ソロアート・オフライン   作:I love ?

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や、やばい……全然進まねえ……なんとか春休みで圏内事件を終わらせたいのに……
そんなことを考えながら書いた第五十五話、どうぞ!


いつか、比企谷八幡にも愛せる人がきっと見つかる。

一人で宿屋に戻るのは怖いとのヨルコさんを一緒に着いていき――というよりは、護衛的な意味合いが強いが――ちゃんと部屋に入るところまで見届け、俺達は転移門広場に戻った。

事件から約三十分後。さすがに人はほとんどいなくなっていたが、広場にはまだ二十数人ほどの、主に攻略組がいた。……いつの間に呼んだんだ?

そんな疑問に答える人はいるはずもなく、キリトとアスナは今まで聞いたこと――殺された男の名前が《カインズ》だということ、殺害方法は全く不明だということ、そして、ことによると、未知の《圏内PK》なるものが存在するかもしれないこと。

 

「……という訳だから、当面は街中でも警戒した方がいいって、できるだけ広範囲に警告して下さい」

 

キリトの言葉を聞きながら、俺がいる必要性が皆無じゃね?と思いながら攻略組を見ると、一様に真剣な面構えで頷いていた。

 

「分かった。情報屋のペーパーにも載せてくれるように頼んどく」

 

装備からして、大手ギルドに属しているであろうプレイヤーの言葉を潮に解散した。今何時かな〜と思い視界隅の時計に目を向けると、午後七時過ぎだった。

 

「……次どうすんだ?」

 

解散?帰宅?休憩?睡眠?そんなことを考えていたが、アスナが僅かな間もおかずに言ったのは、どれでもなかった。

 

「手持ちの情報を検証しましょう。特に、ロープとスピアを。出所が分かれば、そこから犯人が追えるかもしれない」

うえぇ……と思っていたのが顔に出たのか、睨まれたため、(できる限り)真面目な顔をして言った。

 

「な、なるほどです。動機がダメだというなら物証って訳ですね」

 

思わず変な言葉遣いになってしまったです……

 

「でも、そうなると《鑑定》スキルが必要になるよ?二人とも上げてるの?」

 

現在俺のスキルスロットは十二個(本来は十一個)あるが、そんなものはとっていない。一つを除き、全部バリバリ戦闘用スキルだ。

 

「俺はとっていない」

 

「そうだよね……アスナは?」

 

おいおい、キリト。とってるわけないだろ?コイツ、少し前までは泣く子も黙る攻略の鬼だったんだからな」

 

「フンッ!」

 

「なッ!?」

 

い、一本背負い……痛くはないけど、背中がビリビリする……

 

「なにやってんの、二人とも……」

 

「んんっ!わたしもとってないわ」

 

まさかまた無意識に口に出てたのか?そのうち小町と戸塚への愛の言葉が漏れそうで怖い。そしてアスナさんもっと怖い。

 

「そうなると……二人とも、鑑定スキルとっている人にアテはない?」

 

「ない」

 

「うーん……友達の、武器屋やっている子が持ってるけど、今は一番忙しい時間だし、すぐに頼むのは無理かなあ……」

 

へえ……コイツに友達なんかいたんだ

 

「なッ!!」

 

み、鳩尾……そのうち一層のセンチネルに対してやってたみたいに喉を突かれたり、男子最大の急所を蹴られそうで怖い……ジークンドーでも殺ってたの(誤字ではない)?お前世○さんかよ……

 

「な、なにすんだ……」

 

「……いや、なんか不快なことを考えられた気がするから……」

 

やべえよコイツ。かくとうに加えてエスパータイプだよ。……ということはゴーストタイプが苦手なのか?

 

「そ、そういえば、キリトは心当たりないのか?」

 

「熟練度が不安だけど、あるにはあるよ」

 

なんで訊いたんだ……早く言ってくれれば血名鬼死断負苦断腸(血盟騎士団副団長)の染紅(閃光)様に殴られずに済んだの

 

「にッ!」

 

あ、顎……このやろう……アバイオレンスナと呼ぶぞ……

 

「ほら、二人とも、早く行こうよ」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

顎を殴られフラフラする頭ながらも、なんとか千鳥足で着いていくのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五十層主街区《アルゲード》は、某オタク都市の様な猥雑さで俺達三人を迎えた。

攻略組が四十九層を攻略してからまだそれほど経っていないのに、目抜き通りの商店街には無数のプレイヤーショップが軒を連ねている。なぜかと言うと、ここは店舗物件の値段が驚くほど安いらしいのだ。

近々キリトもここにホームを買おうと計画しているらしい。俺はホームを買うなら静かなところがいいです。

人酔いしそうな喧騒の中、足早に進もうとするが他二人が進まない。

一人はなんか串焼き肉みたいなものを買っていて、もう一人は武器屋を見ていた。

 

「……なにやってんの?お前ら」

 

俺が言うのもなんだけど、何しにきたの?観光?

 

「だってさっきはサラダつついただけで出てきちゃったじゃない。結構イケるよ、これ」

 

「その……つい……珍しい武器とかあると……」

 

なにやってんだという意味合いを込めてため息を吐いていると、アスナが左手を――正確には左手に持った、謎の店で買った、謎のタレがかかってる、謎の肉を――差し出してきた。

 

「……あの、なんですか、これ」

 

「元々ご飯は奢るって話だったでしょ?」

 

奢られるものが串焼き肉とは随分質素だが、こっちの方が罪悪感がなくていい。一言お礼を言っておいて串焼き肉を口に運ぶ。なかなか美味い。

 

「なんか美味しそうだね……私もちょっと買ってくるね」

 

そう言い残し、キリトは謎の店に早歩きで向かっていく。……途中で人にぶつかっていたが。

そんな光景を微笑ましげに見ていると、視線を感じた。というかアスナだった。

 

「……なんだよ」

 

「……別に。ただキリトちゃんは大事に想われてるなーって」

 

「……そうか?」

 

「……そうだと思うけど。もしかしてハチ君ってキリトちゃんのこと好きなの?」

 

なに言ってんの?ヤバイな、天使に対するとこういう感じになっちゃうだけなんだが、考えてみればキリトは妹(小町)でも男(戸塚)でもないんだった。自重せねば……

 

「そういう感じではない。あれだな……天、じゃない、妹みたいな感じだ」

 

「ふーん」

 

まだ疑っているような声音だったが、キリトが戻ってきたためこの話題は強制終了。

そもそも俺は、本当の意味で誰かに恋愛感情を抱いたことがないのだろう。人の思いは、季節や人間関係と同じく、時間と共に知らず知らずのうちに移ろうものだ。だから、いつか俺にも心の底から愛せる人が現れるのだろうか……などと柄でもないことを考え、先を歩く二人の後に続いて歩いた。

……さしあたっては、このゲームをクリアして、俺を養ってくれる人を見つけることからだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エギルが営む雑貨屋に着いたのは、串焼き肉が全部腹のなかに収まって、丁度いい具合に膨れた頃だった。

 

「……おっす」

 

「……客じゃない奴に『いらっしゃいませ』は言わん」

 

雑貨屋店主兼斧戦士エギルは、巨大な相貌と厳つい顔によく合うむくれ声で唸り、狭い店内の客に呼びかけた。

 

「すまねえ、今日はこれで閉店だ」

 

えーっ、という不満の声は、多少なりともこの店が繁盛していることを示している。筋骨隆々の店主はペコペコ頭を下げて全員追い出し、店舗の管理メニューから閉店操作を行う。

様々なものが置いてあり、混沌と化している陳列棚が自動で収納され、表の鎧戸が閉まる。

……おお、あれだな、なんか秘密基地っぽい。ラタ○スクみたいだな。小汚ないし陰気な感じだけど。

 

「あのなあエイトよう、商売人の渡世は一に信用二に信用、三、四がなくて五で荒稼ぎ……」

 

……荒稼ぎしたら信用なくなるんじゃねーの?さすがアコギな商売しているだけはあるわ。などと突っ込み満載の渡世は俺の後ろにいる副団長殿を見たときに途切れた。

禿頭の頭と蓄えた髭をプルプル震わせ、棒立ちになるエギルに、眩い笑顔でアスナは言った。

 

「お久しぶりです、エギルさん。急なお願いをして申し訳ありません。どうしても、火急にお力を貸して頂きたくて……」

 

厳つい顔がだらしなくなり、エギルはゴリラのドラミングの様に任してくださいと力強く胸を叩き、お茶まで出てきた。

本当に……美人は得で、男は損だな……単純的思考過ぎるわ……

 




次回!『グリムロック氏を探せ』です。

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