ソロアート・オフライン   作:I love ?

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お気に入り数、三百件突破!!いや、まさか思いつきで書いた作品がここまでいくとは……
今後も、ソロアート・オフラインをお願いします!
テスト勉強したくない……
あと、一つ謝罪で、後書きの予告は、結構な頻度で外れますので、大まかな目安だと思って下さい。
長文失礼しました。
それでは第二十話、どうぞ!!


武器は砕け散り、比企谷八幡は覚悟を試す。

キラキラと光る硝子の破片は、アスナの相棒――ウインドフルーレの破壊を示していた。

 

「……は?」

 

アスナはもちろん、俺、キリト、ネズハまでもが驚いていた。

――強化をして、武器が壊れるだと?

武器が壊れる条件は、俺のアニールブレードがそうだったように、耐久値が無くなるくらいしか俺は知らない。

アスナはおろか、キリトが驚いているところを見ると、可能性は三つ。

ベータ時代からの変更点か、単に俺達が強化で武器が壊れたことがないか、――或いは故意か。

ここまで考えて、最初に起動したのは、鍛治屋ネズハだった。

 

「す……すみません!すみません!手数料は全額お返ししますので……本当にすみませんでした……!」

 

ネズハは謝罪を連発するが、当事者のアスナが動かないので、代わりに俺が応える。

 

「あー、その、その前に説明してくれないか?……強化で武器が壊れるなんてこと、あるのか?」

 

その言葉にそろそろと顔を上げるネズハ。

その顔は申し訳なさそうな顔だが、ここで俺が「もういい」などと言ったら………考えたくないな。

それはそうと、この『武器消滅』(仮称)が、ベータからの変更点なら俺に違いは判らない。

キリトにチラリと目配りする。

キリトは理解したかのように一度頷くと、ネズハに聞く。

 

「あ、あの〜、私、ベータテスト出身なんだけど……こんな武器強化失敗ペナルティあったっけ?」

 

この言葉から、キリトがベータテスターだということがバレてしまうが、その時に糾弾されるようなことがあれば、悪のベータテスター(とされている)たる『ビーター』の俺がキリトを利用した、とでも言えば、少なくともキリトへの糾弾はなくなるだろう。

しかし、そんな心配は杞憂だったようで、ネズハはキリトの質問に応える。

 

「あの……正式サービスで、四つ目のペナルティが追加された……のかもしれません。ウチも、前に一度だけ……同じことがあったんです。だから、確率は、すごく低いんでしょうけど……」

 

正式サービスで追加された、出る確率が低い、四つ目の武器強化失敗ペナルティ?

……そりゃまた、いろいろてんこ盛りのペナルティだ。

是非ともそのもう一人のプレイヤーを教えてほしいな。

 

「……なあ、その四つ目のペナルティが起きた、もう一人のプレイヤーを教えてくれないか?」

 

するとネズハは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに困り顔になった。

 

「す、すみません……」

 

「……そうか」

 

まあ、元々知ってたらなー、くらいの気持ちで聞いたから期待はしてなかったが……

 

「あ、あの……本当に、何とお詫びすればいいのか……。――同じ武器をお返しします。と言いたいのですが……あいにく《ウインドフルーレ》は在庫がなくて……。せめて……ランクは下がっちゃうんですけど、《アイアンレイピア》をお持ちになりますか……?」

 

これには俺ではなく、未だに俯いている、灰色のローブを被ったレイピア使いが答えるべきだが……

 

「……いや、いい。こっちがなんとかする」

 

実際に見たが、《アイアンレイピア》は、俺が武器を選んだ――といっても、初期装備の片手剣のままにしたが――一層のNPCのショップにあった。二層で使うには心許ない。

最低でも、俺が使うスチールブレードくらいのランクはないと、最前線で戦うにはキツいだろう。

実際、俺もスチールブレードでは若干キツい。

それに、武器強化失敗のリスクは鍛治屋ではなく、依頼者が負うべきものなのだ。

あんなに荒れていた、三本ヅノだって最終的には、自分(達)でもう一度アニールブレードを取りに行くと言っていたのだ。

若干キナ臭いが……非はこちらにあるだろう。

しかし、それでもネズハは賠償しようとする。

 

「あの……それでは、せめて手数料の返金を……」

 

だが、今度は俺ではなく、キリトが押しとどめる。

 

「い、いや、大丈夫ですよ!一生懸命ハンマーを振ってくれたわけですし……」

 

何の気なしに言った言葉なのだろうが、ネズハはビクッと首を縮める。

身を縮こませ、絞り出すように言う。

 

「……すみません……!」

 

何回も聞いた謝罪の言葉だが、より一層悲痛な言葉だった。

その言葉を聞いてしまえば、こちらは何も言えない。もとより非はこちらにあるのだから。

とりあえず場所を移動しようとした。

その時初めて、摘まんでいるだけだった細剣使いの右手が俺の左手を握っていることに気づいたが、今回はアホな感想も、不安も、殺気もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルバス東広場を北に歩く。この辺りにはNPCショップやレストランが少ないからか、プレイヤーの姿は見えない。

というか、見られたらヤバイ。

意気消沈している女性プレイヤーの手を引いて、目が腐った男性プレイヤーが宿屋しか辺りにない通りを歩いている……。

……思春期の男子中高生なら分かるだろう。

ちなみにキリトは、

 

「……私が居ても、意味ないと思うから、エイトがいてあげて」

 

だそうだ。

あと、なんか大事な用ができたらしい。

つまり、二人きりだ。

幸いにも、この空気のお陰で手を繋いでいることには緊張しないが、この重い空気に緊張している。

……こんなに空気が嫌なのは、小学生のときにクラスの奴らに謝罪コールされたとき以来だ。

重い空気の中歩いていると、ベンチがあった。

おお……幸運バフは切れているが、幸運はまだ続いていた……

今だけは、ベンチが救いの女神に見えた。

ここは、コミュ力マイナスカンストのスキル熟練度と、目には見えないMPを使って言うべきだ。

 

「あ、あの〜アスナさん?とりあえずベンチに座りませんか?」

 

この誘いの意図を察してくれたのか、細剣使いは体の向きを変え、音もなく腰を下ろす。手が握られたままなので、俺もその隣に座ったかと思うと、アスナは握っていた手を離し、離した手は力なくベンチの上に置かれる。

再び重い空気になるが、一層のとき、あんな大人数のなかで発言して、上方修正されているコミュニケーションスキルで話しかけてやる!!

と内心大博打を打つ気持ちで、俯いているレイピア使いに話しかける。

 

「あ、あの、ウインドフルーレは壊れたけど……あれよりいい武器ならもっとあるはずだぞ?」

 

一層で入手できる武器と二層で入手できる武器なら、当然二層の武器のほうが強いだろう。

……それがRPGというものだ。

 

「…………でも」

 

そのか細く、小さい声でアスナは続ける。

 

「でも、あの剣は……わたし、あの剣だけは……」

 

ふと、アスナの方を見るとキラキラと光る雫がアスナの顔から何滴か落ちていた。

……最後に女子の涙を見たのは、小町が家出した時だった。

相模は自業自得だから例外だ。泣かせたのは俺だが、悪いとも思っていない。

俺は、アスナがなぜ泣いているのか、理解できなかった。いや、理解はしているが、コイツが涙を流している理由が信じられないのだろう。

………やはり俺は、何度自分を戒めても治らないのだろう。

俺は勝手にアスナのことを剣に思い入れがないタイプだと理解した気でいたのだ。実際は真逆だったというのに。

昔はそういうタイプだったのかもしれないが、今は違うらしい。

一体何がコイツをここまで変えたのかは知らないが、今ここでアスナは涙を流していることは事実なのだ。ならば、俺が口を出すには充分だ。

 

「……けど、一つ聞くぞ?お前は、これからも最前線で戦い続けるのか?」

 

そう問うと首を動かし首肯する。

 

「……なら、遅かれ早かれ武器は替えなきゃならないんだ。……それはRPGの宿命なんだ」

 

今までのゲームだったら、武器に愛着なんて湧かないかもしれないが、VRMMORPG――それもSAOだと特に違う。

……ここはもう一つの現実……いや、異世界と言った方が的確か。俺達は、ラノベによくある異世界転生ものの主人公達のようなものだ。武器は自分にとっては命を預けた相棒なのだろう。

けれど、人は皆、法律という規律で守られているが、ここにはそれがない。

システムによって守られてはいるが、攻略するには役に立たない。

――ならば、何が自分を守る?簡単だ、それは自分自身だ。

レベル、装備、プレイヤースキルなどが例に挙げられる。

長くなったが、要は装備も自分を守るものの一つ。攻略する以上は替えなくてはならないのだ。

 

「わたし……そんなの、嫌」

 

コイツからの明確な拒絶。俺とは違い、かなり剣に思い入れがあるようだ。ならば、意思を試そう。

 

「……なら、選べ。剣を替えて最前線で戦い続けるか、剣を替えずに最前線から居なくなるか」

 

どちらもコイツにとっては大事なことだろう。だが、もし選べないとか言ったら、俺は一生コイツを最前線に出さない気でいた。

意志が中途半端な奴が最前線で攻略なんてしたら、確実に死ぬからだ。

 

「……わたしは……それなら上に行きたくない。だって可哀想じゃない。一緒に頑張って……戦って、生き延びて……それなのに、すぐに捨てられるなんて……」

 

「……」

 

なら、俺が教えてやろう。今の俺の質問は無意味であることと、アスナは最前線にいたまま、捨てなくてもいい方法を。

 

「そうか……ま、そんな必要ないんだがな」

 

「え?」

 

鳩が豆鉄砲を喰らったような声を出すアスナ。

 

「お前が捨てなくても済む手段は二つある。当然、デメリットもあるが」

 

未だに呆けているアスナをよそに、俺は説明を続けた。

 

「一つ目は、スペックが足りなくなった剣をインゴットに戻して、それを素材に新しい剣を造る。二つ目は、古い剣をストレージに保存したままにしておくことだ」

 

「……デメリットは?」

 

いつもの調子が戻ってきたらしく、少しふてぶてしい声で言ってくる。

 

「一つ目は、レア武器がドロップしたときに覚悟を試される。……まあ、それもインゴットにすればいいが、金がかかるしな……で、二つ目は、単純にアイテムストレージが圧迫される」

 

「な……早く言いなさいよ!!」

 

教えてあげたのに怒られるとは……

 

「い、いや悪かったよ……もしお前が選べないとか言ったら最前線では戦わせないつもりだったからな……」

 

後半の真剣な声音で、単純に意地悪をしたわけではないとわかったのか、それ以上文句は言ってこなかった。

 

「ねえ……それなら、あなたはどっちにするの?」

 

どっち、ねえ………

 

「……分からん。一緒に戦い続けたいなら一つ目を選ぶし、お守りとしておきたいなら二つ目を選ぶな。俺はまだ、武器に思い入れを持ったことはないからな……」

 

「…………そう」

 

そんなどっち付かずの言葉でも満足したのか、アスナは僅かに微笑んだ。

……その笑顔を見て、改めてアスナは美少女だと、俺は素直に認めた。

しかし、剣は粉々に壊れてしまったのだ。……さっきの方法は使えない。

 

「……せめて、粉々になった剣が、素材になればよかったのにな」

 

これは同情でもなんでもなく、俺の本心から出た言葉だ。

剣を思って涙を流した相手に対し、何も思わない程感情は薄くない………と自分では思っている。

 

「………ありがと」

 

「は……?」

 

何かお礼を言われることをしたか考えて、分からなかったので、アスナに聞こうと思ったが、そんな暇なくアスナがベンチから立ち上がる。

 

「ずいぶん遅くなっちゃった。そろそろ宿に戻りましょう。――明日、新しい剣を買いに行くの、手伝ってくれる?」

 

「え……」

 

えー?メンドクサーイという言葉を呑み込み、俺は返答する。

………ノーと強く言えない俺は働くべきではないと、改めて思いました。

 

「わ、わかった……明日、だな?」

 

(普段はない)スケジュールが埋まって、ゲンナリしつつ、俺もベンチから立ち上がる。

 

「んじゃな」

 

もう解散とアスナが言ったので、一応別れの挨拶をして帰ろうとした。

 

「違うでしょ?」

 

はて、何か間違えただろうか。別れの挨拶なんて、滅多にしないからなぁ……

 

「また明日、ね」

 

「あ、ああ。また明日、な」

 

前にしたことがあるような挨拶を交わし、今度こそ俺達は別れた。

……さて、やるべきことをやるか。

 




次回!『鍛治屋を尾行、八幡、再びの不憫』です!

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