ソロアート・オフライン   作:I love ?

65 / 133
や、やっと四分の一……長い……
予告しておきますと、圏内事件が終わったらレイン編です。
ようやく四分の一までいった第五十七話、どうぞ!


黒鉄宮の生命の碑は、比企谷八幡にとって感慨深い場所である。

俺達三人+なぜかエギルの四人で、アルゲードの転移門からアインクラッド最下層……つまり一層の《はじまりの街》に俺達は来ていた。

目的地は黒鉄宮にある《生命の碑》という場所で、グリムロック氏の生存確認が目的だ。話を聞こうにも、生きててくれなきゃ不可能だからな。

一層――いや、アインクラッド中最大の街である《はじまりの街》は、春だというのに荒涼とした雰囲気に包まれていた。

この寒々しい雰囲気は、今日設定されている気候パラメータだけのせいではなく、プレイヤーがいないのだ。ボッチの俺としては喜ばしい限りだが、こうも人がいないと不気味だ。BGMも寂しげな音だし。

最近はじまりの街で、《アインクラッド解放軍》がプレイヤーの夜間外出を禁止するなんてどこのお巡りだよと思うことをしていると聞いたが、案外本当なのかもしれない。その証拠に、出くわすのはどこかに《軍》の鎧を身に付けたプレイヤーだけだ。

しかも《軍》のプレイヤーは、俺達を見かけるたびに中学生を補導する警察官よろしく駆け寄ってくる。まあ、最強ギルド副団長の威圧で去っていくのだが。気分は水戸黄門。

 

「そう言えばエイト。どうやって落としたんだ?」

 

歩いている最中、エギルが二人には聞こえない声量で訊いてくるが、はしょり過ぎて解らない。

 

「落としたって、何をだ?」

 

なんとなく俺も二人には聞こえない声量で返した。何?小銭?でもこの世界じゃ、オブジェクト化しないと落とせないはずだけどな。

 

「あの二人だよ。攻略組の中ではもっぱらの噂だぞ?クラインなんか、たまに俺に愚痴ってくるくらいだ」

 

「……その意味の落としたって、所謂ラノベ主人公がヒロインを〜とか言うやつか?」

 

「それ以外に何があるんだよ」

 

やれやれみたいなポーズやめろ。なんか腹立つ。

 

「誰だよ、そんな根も葉もない噂を流しやがったのは……」

 

「……ということは違うのか?」

 

「ああ」

 

確かに傍目から見たらそう見えるのかもしれないが、俺に限ってはそんなラブコメ展開はありえないのだ。今回はただ単に、乗り掛かった船だから手伝っているだけである。それ以外の時も、成り行きで仕方なくだ。

 

「……その割には女子と一緒にいる目撃情報が多いんだが……」

「は?」

 

なにそれ、雑貨屋ってそんな情報が入ってくるの?やだ、雑貨屋って怖い。

 

「例えばだな……茶髪のフェザーリドラ使いの女子とか、同じく茶髪で青を基調とした装備をしている女子とかな」

 

……それシリカとフィリアだわ。やだ、情報が入ってくる上に正確だから、更に怖い。

 

「……た、確かにそいつらとパーティーを組んでたことはあるが、成り行き上仕方なくだ、仕方なく」

 

「ほう……じゃあ、これから新たな女子と関わる気は……」

 

「全くないな」

 

……即答した俺は知らない。今から約二ヶ月後の六月に、また新たな女子二人と関わることになることを……

 

「ま、なんにせよ気を付けろよ?今や攻略組だけしゃなく、全プレイヤーにエイトは女たらしだと認識されつつあるからな」

 

「……は?」

 

その情報が一番知りたくなかったですよ、エギル……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから話題は変わり、《軍》が《課税》をするかもという噂をエギルから聞いて、お前の店も差し押さえ対象かもな、などと話していたら着いたようだ。

黒鉄宮は名は体を表すの典型的な建物で、文字どおり黒光りする鉄柱と鉄板が素材でできている建築物だ。

その建物の中には、時間が時間のためか誰もいなかった。

昼間は親しい者の死を突きつけられる場所なため、泣き声や悲鳴が絶えない。かくいう俺も、月一くらいの頻度でキリトと黒猫団の三人の墓参りに来ている。ある意味、戒めのために。二度と同じ失敗を繰り返さないために。

あの時、ちゃんと俺が黒猫団をコーチしていたら……などとifの話をしてもしょうがない。それは自らが下した選択であり、自己責任であり、時を巻き戻すことなど誰にもできないのだから。

そんな俺達にとっては戒めの場所でもある広間には、青めのかがり火に照らされた、幅数十メートルにもなる《生命の碑》がポツンとあるだけだ。

よもや、墓参り以外の目的でここに来ることがあろうとは……と不謹慎ながら苦笑しつつ《G》の段を探す。

Gr……Gr……《Grimlock》……あった。横線は――なし。生きている。

 

「……生きているね」

 

「うん……そうだね」

 

同時に安堵の息を吐く二人を見ながら俺はエギルに訊ねた。

 

「……なあ、エギル。カインズの綴りって、《Kains》の他になんかあるか?」

 

ヨルコさんから言われたカインズの綴りは《Kains》だが、初対面の――それも、女の人の話を易々と信じる教育は、親父にされていない。それに、未だ信じきれないのだ。デュエル以外の方法で圏内殺人が起きたなど。

 

「え?そうだな……《Caynz》……じゃないか?」

 

「そうか」

 

《K》段のカインズを二人が探している間に、俺は《C》段のカインズを探す。……あった。横線は――なし。

もちろんこのカインズが、ただの同姓同名で(綴りが違う人を同姓同名というのか知らないが)、事件に全く関係ない確率の方が高いが、情報を多く持っておいて損はない。

《K》段のカインズを見終わったらしい二人とエギルと共に、足早に黒鉄宮を出る。さすがに《軍》の徘徊プレイヤーも見当たらない。

街灯のカンテラだけに照らされている道を、終始無言のまま歩き転移門前広場まで着くと、アスナが口を開いた。

 

「……グリムロック氏を探すのは、明日にしましょう」

 

「うん、そうだね……」

 

キリトが同意して頷くと、エギルが八の字眉にして言ってくる。

 

「あのよぉエイト……オレはだな、一応本職は戦士じゃなく商人でな……」

 

「はいはい、助手役をクビにすればいいんだろ?」

 

なんなら俺もクビにしてほしいものだ。システムのことはキリトが一番よく知ってるし、頭は一番アスナがいいのに、俺が一緒に捜査する意味が解らん。

俺が一緒に捜査する意味を考えていると、巨漢エギルがすまねえなと言ってくるので、冗談めかして商品安くしろよ?と言っておく。

頑張れよ、というエールだけを残して、エギルは転移門に消えた。アスナも一度ギルド本部に戻るらしい。

「明日は、朝九時に五十七層転移門前で集合にしましょう。寝坊しないでちゃんと来るのよ」

 

「お前に言われたくね……ヒッ!す、すいましぇん」

 

物凄い一睨みをしてから怒ったようにヒールをカツカツ鳴らして、アスナも転移門に消えていった。

 

「エイトも懲りないよね……」

 

「いや、なんとなく反論しちゃうんだよな……」

 

このアマ……みたいな感じで。雪ノ下と話しているみたい……いや、付き合いはもうアスナの方が長いのだから、雪ノ下と話しているとアスナと話しているみたいに感じる、と言った方が適切か?

 

「まあ、それはそうと、帰って寝なきゃな。寝坊なんかしたら、後が怖い」

 

「そうだね……そう言えば、エイトって今どこの層を定宿にしてるの?」

 

「ん、ああ……四十八層の……確か……《リンダース》、だったか?」

 

俺が答えた瞬間、なぜか目をキラキラさせてくる。

 

「そうなんだ!私もリンダースに定宿があるんだ」

 

「そ、そうか……じゃあ、《リンダース》に一緒に行くか?」

 

これで求めていた言葉が違ったら、約束なんかすっぽかして軽く一ヶ月は宿屋に引きこもっていたが、頷く姿を見ると、どうやら合っていたようだ。

ボイスコマンドで《リンダース》を指定すると、僅かな浮遊感。再び地に足が着いた感触がすると、景色が変わっていた。

水路が網目のように広がっていて、一定の早さで回る水車は、どことなく俺を落ち着かせる。

さっさと帰って休もう……と思っていた時、突然六、七人のプレイヤーが俺達を囲んできた。

キリトが俺の後ろに隠れたのをコートが掴まれた感触で認識しつつ、半円形で俺達を囲んでいるプレイヤー達を見ると、攻略会議の時に見かけた人がいた。名前は確か……

 

「《シュミット》さんだよ、エイト」

 

ああ、そうだ、シュミットだ。でもキリト。耳打ちすんな、こそばゆいから。

 

「……なんか用ですか、シュミットさん」

 

一応礼儀に倣って訊いておく。最大ギルドとわざわざ険悪になる必要もあるまい。……今の時点でも、どっちかというと険悪だが。群れているのが強いと思い込んでいる時点で仲良くできそうにないし、する気もない。

 

「聞きたいことがあってアンタを待ってたんだ、エイトさん」

 

「へえ。何をですか?」

 

俺には意味を為さない(壁走りや壁蹴りなどで抜け出せる)ハラスメント行為である《ボックス》に近い隊列をしている《なんちゃってボックス》をしているリーダー格に再び問い返す。

 

「夕方、五十七層であった圏内PKのことだ」

 

その言葉を聞いて、キリトがより一層コートを強く握ってきたのを感じながら、視線で先を促す。

 

「デュエルじゃなかった……って噂は本当なのか」

 

向こうが敬語じゃないので、こちらも素の口調で質問に答える。

 

「少なくとも、ウィナー表示窓を見た奴はいないが、なんらかの原因で見落とした可能性も、ないわけじゃない」

 

「…………」

 

首の装甲をガシャンと鳴らして、シュミットは唾を飲み込んだ。二メートルくらいある、銀に青が差し色が入った大槍も、シュミットの体が揺れると共に、右に左に僅かに揺れる。

しばしの沈黙。静寂を破ったのはシュミットだ。

 

「殺されたプレイヤーの名前……《カインズ》と聞いたが間違いないか」

 

「ああ。事件を目撃した人はそう言ってた」

 

実際には生きているかも知れないが、《鼠》じゃないが不確かな情報なので言わないでおく。

 

「……知り合いか?」

 

「……アンタには関係ない」

 

「否定しないってことは知り合いなのか」

 

俺の一人合点のようにも聞こえる言葉に、シュミットが声を張り上げる。

 

「いい加減にしろ!アンタは警察でもなんでもないだろう!KoBの副長とこそこそ動いてるみたいだが、情報を独占する権利はないぞ!」

 

その怒鳴り声に、聖竜連合メンバーは顔を見合わせ、キリトは怯えたようにシワになるんじゃないかというくらいの力でコートを握ってくる。

反応を見るに、他のメンバーはろくに事情を知らずに連れてこられたらしい。御愁傷様です。どうやら事件に関係がありそうなのは、シュミットだけらしい。そしてシュミット、許すまじ。

 

「アンタが現場から、PKに使われた武器を回収してったことは知ってるぞ。もう充分調べただろう、渡してもらおう」

「あいよ」

 

明らかなマナー違反だが、調べたのは事実だし、早く帰りたい。渡しても鬼の副長(土方ではない)に怒られないだろうし。

あっさりとした答えに呆けているシュミットは放っておき、ショートスピアをオブジェクト化する。

せめてものお礼に、ショートスピアをボックスの隙間に投擲、光跡を残して槍は何処かに消えた。

事情を知っているシュミットだけが怯えていたが、やがて動きだし手早くストレージに槍を収めた。

憎々しげに残した言葉は、実に典型的なものだった。

 

「……あまりコソコソ嗅ぎ回らないことだ。行くぞ!」

 

なら堂々と嗅ぎ回ればいいんですか?と思っていると、聖竜連合の男達は転移門へと消えていった。

――さて、と。

 




次回!『実験』です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。