ソロアート・オフライン   作:I love ?

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はい、投稿遅れてスイマセン……
スイマセンとは変わって、祝!お気に入り登録数八百件突破!!これからもソロアート・オフラインをよろしくお願いします!!
あとサブタイトルつけたんですけどどうですか?不評なら消します。
そしてようやく!プログレッシブ一巻が!終わりました!よく書いたな……自分。
色々ごちゃごちゃになってしまいましたが、第三十五話、どうぞ!


どんなことも、自分への因果応報である。

主亡き部屋が何回目かの静寂に包まれる。誰も喋らない、いや、喋れない。

しかしそんな中で口を開いたのは、シヴァタの隣にいたリンド隊のメンバーだ。

 

「……し、死人が出たんなら……こいつもう、詐欺師じゃねぇだろ……ピッ……ピ……」

 

そこから先はまるで言えないかのように言葉を切る。しかし、詐欺の被害に遭った緑隊のプレイヤーが言葉を続けた。

 

「そうだ!!こいつは人殺しだ!!PKだ!!」

 

PK。PKとは数多あるネットゲーム要語の中でも最も有名なものの一つだろう。その意はプレイヤーキル、またはプレイヤーキルをするプレイヤーキラーの略だ。

SAOは、最近のMMORPGにしては珍しく、プレイヤー間でのPKができる……いや、この状況だとできてしまう、か。

一ヶ月間のベータテストの間では、競いあいながら上を目指しており、プレイヤー対プレイヤーのデュエルも少なからずあったらしい。

ちなみに、一層のリトルペネントの時にキリトがされた(とクエストをクリアしてから聞いた)のはモンスタープレイヤーキル……通称MPKという。MPKの最たる例はタゲをとったモンスターから逃げ回り、他のプレイヤーに擦り付けて殺す、というのがベータ時代に(MPK自体あまりなかったそうだが)一番使われていた方法らしい。

キリト曰く、MPKをしてきたやつはクエストアイテム目的で、生き残るための消極的な行為だった、と言っていた。

序盤のスタートダッシュが落ち着いた今、そんなことは起きない、いや起こしてはいけないのだ。この世界で死ぬことは現実でも死ぬことと同義なのだから。

そもそもPKができるのは圏外……つまりフィールドだけなのだ。現在は二層までしか(他のプレイヤーは三層開通の事実をしらないため)開通していないため、ミドルプレイヤーは存在しない。つまり、現在フィールドに出るのは攻略プレイヤーしかいないのだ。攻略プレイヤーをPKすることは攻略が遅れるということであり、アインクラッドからの開放も遅れるということなのでPKしても得がないのだ。

頭に血が上っているのか、こんな簡単なことにも気づかず緑隊のダガー使いは叫ぶ。

 

「土下座くれーで、PKが許されるわけねぇぜ!どんだけ謝ったって、金を積んだって、死んだやつは帰ってこねーんだ!どーすんだよ!お前、どうやって責任とるんだよ!言ってみろよぉ!!」

 

ナイフで金属を引っ掻いているような金切り声でダガー使いは叫ぶ。そんな糾弾の声を全て受け止めたネズハは身を縮こまらせながらか細い声で言った。

 

「皆さんの……どんな裁きにも従います」

 

またもや部屋が静まり返る。《裁き》という言葉の意味、それがどんな重みを持つのかを初めて認識したのだろう。そして――この世界では明確な法律がないため、集団が法律なのだ。ヒートアップしているプレイヤーでは冷静な判断ができない。割り込む気はないが、人命が懸かるかもしれないなら話は別だ。

故に俺は先に声を出して、割り込もうと思ったが、遅かった。

 

「なら、責任とれよ」

その言葉はそんなに意味を持たないものだったが、導火線に火を点ける役割を果たしたようだった。

一斉にプレイヤー達はネズハに謝罪をしろという言葉や償いをしろという言葉があちらこちらから聞こえてくる。

 

「そうだ、責任とれ!」

 

「死んだ奴に、ちゃんと謝ってこい!」

 

「PKなら、PKらしく終われ!」

 

謝れ、から終われ、までボルテージを上げたプレイヤー達の声は、遂に分水嶺を超える。

 

「命で償えよ、詐欺師!」

 

「死んでケジメつけろよ、PK野郎!!」

 

「殺せ!クソ詐欺師を殺せ!」

 

この言葉の怒りは大半は詐欺による怒りではなく、ソードアート・オンラインというデスゲームそのものへの怒りをぶつけているのだろう。

ニュースで詐欺師が人を騙し、騙された赤の他人が自殺した……などということを聞いて、詐欺師を殺してやると思う人が何人いるだろうか?

デスゲームが始まって三十八日目。クリアした層は僅か二層。この絶望的数字がもたらす抑圧が、自分達を正義にでき、悪を糾弾できる、という名目で怒りをぶつける機会を得て、遂に爆発したのだ。

こんな状況になったら、さすがに両隊リーダーもエギルももちろん俺にも止める手だてはない。あるとすれば――

ブレイブスの方を見ると、さすがにネズハを責めることはしていないが、全員顔をうつむかせてネズハから目を逸らしている。こうなることを、強化詐欺がバレることを全く考えていなかったのだろう。

そして、黒ポンチョの男から教えてもらったと言っていた強化詐欺。見返りは何もいらないと言っていたそうだが、そんなことはあり得ない。人間は感情をひた隠しにし、計算と打算で動く生き物なのだから。しかるに、黒ポンチョの男が望んだのは、この状況なのではないか――?

しかし、この状況を作り出した原因の一端は俺にもある。戦闘職への移行を勧めなければこの状況はなかったのだから。贖罪をしろと言われたならそれは妥当な判断であり、当然の報いと言えよう。しかし死ねというならば止めなくてはならない。

どうやってこの場を収め、人殺しをしようとするのを止めさせればいいか考えていると、ブレイブスの五人が動き始めた。

がしゃっがしゃっと金属製の鎧を鳴らし、広場を横切り、ネズハに近づいていく。うつむいているため、表情は窺えないが、ずっと無言で歩いている。

ブレイブス五人のただならぬ気配を感じたのか、ネズハを半円に取り囲んでいたリンドとダガー使い、シヴァタは道を譲る。

かつての仲間の気配を感じているであろうネズハは動かない。ただただ両拳を床につき、頭を垂れた姿勢のままだ。正面に置かれているチャクラムを挟んで立っていたオルランドだったが、やがて右手を左腰に当てる。キリトとアスナの二人が小さく息を漏らす音が聞こえた。

やがてガントレットを着けている右手は柄を握り、じゃっ!とキリトと同じ――いや、それ以上に強化されているであろうアニールブレードを抜き放つ。あんなものが軽装な――しかも、無防備なネズハの背中に降り下ろされれば、僅か三、四回でネズハのHPを削りきるだろう。

 

「……オルランド……」

 

低い声で聖騎士(パラディン)の名前を呼ぶ。

もし仮に、アニールブレードがネズハの背中に降り下ろされようものなら、俺にはそれを止める責任がある。

少し前傾体勢になって右足に体重をかけ、いつでも走り出せるようにしておくと、二人も同じような体勢をしていたので囁きかける。

 

「お前らは動くな」

 

すぐに返事は返ってきた。

 

「「嫌」」

 

いつもならここで俺が引き下がるところだが、今回はそういう訳にはいかない。

 

「ダメだ、動くな。こんなことをしたら攻略部隊にはいられなくなる。そして攻略するにはお前らの力が必要なんだ」

 

「それでもよ。言ったでしょ?わたしは、わたしでいるためにはじまりの街を出たの」

 

「エイトだって攻略には必要不可欠なんだよ?」

 

「……そんなことはねぇよ」

 

そこまでの覚悟があるなら俺には止める権利などない。

いつの間にかボス部屋は静まり返り、誰もがブレイブスの行動に固唾を呑んで、決定的瞬間を待っていた。

その時、周りはなんの反応も示していなかったから聞こえなかったのだろうが、確かに俺には聞こえた。

 

「……ごめんな。……ほんとにごめんな、ネズオ」

 

すると聖騎士は、片手剣をチャクラムの隣に置いて、ネズハと同じ方向を向いて膝をつく。被っているバシネットを床に置き、両手も床につく。

続いて、ベオウルフ、クフーリン、ギルガメシュ、エンキドゥの四人もそれぞれの獲物と兜を床に置き、横一列に並び、それぞれ床にひざまずく。

静寂の中、誰もがブレイブス五人の行動に呆然としながら見下ろしている。

やがて、わなないているが毅然としているオルランドの声がコロシアム中に響いた。

 

 

 

「ネズオ……ネズハは、オレたちの仲間です。ネズハに強化詐欺をやらせていたのは、オレたちです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……なんでわたしたちが使いっ走りみたいなことをしなきゃいけないのよ」

 

「……俺の学校の先生曰く、上からの命令に理由を求めちゃいけないらしいぞ」

 

いや、あれはホントに聞きたくなかった。嫌だ、絶対に働かない。

 

「そ、そうなんだ……でも、実際エギルが気を利かせて入れてくれたパーティーだしねぇ……」

 

「あー、まあそうだな。何かお礼した方がいいのか?」

 

そう言うと二人は驚いていた……なんで?

 

「……な、なんだよ?」

 

「いや……ただあなたの人付き合いスキルの熟練度も上がってきてるのかって思っただけ」

 

失礼だな……俺は人に迷惑をかけないんだぞ?それが俺の人付き合いなんだ。

 

「お前に言われたくねぇよ……一層でパーティー組まずにぶっ倒れたッ!!」

 

あ、危なッ!!レイピア抜きやがったコイツ……

 

「ま、まあ、なんにせよネズハからベンダーズカーペットを貰ったんだから、エギルに渡すよ……純戦闘職プレイヤーには無用の長物だからな……」

 

階段をカツカツ鳴らしながら、一層の時のよく言えば遊撃部隊、悪く言えばみそっかす、または余り者である俺達三人は歩いている。

俺達が指揮官リンドから言われたのは、メッセージが使えない迷宮区を脱け出し、二層クリアの一報を待っているプレイヤーに届けることだ。

本来、この仕事は青隊、緑隊リーダーがする仕事だが、迷宮区を脱け出せない――わけではなく、単にブレイブスの処遇について話し合っているのである。

まあ、処遇についてはあまり心配していない。

ブレイブス五人――いや、六人の死を攻略プレイヤーは見たい訳でもなく、賠償は自分達の装備を売ってする、と言っていた。

それでも死んでしまった人は帰らないため、ちゃんと死んでしまった人の仲間などに謝りに行くらしい。……まあ、装備の換金方法に悩んだレイド隊メンバーは、やはりプレイヤーの手で買い取るのが確実だ、ということで意見が纏まり、SAOプレイヤーの中で、強い装備が一番必要な攻略プレイヤーが集まっている今のうちに買い取ってしまおう、ということでボス部屋は一時的にオークション会場になっていて、誰がどの武器を買おうか話し合っているのが長引いてる原因なのだが……。

キリトとアスナは革装備のため、あまり食指が動かなかったようで、俺はちゃっかりオルランドのアニールブレードを買っていた。久しぶりだぜ、この感触ゥ!とか言って二人から白い目で見られて新しい黒歴史を作ってしまったのは余談だ。

 

「詐欺事件はどうにか収まりそうとして……ネズハさんとブレイブスはこれからどうするのかしら」

 

ブーツで階段を小さくカツカツ鳴らして、歩きながらアスナが訊ねたため、キリトが少し考えてから答えた。

 

「彼ら次第……じゃないかな。最前線に強化詐欺の噂が広まるのは止められないとして……そこからはじまりの街にでも逃げるか、踏ん張って一から攻略部隊を目指すかは彼ら次第だしね」

俺がキリトの言葉に更に捕捉をする。

 

「……少しリンドに聞いたんだが、もしブレイブスが攻略部隊を目指すなら最低限のコルは戻すらしいぞ。……まあ、なんにせよ、ブレイブスがネズハをお荷物扱いするのはもうないんじゃないか?」

 

「ふうん……。――正直、オルランドさんにはまだちょっと複雑なものがあるけど……でも、前線に戻ってきたなら、その時は一緒にやっていけるよう努力するわ。あなただって、リンドさんやキバオウさんとそこそこ上手くやってるようだし」

 

キバオウ……キバオウ?あっ、あの関西モヤットボールのことか。

 

「……いや、あれは上手くやってるというより、嫌悪し過ぎて自分の敵になることを嫌がってるんじゃないか?」

 

「へー、じゃあエイトはどっちかに入る気はあるの?」

 

首を横に振るジェスチャーをしながら、キリトの質問に答える。

 

「いや、ないな。そもそもビーターなんて呼ばれている俺は入れてもらえないだろうしな。入る気もないし」

 

はっきりと否定すると、アスナが何かに気づいた様子をしていた。そのまま俺にジト目を向けてくる。

 

「……ど、どないしましてん?」

 

……言葉づかいがおかしくなった……

 

「……そう言えばビーターさんはナト大佐、バラン将軍、アステリオス王のLAを全部取っていったなって思っただけよ」

 

「あっ……そう言えば」

 

アハハ〜、嫌だなー二人とも。偶然に決まっているじゃないか。……ホントによく三つもLA取れたな……俺。

 

「で?何が出たの?」

 

「私も聞きたい」

 

「えっ?いや、うん……あっ、出口だな」

 

出口に向かって走り出す――もとい二人から逃げる俺。

二〇二二年、十二月十四日、水曜日。

――二層クリア。

 




次回!『月夜の黒猫団との出会い』です!

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