ずヒットさせている。

クリティカルエフェクトが恒星のように煌々と輝き、バチバチッとプラズマの如く雷光が奔る。

 

「オオォアァァァッ!」

 

十撃目の突き。ノヴァ・アセンション最後の攻撃は、俺のこの一年半にも及ぶ命のやり取りの中でも、最も速く、最も強く、自分でも最高の一撃と自負できるくらいだ。

そう――――それこそ、物理的限界……システムの壁すらも破ったと錯覚するほどの。

重突進攻撃、ヴォーパルストライクすらも凌駕する勢いで突き刺さった剣……否、流星は、一際大きく美しい(クリティカルエフェクト)を残して消え、先ほどまで見えなかった相手のHPバーが見えた。

0。

 

『ふふ……まさか、本当に儂を倒すとは……約束だ。汝等に私の奥義を授けよう……』

 

とてもクエストの演出とは思えない柔和な笑みを浮かべた老人の輪郭がブレ――

――最後のライトエフェクトを残し、この世界の死の証であるポリゴンに、姿を変えた。

目の前のクエストクリアという文字の下にある、【You got an Extra Skill!!】という文字列が、先ほど授けられた……いや、俺が簒奪したエクストラスキル《双剣》を、俺が使えるようになったことを示していた。

 




次回もまだレイン編は続きます!

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