ソロアート・オフライン   作:I love ?

64 / 133
ワーイ。ロスト・ソングクリアしたー!
ネタバレは伏せますが、それにしても……レインさん、マジパねぇす。実際に仮想世界でデュエルしたら一瞬で心折れるっす。ユウキのマザーズロザリオなんか目じゃねえOSSでした。ユウキファンの皆さんすいません。だけど作者もユウキファンです。
……さて、だらだら喋っててもしょうがないので、第五十六話、どうぞ!


武器の鑑定を雑貨屋に頼み、彼らは僅かな手がかりを得る。

二階に移動して、事の顛末をすべて聞いたエギルは、この一件がいかに重大かを理解したようで、両目を鋭く細めた。

 

「圏内でHPがゼロになった、だとぉ?――デュエルじゃない、というのは確かなのか」

 

「……なら逆に訊くが、お前は誰かと飯食いに来てデュエルをするのか?それも《完全決着モード》を」

 

巨漢エギルは顎に蓄えた髭に指をあて、僅かに考える素振りを見せてからそりゃないなと答えた。

まあそりゃそうだろう。飯を食いに来たわけではなくても、普通は完全決着モードでデュエルなんてしないだろう。この世界のHPの全損は、現実世界の死と同義なのだから。やるとしても、途中で降参をするだろう。俺だったら半減決着モードでもやらない。アスナとのデュエルは、例外中の例外中だ。

 

「それに、直前までヨルコさんと一緒に歩いてたなら《睡眠PK》の線もないしね」

 

補足するように付け足してくる頭脳明晰副団長ことアスナ。……いや、解ってんなら昼寝するときにはせめて《索敵》スキルの接近警報をセットしろよ……。それとも索敵スキルを取ってないの?

 

「……一つだけ言えるのは、この一件は突発的殺人じゃなくて、計画的殺人ってことくらいだ。……エギル、こいつを鑑定してくれ」

 

ウインドウからアイテムストレージを開いて操作し、被害者を吊り下げていたロープを実体化させる。なんの変哲もないただのロープだ。

エギルは片方だけ輪になっているロープを目の前に持ってきて、いかにも嫌そうな顔をして鼻を鳴らした。

エギルは開いたポップアップウインドウから、《鑑定》メニューを選択する。俺達みたいな戦闘用スキル構成組とは違い、商人であるエギルならばある程度の情報は引き出せるだろう。

二人は真剣な顔で、俺はなんとなく部屋を見回していると、鑑定結果が出たのか太い声で解説した。

 

「……残念ながら、プレイヤーメイドじゃなくNPCショップで売ってる汎用品だ。ランクもそう高くない。耐久度は半分近く減ってるな」

 

「そうだよね……あんな重装甲のプレイヤーを支えたんだし……きっと、ものすごい加重だったと思うよ……」

 

確かに加重は凄かっただろうな。ざっと見ただけで、百キロはあったように見えたし。……しかし殺人者にとっては俺達観衆に見える数十秒間持てばよかったのだろう。

 

「まあ、ロープにはあんまり期待はしてなかったしな。本命はどっちかと言えば……こっちだ」

 

開いたままのストレージを再び操作して、今度は由比ヶ浜のクッキーくらい禍々しいあの短槍を実体化させる。あれだな、この槍がNPCショップかプレイヤーショップで売られてたなら、その店の名前はジョイフル本田だな。

未だ信じきれないが、確かにこの槍が人一人の命を奪った凶器であることは確かなので、そーッと渡す。

凶器はこのカテゴリの武器にしては珍しく、色が黒で統一されていて、全長は一メートル半、三十センチくらいのクリップがあり、そこから伸びるように柄があり、先端には十五センチの穂先が妖しい金属光沢を見せている。

遠目に見ても分かった、びっしり生えている短い逆棘のせいで、一度深く刺さると容易に抜けないだろう。相当な筋力値が要求されるはずだ。

この場合の筋力値とは、プレイヤーに設定された数値的パラメータだけではなく、脳から出されナーヴギアが延髄でインタラプトする信号の強度も含まれる。つまり某初号機パイロットの名台詞の「逃げちゃダメだ」は、逃げてはいけないという自己暗示と自分を強くするためにやっていたのではないだろうか。違うか?違うな。

……まあ、つまり俺が言いたいのは、カインズは槍だけに殺されたのではなく、自らの死への恐怖で死んだとも言えるのだということだ。

初号機パイロットの名台詞を思い出していると、鑑定を終えたエギルの声が聞こえた。

 

「PCメイドだ」

 

PCメイド。別にパソコンが造った訳ではなく、《鍛冶》スキルを習得したプレイヤーなよって造られた物であるということだ。そして、プレイヤーメイドの武器は必ず造ったプレイヤーの《銘》が記録される。加えて、恐らくこの槍は特注品だろう。こんなMobに効果がない、プレイヤーキル特化の武器は店にあっても売れないだろう。

 

「誰ですか、作成者は?」

 

切迫したアスナの声に反応し、エギルはもう一度システムウインドウを見下ろしながら答えた。

 

「《グリムロック》……綴りは《Grimlock》。聞いたことねぇな。少なくとも、一線級の刀匠じゃねえ。まあ、自分用の武器を鍛えるためだけに鍛冶スキルを上げてる奴もいないわけじゃないが……」

 

この面子で一番顔が広い……というよりは知り合いが多いエギルでも知らないプレイヤーなんて俺達が知っている訳もなく、部屋は静寂に包まれた。

 

「……ま、なんにせよそのグリムロック氏を探すってことでいいんだよな?」

 

「そうね、この武器を作成できるレベルに上がるまで、まったくのソロプレイを続けてるとは思えない。中層の街で聞き込めば、《グリムロック》とパーティーを組んだことがある人がきっと見つかるわ」

 

「確かにな。こいつらみたいなアホがそうそう居るとは思えん」

 

そう言って俺達――正確には真っ黒黒のキリトと灰まみれの俺の方を見てくる。

 

「うう……私だってパーティーくらい組むよ……」

 

「ボス戦だけでしょ?」

 

「うう……エイトォ……」

 

見事に一刀両断されて斬り捨てられたキリトが俺に助けを求めるように見てくる……アスナ、グッジョブ。

 

「まあ必要以上には組まないけど、組むことくらいはあるぞ。一週間くらい前にもパーティー組んだしな」

 

確か久しぶりに会ったフィリアと組んだな。宝探しに付き合わされたが、俺もそこそこ楽しいし、ちゃんとリターンもある。

 

「「「嘘(だろ)……」」」

 

戦慄したハゲ(エギル)と天使(キリト)と鬼(アスナ)の三人。おい、短槍落とすくらい衝撃の事実だったの?カラァァァンとか音たてて落ちてるよ?

 

「おい、危ないぞ、槍を落とすな」

 

「ハッ!す、すまん」

 

いそいそと槍を慎重に拾い上げているエギルを横目に見つつ、二人の方に目を移すとなにやら秘密話のようにこしょこしょと話している。今までの経験(トラウマ)から言うと、こういうパターンのときは百パーセント悪口だ。いや、ホントさ、小学生って酷いよね。せめて聞こえないところで言えよ……

なんか収拾つかなくなってきた。どこまで話してたっけ……確かグリムロック氏がパーティーを組んだことがないわけないから要中層での聞き込み……だったか?

……なんにせよ、そのグリムロック氏とは(知らない人とは全員だが)話したくないものである。

普通人殺し特化の武器なんて作成する鍛治屋はいないだろう。いるとすれば、金目的の奴か、倫理観が薄い奴か――下手をするとレッドギルドに属しているレッドプレイヤー、またはオレンジプレイヤーの可能性だって捨てきれない。そんな人物に近づきたい人なんて、マトモな感覚を持っている人なら誰でもいないだろう。

いや、この極限状態の(命のやり取りをしている)時点で、このアインクラッドには正常な感覚の持ち主は未だはじまりの街にいるプレイヤーなのかもしれないな……などと考えていたこの時、俺はまだ知らなかった。今日から約四ヶ月後の八月、俺は普通じゃなくなったと明確に自覚することを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくカオスな空気が元に戻り、さっきまでなぜかジト目で俺を見ていたキリトが口を開いた。

 

「……話が逸れちゃったけど、グリムロックさんを見つけて話を聞けるとしても、タダで聞けるとは限らないんだよね……」

 

守銭奴魂が行動に出てきて首を横にブンブン振っているエギルは放っておく。

 

「三人で分けましょう」

 

うえ、もしそうなったらボロい服装で金がないようにグリムロック氏に見せよう……

そんなことを考えていると、ふとまだ聞いていないことを思い出した。

 

「……そう言えばエギル、そのショートスピアの名前はなんなんだ?」

 

雑貨屋店主兼斧戦士兼守銭奴エギルは、三たびのウインドウの見下ろしでショートスピアの固有名を答えた。

 

「えーっと……《ギルティソーン》となってるな。罪のイバラ、ってとこか」

 

武器の名前に深い意味はないのだろうが、名前を聞いた瞬間、ショートスピアがより一層妖しく見えた。

 

「罪のイバラ、ね……」

 

……それにしても、某罪の王冠のヴォイドにありそうだなーと思った俺は悪くないと思う。




次回!『捜査と聖竜連合との会合』です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。