さて、一日一話投稿って大変ですね……日付変わってますけど(笑)
それと、一話ずつタイトル付けた方がいいんですかね?
あと、後半は原作の引用が多くてスイマセン……
愚痴と疑問と反省をこぼしながらも書き上げた第三十四話、どうぞ!
「終わった……」
迷宮区ボス部屋に大の字で寝っ転がっている俺は、ポーションを取り出す気にもなれなかった。
……人を足場にするのって、結構酷くね?おかげで二回目の死が見えたよ。
二人がこっちに歩いてきたため、新しい不名誉な称号(スカートを覗いたなど)を貰わないために体を起こす。
「コングラチュレーション」
さすがにボス戦で聞き慣れたエギルの祝福の声が投げかけられた。
座っていた体勢からしっかりと両足で立ち、声のする方に向くと、やはりエギルの姿があった。今まで見た中で一番デカイ右手をサムズアップしてくるので、適当に右手を挙げてヒラヒラして返事をする。
「相変わらず見事なコンビネーションと剣技だった、二人とも。エイトは……うん、頑張っていたな。だが、今回の勝利は、あんたらじゃなく彼のものだな」
……オブラートに包んでるけど、踏み台にされて憐れだなぁとか思っているんだろうなぁ……俺もまさか踏み台にされるとは思わなかったわ……
「うん、そうだね。彼が来てくれなきゃ十人以上が死んでいたかもだしね……」
死んでいたかものところで俺に目を向けるが……え?俺が何かしましたか?
「エイトだって死んでいたかもしれないんだよ?」
……あー、そういうことか……一層の時にも言われたしな……
「いや、あのな?キリ「エ・イ・ト?」はい、スイマセンでした……」
……男という生き物は、美人の笑みには勝手に惚れて勘違いし、怒っているときは逆らえず、世間からの男が働かなきゃいけないという認識が強いんだろうなぁ……最後は関係ないか。あとキリト、お前達のせいでレッドゾーンになったんだからな……怖いから口には出さないけど。
俺がキリトの怒った顔に屈服していると、一際大きな歓声が聞こえたので視線を移す。すると、リンドと……関西モヤットボールが右腕をガッチリと絡ませていた……言葉で説明すると、特殊性癖者(海老名さんが好きそうな)のように聞こえるが、多分そんなことはない……と思う。一時のテンションだろう。
ダメだよ、一時のテンションに身を任せちゃ。俺みたいな目をした銀髪天パ侍も言ってたでしょ?「一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼす」って。
「なんだ、案外仲いいんだね……」
「どうせ、三層に登るまでのことでしょうけどね」
身も蓋もない言葉だが、事実なんだよなぁ……
何はともあれ、これでようやく二層は突破された、ということだ。死者はゼロ……と言えば聞こえはいいが、実際は壊滅(ワイプ)と紙一重だったのだ。俺も死にかけたしな……二回も。
今回のボス戦での教訓は二つ。
一つ、これからはフロア最後の村、または街にあるクエストは全てやること。
二つ、これは特にベータテスターに対してだが、一層、二層のボスの傾向からして、三層以降のボスも何かしら変更点があるだろうということだ。
ゆえにこれまで以上に情報を収拾したり、偵察戦をする必要があるが、後者は簡単ではない。ほとんどのボスは奥まで踏み込むか、キーオブジェクトを破壊する必要がある(らしい)からだ。
つまり、だ。これからは《鼠》とチャクラムを持っているネズハが重要になり、俺が偵察戦をする可能性が高いのだ。
そういえば《鼠》が見当たらないと思い辺りを見回すが見つからない。どうやらハイドしているらしい。
あのやろう……俺のことを《女たらし》なんてエギル達に広めたの多分あいつだろ……
《鼠》にどう報復するかをシュミレーションして、返り討ちに遭う結果しか浮かばないので諦める。
ガサゴソとポーションをポーチから取り出そうと漁っていると、ネズハと二人がお互いに健闘を讃えているのが聞こえた。
「お疲れさまでした。キリトさん、アスナさん。最後の空中ソードスキル凄かったです」
「ありがとう……でも、私にはLAきてないんだよね……アスナはどう?」
「わたしもない……」
ここで俺の方に三人の視線が向く(うち二名はジト目)が、華麗にスルーしてブレイブスの方に向くと、三人も視線をブレイブスに向ける。
ブレイブス達五人は、誇らしげな顔をして、オルランドはリンドと、ベオウルフは関西モヤットボールと、他の三人は幹部級プレイヤーと握手を交わしている。
そんな勇者達を見て、キリトが口を開く。
「……ネズハ。君もあそこに居ていいんじゃないの?」
しかしこの戦い最大の功労者であろうネズハはかぶりを振った。
「いえ、いいんです。僕にはもうひとつ……やらなきゃいけないことがありますから」
やらなきゃいけないこと。それは恐らく……
「え?何を?」
キリトが疑問の声を出している時に、本隊から三人こちらに歩いてくる。
一人は確か……リンド隊のシヴァタで、その隣を歩いているのも青カラーの服を着ているが、もう一人は緑カラーだ。表情は揃って固い。
「あんた……何日か前まで、ウルバスやタランで営業してた鍛冶屋だよな」
「……はい」
肯定の言葉。やはりネズハは強化詐欺をしたことをバラし、一人で罪を償うつもりなのだ。
「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ?しかも、そんなレア武器まで手に入れて……それ、ドロップオンリーだろ?鍛冶屋でそんなに儲かったのか?」
……実際にはレア武器でもそんなに高くないらしいけどな。
そんな言葉を呑み込む。俺はネズハを擁護する気も庇護をする気も弁護する気もない。あいつが……いや、正確にはブレイブスだが、強化詐欺をしたのは変わりがないのだから。ブレイブスの分まで贖罪をすると言うなら、それをあれこれ口出しする権利は俺にはないのだ。
シヴァタの言葉に静まり返るボス部屋。そんな中、ネズハはチャクラムをコトリ、と床に置き、両膝を曲げ、手を地面に着ける……所謂土下座の体勢だ。
「……僕が、シヴァタさんと、そちらのお二人の剣を、強化直前にエンド品にすり替えて、騙しとりました」
さっきよりも静かな、耳が痛くなるほどの静寂がコロシアムを包み、シヴァタ以外の二人は顔を真っ赤にする。
SAOは現実のプレイヤー達の姿を正確に再現しているが(なにせ俺の腐った目すら再現している)、感情表現においてはいささかオーバーと言わざるを得ない。少し怒ったくらいでぶちギレたかの様に額に血管が浮かび、顔が真っ赤になったり、少し涙を流しそうになったら号泣したりするのだ(俺は経験がないが)。
そんな環境で、僅かに眉間にシワを寄せただけのシヴァタの自制心は見事と言わざるを得ない。他の二人は爆発寸前だというのに。
実際に経った時間に比べて長く感じた沈黙は、シヴァタの声によって破られた。
「……騙し取った武器は、まだ持っているのか?」
土下座の姿勢のまま、ネズハは頭を左右に振る。
「いえ……。もうコルに替えてしまいました……」
そこまでは予想できていたのか、シヴァタはそうか、と呟いただけだった。
「なら、金での弁償はできるか?」
……無理だろう。詐取した武器は金に替えた、ネズハはブレイブスの一員、ブレイブスのデバフレジストが高い装備、そして、装備の強化は金があれば幾らでもできる(ただし強化試行回数を除く)……この四つから導き出されるのは、金は全てブレイブス……正確にはオルランド達の装備の強化代として消えた筈だ。
「いえ……弁償も、もうできません。お金は全部、高級レストランの飲み食いとか、高級宿屋とかで残らず遣ってしまいました」
案の定ネズハは金がないと告げた。だが、視覚に異常が出て、ブレイブスの足手まといになった罪滅ぼしなのか、本当の理由は話さない。
ここで遂に、リンド隊の大柄な男が堪忍袋の緒を切った。
「お前………お前、お前ェェ!!」
何回も右足のブーツで床を蹴るリンド隊の男。
「お前、解ってるのか!!オレが……オレたちが、大事に育てた剣壊されて、どんだけ苦しい思いしたか!!なのに……オレの剣を売った金で、美味いもん食っただぁ!?高い部屋に寝泊まりしただぁ!?あげくに、残りの金でレア武器買って、ボス戦に割り込んで、ヒーロー気取りかよ!!」
色々違う事実があるが、叫んでいるリンド隊の男が知るよしもない。
続けて、緑隊のプレイヤーが叫ぶ。
「オレだって、剣なくなって、もう前線で戦えないって思ったんだぞ!そしたら、仲間がカンパしてくれて、強化素材集めも手伝ってくれて……お前は、オレたちだけじゃない、あいつらも……攻略プレイヤーも全員裏切ったんだ!!」
……武器がなくなって、前線で戦えなくなると思った気持ちだけは解る。実際、俺もアニールブレードを失って戦えないとまでは言わないが、二層での戦いは一層の倍くらいキツかった。
その言葉が起爆のスイッチの様に――。
――裏切り者!!
――自分が何をしたか解ってるのか!!
――お前のせいで攻略が遅れたんだ!!
――今更謝ったって、何にもならねえんだよ!!
石が次々に投げ入れられる水面にできる波紋の様に罵声は次々と広がり、怒声が大きくなるのに反比例してネズハの体が縮こまる。
ブレイブスは何やら囁きあっているが、怒声が大きくて聞こえない。
俺は事の成り行きを見守るしかない。
事ここまで至れば、この怒声を一言で黙らせる魔法の言葉は存在しない。償えるとしたら、同額のコルか、同等な何か……例えば、命とか……
いや、さすがにそこまではないな。いや……そう信じたい。
ようやく、この場を収められる可能性を持つ二人――つまり、各隊のリーダーだ――の内の一人で、レイドリーダーのシミター使い……リンドが歩いてくる。
さすがにリーダーが出張ると徐々に声が小さくなっていき、会話ができるくらいになった。そんな中、シミター使いは口を開く。
「まず、名前を教えてくれるか」
レイド隊メンバーに入っていないネズハは、名前を知られていない。リンドは頼むような口調だが、この場において悪であるネズハに拒否権はない。
「……………ネズハ、です」
ネズハが自分のことをナタクと言わなかったのは、俺の時みたいに英雄の名前だとバレない様にして、ブレイブスと関係がないと思わせるためか、単に自分ではナタクと名付けたつもりだが、他の奴らからはネズハと呼ばれるつもりで付けた名前だからかは定かではないが、リンドは二、三回頷いてから続ける。
「そうか。ネズハ、お前のカーソルはグリーンのままだが……だからこそ、お前の罪は重い。システムに規定された犯罪でオレンジになったなら、カルマ回復クエストでグリーンに戻ることもできるが、お前の罪はどんなクエストでも
まさか――――。
俺が危惧したものは、今のSAOでは絶対に越えてはいけない一線だ。
「お前がシヴァタ達から奪ったのは、剣だけじゃない。彼らがその剣に注ぎ込んだ長い、長い時間もだ。だからお前は……」
そこまで聞いて、心配は杞憂のようだ、と肩の力を抜く。恐らくリンドはこれからのゲーム攻略の貢献と、収入からの定期的な賠償を要求するつもりだろう。
しかし。
その声は遮られ、誰かが叫ぶ。
「違う……そいつが奪ったのは時間だけじゃない!」
そう言って走り出てきたのは、緑服――つまりリンド隊ではないということだ――を着た痩せている男が、今までの誰よりも悲痛な声で、プレイヤー達の暴走を止められなくなるであろう一言を言い放つ。
「オレ……オレ知ってる!!そいつに武器を騙し取られたプレイヤーは、他にもたくさんいるんだ!!そんで、その中の一人が、店売りの安物で狩りに出て、今までは倒せてたMobに殺されちまったんだ!!」
それは、鍛冶屋――いや、強化詐欺師ネズハが間接的とはいえ、人を殺したという事実だった。
次回!『英雄達の謝罪』です!