ソロアート・オフライン   作:I love ?

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早く……アリシゼーション編書きたい……というかSAO十六巻が出ない……
全然進まないことにやきもきしながら書いた第四十話、どうぞ!


三十五層主街区で、二人は赤髪の槍使いに会う。

三十五層主街区は、壁が白くて屋根が赤い建物があり、どことなく落ち着く農村だ。

俺は基本攻略をしているため、宿は最前線でとるが、さすがに解散して最前線で宿をとろうとは思わないため、今日はここに泊まろうと思っている。

中層はシリカの方が詳しいため、おとなしく後ろをついて歩き、大通りから転移門広場に入ると、シリカが他のプレイヤーからパーティーの勧誘をされている。

 

「あ、あの……お話はありがたいんですけど……」

 

必死に頭を下げ、やんわりと断ろうとしている姿は、まるで上司の飲みに行こうという誘いを断ろうとしているようだ。……働きたくねえ。

いたちごっこの会話を繰り返し、こちらを見てシリカは言う。

 

「……しばらくこの人とパーティーを組むことになったので……」

 

え?ここで言います?ヘイト俺に向くじゃないですか……

案の定不満の言葉を洩らしながら胡散臭そうな顔をして俺を見てくる。

……まあ当然だわな。鎧の類いは一切なくて、防具は羽織っている灰色で黒いラインがいくつか入っている革製のコートだけで、武器は刀身と柄が黒く、刃が鈍い銀色の片手剣一本だけ。更に盾を装備していない上、眼が腐っているときた……おい、最後関係ないだろ……

 

「おい、あんた――」

 

最も熱心に勧誘していた背の高い両手剣使いの男が、俺の前に立ち、見下ろす形になって口を開く。

 

「見ない顔だけど、抜け駆けはやめてもらいたいな。俺らはずっと前からこの子に声かけてるんだぜ」

 

いや、知らんがな……

それにしても何コイツら、ロリコンなの?

 

「い、いや、そんなこと言われましても……」

 

ヘルプ!ヘルプシリカさん!

目線を配ると思いが通じたのか会話に入ってくる。

 

「あの、あたしから頼んだんです、すみませんっ」

 

コートの裾を掴まれ引っ張られる。今度メッセージ送るよーとか言っているロリコンどもは無視して、北のメインストリートに連れてこられる。

……というか、メッセージってことは、フレンド登録してるんだな……憐れなり。

やはり友達というのは迷惑なものだな……スパムメールを送ってくるとは……あれ?俺友達いないのにスマホにスパムメール来るんだけど……

なぜかスパムメールが来ることに疑問を覚えるが、妹からの愛情メールでイーブンだなと結論付けていると、シリカがこちらを見上げている。

 

「あの……すいません、巻き込んじゃって」

 

「いや、別に」

 

ここでホントに勘弁してくださいよ〜とか言ってはいけないのは、十八年ずっと上がらないコミュニケーションスキル熟練度の持ち主である俺にもわかる。

 

「……人気者なんだな」

 

葉山とかとは違うベクトルの。こっちは宗教の教祖みたいな感じだな。

 

 

「そんなことないです。マスコット代わりに誘われているだけなんです、きっと。それなのに……あたしいい気になっちゃって……一人で森を歩いて……あんなことに……」

 

……地雷踏んだ。

ここで「大丈夫、必ず生き返るから」なんて無責任だしな……

 

「そ、そうか。じゃあ何とかして生き返らせないとな」

 

俺史上最高の慰めの言葉をかけていると、二階建ての建物が見えてきた。名前は《風見鶏亭》とある。

急にハッとしたようにシリカが俺に話しかけてくる。

 

「あ、エイトさん。ホームはどこに……」

 

「個人情報だから秘密……と言いたいが、ない」

 

なんかホームがないって言うと、ホームレスみたいで虚しくなるんだが……買おうかな、ホーム。

 

「そうですか!」

 

嬉しそうに手をパン!と叩くシリカ。何?俺が家無き子なのがそんなに嬉しいの?

 

「ここのチーズケーキが結構いけるんですよ」

 

……甘いもの関連で思い出したけど、アスナへの借りがヤバイな……

半年ほど前に、MAXコーヒーが飲みたくなったのだが(自分でもよくここまで我慢したと思う)、当然ない。

ならば作るしかないのだが、俺は《料理》スキルなど取っていない。

そこで白羽の矢がたったのがアスナだ。かなり熟練度を上げていたアスナに俺は頼んだ。

 

『俺が納得する味になるまでコーヒーを作ってくれないか』と。

普段からは考えられないが……一種の禁断症状みたいなものだったのだろう。

引き受けてくれたアスナに対し、お金を払おうとしたらいらないと言われ、またあの言葉。

 

『代わりにわたしの言うこと一つ聞いてね』

 

しぶしぶ頷き、結局完成したのは約一ヶ月後。

これでアスナの言うことを二つ聞かなければいけなくなった俺は、血盟騎士団副団長の立場を持つアスナに、立場的にもプライベートの面でも頭が上がらないのだ。

どんな命令されるんだ……とおののいていると、シリカが固まってどこか見ている。俺も同じ方向に目線を移すと隣の建物から四、五人のプレイヤーが出てきたところだ。

そのプレイヤー達は広場に歩いていったが、最後尾にいた女プレイヤーがこちらに近づいてくる。

赤い髪に槍使い……いや、邪推が過ぎる……か?

シリカにとって話したくない相手なのだろう。さっさと宿屋に入ろうとしている。

 

「あら、シリカじゃない」

 

しかし声を掛けられて無視するわけにもいかないのか、仕方なく立ち止まっている。

 

「……どうも」

 

「へえーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね」

 

……会話から察するにどうやら元パーティーメンバーだろう。

見た目は赤い髪を……なんだ?アップ?にしていて、口紅でも塗っているのか唇も紅い。一言で言えばケバいオバサンだ。

 

「でも、今更帰ってきたって遅いわよ。ついさっきもうアイテムの分配は終わっちゃったわ」

 

「要らないって言ったはずです!――急ぎますから」

 

会話を切り上げようとするシリカだが、しつこく話し掛けてくる。

 

「あら?あのトカゲ、どうしちゃったの?」

 

トカゲ、はシリカの使い魔であったフェザーリドラのピナ(という名前らしい)を指しているのだろう。

俺は使い魔に詳しくはないが、使い魔はストレージに収納したり何処かに預けたりはできないらしいので、テイマーの近くにいないなら答えは一つだ。

 

「あらら、もしかしてぇ……?」

 

底意地の悪い笑みだ。だんだんと俺が森にいた目的の相手かもしれないと疑う。

 

「死にました……。でも!」

 

キッと名前が分からないオバサンを睨んでいる。

 

「ピナは、絶対に生き返らせます!」

 

オバサンは愉快痛快といった様子で笑っていたが、僅かに目を見開き口笛を吹く。

 

「へえ、てことは《思い出の丘》に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略できるの?」

 

「できる」

 

あまり口を挟みたくないが、恐らくコイツ……

 

「別に難易度的には不可能じゃないしな」

 

実際シリカのステータスはレベル+装備の性能で五十レベくらいあるだろう。俺が……というより、攻略組がだれか一人ついていけば不可能じゃない。

しかしオバサンは俺を値踏みするように眺め、再び嘲るような笑いをする。

 

「あんたもその子にたらしこまれたクチ?見たトコそんなに強そうに見えないけど」

 

人を見た目で判断するんじゃねえよ……俺はロリコン認定でもされてんのか?あん?

 

「心配どーも。別にたらしこまれてないし、少なくともアンタよりは強い。じゃーな、オバサン」

 

久しぶりにムカつく奴に会ったため、若干イラつく。クラスの上位カーストの連中が下位カーストを見るときと同じ目だ。知らず知らずのうちに見下して、自分が上だと信じて疑わない。

しょせんそんなものは砂上の城、馬の耳に念仏、猫に小判、豚に真珠、ただのハリボテでしかないのに。

そういう風に群れていることが強いと思い込んでいる奴が、俺は嫌いだ。

 

「ま、せいぜい頑張ってね」

 

俺の皮肉に対する精一杯の強がりの声を背に、俺とシリカは《風見鶏亭》に入った。




次回!『いざ、思い出の丘へ』です!

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