話数的にプログレッシブ一巻を超えそうってどういうこと? と思いながら書いた最近週一ペースの第六十五話、どうぞ!
赤レンガの坂道をどれくらい歩いたか判らない。なんせあれからずっと中の人つながりでハイ○クールD×Dだの変○王子と笑わない猫だのブラック・○レットだのロ○きゅーぶ!だの考えていたからな……ハーレムもの多くね? しかも後半幼女ハーレムだし。桜満君を見習え、桜、満、君、を……アイツもハーレム築いてた……のか? 好意を持っていたヒロイン死んじゃったけど……微妙なラインだな。好意を持っていた複数のヒロインが死んでしまったアニメをハーレムと言うのか否か……
ふとここで、俺の前を歩いている二人に目を向ける。絹のように艶のある黒の髪と、光を反射し粒子を振り撒いているかのような栗色の髪をなびかせ前を歩く二人を見、思う。
不謹慎だが、この二人が……つまり攻略組でも三指に入る実力の持ち主が死ぬとき、それはすなわち攻略組の
現実ならば『たかがゲームくらい、クリアできなくていいだろ?』で済ませられるが、こんな死と隣り合わせの世界で生涯を終えるなどまっぴらごめんだし、何より
あとはもう一つ……これは俺の酷く勝手で、傲慢で、独りよがりな意見だが、俺はあいつらに死んでほしくない。
あいつらは悩み、もがき、考え苦悩し、時には大きな間違いを犯し後悔する。しかしそれでも諦めず前に進む……俺が諦め、棄てて、切り取ってきたものだ。だからこそ、俺にとってその姿はどんなものよりも眩しい。
つまるところ、俺は二人を通して仮想世界だけじゃない、嘘と欺瞞と偽りに満ち溢れていて、人は皆虚飾の仮面で自らを飾り立て、嘘を吐くのが巧いやつほど上に立つ……そんな散々嫌なことを見てきた現実世界にも希望を見出だしたいのだ。
そんな世界に希望を見出だす……いや、そもそも他人に自分の意見を押し付けること自体が傲慢で、独善的で、酷く愚かしい行為なのだろう。しかし、それでも俺が奉仕部で過ごした日々の意味、届かないと知っていながらも、俺が唯一諦めきれなかった『何か』。
俺は何回も人に裏切られながらも、何を欲しがり、何を渇望し、何を羨望したのか……未だ答えは見つからずにいる。
それはきっと、このゲームをクリアするより難題で、俺の人生全てを使っても判らないかもしれない。
だが、それでも自分が何を求め、何をしたいのか考えるのは間違いじゃない……と、奉仕部での日常と仮想世界での体験から今は思う。
《圏内殺人》。今ある情報で元を辿ればギルド《黄金林檎》が解散した理由でもある《指輪事件》が事の発端だろう。
さっきははネタで思考が逸れたが、《指輪事件》……ひいては《圏内事件》の原点は、やはり人より上に立ちたいという競争本能……人間のエゴだ。
ネトゲで競争が激しいジャンルのゲームと言えばMMOだろう。つまりジャンルとしては
「茅場はつくづく性格悪りぃな……」
なんでMMOなんだか。もうちょっとお手軽に決着がつくジャンルのゲームだってあったろうに。俺がよくやっていた
俺はゲームは今はVR技術が発展したせいで、現実世界では絶滅しかけているであろう(このSAO事件でVR技術が淘汰されていなければだが)携帯ゲーム機(特にVita)をよくやっていたが、ネトゲはあまりやっていなかった。
強いて言うならFPSとかならよくやったが、MMO……特にレベル制のは全然やらなかった。……いや、だってレベリングしている時にいつもPKされるんだよ? その
話がまたも逸れたが、SAOがMMOである以上、全プレイヤー……少なくともトッププレイヤー攻略組は、一度人の上に立つという甘い蜜を吸ってしまったがために、もう我執の焔からは逃れられない。そしてその焔は、自らを焼き尽くす……下手をすると周りの人間をも燃やし尽くすまで止まらないかもしれない。
勿論俺だって例外じゃない。ヒースクリフの《神聖剣》ほどじゃないが、絶対的秘密をスキルスロットに隠している俺には。……まあ地味なんだが。少なくともヒースクリフ程強くない……というか、ヘタすると普通のエクストラスキルより弱いかもしれない。
その時、俺の呟きどころか思考までも読み取ったようにエスパー、かくとうタイプのアスナ様は囁いた。
「だから、わたしたちがこの事件を解決しなきゃいけないんだよ」
いきなり右手を握られ反射的に引っ込めようとしたがガッチリホールド。真正面から微笑を向けられたため、忙しなく眼を泳がせる。その眼の泳ぎようと言ったらギネスに載っちゃうレベル。「ちょっとその辺で待ってて」と言い残し解放された右手を即座にポケットに入れ、樹に寄りかかる。……キリトさん、とても怖いので体術スキルの技名をブツブツ呟くのやめてください……
「き、キリトさん、あの、こっち来てあれ……お菓子食べません?」
「ん? エイト、なんで敬語なの?」
いつも通りの天使の笑顔。だが俺は騙されない、何故なら後ろに俺を押し潰すようなオーラが出ているのだから。
「い、いや、何でもない」
今の闇オーラを纏っているキリトに比べれば、DDA本部の門前で仁王立ちしている金剛力士像(ただの門番)なんか怖くない! アスナに笑顔で挨拶されたら「ちゅーっす」とか言ってるけど! キリトの
「あ、あの……何に怒っているのか判らないのですが、すいませんでした……」
マジ、コワイデス。ユルシテクダサイ。
もはや土下座どころか神を崇め奉る気持ちで謝っていると、キリトがため息を吐き、「まあいつものことだしね……」と、どこか諦めたように言っている。……俺ってそんなに日常的にキリトを怒らせてるの?
「……うん、こっちもなんかごめんね? でも一つ約束してね?」
「な、なんでしょうか……」
さっきとは違い穏やかな笑みだが、まだ緊張感は抜けない。まるで裁判で有罪判決を受ける前の被告人みたいだ。……俺が有罪なのは確定なのかよ。
「この事件を解決したら……また、一緒にご飯食べにいこ?」
思ったより簡単で拍子抜けした。勿論俺にとってはめんどくさいことだが、理由が判らなくとも人を怒らせたのならば穴埋めはするべきだし、そもそも明日俺達がこうして話している保証などどこにもないのだ。ならば、それくらいのお願いは甘んじて受けるべきだろう。
「……まあ、そんくらいなら別にいいぞ」
俺の返事に嬉しそうにはにかむキリトを見ていると、話を終えたのかアスナがこちらをジト目で見ながら近づいてくる。
「……あなたたち、人が話を聞いている間に随分楽しそうね? 何話してるの?」
「い、いえ、なんでもありましぇん! それより、シュミットの方はどうなったんだ?」
強引すぎる話題転換に怪訝そうな顔を向けてきたが、今は圏内事件の解決を優先したのか真剣な顔になって話した。
「本部にいるらしいから、『指輪の件でお話が』って伝えてくれるようにあの門番の人に頼んだとこ」
ふぅん、やっぱり立て籠っていたか。それにしても……
「それにしても、その言い方だとアスナとシュミットさんの結婚指輪の話みたいだね」
あっ、ばかキリト。せめて心の中で思うくらいにしとけ、何の気無しに言ったんだろうけども。
羞恥にまみれ、怒声をあげる予備動作を見切った俺は、巻き添えを喰わないように隠蔽スキルを発動させ、樹の裏に耳を塞いで隠れる。
一秒後――。
アスナの坂の下の街まで届かんばかりの怒声とキリトの驚声、そしてメッセージを受けて門から出てきたであろう状況を把握できていないシュミットの呆声がDDA本部門前を支配した。
……キリト、強く生きろよ。
次回!『シュミットへの質問とシュミットのお願い』です!