ソロアート・オフライン   作:I love ?

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ダンまちの小説が古本で売ってない、だと……
代わりと言ってはなんですが、スクワッド・ジャム三巻買いました! 読み進めねば……


何度も見たことがある扉を、比企谷八幡は開ける。

あの出来事(ただチラリズム設定だっただけ)から立ち直るには、俺とても少し時間を要した。

いきなり落ち込んだ俺を気遣ってか、休憩中何回かレインが「大丈夫?」と訊いてきたので「ああ……」と適当に答えておく。

なぜだ、なぜシステム的に不可視なんだ……と一頻り嘆いたので、復活の呪文を心中で唱えて復活。……って、ゲームオーバーしてんじゃん! 笑えねぇ……

 

「……そう言えば、お前なんでメイド服みたいな装備なの? 戦闘には不向きだろ」

 

「え? その、まぁ、ただの趣味です……」

 

「………………」

 

…………コメントしづれぇ……なんて返せばいいの? へー、そうなんだ? 似合ってるね? 論外だな。そんな歯が浮く台詞は俺には言えん!

 

「そ、その……似合ってない、かな」

 

……コメントしなきゃいけませんか? コイツ、今まで俺が会ったことのあるタイプとは違うな……キリトや戸塚みたいな天使系でも、小町みたいな小悪魔系でも、由比ヶ浜みたいなアホの子でも、雪ノ下みたいなドライアイス系でもない。一番近いのは……めぐり先輩の天然系、だろうか。

と言っても、めぐり先輩のようなゆるふわな感じじゃなくて……なんだろうな? 謂わば天然小悪魔系、だな。現に今俺、アイツは無自覚だろうけど追い詰められてるし。

さて、ここで問題です! 服誉めスキル、女性免疫スキルともに0どころかマイナスに行きかけている俺は、何て言えば正解になるでしょうか?

A.何を言っても気持ち悪がられます。諦めましょう(笑)

役に立たねぇ……八幡脳内会議員八万人もいるくせに、結論が(笑)ってなんだよ(笑)って。

 

「あー、その服、なんか凄いあれでそれだな」

 

自分でも何を指しているのか解らないが、あれそれ言っておく。あれこれそれを多用したときの言葉の薄っぺらさは異常。つまり「それな」を乱用するリア充は坊さんの髪の毛並みに薄い。もしくは野球部員でも可。

 

「あのー……結局何を言いたいのか、まったく解らないよ?」

 

うん、知ってる。俺も解らないもの。

 

「いや、ほら、知らぬが仏って言うだろ? 知らない方が幸せなこともある」

 

「それどういう意味ッ!?」

 

なんかレインさんの性格が少し解ってきたよ?

めぐり先輩+小町+由比ヶ浜を三で割った感じだな。

 

「……言っちゃっていいのか? これあれだそ。ファイナルジャッジメントだぞ?」

 

「う、うん……」

 

「まぁ、その、なんだ? 俺の真反対だな」

 

これは攻略組……いや、SAOプレイヤーとしてしょうがないことなのだが、俺はマジで防具が似合わない。中二時代に自分がコート着て、なんで酔いしれていたのか解らないレベルだ。

キリトは髪と同色であるコートは違和感なく着こなしており、アスナは騎士服がなんというか映えている。エギルやクラインですらも筋骨隆々の体や野武士面にフィットしている装備だというのに。……いっそのこと俺も忍者みたいな格好にしちゃおっかな……

ジョブを剣士→忍者にしようかと思っていたとき、結局どっちか解らなかったのか、レインがもう一度メイド服うんぬんかんぬんについて訊いてきそうだったので、寄りかかっていた壁から背中を離して立ち上がり、「もうそろそろ行くぞ」と伝える。

訊くタイミングを逃したレインも渋々と言った様子で立ち上がり、俺に倣った。

一度ぶち殺された幻想をもう一度見たら今度は微粒子レベルで粉々にされそうだったので、出るときはちゃんと俺が前になって狭い通路を通りました、まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、精神的疲労は回復しても、右か左か選ばなければいけないのは変わりがない。

さっきは右の方が安全だ! みたいなことを言ったが、完璧な主観である。俺のビルドはキリトをして『対人戦の鬼』と言わしめたものだが、個人的には多対一の乱戦特化なビルドだと思っている。まぁ、酷いときなんか二桁になる敵と戦ったからなぁ……

月日にして一、二ヶ月前に攻略完了した五十九層に思いを馳せる。

モンスター地獄。

それが、五十九層の呼び名だ。

最低で三匹の群れを為し、多いときは十以上の最早小隊が闊歩していた。おまけにHPが危険域(レッドゾーン)になると仲間を呼ぶ。俺にはできない芸当だ。はちまんはなかまをよんだ! しかし誰もこなかった! はちまんはなきさけんでたすけをもとめた! いみがなかった! ってなるからな。なにそれ、コイキングのはねる並みに無意味!

で、何の話だったか……

 

「右行くんだったよね?」

 

「ぅお? あ、あぁ……」

 

そうだ、右か左のどっちに行くかだった。左は質。右は量。ここはお互いの意思を確認し、合意の上で決めるべきだろう。後腐れがあっても面倒だしな。

 

「……なぁ、一対一と多対一、どっちが得意だ?」

 

「……一対一、かな」

 

う、うん。ま、まぁ俺は多対一の方が得意だけど〜? こ、ここは相手の意見を尊重するべきだよね? うん。はぁ……強い奴と戦わなきゃいけないのか……

 

「りょーかい。んじゃ左行くぞ」

 

「えっ? あ、うん!」

 

索敵スキルを発動させながらブーツの鋲と石床があたる音を聞きながら俺は昨日歩いた道を左に曲がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感想から言おう。アホちゃう?

ついに来ましたレベル七十七! 最前線より上になってるよ! やったね! ……アホちゃう?

 

「オオォォォォォ!」

 

迫ってくる半人半狼……モンスター名《ウェアウルフ》。発達した筋肉が与えるのは攻撃力と敏捷力だけではなく、強固な筋肉そのものが防具とも成り得る。つまり、力、速さ、堅さの戦闘能力の三柱を兼ね備えているのが目の前にいる獣人というわけだ。

妙に人間臭い疾走のエネルギーを活かし、重く鋭い爪を振りかざす。

後ろに下がったところで追撃が来るだろうし、なにより基本スペックは相手が上だ。いくら俺が敏捷力が高いと言っても、後ろに下がるのと前に走るのとじゃどちらが速いかなど幼稚園児でも解る。

しかしながら左右に避けても二本目の腕で連続して攻撃してくるだろう。

ならば――――

 

「フッ!」

 

左下から右上への斜め斬り《スラント》。初級ソードスキルだからと言って侮るなかれ。なぜならちゃんとシステム補正は働くのだから。

光を纏った俺の剣と、獣にとって自慢であろう鋭利な爪がぶつかると斥力が発生し、お互いに後ろ向きに力が掛かる。

俺はそれに逆らうことなくバク転し、すぐさま前を見据える。すると、スイッチの掛け声もなかったというのに、この好機を逃すまいとレインがソードスキルを発動させていた。

一、二、三、四本と刻まれたダメージエフェクトは正方形を描いている。あれは、俺もかなり愛用している《バーチカル・スクエア》だ。

バーチカル・スクエアはそこまで重攻撃ではないので仕切り直し、だな。

 

「……エイト君捌くの巧すぎない?」

 

「あ? まぁ、ボス戦ではタゲ取ったり、なぜか壁役(タンク)みたいなことをやらされてたからな……」

 

あの鬼! 悪魔! 阿修羅! アスナ! ずっとボスから攻撃を繰り出されるの、凄い怖いんだからねッ! いや、マジで。

ボスの攻撃という研磨により、磨かれていく(俺のプレイヤースキル)……なんでだろう、あまり嬉しくねぇ……

戦闘中に長々と話している暇などあるはずもなく、少しの後退から立ち直ったウェアウルフの眼が赤く輝いている。

 

「……もしかしなくても、あれ」

 

「怒ってるよねぇ……」

 

暴走(バーサク)状態。体力がレッドゾーンになった一部のモンスターがパワーアップするという認識で間違いはない。

そして、こういう肉弾戦特化なMobは大抵がステータス上昇と相場が決まっている。

眼を血走らせ、鋭く射抜くような眼差しを向けてくるが、こちとら仮にも最古の攻略組だ。ボスとの戦闘経験だって一番多い自負もある。まぁ、攻略組最強プレイヤーはヒースクリフ、キリト、アスナの誰かだろうが。

 

「グオァァァオアアッ!」

 

ダンジョン全体に行き渡るように咆哮を轟かせる狼が、体感速度にして二倍ほどに感じる速さで突っ込んでくる。

 

 

 

――――が、まだ遅い。

《武器防御》スキル、《リペルソード》を発動。

システムに従い動く体が、寸分違わず相手の渾身の一撃を弾く。

このソードスキルは非常に優秀で、無理な体勢でなければ、どんな体勢からでも繰り出すことができる。しかも出だしは早く、硬直時間も短い。欠点は冷却時間(クーリングタイム)が五分と、少し長いことくらいだ。

十分の一秒にも満たないくらい早く硬直から回復した俺が振った剣は抜刀術の如き雷閃が煌めき、腹を深々と抉る。

単純な剣技(わざ)だからこそ洗練されているのがはっきりとわかる俺の水平横凪ぎ(スラント)は光跡を残す。直撃した手応えを感じると、さっきの技とは違い荒々しく声を上げる。

 

「レイン! ラスト! スイッチ!」

 

「ヤァァァァッ!」

 

僅か三単語の言葉でもはっきり意味が伝わったようで、さっき俺が抉った箇所にもう一度攻撃を加え、徐々に体がずれていく。

完全に上下の半身が分断されたのを認識したのは、もうウェアウルフが跡形もなくいなくなった後だった。

 

「やったね! エイト君!」

 

「ああ……それに、奥を見てみろ」

 

レインが黄色の瞳を前に向けると同時に俺も視線を移すと、さっきは相手の巨漢が影となって見えなかったが、確かに厳かな扉がある。いよいよボス戦のようだ。

 

「……行くぞ」

 

「……うん」

 

勝利後の歓喜もそこそこに、俺達は気を引き締めてこのダンジョンの主に拝謁するべく、部屋に足を踏み入れたのだった。


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