ソロアート・オフライン   作:I love ?

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後半は完全なノリです。
それにしても、レイン編が全然進みません。テヘッ☆……気持ち悪いですね、すいません。


やはり少年の夢は、人の夢と書いて儚いと読むものである。

俺が攻略組になったのは、最後のチャンスだったのかもしれない。

地球上でもっとも賢く、愚かで、強く、弱く、善で、悪である……俺達人類。そんな人間を、俺が信じることができる、最後のチャンス。

俺達アインクラッド攻略プレイヤーは最前線……つまり、アインクラッドでも、もっとも死に近しい場所、ということになる。つまり、人の本性が最も出やすい場所とも言える。

醜く、汚く、穢れていて、されど、俺が美しいと信じていたもの……人。

それは、本当に美しいものだと信じきれる、延いては俺が人を愛せる、人生最初で最後のチャンス。

俺はこのデスゲームにいた歳月のうちに変わった……と思う。アインクラッドで日々を過ごす前は……いや、奉仕部に強制入部させられるまでは自覚がなかったとは言え、俺は人のことを偽物のぬるま湯に浸かり、虚飾の仮面を被り、自らの手の届く甘い果実だけを咀嚼する……そんなものだと思っていた。だが今はどうだろう。

馴れ合いを嫌い、独りを好み、孤高を誇りに思っていた俺が、集団(攻略組)と馴れ合い、独りになれず、孤高にもならずにただひたすら一つの目標(ゲームクリア)に向かっているではないか。

もちろん、ゲームクリアは全SAOプレイヤーの最終目標であり、ここで攻略を諦めることは今までに死んでいったプレイヤーへの何よりの裏切りだ。だから、俺達は攻略を止められないし、止める気もない。自分の命惜しさに罷業をしたところで、現実世界には帰れないのだから。

そのためにも、今みたいなクエストをやっているのだが、これも俺が変わった証だろう。

なにせ、会って一日の人とパーティーを組み、一緒にクエストをしているのだから。

それがいいことなのか、悪いことなのか、今の俺にはまだ判らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛竜、翼竜、ワイバーン……その定義が翼を持つ竜だと言うのならば、目の前のこいつは最早ワイバーンとは呼べない。

翼は(俺によって)もがれ、地べたを(俺のせいで)這いずり、体を支えるのは二本の足だけである。

 

「よっ、と」

 

体力が一割にも満たないワイバーンを、単発水平斬り《ホリゾンタル》で止めを刺す。

自在に動けない飛竜の長い首を断ち切ると、入手アイテムと経験値が表示されたので確認の後閉じる。

ふと目を見遣ると、レインが驚きと呆れと尊敬が混在する瞳で俺を見つめていた。

 

「……何て言えばいいか解らないけど……凄いけどエグいね。アハハ……」

 

その笑みは乾いていた。どのくらいかと言うと、サハラ砂漠でオアシスの蜃気楼を見つけて期待して駆け寄ったら消えてしまった時に感じる喉の渇きくらい乾いている。……サハラ砂漠行ったことないけど。

 

「いや待て。こんな天井が低いところに飛行系モンスターを配備したやつが悪い。つまり全て茅場が悪い」

 

「うん、そうだね……本当にそうだよ……」

 

俺はここで、自らの失言を悟った。

この『ソードアート・オンライン』をデスゲームと化し、巨大な牢獄(アインクラッド)に俺達を閉じ込めている茅場晶彦の名前を軽々しく出すべきではないのだ。

 

「その……なんと言うか、悪い」

 

「ううん……エイト君達攻略組の方が、私たちよりきっと辛い思いをしたことがあると思うから……私に至っては、人が目の前で死ぬなんてこと、一度もなかったし……」

 

「……そうか」

 

確かに、命を懸けて前線に身を投じる以上、人が目前で死ぬ事態は避けられない。一体今まで、何人の仮想体が散り散りのガラス片オブジェクトになるところを見ただろうか。

そういう意味では、俺は性格が悪い。自らの疑問を解消するために死戦に赴いていると言っても過言ではないのだから……

 

「……ま、攻略組も安全重視と言うか、安全第一で攻略を進めてるから、ここ最近の犠牲者はあまりいないんだけどな」

 

そんなに出ていない。つまり、多少なりとも犠牲者は出ているとも言える。

特に、クォーターポイントの二十五層の皇帝、ハーフポイントの五十層の四本腕巨人はゲームバランスを崩していたと言えるほど強大で凶悪だった。

あの悪夢を思い出していると、レインが無理に浮かべたような笑みをする。さっきの言葉が少し嫌味に聞こえたのかもしれない。「こっちは命を懸けているのに、お前達はいいご身分だな」――と。

 

「あー、別に嫌味とかじゃないからな?」

 

俺の訂正に「解ってるよ」と言っている風に微笑みを返したのを見た後に再び前方を向く。別れ道だ。

 

「……どうする?」

 

「……マップを見た限り、余白の部分は左が多いけど……」

 

「つまりボス部屋がある確率は左の方が大きいってことか?」

 

「まぁ、単純に考えるならだけどね」

 

俺もマップを開き、ダンジョンの全貌を見んとする。レインの言った通り、もともとスタート地点が右寄りということも相俟って左側はほぼ空白だ。なんならウィーアーマーベリックしちゃうまである。

ダンジョン踏破率は約半分。迷宮自体の小ささもあり、短時間でかなりマッピングされている。

 

「……右に行くぞ」

 

「え? どうして?」

 

まぁ、当然の反応だ。確率論的には左の方がボス部屋が見つかる可能性は大きいのだから。

 

「……俺の索敵スキルのModは主に索敵範囲広範囲化に振ってるけど、強さは黙視しないと判らないから半分以上勘だが、左は多分今以上に強いモンスターが出てくると思う。消耗した状態で挑戦するのは危険だ」

 

「万が一、ってことだね……じゃあ右行こう」

 

体を右に九十度回転させ歩こうとするレインを慌てて呼び止める。

 

「待て待て待て」

 

「え?」

 

話は最後まで聞きなさい。確かに強さ的には左の方が上だが、だからと言って右が安全な訳じゃないんだよ。

 

「いいか? 確かに個々の強さで言ったら左の方が上だろうが、右は今までの数倍Mobがいる。つまり質より量の道だ。どちらにせよ、これ以上進むなら一度引き返した方がいい。別に急いでる訳じゃないんだろ?」

 

「うん……でも、どうやってポーションとか補給するの? 入口は塞がれちゃったから転移結晶を使うしかないよ?」

 

小首を傾げこちらを見てくる様子には愛嬌があるが、訓練されたぼっちである俺は然り気無く眼を逸らして回避する。……愛嬌あるとか思ってる時点で見えちゃってるんだけどね!

 

「違う違う。ポーションはまだ十分にある。俺が言ってるのは精神的疲労が格上相手だと激しいから休息をとったほうかいいってことだ」

 

ここは幸い、泊まり込みで攻略するのが前提なのか安全地帯が頒布している……と言っても、隠し部屋扱いになっているのかじっくり眼を凝らさないとわからないくらいの微妙な違いのスイッチを押さねばならないのだが。この薄暗いダンジョンでは、俺も《暗視》スキルを持っていなかったら気づかなかっただろう。

索敵スキルに何の反応もないことから安全地帯だと断定。恐らくだが、この隠し安全地帯と言うべき場所が設定されている場所は一度に攻略する目安なのだろう。

レインに隠し安全地帯があったことを説明した後来た道を少し戻り、マップにチェックしておいた付近の壁を探ると、さっき見た通りのスイッチを発見する。

スイッチを俺達はスイッチして押すと、スイッチがスイッチの役割を果たしスイッチを押したことによって作動した……うん、スイッチ言い過ぎだな。

とにかく、スイッチを俺はレインと押す役を(押したそうだったので)替わり押すと、縦七十センチ、横六十センチほどの道? ができたため、四つん這いで直進――――したところで、俺は自らの失敗に気づく。

レイン、メイド服っぽい装備→スカート→何がとは言わないが、後ろだと見える。

万有引力ならぬパン有引力に眼を奪われそうになるが、視界の端に留めておく。……って、ダメじゃん!

そこで気づく。何がとは言わないが、見えないのだ。なん、だと……チラリズム……いや、ただ単にシステム的に規制が掛かっているだけか。

また純粋な男子()の幻想が一つぶち殺された瞬間であった。

その悲壮感漂う四つん這い姿は、四つん這いではなく、どちらかと言えばネットで言うorz状態に近かっただろう。


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