そして今回!八幡の二つ名が発表!そして今回は今までで一番長いです!
次回はオリジナル(フィリア編)にしようと思っているので、投稿遅れます。
そんな近況と報告をした後の第四十三話、どうぞ!
その後、五回ほど戦闘をすると、さすがに慣れたのか逃げ回ることはなくなった。
俺はサポート役に徹し、攻撃を防ぐ役をしている。イソギンチャクみたいな奴にぐるぐる巻きにされていた時は、俺が速攻で倒したが……
SAOでは、ダメージを与えた量に比例して、貰える経験値が増えるためシリカのレベルが一上がったようだ。
赤煉瓦の街道を歩いていると、やがて小高い丘が見えた。
「あれが思い出の丘だ」
「見たとこ、分かれ道はないみたいですね?」
「ああ、けど代わりに出てくるモンスターの量が段違いみたいだから気を引き締めていくぞ」
「はい!」
花が咲き乱れる坂道へと足を踏み入れる。すると、期待を裏切らずモンスターの量が増え、図体も大きくなっている。
しかし大体シリカの短剣のコンボワンセットで倒せるため、俺は手を出していない。
俺は戦闘をしていないため、楽々歩いていると、小川にかかった小さな橋があり、更に向こうに小高い丘がある。
「あれが思い出の丘だ」
弧を描く道はだんだん急角度になっていき、藪を潜ると――そこが丘の頂上だった。
「うわあ……!」
丘の頂上は、アニメによくでてくる幼い頃よく遊んだ花畑を絵に描いた様だ。
「やっと着いたな……」
剣を左腰のコバルトブルーの鞘に収めながら言う。
「ここに……その、花が……?」
「ああ、ちょうど真ん中のあの岩に……」
言い終わる前に駆け出したシリカを、コートと同系色、同デザインのズボンに手を突っ込みながら後を追う。
「え……」
何か予想外のことが起きたのか、シリカが驚きの声をあげる。
「ない……ないよ、エイトさん!」
こちらを振り向き、涙を滲ませて叫んでくる。
「んなバカな……。――いや、見てみろ」
俺の言葉に促され、再び岩の方にシリカが顔を向けると――
「あ……」
正にその時、一本の芽が生えようとしていた。二本の双葉が生え、更にその間から細い茎が伸びてくる。
植物の成長過程を写真で飛ばし飛ばし見ているかのようにグングン伸びていき、やがて先端に蕾をつける。色は汚れのない白で、涙滴型をしている。
純白の蕾の先端がだんだんほころんでいき――しゃらん、と鈴の音の様な音を出して開花した。
たった今七枚の花弁を開いた純白の花は、星屑の様な光の粉を放出していて、宗教や神など全く信じていない俺でも神聖な物に見えた。
こちらを見てくるシリカに頷くと、シリカは右手を伸ばし、茎に触れる。すると茎は繊細なガラス細工の様に砕け、手の中には白い花弁だけが残る。
シリカが花の表面を触り、ネームウインドウが開く。俺は後ろに立っていたためウインドウが見えた。どうやら《プネウマの花》というらしい。
「これで……ピナを生き返らせられるんですね」
「ああ、多分な。でもここは危険だから街に戻ってからするべきだ」
「はい!」
シリカが頷いて花をストレージに仕舞うのを横目で確認しつつ、帰り道のことを考える。
行きでは何のアクションもなかった……あるとすれば帰り道か。
索敵スキルを発動しながら歩き、弾むような足取りのシリカが小橋を渡ろうとしたとき、前に右腕をやり足を止めさせる。
「待ち伏せとは随分趣味が悪いんだな」
「え…………!?」
そう言って出てきたのは赤い髪に同色の唇、エナメル状の黒いプレートアーマーを装備し、十字槍を携えているシリカにとって見知った顔だ。
「ろ……ロザリアさん……!?なんでこんなところに……!?」
……どうやらこのオバサンはロザリアというらしい。
シリカの質問には答えず、ニタリと唇の片端を吊り上げて言った。
「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね、剣士サン。あなどってたかしら?」
「ハッ、ボッチは視線に敏感なんだよ」
今度は俺の言葉を無視し、シリカの方を向く。
「その様子だと、首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん」
「そいつはどーも。でも花は渡さないぞ。ロザリアさん……いや、オレンジギルド《タイタンズハント》のリーダー、の方が適切か?」
唇から薄ら笑いが消え、眉がピクリと跳ね上がる。
SAO内では、盗みや傷害、最悪殺人などシステムが規定した犯罪を犯すと通常グリーンのカーソルがオレンジになる。
それ故にカーソルがオレンジのプレイヤーをオレンジプレイヤー、オレンジプレイヤーの集団をオレンジギルドという。
「え……でも……だって……ロザリアさんは、グリーン……」
「オレンジギルドと一口に言っても、全員が全員オレンジな訳じゃない。街中で獲物を釣る役や情報収集する役……昨日みたいに盗み聞きをする奴だっている」
「そ……そんな……」
シリカは愕然としながらロザリア……オレンジギルドリーダーを見やる。
「じゃ……じゃあ、この二週間、一緒のパーティーにいたのは……」
ロザリアは再び薄ら笑いを浮かべ、言った。
「そうよォ。あのパーティーの戦力を評価するのと同時に、冒険でたっぷりお金が貯まって、おいしくなるのを待ってたの。本当なら今日にもヤッちゃう予定だったんだけどー」
シリカの顔を見ながら、毒々しいほどに紅い舌でチロリと唇を舐める。
「一番楽しみな獲物だったアンタが抜けちゃうから、どうしようかと思ってたら、なんかレアアイテム取りに行くって言うじゃない。《プネウマの花》って今が旬だから、とってもいい相場なのよね。やっぱり情報収集は大事よねえー」
「……全くもってその通りだ」
たとえば……俺が攻略組だということとかな。
「……なあ、ロザリアさん。アンタらが三十八層で襲った《シルバーフラグス》ってギルド、覚えてるか?リーダーだけが脱出した」
「……ああ、あの貧乏な連中ね」
表情筋を少しも動かさずいい放つ。……反省、罪悪感はなし、か。
「リーダーだった男はな、毎日毎日最前線で泣いていた。仇討ちしてくれる奴を探してな」
自分でも自分の声に怒気が混じっていることが解った。そもそもこんならしくないことをしているのは、ギルドメンバーが死んだときのキリトの様を見たからだ。
「しかも殺してくれとは言わなかった。捕まえて黒鉄宮に入れてくれ、と頼んだんだ。……だから、俺はお前たちを潰しに来たんだ」
親しい者が亡くなった時の悲しみは――特にそれが理不尽なものだったら――より深い。親しい人が死んだことなどないが、それくらいは解るつもりだ。仮に現実で殺人犯を捕まえる力があったのなら、積極的に捕まえようとも思わないが、目の前にいるなら一市民として捕まえるだろう。
「へえー、でもさ、たった二人で何が出来るの?」
言葉とともに鳴らされた指の音が合図かの様に、一、二、三……十人ものプレイヤーが木の陰から出てきた。しかも殆どがオレンジカーソルだ。
「え、エイトさん……人数が多すぎます、脱出しないと……!」
「大丈夫だ、問題ない」
……何かフラグをたてたような気がするが、ダイジョウブ、モンダイナイ。
俺が逃げろと言うまでは転移結晶を持って待機と指示を出して、小橋の方へと歩いていく。
「エイトさん……!」
「エイト……?」
その声がフィールドに響いた途端、盗賊の一人が呟き、笑いを消して記憶を探るように眉をひそめる。
「その格好……盾なしの片手剣……。――《犠牲》(サクリファス)……?」
出たあー、下っぱ臭が半端ない恥ずかしい二つ名。
ちなみに名前の由来は、ボス戦でいつもファーストアタックをしている姿が死兵、または突撃兵に見えるかららしい(《鼠》調べ)。
「や、やばいよ、ロザリアさん。こいつベータテスト参加者(ビーター)上がりの、こ、攻略組だ……」
……ビーターっていうのはあってるけど、ベータテスターっていうのは違うけどな。
俺が攻略組という衝撃?の事実に口をポカンと開けていたロザリアだが、数秒後にまた甲高い声で叫ぶ。
「こ、攻略組がこんなとこをウロウロしている訳ないじゃない!どうせ、名前を騙って「一応言っておくけど本物だぞ」びびらせよう……」
俺の言葉に勢いがなくなったロザリアに代わり、味方……というよりは、自分自身を鼓舞するように先頭の斧使いが叫ぶ。
「お、落ち着け!もし攻略組だとすれば、すげえ金とかアイテムとか持ってんぜ!オイシイ獲物じゃねえかよ!!」
その言葉に一斉に抜剣する盗賊達。ロザリア含め、二人のグリーンを除いた九本の剣先がこちらに向けられる。
「エイトさん……無理だよ、逃げようよ!!」
その言葉にも俺は無反応を貫き、動かず抜剣すらしない。
その行動を恐らく諦めととったであろう盗賊×9は俺を半円に囲み、一斉に突撃してくる。
「オラァァァ!!」
「死ねやァァァ!!」
自分のアバターに攻撃が叩き込まれる感覚がした。一、二、三、四、五、六、七、八、九発攻撃を喰らう。
「いやあああ!!」
シリカが絶叫した。
「やめて!やめてよ!!エイトさんが、し……死んじゃう!!」
その声にますます笑みを深める盗賊達は気づかない。俺が退屈そうな目をして、口に嘲笑を浮かべているのに。
一分ほど攻撃を続けてようやく気づいたのか、盗賊達は戸惑いの表情をする。
「あんたらなにやってんだ!!さっさと殺しな!」
ロザリアに叱咤激励され、止めていた剣の嵐を再び再開するが、激励でシステム的数値を覆せる訳もなくさっきの再現となる。
「お……おい、どうなってんだよコイツ……」
何か異常なものを見たような目でこちらを見てくる盗賊達。
種、というほどのものではないが種明かしをする。
「……十秒あたり五五〇。それがお前らが十秒あたりに俺に与えられるダメージの総量だ。俺のレベルは80、ヒットポイントは一二〇〇〇……更に《自動回復》(バトルヒーリング)スキルで十秒あたり七〇〇回復する。いくらやっても無意味だ」
いくらやっても敵わないと悟ったのか、サブリーダーであろう両手剣使いが掠れた声で言った。
「そんなの……そんなのアリかよ……。ムチャクチャじゃねえかよ……」
「そうだ」
吐き捨てる様に言う。攻略組だからレベルの大切さが解るのだ。
「たかが数字、たかがレベル……それだけでこれだけの差がつく。それがレベル制MMOなんだ」
理不尽、と言う他ないだろう。しかしレベルが高い者が強い。それがレベル制MMOの真理なのだ。
「チッ」
舌打ちが聴こえた方を向くと、ロザリアが腰から転移結晶を取り出して逃げようとしていた。
「転移――」
一気に近づき、剣を抜いて転移結晶に当ててどこかに飛ばす。目の前で怯えているロザリアを眺めながら剣を収める。そしてそのまま襟首を掴み、橋の方へと引き摺る。
「は……放せよ!!どうする気だよ畜生!!」
言葉を無視し、筋力値の有らん限りを使って盗賊の中心に投げる。ポーチを漁り、転移結晶よりも濃い青色をした結晶を取り出す。
「これは依頼主が全財産はたいて買った回廊結晶で、出口は黒鉄宮に設定されている。お前らには牢屋(ジェイル)に跳んでもらう」
地面に座り込んだまま、虚勢の笑みを浮かべロザリアが言う。
「――もし、嫌だといったら?」
「これはお願いじゃない。命令だ。死にたいならそうしろ」
ビキッと笑みが凍りつく。殺す、とまでいくとは思わなかったのだろう。
「……と言いたいが、冗談だ。その場合は麻痺毒を使って放り投げてやる。そこの赤髪オバサンみたいにな」
沈黙したのを確認して、濃紺の結晶を掲げて言う。
「コリドー・オープン」
右手の結晶が砕け散り、代わりに目の前に光の渦が出てくる。
「畜生……」
ある者は無言で、ある者は毒づきながら一人一人光の渦へと入っていき、残るは地面に胡座をかいている赤髪オバサンだけとなった。こちらを挑戦的な目で見上げてくる。
「……やりたきゃ、やってみなよ。グリーンのアタシに傷をつけたら、今度はあんたがオレンジに……」
「俺もそいつは勘弁したいからな、こうさせてもらう」
赤髪オバサンに無理矢理十字槍を握らせ、俺にわざと刺させる。カーソルがオレンジになったことを確認して、俺は剣を三十五層が最前線の時に使っていたのに変え、ロザリアの右足、左足、右手、左手の順に部位破壊して胴体と頭だけになったアバターを持ち上げて、消えかかっていた光の渦に放り投げた。
未だ展開に着いていけてないシリカに取り敢えず謝罪をする。
「……スマン、囮みたいな真似をして」
見たとこ、自分より四、五歳年下の相手に謝るのもどうかともし見ていた人がいるなら思われるのだろうが、何の説明もせずに巻き込んだのはこちらなのだから責任がある。
「街まで、送るわ」
そう言って歩き出そうとしたが、一向にシリカが動き出す気配がないため声を掛ける。
「……どうした?」
「あ――足が、動かないんです」
……思わず足を滑らせて転んだ俺を笑える者はいないと思う……
三十五層主街区にある風見鶏亭に着くまで、俺達は無言だった。
二階に上がり、俺の部屋に入ると、シリカが口を開く。
「エイトさん……行っちゃうんですか……?」
頷いて肯定する。
「ああ、前線から五日くらい離れたからな……」
ぶっちゃけこれ以上離れると、《攻略の鬼》がうるさい。
「あ…………あたし…………」
シリカの瞳から、二つの雫が零れ落ちる。……え?なんで泣いてんの?
「え、えーっと……一つ、アドバイスだ。SAOには、数値よりも大事な強さがある。プレイヤー達はそれぞれ戦っているんだ。だから……シリカも自分の戦いを見つけるんだ」
綺麗事に聞こえるかもしれないが、実際そうなのだ。攻略組はボスや強いモンスターと、情報屋は情報収集の為のクエストと、商人プレイヤーは攻略組のサポートを、中層プレイヤーは死の恐怖と……
「はい!」
どうにか泣き止ませた事に安堵の息を心の中で吐く。
「んじゃあ、ピナを生き返らせらせるぞ」
「はい!」
頷き、シリカはウインドウを操作して《ピナの心》を実体化し、テーブルに置く。続けて《プネウマの花》も呼び出した。
シリカが花を取り、ウインドウを消すと、こちらを見上げてくる。
「その花に溜まっている雫を、羽根に振りかけたらピナは生き返る」
「解りました……」
シリカは目に涙を溜め、徐々に花を傾けると、やがて一粒の雫が花に触れた。
次回!『トレジャーハンターとの出会い』です!