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それでは、第二十一話です。どうぞ。
只今、ウルバス東広場にて隠蔽スキル発動中であります。
と、誰に言っているか分からない報告を心の中でしつつ、右を向く。
だから、何で一日に何回もキリトとエンカウントするの?
アスナと別れた後、俺は再びウルバス東広場に来ていた。
あの鍛治屋は若干キナ臭いため、念のため調べることにしたのだ。
そしたら……なんか、《コート・オブ・ミッドナイト》を着て、木にもたれ掛かってるキリトがいた。
何やってんだ?アイツは。あっ、まさか大事な用ってこれか?
「………おい」
「うわあっ!!」
いや……驚き過ぎでしょ。腐った目が原因でグールにでも見えたのか?あん?
「いや………驚き過ぎだろ、お前」
「えっ?……なんだ……エイトか……」
なんだとはなんだ。
目的は恐らく俺と同じだろうが、少し意地が悪い聞き方をしてやる。
「で、何してんの?隠蔽スキルを使って男を尾行するのはいいが、程々にしとけよ?」
ちなみに、隠蔽スキルを使うと、《隠れ率》(ハイド・レート)という数値が出てくる。装備や後ろの光景、自分の身振りなどで細かく変わるのだが、俺はなぜか、いつも八十五パーセントは超える。
まあ、話が逸れたが、隠蔽スキルを使って人を見ているのは、尾行するときくらいなのだ。
「ち、違うよ!!い、いや、そうなんだけど……う〜っ」
おっと、少し弄りすぎた。少しフォローをしておこう。
「悪かったよ……お前もアイツを尾行しに来たんだろ?」
「そうだよ………う〜っ、エイトの意地悪……」
こら、頬を膨らませるんじゃありません。可愛いから。小町と戸塚ですら見たことないんだぞ。
「そういえば、も、ってエイトもなの?」
「ああ」
そんなことを話していたら、八時になった。と同時に、ネズハが店仕舞いを始めた。
火を落とし、インゴットを革袋に片付け、ハンマーその他道具を箱に仕舞う。次に看板を畳み、カーペットの上に横たえ、武器類も並べて、カーペットの隅をタップしたかと思うと、カーペットがクルクルと巻かれ、最終的には、一本の筒みたいになった。
――おお、便利だな、あれ。
しかし、カーペット自体をストレージには収納できないのか、右肩に担ぐと疲れているのか、ふうっ、と息を吐いていた。
とぼとぼといった様子で、ネズハは広場の南ゲートへと歩いて行く。
俺達もそれに伴い南ゲート方面へと、隠蔽スキルを使い歩いて行く。
俺がネズハを尾行しているのは、アスナを泣かせたからとかではなく、単純に怪しいからだ。
そもそも、俺がわざわざマロメからウルバスまで戻ったのは、『腕のいい鍛治屋がいる』と聞いたからわざわざウルバスに来たのだ。
腕のいい、と言われるからには決して成功率は、低くないはずだが、三本ヅノのときにあまりにも出来なさすぎじゃないだろうか。
ならば、特定の条件下において、必ず失敗するのではないか、と思い尾行しているのだ。
まあ、失敗させてどうするんだ、とかは全く推測できないが、それも兼ねての尾行という訳だ。
街道を七、八分ほど歩いただろうか。正直メンドクサイが、俺の武器も失敗させられたら困るため、尾行を続ける。
「はあ……飽きてきた。ダルい」
脳内で、ファイト、ファイト、ハ・チ・マ・ン。と自分自身を応援しつつ、周りを見ていると、ほぼ外壁近くまで来ていたらしい。
とぼとぼと歩くネズハは、ある建物の前で足を止めた。
【BAR】と書いてあることから、恐らく宿酒場だろうが、ネズハの様子が少しおかしい。
普通、仕事を終えて家(この場合は拠点)に帰るときは、もっとウキウキとした感じで帰るものじゃないだろうか。ソースは親父。
ネズハは、帰るのを躊躇うかのように、十数秒経ってからようやくドアを開けた。
――さて、ここからがよりメンドクサイ。
「………なあ、キリト。確か閉まったドアの向こうの話を聞くには《聞き耳》スキルがなきゃいけないんだよな?」
「う、うん……そうだけど……」
俺とキリトは、《聞き耳》スキルをとっていないため――――というか、こんな序盤でとっている奴なんかいないだろう――――ドアを開けて聞くしかない。
じわり、じわりと焦れったい程ゆっくりとドアを開き、十五度ほど開けたくらいで声が聞こえてきた。
「――――グーっと行けよネズオ、グーっと!どうせこっちの酒はいくら飲んでも酔わねーんだからさ!」
台詞とは逆に、かなりできあがっている男の声がする。他にもガヤガヤとうるさいくらいの音が聞こえる中、小さい声だが、ネズハの「う……うん」という声が聞こえた。
ぶっちゃけ、学生の飲み会みたいな感じでマジうざい。
ちょっとウンザリしたが、俺は一瞬だけドアの隙間から中を覗き見る。一パーティーの人数だった。別に不思議なことではないが、何かが少し引っ掛かった。
キリトは俺の後ろで他のプレイヤーが来ないか見張っている。
「……んで、ネズオ、今日の商売はどうだったん?」
「あ……う、うん。作成武器が十二個売れて……修理と、強化の依頼もそこそこ」
「おー、新記録じゃん!」
「またインゴット集め行かねーとな!」
別の男二人が言い、拍手の音がした。
ここまで何ら不自然なことはない。あるとすれば、ネズハが無理矢理合わせてる感じがするが、俺の知ったこっちゃない。
リア充的会話を聞いて疲れてきたのでキリトとバトンタッチすることにした。
「キリト、代わってくれ。疲れた」
「え?う、うん」
よし、頼まれてくれたので俺は見張りもといボーッとすることにした。
会話を聞く役を交代してから数分、或いは十数分経ったときに、キリトに「まだ終わらないのか?」と聞こうとしたときに、キリトは静かにドアを閉めて、俺の襟首を掴み、俺を盾にするかのように街路樹に張り付いた。
図にすると、
木
キリト
俺
ドア
みたいな感じだ。
耳元で、
「隠蔽スキル使って!!早く!」
と小言で言われてこしょばゆかったが、大人しく発動。と同時に、酒場のドアが弾かれるように開いた。
出てきたのは酔っていた男だった………と冷静に解説しているが、キリトの両腕が俺の腰をガッチリホールド。胸が胸が胸が胸が胸が……
お、落ち着け、俺。煩悩退散煩悩退散煩悩退散……
頭でお経のように唱えながら、男の方を見ると、こちらを見ていた。
マズイ。このままでは隠れ率が下がって見つかってしまう。
「キ、キリト。木の裏側にゆっくり行くぞ」
指示を出して、俺のうなじの辺りに、僅かに頭を上下に振った感触があったので、左回りに徐々に徐々に木を回っていき、裏についたときに再び、バタンという音が聞こえた。
「ふう………」
バレなかった。さすが俺、まじステルス。と自画自賛していると、背中の感触がまだなくなっていないのに気づく。
「キ、キリト……もう大丈夫だから、離してくれ……」
「えっ?………わああっ!ゴ、ゴメン!」
ホールドしていた両腕を離し、ようやく開放される。
さて、特に収穫なかったがどうするか……
キリトも何やら考えている。と思ったら、急に声を上げる。
「あっ……」
?何か気付いたのか?
何に気付いたのか聞こうと口を開こうとするが、キリトの方が早かった。
「まだ、間に合うはずっ………!」
そう言ってキリトは走り出した――――俺の襟を掴んで。
あれから数分走った俺達は、(道案内させられて)アスナがいる宿屋に来ていた。
「エイト!アスナの部屋は何号室!?」
「わ、わからん……」
言うとキリトは中に入って行く。どうやらしらみつぶしらしい。
で、アスナが居るのは二〇七号室だと判明。キリトがノックして声を掛ける。
「アスナ!?急いでるから、もう開けるね!」
「えっ?ちょ、まっ……」
キリトがドアを開けた先に居たのは――――
見てない、俺は見てない。上はノースリーブ、シャツ、下は同色の短パンみたいなものしか履いてないアスナなんて見てない。
そんなバッチリ見てしまったのを証明する心の声が聞こえたかのように、アスナは「キャアアアアア!」という金切り声を響かせ――――再び俺の体からドゴッ!という音がし、背中に衝撃。
――――一層のときも、今も、俺、悪くなくね?と思いながら、俺の意識は暗転した。
次回!『キリトの仮説』です!