ソロアート・オフライン   作:I love ?

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またも番外編。時系列的にはキャリバーの打ち上げです! 続きます。八幡酒乱口説き上戸編です(笑)


こうして、彼ら彼女らの聖剣取得の祝いの会が始まる。

2025年12月28日。

ALOユーザーの唯一にして最強の武器である《エクスキャリバー》取得祝い兼忘年会は、東京都の御徒町にあるエギル経営の《ダイシー・カフェ》にて行われることになった。

俺の愛娘であるユイのために仮想世界で打ち上げをやろうと考えなくもなかったのだが、翌日二十九日に結城が実家に帰るため、気を効かせたユイが「リアルで!」と提案したのだ。まったくよくできた娘である。どこぞの馬の骨には絶対やらん。

天気予報は東京にしては珍しく、夕方から雪だそうなためバイクではなく、電車やバスで来た。所要時間は四十分ほどだ。

ハードケースを運び、相変わらず怪しげな店に入ると、店の中にいたのは忙しそうに料理を作っている店主と、激近の文京区湯島のアパートに住んでいる朝田だけだった。

 

「おっす」

 

「こんにちは……って、つい数時間前まで一緒にいたのに言うのも変な感じね」

 

少し苦笑混じりにそう言うと、座ったら? と自分が座っている席の右横をポンポン叩く。

ありがたく一つ席を空け、朝田の右横に座る。

 

「……なんで一個席空けて座るのよ」

 

「いや、この方がいいかと……」

 

だってあなた高圧的なんですもん。仮想世界(むこう)ほどではないですけど、とは言えずに、曖昧な感じで返答する。

それが気に食わなかったのか朝田は一つ席を詰めてきたので、俺も一つ席を右に移動する。

するとまた詰めてきた……俺も一つ席を……ま……お……何回繰り返すの?

 

「あの……なんでそんな詰めてくるんですか?」

 

「……別にどこに座ってもいいでしょ」

 

ごもっともで、と諦め、ハードケースからパソコンとカメラ四つを出す。

そのままカウンターテーブルにパソコンをセッティングし、カメラはそれぞれ店の天井に付けておく。

 

「……何してるの?」

 

「あ? あれだ、愛娘の眼をちょっとセッティングしてるだけだ」

 

「……何言ってるの?」

 

「いや、俺も詳しくは知らんから、キリトに訊いてくれ」

 

ぶっちゃけ文系男子である俺は、こんな理数系っぽいことは理解できん。数式理解するより古典を理解する方が簡単だ。

一先ず作業を終え、喉が渇いたので忙殺されている店主にジンジャーエールを注文したが、ふざけんな! と言われてしまった。何て店だ。Twitterで店主の愛想最悪って載せてやろうか。……Twitterやってないけど。

 

「そう言えばエイト。あんた眼鏡かけないの?」

 

「おい、それは俺の眼が腐っていると揶揄しているのか」

 

それを言うならこっちにだって言い分はある。

体を左に向け、椅子の背もたれの後ろに左腕をやりながら反論した。

 

「それを言うならお前だって眼悪くないのに眼鏡してるじゃねぇか」

 

原則として、仮想世界でも現実と大きな変化……具体例を挙げるなら、性別や身長が違うと馴染むまで少し時間がかかる。ALOでなら空中戦闘がすぐにできるようにならないのと同じことだ。

まぁ、今回の件の場合は視力があまりに急激に変化すると若干酔うくらいだ。

俺の問いにどう答えたものか……みたいな感じの顔をしている朝田を見ると、あれ、チョイスミスった? みたいに不安が煽られるからやめてほしい。

 

「別に深い意味はないけど……そうだ。エイト、あんたこの眼鏡かけてみなさいよ」

 

眼鏡を外し、俺に装着しようとするため、少し上体を反らして逃げる。もう余分なパーツはアホ毛と濁った眼で十分だ。

 

「往生際が悪いわね……」

 

呆れたように溜め息を吐く朝田だったが、やがて何かを閃いたように顔にいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

 

「《エクスキャリバー》」

 

「グッ!」

 

それを言われると辛い。実際朝田……いや、シノンの射撃技術がなければ、最強の聖剣は大穴にロストしかねないところだったのだ。

 

「わかりました……」

 

なんやかんやで女性陣には頭が上がらないことから、やはり女は強しと改めて認識し、受け取った眼鏡をかける。

どうせ似合ってなくて、着けた時の顔を見たら爆笑されるんだろうなぁ……と、かなり鬱になりながら顔を上げる。が、予想とは違い称賛する言葉だった。

 

「……い、意外に似合うわね……少し驚いたわ……」

 

「あ、そうなの? 少し見てみたい気もするわ」

さすが小町曰く目以外は整ってる顔だ。俺も鏡かなんかあったら観賞してみたい。

だが生憎鏡はないので、自分が眼鏡をかけたらどうなるかの妄想で我慢しておく。大分美化されたのは仕方ない……はずだ。

 

「まぁ、貸してくれてサンキュー……なのか?」

 

「ん、まあわたしも普段見られないものが見れたし」

 

眼鏡を朝田に差し出し、受け皿のようにして出してきた右手に置く。

と、その時。店の入り口を開けたら鳴るベルが、来店者――と言っても今日は貸し切りだが――の存在を告げる。

次に来店してきたのは、桐ヶ谷姉妹だった。埼玉県川越市と言うと県が違うこともあって、東京都民としては辺境の地のように感じるが、実際には電車を使えば一時間くらいで行けるらしい。

「「こんにちは、エイト(君)」」

 

キリトの静かな声に、桐ヶ谷妹の元気はつらつな声を聞き、適当におう、と返しておく。

忘年会は俺、キリト、桐ヶ谷妹、篠崎、シリカ、朝田、クライン、結城の八人+ダイシー・カフェ店主のエギルでやるため、約半分がもう集合している。

 

「……じゃあキリト。早速頼む」

 

「うん、任せて」

 

予め起動しておいたノートパソコンの前の席を譲り、キリトに座るよう促す。

先ほど設置したカメラは前にキリトに説明をしてもらったところ、市販のマイク内蔵ウェブカメラを、大容量バッテリー駆動及び無線接続できるように改造したものらしい。

俺もある程度ならキリトの説明を聞いたことやユイのために勉強したことによって理解できるし、こういった作業的なのも頑張ればできるが、やはり一応師匠にあたるキリトの方が理解も深い。故に俺はこういったことを任せているのだ。

そこそこ高スペックな俺のパソコンを弄り、恐らくカメラの動作確認をしているのであろうキリトは、最後に川越にある自宅の俺も何度か見たことのあるハイスペック据え置き機に接続。小型ヘッドセットを装着してユイに語りかける。

 

「どう? ユイちゃん」

 

『……見えます。ちゃんと見えるし、聞こえます!』

 

モニターからユイの可愛らしい声が響く。

 

「うん、OK。ゆっくり移動してみて」

 

『ハイ!』

 

キリトの指示と同時に弾けるような返事をし、それとともに一番近くのカメラレンズがジジ……と動き始める。

これも完全にキリトからの受け売りだが、今ユイは擬似3D化された空間で飛び回っているような感覚らしい。いまいち実感が沸かないが、俺達で言う仮想空間にフルダイブするようなものだろうか。

「……なるほど、つまりあのカメラとマイクは、ユイちゃんの端末……感覚器ってことね」

 

文学少女な雰囲気を醸し出す朝田の適切な表現に対し、キリトではなく桐ヶ谷妹が頷く。

 

「ええ。お姉ちゃん、学校でメカ……メカトニ……」

 

「メカトロニクス」

 

キリトの訂正。メカトロニクスとは和製英語で、意は機械工学(メカニクス)電気工学(エレクトロニクス)を合わせた造語だ。意味は多分日本でしか通じないだろう。

「それニクス・コースっての選択してて、これ授業の課題で作ってるんですけど、完全ユイちゃんとエイ……「うわあぁぁぁぁ! スグ!」キャアァァァ!」

 

疾風迅雷。電光石火。正に今のキリトの動きに相応しい四字熟語だ。

仮想世界でも見たことのない俊敏な動きで妹に飛びかかり、首を絞める人よろしく口を思いっきり塞ぐ。

ああなったらもう止められないため、マイヘッドセットを装着して、ユイからの注文や要望、改善してほしいところなどを聞いた後にしばし談笑に興じる。

朝田がどうにかこうにか場を納めたときに、丁度残りの面子が揃う。所狭しと二つのテーブルをくっつけた卓上に並べられた。最後に店名物の見事なスペアリブが置かれ、全員で功労者に拍手喝采。ノンアルコールと本物のシャンペンがグラスに注がれる。

誰かが乾杯の合図をするのかと思ったら誰もしないため回りを見渡したら、皆一様に俺を見てくる。…………え? 俺がやらなきゃダメなの?

 

「え、えー。《聖剣エクスキャリバー》とついでに《雷鎚ミョルニル》の二つの伝説級武器(レジェンタリー・ウェポン)ゲットと、クラインの淡く儚い幻想がぶち殺されたことを祝し、乾杯!」

 

事情を知らないエギルを除き全員が唱和した。その一秒後、クラインの「って、オイ!」というツッコミの後に、全員の笑声が重なった。

 


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