ソロアート・オフライン   作:I love ?

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……受験なんて、くそくらええぇぇ!……すいません、取り乱しました。
……勉強って、なにすればいいんですかね?
そんな疑問はさておき、最近のマイブームはダンまちですね。ちょっと書きたくなっちゃいました(笑)
前回と比べて短くなってしまった第六十一話、どうぞ!


自分が少し変わったことを、比企谷八幡は少し自覚する。

剣で繰り出された衝撃波(ただのリニアー)によって濡れた地面に背中からフルダイブし、びしょ濡れになった服をストレージに仕舞い、いつもの灰色装備に紺色インナーを着る。それに同調した訳ではないのだろうが、俺と交代して近くの家屋でいつもの騎士服に着替えたアスナが、同じくいつもの黒革コートに着替えたキリトを従者のように伴いかつかつと歩いてくる。

その様子は、お嬢様とメイドのようにも見えなくもない……まあ、アインクラッドにメイド服があるのかは知らんが……あったら超見てみたい。

 

「で、これからどうするの?」

 

「そ、そうですね……捜査の方針としては、黄金林檎のヨルコさん達以外のメンバーに接触、さっきの話の裏付けをするか、カインズ殺害の詳しい手順を検討するか……ですではなかろうじゃないでしょうか」

 

……言葉遣いが意味解らなくなった……それでも聞き込みを言わない辺り、俺がどんだけ人と会話したくないか解るな……

 

「聞き込みを選択肢に入れないところが、エイトらしいよね……」

 

「まあな、俺が知らない人と話す=俺に新たな黒歴史が刻まれるという等式が成り立つからな」

 

「ハチ君はなんでそんなことを自信満々に言えるのか、理解し難いけど……まあ聞き込みは効率も悪いし、しないでいいんじゃない?」

 

我らが頭の閃光様直々に許可をもらい、いかにして聞き込みをバックレるかと、バックレたことに対する上手い言い訳を考える必要はなくなったようだ。

 

「じゃあ、黄金林檎のメンバーを探すの?それとも検討?」

 

「黄金林檎のメンバーを探しても、結局その人達も当事者だから、裏の取りようがないのよね……」

 

「え?どういうこと?」

 

「つまりだな、黄金林檎の他のメンバーに話を聞いたとして、なにかヨルコさんから聞いた話と矛盾した点があるとする。だけどその矛盾した点は、認識の違いかもしれないし、どっちかが嘘をついているかもしれない。または両方嘘をついていることもあり得る。それを断定する判断材料がないんだ」

 

あれだな、(自分)の陰口を言ったのを聞いて問い詰めても、「証拠出せよ証拠〜」とか言われるのがオチなのと……うん、全然違うな。

 

「じゃあ消去法で、カインズの殺害方法を詳しく検討する、ってこと?」

 

その言葉を肯定し、俺とアスナは同時に頷く。

そもそも黄金林檎の他のメンバーに話を聞いても捜査が発展するとは限らない。別に依頼を請けているわけでもない(むしろ報酬を貰うどころか宿代を割り勘で払っている)し、半年前の事件を調べる義理も人情も人手もない。あくまで今回の圏内殺人に関係がある(かもしれない)から知りたいだけだ。

結局のところ、解らないことだらけなのだ。ならば、現時点で判っていること、知っていることから解る推測をとことん議論する必要がある。これは長丁場になりそうだ……マッ缶欲しいわ……

 

「でも、もう一人くらいもう少し知恵のある人の協力が欲しいね……」

 

その言葉に眉を寄せるアスナ……そんなに寄せたら、将来シワになるぞ。

と、そこまで考えたところで気づく。

『将来』ということは、俺は心のどこかでこのデスゲームを生きて現実に帰れると思っているのだ。だから今まで攻略組として戦ってこれたのかもしれない。

もちろん生きて帰るつもりだし、茅場晶彦からデスゲーム開始を告げられてから、生きて帰ると決意もした。その決意は未だ消えていない。

それでも、俺もまだ希望を持つことが出来ることに違和感を感じている。自分らしくないと。

だが、希望を持つことは裏切りのリスクがあることを重々承知しているはずなのに、希望を持っている自分がそんなに嫌じゃなかった。それは、奉仕部での性格矯正という名の日常の賜物なのか、アインクラッドでの非日常のせいなのか、はたまたその両方か……

らしくないのに、嫌じゃない。そんな自分の中で矛盾するような気持ちを抱え、俺が考え込んでいる間に話が纏まったらしい二人のあとを着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって五十層主街区《アルゲード》。普段から喧騒で騒々しいこの街は、ある男が現れたことによって更なるざわめきに包まれる。

ホワイトブロンドの長髪を垂れ流し、武器を一切装備していない。フードが付いている、団員達とは白と赤の色の比率が逆転したようなローブは、これまで屠ってきたモンスターの返り血を全て浴びてきたかのような暗赤色をしている。その男は、剣の世界であるSAOにはないはずの《魔導士》クラスのような雰囲気を纏っている。ローブを着ている男――SAO最強プレイヤーと名高い《血盟騎士団》団長ヒースクリフ――またの名を、《神聖剣》ヒースクリフだ。他にも《救世主》やら《聖騎士》などと呼ばれている。

あっちは《聖騎士(パラディン)》、こっちは一介の踏み台剣士《犠牲(サクリファス)》。一言二言くらいなら喋ったことくらいはあるが、こうして面と向かったことはない。

どこか芸能人と対面したような不思議さを感じながら、俺はヒースクリフを観察するように見た。

血盟騎士団での規則なのかルールなのかは知らないが、アスナは自衛官顔負けの敬礼をビシッ!とサウンドエフェクトが聞こえそうなほど見事にした。

 

「突然のお呼び立て、申し訳ありません団長!この者がどうしてもと言ってきかないものですから……」

 

……は?俺?俺そんなこと言ってないよ?むしろヒースクリフが来ることさえ知らなかったよ?説明全くなかったよ?

自らの上司と話している社畜アスナの代わりにキリトに説明を求める目配りをする。

すると申し訳なさそうな顔をして、シュンとする。……こっちが罪悪感で潰れそう。

それくらいなんでもないことだから大丈夫だという意味を込めて手をヒラヒラ振ると、キリトの顔が輝くような笑顔になる。……おかしいな、キリトのコートが白に見えるよ?

キリトに目配りをしてから今までこの間実に一秒。俺達が一秒の間に以心伝心していると、ヒースクリフが口を開いた。

 

「何、ちょうど昼食にしようと思っていたところだ。かの《灰の剣士》エイト君にご馳走してもらう機会など、そうそうあろうとも思えないしな。夕方からは装備部との打ち合わせが入っているが、それまでなら付き合える」

 

……ちょっと、またなんか知らないところで勝手に話が進んでるんですけど。俺のオゴりなんて聞いてないよ?

今度はため息を吐く。これはキリトに貸しができたのか、アスナに貸しができたのか……まあ、ナチュラルにオゴらされたことなんか何度もあるけどな。

また余計なこと(トラウマ)を思い出していると、フレンドメッセージが届いた。差出人は……キリト?

チラリとキリトを見てからメッセージを開く。タイトルは『弁明』か。

 

『エイトへ。

ヒースクリフを呼ぶことは二人で決めたんだけど、来てくれるか判らないから興味を引くために、エイトがご飯をオゴると言いました。ちゃんと後で割り勘するから安心して』

 

……うん、取り合えず安心したわ。俺一人で金を払わなくていいことに。でもなんで俺なんだ?あれか、一度も飯をオゴったことがないからか。プレミアなのか。二層の時のショートケーキはノーカンな。あれもはや脅しだったからな。

 

「……まあ、ちょっと聞きたいこと……と言うか、教えてもらいたいことがあるし、ここのボス戦の時の礼もしてないしな」

 

適当に話を合わせる。礼をしてないのは事実だし、借りを作ったままなのは嫌いだ。具体的に言うなら、借りを作ったままにして、命令権を握られるのがコワイ、ヤダ、オソロシイ。

たまに暴走するお宅の副団長、なんとかして下さい……と俺の命令権(デッドライン)を握っている《閃光》の上司に心の中で訴えかけるが、当然ヒースクリフと以心伝心の仲ではないので、届くことはなかった。




次回!(今度こそ)『SAO最強プレイヤーとの昼御飯』です!

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