ソロアート・オフライン   作:I love ?

59 / 133
祝!感想投稿数百件突破!沢山の感想ありがとうございます!これからもどしどしお送り下さい!
……さて、前回と今回は(短いですが)アスナ回です。わずか二話の、最早短編(笑)
アスナ回後編の第五十一話、どうぞ!


デュエルの後に、比企谷八幡は攻略の鬼の胸の内を知る。

基本的にデュエルでは、ソードスキルの乱用は避けるべきだ。

相手はMobと違い、ソードスキルの知識があるかもしれないため、下手にソードスキルを放つと完璧に対処され、手痛い反撃を喰らうからだ。

だからソードスキルはここぞというタイミングで使わなければならない。詰まるところ、Mobと戦うときとの最大の違いは、心理戦の要素が絡むことだ。

よって、俺の初撃もソードスキルを使わずに放ったのだが……

閃光の異名の由来、レーザーのごとき《リニアー》を繰り出してくる。

 

「うおっ!」

 

単発突きであるリニアーは、回避した後体勢が崩れようと、相手は技後硬直になるため、走っていた勢いを使って地面を転がるように回避。

技後硬直にかかっている間に立ち上がり、剣を構える。仕切り直しだ。

今度は俺が《ソニックリープ》を放つ。《ヴォーパルストライク》や《ノヴァ・アセンション》の様な大技は使わず、隙の少ない初期技や下位技で戦いを組み立てる。

俺のソニックリープはあっさりと避けられ、反撃のソードスキルのライトエフェクトが細剣を包むが、まだだ。

俺の剣ではなく、左拳が光る。体術基本スキル《閃打》が腹にクリーンヒット、相手のHPバーを一・五割ほど削る。

 

「グッ……」

 

相手はうめき声を出す。

これはシステム外スキル《スキルコネクト》(キリト命名)だ。スキル後の技後硬直をなくし、更にスキルをタイミングよく発動させ、繋げる。故にスキルコネクト。

そもそもの発端は、偽物の自分と戦って、プレイヤースキルを磨いたほうがいいと思ったことからだ。

このスキルコネクトは、キリト以外に見せていない(キリトには練習中に見つかった)。初お披露目のスキルコネクトは効果覿面だったようで、僅かながら動揺が見てとれる。

そして心理戦も戦いの要素に加わる対人戦において、それは致命的だ。理解させない、考えさせない、自分の手の対処法を思い付かせない。

そのために追撃、思考する暇を与えない。

飛び退いたところに《シングルシュート》を発動し、投擲する。

弾くか、避けるか……力の入れよう、体の動きから俺から見て左に回避か。システム外スキル《未来予知》を使い、人間観察で培った動体視力で相手の体の動きを見て、次の動きを推測する。

どこのキセキの世代キャプテンだよと思うが、キリト命名ならしょうがないよね!

好機と思い、右手の剣を右肩に乗せ、剣を握っていない左手を前に出す。これはヴォーパルストライクのスキルモーションだ。

右手の剣が紅く煌めき、キイィィィィンとスケ○ト団部長が集中モードに入ったような音がする。

ブオォォォン!と自らが流星になったように突撃、このデュエルに終止符を打つべく閃光に犠牲が向かっていく。

シングルシュートを避けるのに多少の意識を割かれていた副団長が迫り来る俺に気づき、咄嗟にバックステップをするが、それは悪手だ。

ソードスキル使用中は、いくらシステムが勝手に体を動かすとしても、自分の意思で全く動かせない訳じゃない。といっても、スキルモーションからあまりに大きく違った形になるとスキルは発動せず、より長い硬直に襲われるが。

相手の意識は間違いなく煌々と輝く右手の剣に向いている。そのミスディレクションを利用し、投げナイフを左手に持つ。

ヴォーパルストライクの射程圏内から僅かに遠く、攻撃は届かない。端から見れば俺が大ピンチだろう。

右手は前に出され、左手は後ろにある。まるで左利き投手がボールを投げるフォームになっていて、再び俺の左手に握られている投げナイフが発光する。

 

「フッ!」

 

「ハアッ!」

 

お互いの短くも気合いの入った声が重なり、互いのソードスキルを発動する。投擲する間に右腕を上げておく。

先に着弾したのは――相手だ。ノックバックし、僅かな隙ができる。対する俺は、僅かにかすっただけなので、スキルモーションに入るのはそれで十分過ぎた。

上げておいた右腕を曲げ、また剣を肩に担ぐ。二連続スキルコネクトだ。

また右手の剣が煌めき、キイィィィィンとジェットエンジン染みた音が空気の振動を耳に伝え、草木がざわめくようにほんの少し揺れる。

 

「う……おおぉぉぉっ!」

 

俺が放った必中のヴォーパルストライクは、副団長の腹に入り、残り七割五分ほどだったHPを一気に一割に減らし、副団長の華奢な体を吹き飛ばし、俺の視界にWINNER表示が写った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

僅かにかすった程度で五%も減ったHPがバトルヒーリングスキルで回復するのを眺めながら、未だに仰向けで転がっているアスナに眼を向ける。

 

「……なんで」

 

「あん?」

 

「なんで、あなたはそんなに強いの?」

 

いやいや、なに言ってんの?下っぱの下っぱの下っぱである俺が強いわけねえだろ。

 

「……別に強くねえよ」

 

「嘘」

 

おい、速攻で否定すんな。俺ほど正直な奴はいないよ?人なんかいつも嘘を吐くしな。

 

「はあ……適材適所ってやつだよ。俺はソロプレイヤーとして自分の強化をして、それなりに攻略組の役にたつようにする。お前は攻略組を引っ張り、プレイヤー達の力を最大限発揮できるようにするのがベストなんだよ。逆にお前の方がステータス的に強かったら、俺の立つ瀬がねえよ……」

 

なんならもうないまである。いや、ほんとさ、攻略組にいいように使われてない?俺。自分でも知らず知らずに社畜になってて怖い。

 

「で、でも、エイト君は、わたしが強くないから……認めてないから、名前で呼ばなくなったんでしょう?」

 

「は?」

 

え、話が飛びすぎじゃね?なんで俺が名前で呼ばなくなったのと関係あるんだ?

 

「だって、呼ばなくなったじゃない。名前」

 

「な、なんで名前を呼ぶことが関係あるんだ?」

 

素の口調になっているアスナに対し、しどろもどろになりながらも質問する。

 

「わたし……怖いの。わたしがたてた作戦で、誰か死ぬんじゃないか、って」

 

……なるほど、いかに攻略の鬼と呼ばれようと、副団長――いや、アスナは一人の人間なのだ。

攻略組を率いる『責任』。上にたつ者だからこその『重圧』。そしてそこから生まれる、人の命を預かる『恐怖』が、ないはずがないのだ。

きっとアスナは、そんな焦りを行動で消すように――いや、自分でもなぜかよく解らないまま、無茶苦茶な作戦を立案してしまうのだろう。

 

「わたし、君に名前を呼ばれていた時、認められてるんだって思った」

 

勝手にだけどね、と付け足し、アスナは続ける。

 

「だから……名前で呼ばなくなった時、なんだか悲しかったんだ。お前には着いていけない、勝手にしろって言われてる気がして」

 

俺が名前で呼ばなくなったのは、ただ単に大手ギルドの副団長を名前で呼ぶのは指揮系統、上下関係が乱れるのでは?と思ってのことだが、それは置いといて考える。

もし、小町にお兄ちゃんからお前なんて言われたら……うん、しばらく部屋に閉じ籠るな。

もちろん、俺とアスナの仲が俺と小町ほど深いとは言わないが、悪意がない行動が、人を傷つけることはままある。

 

「だから……認めさせようとして、意地を張って、攻略効率重視の作戦をたてて……」

 

不器用、なのだろう。自分を認めさせる方法を努力しか知らないこともそうだし、努力が変な方向に行くことからも、それは伺える。

 

「でも……結局認めさせることができなくて、こうしてデュエルにも負けて……」

 

アスナは自分は役たたずだと思っているが、もし本当にそうならとっくに血盟騎士団副団長なんて辞めさせられているだろう。

 

「あのな……お前を役たたずなんて思ってんなら、お前がリーダーの時に、攻略会議に出てこねえよ……」

 

「え?」

 

きっかけは些細な拗れなのだ。それをアスナが考え、思い、独り合点してできたのが攻略の鬼だ。

ならば、その拗れを元に戻すのはどうすればいいか?――簡単だ。相手と自分の意見の相違を知り、自分の考えを伝えればいいのだが……俺には難易度が高い。故に遠回しに悟らせる。

 

「だから……お前が明らかに間違っていることを言ったり、気に食わないことをしたなら、そりゃ異論や反論を唱えるし……下手すると攻略に参加はしないって言ってるんだよ」

 

「え?でも、エイト君、攻略に参加して……」

 

「……これ以上は言わん、なんで俺が攻略に参加してるか、自分で考えろ」

 

ちょっと考えれば解るけどな……と思いながら、はあーと史上最長の溜め息を吐き、後ろで微笑ましげにこちらを眺めていたキリトにバトンタッチし、俺は宿屋へと向かった。

 




次回!『圏内事件』です!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。