あ、口説き上戸と言ったな、あれは嘘だ。彼女いない歴=年齢の作者には書けなかったよ…(虚ろな目)
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この店名物のスペアリブを頬張っていると、それを作った厳つい店主がある提案をしてくる。
「ふむ……粗方料理も片付いてきたし、ゲームでもするか」
「……なにすんだ?」
バーの店主と言うと、なんかカジノにいるディーラーみたいなイメージが湧くのは俺だけだろうか。多分服装が似てるだけだろうけど。
俺の問いかけに答えたのは、ゲームしようぜ! と提案したエギルではなくクラインだった。
「おいおい、エイトよォ決まってんだろ? 合コン、友達の集まり、打ち上げ何でもござれの定番中のド定番ゲーム……王様ゲームだ!」
「ほら、たまに店を貸し切ってレクをやる社会人もいるからな、道具も既にあるぞ」
すっと縦長のペン立てにさされた割り箸を差し出し、若干ドヤ顔な店主殿。なんかウザい。つーか社会人はレクじゃなくて宴会だろ?
まぁ、これだけの人数の予定が合うことなどなかなかあるまい。たまにならこういうのも悪くはないだろう。……女性陣は既にやる気なようだしな。
× × ×
「……さて、始める前に確認しときたいが王様ゲームのルールを知らない奴はいるか?」
エギルの確認に手を挙げた者は一人だけいた。朝田である。
「へー、朝田さんって博識そうなのに意外だね〜」
「私は……遊びの本とかは読まなかったから……」
「そうだよなぁ、図書室は真面目に読書するところだもんなぁ……というわけでエギル、説明頼むわ」
「応よ……と言っても、ルールは簡単だぞ。まず人数分の棒……まぁ割り箸とかを用意して、1本に王様だと判るように印を、それ以外には数字を書いてクジみたいに順に引いていく。で、全員で王様だーれだと唱和して、一斉に引いたクジを見る。王様を引いた奴が当たりだ」
「王様を引いたらどうなるんですか?」
「王様を引いた奴は何番が何々をすると命令して、命令された奴はそれを必ず実行しなきゃならん。命令する人を複数人選んでもいいだろうが……まぁこの人数なら二人までじゃねぇの?」
エギルの説明を引き継いで、俺がざっくばらんに説明する。今までの説明で大体理解できたのか、軽く頷いていた。
「んじゃ、始めるぞ」
× × ×
「ま、朝田はルールわからんみたいだし、一回目はお試し感覚でやってみるか」
「それじゃあ行くぞ……『王様だーれだ』」
「あ、私だ。……えーと……」
一発目の命令というのは今後の命令内容を左右する。ゆえに一回目は楽しめて且つハードルが低めなものがいいのだと親父が言ってたな。さて、そんな中で桐ヶ谷妹が下した命令はその条件に合っていると言えるだろう。
「じゃあ三番の人が自分が一番得意なソードスキルの動きを技名を叫びながら再現する、で」
いつもやっているが改めてやると恥ずかしい内容だ。さて、三番は……俺じゃねえか。
「俺だわ」
ぬ
俺が一番得意なソードスキルか……。何だろうな。
軽く悩んだ末にヴォーパルストライクをやることにする。右手に剣を持っていると想定し、剣を肩に担ぐような動きから一変、走りながら一気に突き出す。
「ヴォーパルストライク」
……技名言うのすごい恥ずかしいんだけど。かめはめ波を撃とうと必死に練習してた小学生時代を思い起こしちゃったじゃねーか。許すまじ、桐ヶ谷妹。
「プッ……」
「ブハッ……クッ、エイトよォ、遊びだからそんな真面目こいてやらなくてもいいんだぞ。……逆におもしれェけどな」
「クッ……」
殺せぇ! いっそ一思いに殺ってくれぇ! 誰だよ案外難易度が低いとか思った奴! 俺だから誰も責められねぇじゃねえか!
くそ……俺の俺なりの泥沼王様ゲームを見せてやる……。
× × ×
『王様だーれだ!』
「お、俺か」
二回目の王様はアンドリュー・ギルバート・ミルズ二世だった。……結構それっぽい名前だな。ハチマン・ヒキガヤ二世とかパッとしないし普通にダサい。
王様の棒を手で弄びながら俺たちを一瞥し、丁度全員見た辺りで命令を決めたのか開口する。顔が多少、いやかなりニヤけていた。
「1番が7番と10秒間ハグする、で」
…………え、は?
あ、2番だ、危ねぇ……。
「1番と7番誰だ?」
「あ、私だ」
「私は……あ、7番だったよ」
俺の次に当たったのは白黒コンビこと結城とキリト。略して結城リト。……おおう、だからこの二人はトラブルに巻き込まれやすいのね……。
「何というか……」
「……面白みと新鮮味に欠ける組み合わせよね」
「ひどい!」
実際見慣れた光景だからか、誰も反論はしない。君たち、いつも百合百合してまったくけしからん。いいぞもっとやれ。
なんだかんだで全員それなりに楽しみながら、王様ゲームは第三試合に突入していった。
× × ×
『王様だーれだ!』
「うおっしゃー! 俺だぁー!」
騒がしく王様だと主張したのはバンダナ侍ことクラインだった。その時、この店にいるやつはみんな思っただろう。「あぁ、来ちゃったか……」と。だって全員そんな顔してるし。
「いいのか、そんな態度で? 今は俺が王様なんだぞ?」
「むしろこうなるのが分かりきってるから全員そんな顔してるんだと思うんだけど……」
▼ようしゃないどくぜつ が くらいん をおそう!
▼くらいん は たおれた!
▼あさだ は かくめいをたっせいした!
「ま、普段の行いを悔い改めるんだな」
「そりゃねぇぜ、エギルよぉ……」
「で、命令はなんなんだ?」
「もう知らん……一番と五番が一分間見つめ合うで」
ヤケクソ気味に言った割には具体的な命令だなおい。しかも五番の俺含まれてるじゃないですかヤダー。俺と同時に手を挙げたのは朝田だった。どうやらあいつが一番らしい。朝田……お前がナンバーワンだ……。
「さて……」
「やりましょうか……」
「す、すごい。二人とも険しい顔をしてる、本気だよ、明日奈……」
「……ただ見つめ合うのに緊張してるだけじゃない?」
あっちでの剣さばき並みに正確である。そう、コミュ障とは人と目を合わせるような構造をしていない。知り合いが居てもなんとなく話しかけられなかったり、通学路では気づかないふりをして通り過ぎるような人種である。
そしてそれは朝田とて例外ではないだろう(コミュ障なのか知らんけど)。
「はぁ!? そんなわけないでしょ、こいつの顔なんて一時間でも見てられるわよ!」
「は? バッカアスナお前、ききき緊張なんてしてねーし? 1分じゃ足りないくらいだし?」
「お? じゃあ王様権限でもっと時間を増やして……」
「「クラインは黙ってろ(て)!」」
「特に理由のない照れ隠しがクラインを襲う……」
キリト。理由はある。そいつがクラインだからだ。
「おい朝田、いいのか? おれの腐眼に一分も見つめられたら石化するぞ? 俺の騎乗スキルはA+とか言っちゃうぞ?」
「は? 意味わかんないこと言ってないで早くやりましょう」
「何お前やる気満々じゃん。熱?」
「熱だったら今頃家で寝てるわよ。……そうだエイト、負けた方が勝った方の言うことを何でも聞くって罰ゲームつけましょう、こうでもしなきゃあんた適当にやるでしょ?」
最近朝田の勘が鋭すぎてヤバい。いやだって遊びを本気でやるの? 楽しむもんじゃないの?
「いやまぁ構わんが……罰ゲームは事前申告な。後で違う請求したら無効」
「いいわよ。じゃあ私は……そうね、一日私の買い物に付き合いなさい」
「絶対重いもの持たされるやつだろそれ……じゃあ俺はGGOでお前が本気で一日狩りをした稼ぎを丸々もらう、で」
要求を口にした途端、周りからクズだ……と非難の声が上がる。俺だって休日の時間賭けにのせてるんだから許せよ。時は金なりって言うし、対等だろうが。
「大丈夫、それで構わないわ。……どうせ私が勝つし」
「大した自信だな? GGOで初めて会ったときくらいは私が倒すとか散々言っておいて結局爆破オチだったのに……」
「それ関係ないでしょ!」
フハハ、許せ朝田よ。こうして軽口を叩いておかないと気恥ずかしさで目をそらしたくなってきちゃうからな!
「俺が出したはずの命令だけど……なんかこう、俺のオリジナルソードスキルの実験台にしたい」
「「「「同意」」」」
なんでだよ。俺死んじゃうだろうが。
「お前ら酷くない? 俺訓練所のカカシと違って意思あるんだ……あっ」
文句を言うためにクライン達の方へ向く……向いてしまった。それは即ち朝田との勝負の敗北を表していた。
ギ、ギ、ギと油の切れた機械のようなぎこちない動作で顔を再び朝田へ向ける。……初めて見る完膚なきまでのドヤ顔である。UZEEE!
「じゃあ買い物の付き合い、よろしくね♪」
女の子と二人きりで出かけることに理想を持っていないと言えば嘘になるが、それにしたってもうちょい恥じらいとか照れが感じられるものだと思っていた。それがいざその状況になってみると、いるのは普段あまり笑わないくせに満面の笑みを浮かべているドライ女子がいるだけだ。雪ノ下だってもうちょいギャップ萌えあったぞ。
しかし俺は敗者である。勝てば官軍負ければ賊軍、死人に口なし。敗者は黙って勝者に従うのみである。
「まぁ勝負は勝負だしな……」
貴重ないつかの休日が一日潰れることを俺は渋々承認したのであった。というか自爆だから文句の言いようがねぇ……。
× × ×
王様ゲームも終わり(俺は一度もなれなかった)、出された料理や飲み物もあらかた片付いたところで解散の流れになる。桐ヶ谷姉妹は比較的遠いところに住んでいるため先に帰り、クラインは会社から電話がかかってきたため外に出てそのまま帰ると言っていた。俺もそろそろ帰ろうとしていたところで声をかけられる。
「ハチ君は運が悪いねぇ」
くすくすとどこか楽しそうに結城は笑う。嫌味は感じなかったため、俺も冗談交じりに返した。
「当たり前だろ、人生においても貧乏くじを引いて来たんだからゲーム程度で引くのなんか余裕すぎるわ。自分の才能が怖い」
ほんと怖い。なんで一回も引けないのかを疑いもしないくらい自分の運がないことがわかってるのが。比企谷王政にしたらニートピアになっちゃうのを割り箸が察知していたのを疑うレベル。
「ハチくんは悪運が強いからねぇ」
言葉を弾ませながらサラッとひどいことを言ってくる閃光様。まったくもってその通りなので特に言い返すこともせず、そうだなと短く返す。
「……今日はありがとう」
と、ここで身支度を終えて初めて結城の顔を見た。表情は声音の通り明るく、心からの笑顔である。しかしながら特に結城に対して何かした覚えがないのだが……。
「……何がだ?」
礼を言われることをした覚えが全くない。今日なんてただただ騒いでいただけだ。
「こうやって仮想世界で出会った私達がリアルでも会って、一緒に楽しめる……それって、縁を繋いでくれたハチくんのおかげなんだよ? 私、こういうの前はあんまりしたことなかったから楽しかったの。だから、ありがとう」
「……そうか?」
「そうだよ」
そうなのか。きっと結城が言うならそうなのだろう。そう思うくらいに楽しそうに笑い、明るい表情を見せる結城を見るのがどうも気恥ずかしく、そっと目を逸らす。
「また、皆で遊ぼうね」
皆って誰だよなんて数年前の俺なら答えていただろう。だが、思ったよりすんなりとその言葉は出てきた。
「……そうだな。また、なんかやろうぜ」