ソロアート・オフライン   作:I love ?

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やっと出せたぜ……
思えばもう連載(?)開始から四ヶ月か……四ヶ月の間に八幡君は落としすぎだろ……(女の人を)


いつまでも、比企谷八幡は考え続ける。

森林に囲まれた並木道を歩き、藪を潜ったりMobを倒したりトトロを探したりしていると、こぢんまりとした一軒家が建っていた。

屋根は瓦だが、本体は木造。かなりの年季を思わせるほど古くさく見えるものの、倒壊の心配は無用なほどしっかりとしている。

取っ手も扉自体も木のドアを横にスライドし、お邪魔する。まず土間があり、次に十畳ほどの広さがある広間。そこには現実世界では絶滅しかけの囲炉裏があって、その奥に貫禄バリバリの歴戦の猛者なオーラを漂わせるお爺さんが。

彫りが深く、厳つい顔つきに猛禽類を思わせる鋭い目。獅子のようなツンツンした白髪と、同じく白く艶がある大量に蓄えられた髭が怖さを二割増しにしている。

 

『……ぬ? 我が剣術を習いにきた入門者か?』

 

この家に入ることがクエストフラグだったのか、これまた顔と見事にマッチした厳格な声で問いかけてきたので、「はい」と答えると、武士のごとく立ち上がり、一番隅の畳の上に立った。

 

『……汝らが本気で我が流派の剣術を会得したいのならば、この下にある迷宮の首領を見事討ち取って見せろ』

 

言いながらさっきまで上に立っていた畳を引っぺがし、作業を終えると横に仁王立ちする。畳の下にあったのは、地下へと続く階段だった。

もともとこうなることを知っていたレインはさっさと階段を降りていくため、俺もそれに倣う。

……しかし腹減ったな。ずっと口論してたから余計に腹減った。おまけにストレージには食材はあっても食糧がない。

降り立った所はドーム状の広間で、安全地帯のようだ。マッピングが開始されていることから、ここはダンジョンであることが解る。上を見ると、ご丁寧に畳はキッチリもとの位置に戻されており、光源は壁で点いている松明だけだ。

 

「それじゃ、レッツゴー!」

 

「おお、行ってこい。一人で」

 

俺の衝撃発言に目を瞬かせ、次いで大声の驚声をあげた。

 

「ええぇっ! 手伝ってくれるんじゃなかったの?」

 

いや、手伝うとは言ってませんよ? ただパーティー申請を送っただけですよ?

 

「……いや、俺今日はここで寝てから攻略するつもりだから」

 

「……まだ八時だよ?」

 

呆れた語調で言うが、未開の地を開拓するならば、ベストコンディションじゃなくてはならない。無理に急いで命を落としたら本末転倒だ。

テントの設立、寝袋のオブジェクト化、簡易キッチンの設置をした辺りで俺が梃子でも動かないと理解したのか野営地の建築を手伝ってくる。といっても、ピッピッとボタンを押すだけだが。

テント×2、簡易キッチン×1、寝袋×2とオブジェクト化が終わり、大体寝床が完成したところで晩飯作りに入る。

SAOでの料理は簡単。包丁アイテムで食材を切り、フライパンアイテムや鍋アイテムなどで調理。最短だったらこの二工程で終わる。

何かの鶏肉を包丁で細かく切り、鍋に入れる。その他野菜もポイポイ鍋に放り込み、簡易コンロに乗せてスイッチオン。

レインの方を見ると、料理スキルは取っていないのかこの層のNPCショップで買えるお茶を用意していた。いや、俺が作ったのポトフなんですけど……

そんなことを思いつつ、料理の完成を待つ。

ゆらゆら揺れる炎を眺めていると、レインが思い出したように訊いてくる。

 

「……そう言えば、エイト君って攻略組だったよね?」

 

「……ああ」

 

「凄いね、攻略組って私たちにとっては雲の上の存在だよ」

 

「……そんなことはねぇよ」

 

そう、全くもってそんなことはない。攻略組だからと言って特別な訳じゃない。ただ、この世界のシステムが与える数字の恩恵が、他人より少し多いだけだ。

いくらモンスターと命のやり取りをしているとはいえ、普通に笑うし、泣くし、怒りもする。同じ人間なのだから当然なのだが。

 

「……俺達は別に特別って訳じゃない。知らないか? 天は人の上に人を作らず、ってな。そりゃ物理的には攻略組は上の層にいるかもしれんが……」

 

「でも、全SAOプレイヤーにとって、攻略組は希望みたいなものなんだよ?」

 

「それも違う。俺も含め攻略組なんてのはエゴイストなんだ。人より上に立ちたい、見下されたくない……そんな感情が渦巻いて、強迫観念みたいになってんだよ。自分達は最前線で戦う、謂わば勇者、ってな」

 

まぁ一部はただ攻略しようと考えている奴もいるけどな……と付け足し、ポトフを皿によそう。その後は黙々と食事をしているだけだが、会って間もない人と話せるわけもなく沈黙する。

確かに攻略は順調かもしれない。だが、一つだけ懸念事項があるのだ。前々から目に余る行為(プレイヤーキル)をしてきたレッドギルド、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》。あのギルドと攻略組の本格的な衝突は、もう目の前なんじゃないか、と。

上を見上げ星を探したが地下にそんなものがあるはずもなく、もう一度目を瞑った後に見渡しても、やはり星は見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食後は基本レクチャーをしてもらい、どんな敵、マップ、レベルを教えてもらってお互いテントに潜った。

一つ、レインと話していて思ったことがある。

なぜ俺はこんなことをしているのか……ではない。

俺は、なぜ攻略組になったのか。

現実に戻るため? 確かにそれもあるだろう。だが、より確実に生きて帰りたいのならば、ずっと《圏内》にいるべきだ。

なら、全SAOプレイヤーのためか? 違う、俺はそんな聖人みたいな奴じゃない。

人の上に立つのが快感だからか? 違う、俺は目立つのが嫌いだし、むしろ自分は下の人間だと思っている。

なら、俺は――――――

そこまで考えが行き着いたとき、俺は睡魔に襲われてされるがままになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝起きたら、寝息をたてる女の人の顔が目の前にありました。

あっれ〜? おっかしいなぁ、いつの間にSAOはギャルゲーに変わったんだぁ? テンプレだと幼馴染みキャラの役目だよね、朝チュンって。

しかもご丁寧に俺の寝袋をレッグとアームでがっちりホールドしているだと!? マイマニフェストシャイマインドハートが……ホワットドゥアイセイ? オー! 筒増しや可で谷藁か異旨が無二無二刷るYO! (訳.慎ましやかで柔らかな胸がムニムニするよ!)

……いかんいかん。あたまのなかでごじりまくるほどよゆうがないぞ、ひきがやはちまん。

下手に動けばハラスメントコードが発動する。しかし動かなければいずれレインが起きてしまう。つまり変態認定=黒鉄宮に。

何とか逃げ出せないかと悶々する思考で考えついたのは、逃げ出せないという結論のバッドエンドのみ。こんなエンディング、見えてほしくねぇよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに起きたときの反応は、意外にも怒るでもなく黒鉄宮に送るでもなく、ただただ髪と同様顔を真っ赤にし、口をこれまた真っ赤な金魚のようにぱくぱくさせているだけだった。記録結晶で撮影しようか……と俊巡したが、本気で斬りかかられそうだったのでやめた。一応ここ圏外だし。

起こそうと思ったら余りに熟睡しているので自分もなんか眠くなってしまい、そのままコロリ……だそうだ。ヤダ、春って怖い! だから雪ノ下さんも陽乃って言うんだ! 八幡納得!

昨日とは違い、どこか気まずい雰囲気のなか朝食を済ませ、装備および道具の点検。

そろそろ装備を更新するべきか……と熟考してから武器、防具、ともに装備を終え、ボス部屋の二枚扉を小さくしたような入り口――こっちは横に開くタイプ――を通り、探索を開始する前に気を引き締める。

 

「じゃ、行こう」

 

「あいよ」

 

足を踏み込んだ瞬間、モンスターが待ち伏せしていたのか、飛びかかってくる――しかし。

神速とも言えるほどの疾駆で、散々手こずっただの難しいだの言っていたダンジョンのモンスターを斬殺。俺の必要性が疑われる瞬間だった。いや、俺もエクストラスキルを取りに来たんだから、必要無しって言われようがソロでやるつもりだったけどね??

 

「……ちなみに今一瞬で倒した敵は?」

 

「《ウィンディ・ビー》。このダンジョンで最弱の敵だよ?」

 

「……あ、そ」

 

いやでもカーソル合わせたらレベル七十って見えたけど。六十層くらいに出てくる敵のレベルだよ? 最前線から数層下くらいだよ? それを一瞬って……

もしかしたら奥に行けば、最前線より強いMobがいるんじゃないだろうな……と、嫌な予感を払拭できないまま気を取り直してダンジョンに突入した俺だった。

……一つだけいい? レインさん、あなた何で攻略組にいないの?


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